「日々の営みの先に、確かな未来がつながっている」

これは、中村明珍著「ダンス・イン・ファーム」(ミシマ社/新刊2090円)の最後のページに書かれた言葉です。

著者は1978年東京生まれ。ロックミュージシャンとして活躍していましたが、2013年山口県周防大島に移住して、「中村農園」で農業に従事する一方で、僧侶もしています。この本は、それまでのミュージシャンから、180度転換した島の暮らしを選ぶまでの経緯、そして未知数だった農家としての暮らしぶりを綴ったものです。

「七十五才は新人よのう」

これ、敬老会に入っている方と、これから入る方のやり取り。

150人足らずの集落のうち、30〜40代は自分達だけで、主力の住人は70〜80代。だから、若いというだけで大歓迎されて島暮らしがスタートです。

貯金0円で34才の時に移住。島のジャム屋さんでアルバイトを開始して、移住後一週間で、「オリーブの苗木寄贈と植樹」と「寺で出家」の二つの儀式を通過します。野菜栽培になんども挑戦、寺の修行での激ヤセ、と前途多難な滑り出しですが、著者の性格なんでしょうね。切実なんだけど、おかしくて、どんどん読んでいけます。

「なせばなる」一言で言ってしまうと身も蓋もないのですが、そういうことです。

畑を耕し、島の老人たちと関わり、また、自ら様々なイベントを企画して島の魅力をアピールしたりしながら、著者は「お金」のこと、「地球環境」のこと、「老いる」ことへと視野を広げていきます。農家として、やっていきたいことを地道に続け、トライ&エラーの繰り返しの日々が、充実した人生への道を開いていく。冒頭の言葉は、そんな経験から生まれてきたのですね。

ところで、この周防大島って名前に聞き覚えがありませんか。2018年10月、島と本土を結ぶ橋にドイツ船籍の船がぶつかり、橋に掛けたあった水道管が破壊されて、島の水が出なくなった事故があった場所です。その時の様子も詳しく書かれています。

最後のページに載っている、著者の子供と飼っているヤギの後ろ姿の写真が、なんとも微笑ましく、幸せをもらいました。