松嶋智佐著「女副署長」(新調文庫/古書300円)は、警察小説としては極めてユニークな一冊です。

先ず、著者の経歴が面白い。高校卒業後、警察官になり、日本初の女性白バイ隊員となりました。退職後、作家に転身して、2006年には織田作之助賞を受賞しています。そして物語はというと、とある警察署に赴任してきた副署長のたった一夜の経験を描いています。

まさに大型台風が通過する夜、警察署の敷地内で警察官が刺し殺されます。犯人はまだ署内にいる可能性が高いので、署はロックアウトされます。しかし、台風の激しい雨と風のため市内各地で救助要請が続発します。片や台風、片や殺人事件という状況下で副署長が活躍する物語です。面白いのは、彼女のヒロイックな活躍が中心ではなく、この警察署に所属する警察官たち全てが主人公と言ってもいいほど、リアルに描かれていくこと。何せ、元警察官だけあって、その描写は著者自身が経験したものが反映されているはずです。

最初のページに4階建ての警察署の地図が載っています。何でこんなものが必要かというと、多くの警察官が各階を上へ下へと移動するのです。そして、アメリカのTVドラマ「 ER」みたいに、場面がパッ、パッと切り替わり、息つく暇のない構成になっています。手提げカメラを担いで、この小説通りに映像化したら、さぞ面白い映画になると思います。

あとがきでミステリー評論家の吉野仁がこう書いています。

「『女副署長』というタイトルから、女子幹部の警察官が抱える困難を強く前面に押し出した部分が主軸の話なのだろうと勝手に想像していた。もちろん、そうした面もしっかりと含みつつ、むしろここに描かれているのは、<ひとつの警察署丸ごと>である。所属する警察官たちばかりか、建物を含めたすべてだ。それらを余すことなく物語の中にぶち込もうとしているかのような書きぶりなのだ。」

そうです。読んでいる間、こちらも署内をドタバタ走っているような臨場感が味わえます。

ラストの「POLICE WOMAN」という言葉に、著者の警官だった矜持を見た気分です。警察署に出向くとき(?)ぜひお読み下さい。