数年前に「田舎のパン屋が見つけた『腐る経済』」(講談社売切れ)という本をブログで紹介しました。大量生産・大量消費システムの大きな渦の中で、これはおかしい?と思ったパン職人の渡邉格が、自らが目指すパン屋を開店させるまでを描いた本でした。その第二弾とでもいうべき本が、ミシマ社より刊行されました。それが「菌の声を聴け」(新刊/1980円)です。

自家製酵母と国産小麦で、オリジナルのビールやパンを作る著者の店「タルマーリー」。前作では、パン作りに相応しい環境を求めて岡山県真庭市に移住し、パン作りを始めるまでが描かれていました。新作の「菌の声を聴け」は、なんとこの地を離れて鳥取県智頭町へ転居するところから始まります。え?わざわざ車でパンを買いに来る人がいるほど繁盛していたお店を閉めて、さらに山奥へと移住するのは何故?と思われる方も多いと思います。

 

「『パン工房の外の自然環境こそが大事なのではないか』という菌たちからのメッセージを感じていたからこそ、この智頭に移転してきたのだ。きっと建物の中だけではなく、もっと広い周辺の自然環境を整える必要があるからこそ、人口最少県の中間地、町の面積の93%が森林の鳥取県智頭町に移転した。」と書かれています。

そして新天地で、新しいビール作りに七転八倒する様がユーモアたっぷりに語られていきます。読みながら、菌という存在について、様々なことを学びました。

「野生の菌で発酵させる場合、人間だけでなく菌こそが心地よく遊べるような場を作ることが重要である。具体的に言うと、パンの原料の生産現場やパン工房の周辺環境から、化学物質を排除する必要がある。森、川、田畑…….といった里山を汚染することなく、自然環境を保全していかなければならない。そして発酵に関わる職人は、生活を取り巻く化学物質ー殺虫剤、防虫剤、合成洗剤、化粧品、添加物、化学薬品などーも使わない暮らしを実践する。」

山極壽一氏が「『カビを食べる人』のパンとビール作りが未来の共生社会を拓く」と帯に推薦の言葉を書いています。菌とともに生きることで、我々がこれから自然と共生してゆく術を教えてくれます。

野生の菌は人間がコントロールできないので生産性が悪いと言うのが世間の常識だそうですが、だからこそ相手を知り、仲良くなって、美味しいものを作ってゆく。そこにパン職人の楽しさがあるといいます。

なお、この本では「タルマーリー」女将の麻里子さんがエピローグを書いています。獅子奮迅する夫を見つめながら、本当に身体と心に良い暮らしや子育てを語ってくれます。