文化人類学者西江雅之の「異郷日記」(青土舎/古書1900円)を読みました。西江は、子供の時から、昆虫や鳥、小動物に憧れていました。飼育するのではなく、そんな動物になりたいと本気で思っていたそうです。しかし、どう頑張ってもスズメや蟻になれないことが分かり、10代の頃には挫折感のようなものを味わったそうです。(不思議な人ですね)

「二十代に入って初めて耳にした”文化人類学”などという学問に関係するようになったのは、動物になろうとした少年時代の”諦め”感に原因があるのであって、人間好きだからというわけではない。」(へそ曲がりかも)

文化人類学を学ぶ中で、研究のための調査目的で多くの国を訪れるようになりますが、観光目的ではないだけに、普通では行けない場所にも入って行きました。そんな海外での体験、学んだことをまとめたのが本書です。私はこの手の本にはすぐに手を出すタイプで、世界の広さを知るには最適だと思っています。ニューギニア、ザンジバル、バリ島、マレーシア、ソマリア等々が登場します。

文化人類学の研究本ではありません。何度も言いますが、世界は広いという認識を再確認するための旅の本です。

現在はタンザニア共和国に属している、東インド洋上にあるザンジバル諸島で見た日本の車について、面白いことを伝えてくれます。

「ザンジバルの町には、日本の車が非常に多い。日本製のというだけではない。日本で走っている時のままの姿、すなわち、日本語で書かれた会社名、商店名、番地、等々が車体に残されたままの車が、途切れることなく走っているのだ」(日本では考えられません)

なぜか? ここでは車泥棒が多発していて、車に書かれてある複雑なデザインや文字を記憶しておけば、転売されていても自分の車かどうか即座に判断できるからだそうです。「メデイカルスポーツプラザ 会員募集中」と書かれたバンの写真に仰天しました。

もちろん、そんな面白い話ばかりではありません。西洋史に暗い影を落とす奴隷制度のことも何度か出てきます。そして「逃亡奴隷」の存在も知りました。

「ギアナでは、アフリカ系住民のうち、奴隷解放の時代が訪れてから自由の身となった人々とは別に、自力で逃亡し、自由を得た人々がいた。”逃亡奴隷”と呼ばれる人々である。初期の逃亡奴隷の中には、自分たちが積み込まれている奴隷船を集団で乗っ取り、未知の土地に上陸し、奥地に逃げ込んで生き延びた人々がいた。連れて行かれた先の農園で、仲間と共謀して逃亡に成功した人々もいた。例えてみれば、三百年以上も長い歳月にわたって “フィリピンのルパング島の小野田さん”と同様の生活をしてきた人々がいるということになる。」

題名も内容もおおかた忘れましたが、カッコいい黒人奴隷が暴動を先導して白人を倒す映画を観た記憶があります。それって作り話だと思っていましたが、そうでもなかったみたいです。

コロナのおかげで海外を旅することが難しい日々が続いていますが、そんな時こそこの本をお勧めします。濃密な旅をしたような気分になりますよ。