美術家森村泰昌の「手の美術史」(二玄社/古書2100円)は、題名通り古今東西の名画の「手」の部分のみをクローズアップした本です。

「『手が描けたら一人前の画家だと言われる。それほど『手』の表現は難しいのだが、画家たちは実によく頑張った。あらゆる角度から『手』を発見し、それがどんなものであったかを、絵としてつなぎとめたのである。」

と森村は語っています。様々な意味を発する手。誘惑するような、謎めいた雰囲気を醸し出すような、祈りを象徴するような、そして喜怒哀楽を演出するなど、数多くの手が登場します。

1540年ごろに描かれた「ルクレティア・パンチャーティノ」(56〜57P)は、赤いドレスを着て椅子に座っている貴婦人の肖像画なのですが、左手は肘掛に、右手は読みかけの書物の上に置かれています。繊細で、透き通るような色白の手先は、いかにも高貴な婦人のものなのですが、その右手にどこか寂しさが漂っているように見えるのです。

アングルの「アンジェリカを救うルッジェーロ」(P131)に登場する手は、上品なエロティシズムが漂う作品です。フェルメールの有名な「手紙を読む女」(P105)の指先をよく見てみると、なんだか力が入っている感じです。悲しい、あるいは怒りを誘う手紙だったんでしょうか?

こういう絵画鑑賞の方法もあるのだと教えてくれる一冊です。

さて、赤瀬川源平「日本にある世界の名画入門」(光文社カッパブックス/古書300円)は、日本の美術館が所有している海外の名画を紹介している本です。さすが赤瀬川と言いたくなるほど絵の解説文が面白い!

スーティンの「セレの風景」(名古屋市美術館所蔵)という絵を「汚いけど美味い餃子屋の魅力」と表現しています。

「スーティンの絵は汚ない。それは正直にいおう。世俗的な、社会通念から見て、汚ないといわれても仕方がない。でもその汚ない感じは、駅裏の、パチンコ屋のさらに裏にある、美味しい餃子屋の汚ない感じに似ている。」

こんな文章を読むと、この作品見たくなりますよね。

「非常に明晰な印象を受ける」とピカソの「腕を組んですわるサルタンバンク」(ブリジストン美術館)を紹介しています。「赤い色を使っているけど、ひんやりと冷たい。その冷たさが気持ちいい。」という文章が、なるほど、これが赤瀬川の審美眼かと感心しました。

笑ったのはシャガール。「家庭で揚げるてんぷらとの付き合い」。こんな文章でシャガールを書いた人はいません。とにかく面白い!名画の敷居がグッと低くなります。