カッコいいタイトルの著者はキム・ホンビ。これがデビュー作品です。「女の答えはピッチにある」(白水社/古書1300円)を翻訳した小山内園子さんは、「アマチュアの女子サッカーチームに入団した著者が、文字通り体ごとぶつかって学んでゆくサッカーの物語。と同時に、女性たちの連帯の姿をも描き出す物語だ。」とあとがきで書いています。

「へ?試合ですか?まだ入団して一時間十分で?インサイドキック以外、教えてもらってないのに?」

と、いきなり試合に出されることになった新米のドタバタから始まります。読みながら、どれほど笑い転げたことか!韓国では、もしかしたら日本もそうでしょうが、何かと女子サッカーには男性サイドからの偏見があって、何にも知らないから教えてあげようという、いわゆる”マンスプレイニング”が束になって襲ってくるようです。「オフサイドって知ってますか?」なんて質問、関西なら「おっさん、ケンカ売っとんのかい!」ですよね。しかし、彼女たちは、そんな束をすり抜けなていきます。シニア男性チームとの練習で罵声を浴びても知らん顔で、自分たちのサッカーテクニック向上に邁進していきます。

チーム内にあっては、様々な揉め事が起こりますが、それを大げさに描かず、随所に笑いを盛り込みながら、彼女たちが一つのチームを作ってゆく様を描いていきます。日本でも人気のある作家チョン・セランは、本書を「サッカーを比喩にして女の丸ごとの体、丸ごとの人生、丸ごとの世界をつづっているのだ。」という評価をしています。終わり近くで、著者が初めてシュートに結びついたロングパスを蹴り出す瞬間の躍動的な文章にドキドキさせられました。パスを送り、自分のポジションを確認しながら、間合いを詰めてゆく。ピッチ一杯に女性たちが走り抜けてゆく姿がよぎりました。

「仕事と育児の時間の隙間をかいくぐり、なんとかして日常にサッカーを押し込もうとするこの人生行路そのものが、なんとかしてボールをゴールに押し込もうとするある種のサッカーなのだ。」

帯で津村記久子さんが「いつまでもホンビさんの話を聞いていたかった」と書いていますが、その気持ちわかります。「どんとこい、人生」みたいな気合いいっぱいです。