2016年に発行された石田千著「からだとはなす ことばとおどる」(白水社/古書1050円)は、彼女の著作にしては、ちょっと異質かもしれません。

「石田千の「月と菓子パン」(晶文社650円)、「屋上がえり」(筑摩書房700円)を読んだ時、著者の”良い加減”なリズム感が心地よく、エッセイ界に新しい人が出現したなと、その後も注目していました。」

と、以前のブログで書きました。日常生活の小さな変化、少しづつ表情を変えてゆく街の風景を、ゆっくりと呼吸するように味わうことができる作家として読んできました。しかし、本書はもっと私小説風というか、心象風景を言葉に託したような感じがします。各章のタイトルは「ふれる」「わたる」「ふりむく」「なおる」という具合に、動詞がひらがなで書かれています。心に思い描いていることを、そのまま言葉に変換するのはなかなか困難で、必要以上の装飾やもって回った言い方で何んとか表現しようとします。

著者は、無心の状態で、言葉をつむぎ、そのことばとおどる、のです。「ことばとおどる」楽しそうな姿が見えてきます。それにつられて、こちらも何だか気持ちが良くなってきます。ひらがなタイトルなので、イメージが固定されることなく、ふわりと浮遊した感覚になるのです。

「ひとに起こる変化は、オーケストラのようにじゃーんと始まるわけではなく、きざしといってもひたひたと、あとになって、そういえばあのころから始まっていたのかもしれないね。のこされたものどうし、ちいさな声で目を凝らし、いつかの場所を重ねてみる。

日ごとのちいさな違和が加速して、もうもどれなくなる。じっさいに生きていれば、ぱたんと変わってしまうことなんて、すくなかった。」なんて考えながら、居酒屋に入ると、隣でおじさん二人横顔が差し向かいで飲んでいる。横顔が似ていると思ったら、お互いもう孫がいる兄弟だとか。

「うれしそうに栓を抜いた。酔いは輪になって、輪になって、ちいさな店の中で、みんな笑っている。

煙をかきわけて出ると、やさしい月が出ていた。そろそろ海を見たい。」

これは「ふりむく」という章の最後です。著者はちょっとほろ酔い気分。こちらもリラックス。「やさしい月」に会いたいと思いました。

しんどい時には、ぜひこの本をおすすめです。