なんの本かというと、今年の4月に出されたユリイカ5月臨時増刊号「総特集 坪内祐三」(青土社/古書1900円)のことです。総ページ450ページ。毎日ちょっとづつ読んで、数ヶ月かかりました。

坪内祐三は今年1月に62歳で世を去った評論家、書評家です。1997年に晶文社より出た処女作「ストリートワイズ」を読んだ時の新鮮な驚きは忘れられません。2001年に出た「靖国」、2002年に出た「後ろむきで前へ進む」と、当時は出る本を片っ端から読んでいました。書評、映画評、エッセイなどどれを取っても、そこには東京という都市の発する文化の匂いがあり、博学を駆使して、古い時代の文学の魅力を蘇らせてくれました。

ユリイカが総力を挙げて編集した本書には、坪内と親交のあった作家やライターが、彼との交流を語っています。南伸坊、泉麻人、森まゆみ、小沢信男、山田稔、林哲夫等々数十名。

ここで、書評家の岡崎武志が面白いことを言っています。

「1958年は書き手のヴィンテージだ。古書についての著書を持つ(あるいは古書収集、古書を資料として文章を書く人)があきれるほど多い。

坪内祐三、高橋徹、唐沢俊一、喜国雅彦、北尾トロ、松沢呉一、黒岩比佐子、みうらじゅん、芦辺拓、岡田斗司夫とまず名前が浮かぶ。あるいは久住昌之、山田五郎、小西康陽、東雅夫、大塚英志、堀井憲一郎などをここに加えていいかもしれない。むせかえるほど充実したメンバーで、1958年生まれの書き手だけで、悠に古本関係の雑誌が作れるほどだ」

その中でも、坪内はひときわ目立った存在でした。かつて植草甚一の本を読んでいると、思わず街に出たくなったものですが、坪内が本を求めて街をさすらう文章を読んでいると、やはりそんな気分になります。

書評というのものが、読者を本屋に向かわせることも大事な働きであるならば、坪内の文章は、そんな役目を確実にこなしていたと思います。

2017年に出た「右であれ左であれ、思想はネットでは伝わらない」。次はこれを読んでみようかな。