私は積極的に詩を読む方ではありませんが、天野忠だけは読んできました。京都出身で、職を転々としながら詩を書き、1935年に同人誌「リアル」を創刊。戦後は出版社勤務、古書店経営などを経て、大学図書館に勤めながら、詩人として活躍しました。93年、京都の自宅において多臓器不全のため84歳で亡くなりました。

彼の詩集は、なかなか見つけるのが難しいのが現状です。傑作の「私有地」(81年)、「夫婦の肖像」(83年)など、めったにお目にかかりません。(当店でも入荷したのは一度きりです)

そんな中、「夫婦の肖像」と同年に出版された「古い動物」(れんが書房/古書3800円)を入荷しました。この詩人が使う言葉は平易です。「買物」という作品をご紹介します。

「スーパーへ 夫婦で行く。 お一人さま一本限りの 特価売出しの醤油二本 じいさんが持たされる、男だから。帰り道の 煙草自動販売機の前で チャリン、チャリンと硬貨二枚 ばあさんに入れてもらう、駄賃代わりに。 煙草のとなりの 小さな自動販売機にも 洒落た小箱が一つだけ ポツンと大事そうにおさまっている。

ーこれも煙草?ばあさんがきく

ーうん、いや、眠たい声でじいさんが云う。

ー煙草みたいなもんだが………

だんだん壜が重たくなってくる。

一本ずつにして だまって歩く」

情景が目に浮かんできますね。ペーソスとユーモアが程よくブレンドされた作品だと思います。この詩集には、じいさん、ばあさんが主人公として登場するものが沢山あります。

「出てきて 戸を締めながら ふうーっと 溜息をついてるんだ 厠の前で。 つれ添うて 四十年…….

この夏は めっぽう 長いねえ ばあさんや。」

これは「夏」という作品ですが、なんか、じいさん、ばあさんのたわいの無い会話が詩として成立しているんです。詩というと、難しい言葉の羅列で、なんだかイメージが湧かないままに、もういいやと本を閉じてしまうケースが多いのですが、天野作品は、初めて読んだ時からすっと入ってきました。

2018年の当ブログでも、彼の本を紹介しています。そこで、「京都言葉の巧みな扱いで、人生の機微をヒョイと描くところに良さがあるのだと思います。」と書きました。この年、当店で開催した古本市に出品されていた本でしたが、この時には、天野の詩集が2冊も出ていたんです! 今なら、あり得ない。

 

 

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