山田稔の散文を集めた「こないだ」(編集工房ノア/古書1500円)を読んだのは、巻頭に載っていた「けったいなアメリカ人」(米谷ふみ子著)のことを書いた文章に魅せられたからです。

大阪生まれの作家米谷ふみ子は、絵の勉強のために渡米して、そこで劇作家ジョシュ・グリーンフェルドと結婚します。その夫について、山田はこう書いています。

「この本で私はまた、つぎのことを知った。ジョシュ・グリーンフェルドは、私の好きな映画『ハリーとトント』の脚本作者であること、この題名は最初は『老人と猫』だったのを変更されて、原作者は不満に思っていることなどを。『老人と猫』?それでは平凡すぎる。どこかユーモラスなトントという猫の名前が気に入った私は、ひところわが家の庭にすみついていた野良猫をトントと呼んでいたのだった。」

「ハリーとトント」ご存知ですか?とても良い映画です。それを山田は観ていて、こんな風に書いているのです。

山田の本は、どれも読んでも気持ちが落ち着くというか、ゆったりしたリズムの文章に心地良くされてしまう作家だと思います、本書は様々の雑誌等に発表したものをまとめたものです。

「ある祝電」でフランス文学者、多田道太郎の娘である謡子の思い出を書いています。1976年、仏文科の学生として山田が教鞭を執っていた大学に入学した彼女に勉強を教えたこと、彼女が法学部に転学し学生結婚したこと、弁護士として活躍し、三里塚闘争の弁護人や、東アジア反日武装戦線の宇賀神寿一の控訴審などにも関わり多忙な日を送っていたこと、そして病魔におかされ1986年に亡くなったことなどが綴られています。

過去の日々が、書き続けられた日記、送られてきた膨大なハガキを見ながら脳裏に蘇って、ゆっくりと、ゆっくりと当時の面影が文章に焼き付けられていきます。最後に、父親の道太郎の弔詩「さよなら謡子」の一部が掲載されていますが、思わず涙がこぼれました。

第3章「読むたのしみ」は山田の書評を集めてあります。短いものばかりですが、どの本も読んでみたくなる文章です。ロジェ・グルニエ「ユリシーズの涙」は、グルニエの飼っていた犬への愛情が詰まった一冊で、以前に読んだことがあります。彼も、この本が好きだったのかと思うと嬉しくなりました。シンプルな装丁も素敵です。

 

 

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