カルーセル麻紀は、私たちの世代には、初めて出会うトランスジェンダーのタレントで、関西系のTV番組で司会や、コメントを言っていたのを懐かしく思い出します。とても綺麗な頭の回転の早い人でしたが、1970年代なんて、ニューハーフやオカマなどという偏見や差別が今とは比べ物にならないくらい多かったはずです。そんな中で、彼女が堂々と振舞っていたのが印象的でした。

桜木紫乃の「緋の河」(新潮社/古書1650円)は、カルーセル麻紀の半生を描いてた小説です。500数十ページにも及ぶ大河小説、いやぁ〜読むのに時間かかりましたが、超面白い!

「釧路の街に、昭和二十四年を迎える除夜の鐘が響いた」という文章で物語はスタートします。カルーセル麻紀、本名平原鉄男は、昭和17年、厳格な父親の二男として釧路に生まれます。

「へえ、ヒデ坊はもうじゅうぶん可愛いと思うけどねえ」(小説では秀男という名前になっています)と書かれているように、小さい頃から可愛い子供で、女性への憧れを抱いていました。

小学校にいく頃になっても、「なりかけ、なりかけ、女になりかけ」と周りから虐められていました。けれども「なりかけ」というアダ名で呼ばれても、「どこが悪い」と反発していました。

「いじめられて泣くぐらいならば、すべてやめられるのだ。自分は間違ってなどいない。父に殴られようと兄に疎まれようと、母が悲しもうと、生まれ落ちたこの体と性分をせめて自分だけは好いていたい。」

高校生の時に家出をして、札幌のゲイバーに勤めて頭角を表します。実際にカルーセル麻紀は、札幌時代に去勢手術をして、73年にはモロッコに渡り性転換手術をしました。

秀男が様々な人間に出会い、時には影響を受け、あるいは傷つけられながら、大きくなっていき、そして、東京に出て蛇を使ったショーで人気を上げ、さらにそこから大阪へと転進していく様を小説は丁寧に描いていきます。

去勢手術を受けるとき、こんな会話を医者と交わします。

「絶対に後悔せんな、タマ取ったら二度と男に戻れへんで」

「もともと、戻るところなんかないんですあたし」

「戻るところのない人間なんぞおらん、お前さんが誰だったとしても」

「強いていうなら、あたしはあたしに戻ります」

自分のアイデンティティにとことんこだわり、人生を切り開いていった大きな人間の物語です。「生まれたからには、自分の生きたいように、生きてやる」というカルーセルの生き方に共感した桜木の、気合いじゅうぶんの文章も素敵です。久々に「ど根性」という言葉が頭を駆け抜けました。泣けて、笑えて、元気がでます。年始年末の一気読みにおすすめの小説です。

★レティシア書房 年末年始の休み

12月28日(月)〜1月5日(火)休業いたします。よろしくお願いいたします。