そこで語られる戦争の悲劇、愛、憎しみが複雑に展開する物語として、宮崎駿の漫画版の「風の谷のナウシカ」ほど世界観が大きいものはありませんが、それに匹敵する作品として、伊図透の「銃座のウルナ」(全7巻セット/古書2400円)を忘れてはいけません。

少数民族のヅードとの戦いに身を投じる女性狙撃手ウルナの過酷な人生を描いたドラマです。2018年に、「第21回文化庁メディア芸術祭」でマンガ部門優秀賞を受賞しました。

極北の雪原を進んでゆく大型ソリに、辺境の前線に派遣される新兵が乗っています。新兵の名前はウルナ・トロップ・ヨンク。覇権国家レズモアの若い女性狙撃手です。1年中、殆どが雪と吹雪が荒れ狂う島リズル。ここに生息する蛮族ヅード族とレズモアは交戦状態が続いています。

その最前線基地に着任したウルナ。前線基地の向こうには長いジャンプ台があり、ここから飛び立つヅード族を狙撃するのが彼女の仕事でした。この戦場で、彼女が見て、体験したことから壮大な物語が始まります。

ヅード族が悪者で覇権国家レズモアが、彼らを駆逐すると言うような単純な構成ではありません。巨大な国家が、小国を殲滅し、その真実を人々の記憶から抹殺してしまう。その絶望を描いていきます。圧倒的な情景描写力は宮崎作品を凌駕しています。雪深い戦場の情景。微細な所まで書き込まれた基地の中の暗闇。苛烈極まる戦闘描写。その一方で、光に満ちた美しいウルナの故郷の姿。よくも、ここまで描きこんだものだと、漫画の持つ力に感動しました。

ナウシカも、彼らの血塗られた歴史と殺戮の中で、葛藤し、ボロボロになりながらも真実を見つける旅をしてゆくのですが、それ以上にウルナは過酷です。

最後まで読むのは、辛く、悲しい。でも、読んでおいた方が絶対にいい。軍部のクーデターで、片っぱしから市民を殺している東南アジアの国にも、ウルナみたいな女性がいるかもしれません。正義とは、国家とは、そして歴史とは、という大きな問題を射程に入れたコミックの大作です。

一つ救いがあります。ウルナが着任した基地にいる大型犬たちがとても可愛いくて、彼らが出てくるとホッとします。