松田行正「はじまりの物語ーデザインの視線」(紀伊国屋書店/古書1700円)は、様々な知識が渦を巻いて脳内に入ってくるような本で、少しは賢くなったかなぁ、今度は蘊蓄を披露してやろうか、などという錯覚に陥りそうな書物です。

著者はグラフィックデザイナーで、様々なイメージの始まりはどこにあったのかを求めて、膨大な量の古今東西の文献を検証していきます。「対の概念」「速度への憧れ」「遠近法と奥行き」「レディメイド」「オブジェ」と何やら難しそうな目次が並んでいますが、480点にも及ぶ図版が、各ページに所狭しと並んでいるので、文章を理解する助けになります。図版を見ているだけでも楽しいです。

雑学的な面白さも多々あります。「封じ込める」という章では、「自動販売機の発想は古く、紀元前215年ごろ、古代エジプト神殿に置かれていたという聖水の自動販売機が記録の上では最初と言われている。」と書かれていますが、どういう仕組みだったのだろう?「読みやすさの追求」という章では、本の読みやすさがどういうふうに改良されていったのかを、過去の文献に辿って論じています。

「メリハリをつける」では、日本の音楽では4拍子が定着し、西洋では3拍子がオーソドックスな拍子になったことからは始まり、ヨーロッパでは「十三世紀後半のことだが、三拍子を完全(完璧)な拍子と見なすようになった。これは、キリスト教の三位一体の三からきていて、三を完全なる数とみなした。ワルツがはやった要因でもある。」と分析、音楽好きの私には興味津々。三拍子が音楽の道理の西洋に、四拍子のロックが突然飛び出したのだから、キリスト教的伝統を逸脱していると非難されたのも当然かもしれません。

著者は「時代が中世だったら悪魔呼ばわりされていたことだろう」と言いますが、確かにそうなったでしょうね。

美術好き、デザインを学ぶ人たちだけでなく、キリスト教文化に興味を持つ方にもおススメしたい一冊です。とにかくこの図版の量! 眺めているだけで惹き込まれます。

以前ブログで、この著者の本「独裁者のデザイン 」を紹介しています。ナチスドイツや、ムッソリーニなど独裁者が民衆を洗脳するために、ポスターデザインや建築デザインや写真などの媒体をいかに巧みに駆使したのかを、多くの図版や写真と共に解読しています。(売切れ)

●北海道のネイチャーガイド安藤誠さんのトークショーを今年も開催します。10月24日(日)19時スタート(2000円)要予約