奈良県出身の動物行動学者、松原始は、多くの「カラス本」を書いています。「カラスは飼えるか」や「京都とカラス」など、タイトルだけでも興味が湧きます。今回ご紹介する「旅するカラス屋」(角川春樹事務所/古書1100円)は、多いに笑って、楽しませてくれる一冊です。

私たちが、そこらで見かけるカラスはハシブトカラスとハシボソガラスの二種類で、著者はハシブトカラスの生態を研究しています。「ハシブトカラスの英語名はジャングル・クロウで、もともと森林性だから、都会というコンクリートジャングルにも適応できたんだよ」と言ってはみたものの、森林でどんな生活をしているか誰も全く説明できていない。だったら、調査してみようと、同好の東大農学部の森下英美子さんを誘って”カラス旅”に出かけるところから、スタートします。えっ〜!研究者ってここまでやるのかというぐらい涙ぐましい努力が綴られていきます。著者の旺盛なユーモア精神か、関西人のノリかはわかりませんが、笑えて、どんどん読んでいけます。

そして2013年の鳥学会で「山のハシブトカラス プレイバックパート3」という、著者曰く『アホなタイトル』で発表にまでこぎ着けるのです。が、サンプル数が少ないという指摘があり、それなら日本中行くしかない!と、とんでもないカラス旅が始まります。山中でハシブトカラスを見てから20年、調査しようと思って13年、きっちりとした調査がスタートして10年という長い時間がかかっています。

第二章は「学会もまた旅である」と題して、内外の学会での経験やら、ドタバタを軽妙に書いています。親睦会でずらりと並んだ教授たちの前にある寿司をかっぱらう方法などは、もう喜劇映画のワンシーンですね。海外での学会での、いろんな人たちとのやりとりも面白い!なんだか、動物学者の書いた文章というよりは、軽妙洒脱な海外旅行エッセイを読んでいる気分で、ますますページが進みます。

世界最大級のワタリガラス。全長63センチ、翼開長120センチ、体重1・2キロの大きさのワタリ鳥で、日本では知床、根室あたりで観察できます。当然著者も、相棒の森下さんと連れ立って北の国を目指します。実は、私もワタリガラスを見てみたいのです。星野道夫が熱心に追いかけたワタリガラス。北米先住民の伝説では、ワタリガラスは神とされているのですから、そんな鳥ならば、この目で見てみたいものですね。

この本は最後まで、カラスを求めて世界中を旅する研究者の話です。そしてそこから浮かび上がってくるのは、研究者の地道な努力と熱意。

著者は研究の定義をこう書いています。「研究によって得られた結論が正しいかどうかは、実は永遠にわからない。我々は神ではないから、真理を知ることができない。どんなに正しいと思えても、それは『将来の研究によってひっくり返るかもしれない結論』でしかない。ただし、否定されるまでは科学的事実や正しい仮説として支持され、それを土台として科学は前に進む。それが科学の作法だからだ。 研究とはそういうものである。」

きっと読んだ後に、カァー、カァーという鳴き声を聞いたら空を見上げて姿を探しているはずです。