酒井順子の「処女の道程」(新潮社/古書1200円)は、世間によって処女のイメージがどのように作られてきたかを、歴史的に文化的に検証した本です。

男性の作ったイメージがいかに偏っていたかを糾弾する本ではありません。いや、結果的にはそうなっているんですが、そこを強調することなく、著者は平安時代の文学からスタートし、戦中戦後、現在に至る処女像の変遷を通史的に書いています。文化的、歴史的に処女像の変遷をスムーズに読めるので、男性にはぜひご一読願いたい。そして、こういう長い歴史の果てに、森喜朗氏が出てきたんだなぁ〜と痛感しました。

合間、合間に挟み込まれる小話っぽいところにも、そうか!と思わせる著者の力量が際立ちます。例えば、「操」についてです。

「昭和を知る人であれば、殿さまキングス『なみだの操』の歌詞を思い浮かべていただくとわかりやすいかと思いますが、ある特定の相手のためだけに『守』ったり『捧』げたりするのが、操。複数の相手に身を開いたが最後、操は消散します。『なみだの操』を歌ったのが『殿さまキングス』であることは、貞操問題の一面をよく表していましょう。女の操は、日本が殿様の時代となってから、重要視されるようになった観念。殿様を殿様たらしめるために絶対必要だったのが、女の操でした。」

女性を産む機械だとする政策を推し進めた戦中から、戦後になって性の解放が叫ばれ出して、価値観がガラリと変化します。その象徴的な年が昭和39年だったと著者は言います。東京オリンピックの年です。

「海外渡航が自由化されたのもこの年であり、海外への憧れは募ったことでしょう。また日本初のグラビア青年誌『平凡パンチ』が創刊されたのも、この年。」大橋歩のお洒落なイラストの表紙の雑誌にヌード写真が載っているスタイルは斬新であり、当時多くの若者に支持されました。

「性に関する事物が、じめじめとした日陰から、日の当たる場所へと出て来はじめた、この時代。処女を取り巻く空気もまた、確実にからっとしてきたようです。」

「処女」を巡って、お偉い人から庶民まで巻き込んで長い長い間交わされてきた激論を、著者は200ページ強の本にまとめ上げました。その技量に脱帽した一冊でした。とにかく、面白い!