先日、新聞に写真家鬼海弘雄の死亡記事が載っていました。

鬼海は山形県生まれ。高校を卒業後、山形県職員となりますが、一年で退職し上京。法政大に入り哲学を専攻します。大学卒業後、トラックの運転手や遠洋マグロ漁船などさまざまな職場で働きながら写真を撮り始めます。

浅草寺を舞台に、無名の人々を数十年間撮ってきました。カメラ片手に朝から日没まで境内に立ち、写真家の感性に何かをを感じさせる人物が通るのを待ち、シャッターを切り続けてきました。その数ざっと1000人。そこから166人をピックアップして「PERSON A」というタイトルで2003年に写真集が発行されました。

性別も職業もバラバラの人々のポートレイトが並んでいます。たった一枚の写真から、その人生や暮らしの匂いが感じられる作品集でした。初めてこの写真集を見たときは、おっ!凄いものが出たと驚きました。その後も、彼は市井の人々の内面を浮き彫りにするようなモノクロ写真を撮り続けました。

この人は、文章も素敵です。今、店には「誰をも少し好きになる日」(文藝春秋/古書1500円)、「靴底の減り方」(筑摩書房/古書1300円)、「目と風の記憶」(岩波書店/古書1800円)の3冊のフォト&エッセイ集があります。

写真家らしい観察眼で一人の男性を描いた「スティーブ・マックィーンの佇む路地裏」(「靴底の減り方」に収録)。完全に少女趣味溢れる服装で帽子を被っているので判別できないが、年配の男性らしい人を電車内で見つけ、興味を惹かれたエッセイです。(マックィーンは最後にちょっと登場)

「すべてが『少女趣味』で横溢している。それなのに、深く被った毛糸の帽子からはみ出した髪には白髪が混じっていた。リズムを刻む手の甲には幾つかのシミがあり、年配の人だと教えていた。

あまりにも完全な少女趣味に準じているので、まったく顔を見ていないのだが、きっと女の人ではなく年配の男の人に違いないと確信した。」

車内でなければ、きっとカメラを向けていたはずです。「ますます均一化が進む世の中で、謂れのない不当な扱いを受けていなければいいのだが、と人ごとながら思った。」と書いています。

人を見つめるのが大好きで、それを自分の芸術にした写真家だったと思います。10月19日リンパ腫のため死去、75歳でした。

 

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