本年度アカデミー賞作品賞候補の有力作品、「ミナリ」と「ノマドランド」を続けて見ました。前者は、1980年代に農業で成功することを夢見て、アーカンソー州に移住した韓国系一家の生活を描いています。後者は、働いていた企業の倒産で居場所を失い、キャンピングカーに生活道具一式詰め込んで、国内を放浪する女性を描いています。

アメリカ映画が最も輝いていたと思う70年代、80年代には、多くのロードムービーやアメリカの田舎の生活を描く作品が登場しました。ベトナム戦争、格差、人種差別、同性愛など様々なテーマが色濃く出ていて、見応えのある作品が多かったと思います。それに比較すると、この二本の作品の描く世界は少し甘いと感じました。

しかしだからと言って、作品の価値が下がるものではありません。「ミナリ」で描かれるアメリカ西部の大自然、「ノマドランド」ではまた異なった色合いを見せるアメリカの大地の姿は、彼らが置かれている厳しい現状とは、全く違う天国のような景色で、心に染み入ります。

「ミナリ」の夫婦は、元々は西海岸で生活していましたが生活は安定せず、新天地を求めて西部の田舎町にやってきました。アジア人への差別は登場しませんが、おそらく過酷な体験をし、そこから抜けて何もない土地を耕し、農作物を作ることでアメリカンドリームを得ようとしたのです。今なお、アジア人への差別や暴力があるこの国の80年代の姿だと思います。

一方の「ノマドランド」、一人ぼっちで放浪する女性は各地に点在する放浪の民と知り合い、放浪生活の知恵を学んでいきます。彼らを狙い撃ちする暴走族や、暴力集団が数多くいると思いますが、ここでは全く登場しません。しかし、経済格差で数多くのアメリカ人が、こんな不安定な生活を余儀なくされているはずです。もちろん、現在の日本にも車の中で寝起きしている人たちは沢山います。

「ノマドランド」を監督したのは中国系監督クロエ・ジャオ。まるで西部劇に登場するカウボーイが美しい自然の中を旅してゆく姿のように、ヒロインを撮っていきます。

荒廃し、混沌としてゆくアメリカ。特に、マイノリティーや社会からの脱落者への差別は、想像以上に深刻なはずです。そんな時代に、いやだからこそ、こんなにも美しく胸に染み込む映画が、同時に二本も登場しました。主人公たちの心の闇や悲しみは、表立って描かれてはいません。しかし、画面の奥にはそういうものが存在していることを確実に伝えている映画です。