佐藤亜紀の長編小説「スウィングしなけりゃ意味がない」(角川書店/古書1350円)は、1940年代、ナチス政権下のドイツが舞台です。金と暇のあるブルジョワ階級の悪ガキ達が、敵性音楽のジャスに狂い、夜な夜なパーティを開き、酒を飲んだり、クスリでラリったり、女の子を追いかけ回したり、という物語です。

先ず驚いたのは、日本の作家がこれほど綿密に当時のドイツの社会状況を描いたことです。週刊新潮に出た石井千湖の書評の言葉にこうあります。

「ナチスがものすごく格好悪い。そのダサさに史実をもとにした綿密な裏付けがある。最高に格好いいい小説だ」

その通りで、ここまでダサくナチスを描いた小説なんて日本にはなかったと思います。

「機関銃陣地に向かって大きな声で国家を歌いながら行進する。おいちにい、おいちにい、ドイツ、ドイツ、世界に冠たる、ドイツ。そんなことをしてその馬鹿どもは一体どうなると思ってんだ。」

『ばっかじゃねえの、とぼくは小声で呟いた』」

少年たちは、愛国主義にわく母国を尻目に遊び呆けています。ところが、少年たちが馴染みにしていたレコード屋店主がユダヤ人でした。「ゲシュタポは店主を逮捕した後、店の中を捜索し、ついでにレコードを全部床にぶちまけたのだ。野暮くさいおまわりの靴に踏みにじられて、ほとんどが割れていた。」

そこで彼らが思いついたのが、海賊版の製作でした。海外の放送を傍受し、レコードを作り、闇ルートで販売してゆく。お前ら頭ええなぁ〜、と読みながら感心してしまいました。そしてこの商売が軌道に乗ってくるのです。シャンパンをかっぱらい、パーティをぶち上げ、女の子達が歓声をあげて熱狂の中、「A列車で行こう」のイントロが流れ出し、大盛り上がりの様相になってきます。

しかし、戦争は激しさを増してきます。空襲も度々あり、

「他にも数機落ちた。そのうちに一機からはパラシュートで三人が脱出した。一人は捕まったが、他は焼け出されたばかりに市民に殴り殺された」という悲惨な場面が日常化してきます。

後半、攻勢に出た連合軍の攻撃で街が破壊されてゆく様が、リアルに描かれています。著者は数多くの当時の資料を読み込んだのでしょう。破壊された街の臭いが漂ってきます。

悪ガキ達も逃げまどい、家を失って路上に放り出されます。それでも兵隊には行かず、クソッタレのナチスとつばを吐きながら、戦争の終わる日を待ちます。

最後のセリフはこうです。「解放。なんて美しい言葉だ。」

非合理で、暴力的なナチス政権下の不良少年達の、「国家なんて知らないよ」という態度が印象が残る小説です。