「ば〜か、まだ何も始まっちゃいねえんだよ」

という威勢のいい啖呵で、映画「浜の朝日の嘘つきども」は始まります。物語の舞台は、福島県南相馬にある古い映画館「朝日座」です。2011年の大震災からなんとか続けてきたものの、コロナで打撃を受け営業が困難になり、館主(演じるは江戸前落語の柳家喬太郎)は閉館を決心して、映画館の前でフィルムを焼き始めました。そこへ突然飛びこんできてそのフィルムを奪い取り、この映画館は「閉鎖したらだめ!再開する!と宣言した女性がいました。「いや、もうすべてやったきたんだ」とつぶやく看守めがけて、言い放ったのが、冒頭の言葉です。

館主も観客も、素性がよくわからないまま、茉子というその女性のエネルギッシュな行動を追いかけてゆくことになります。タナダユキ監督のセンスの良さが光るのは、ここからです。「ニューシネマパラダイス」みたいな映画愛に満ちたセンチメンタルな映画にシフトせずに、茉子の人生に焦点を合わせるのです。

彼女は高校時代、震災が原因で家族問題で悩み、自殺しそうになったところを教師の田中茉莉子に救われます。この田中という教師、もう男にはだらしなくて、すぐにふられて、そのたびに好きな映画を観て大泣きする女性でした。田中と茉子が出会い、先生と生徒という関係を超えて友情を育て、お互い助け合いながら生き、そして永遠の別れをするまでの女性同士の物語が、映画の主軸へとなってゆくのです。

田中を演じたのは大久保佳代子。面白いTVタレントだと思っていたのですが、見事な演技でこの女教師に陰影を持たせます。主演は彼女と言っても過言ではありません。乳がんを患い、死を眼の前にした田中を見守るとても悲しいシーン。が、その最後の言葉を聞いた途端、皆大笑いさせられます。泣くことと、笑うことが同時に襲ってくるシーンがやけに哀しく愛おしい。

さて映画館は、茉子の奮闘努力で一時的に持ち直しますが、大きな借金のためついに解体の日を迎えます。このまま、解体されるかと思いきや、なんとハッピーエンドなんです!え?嘘!映画みたいやん!

そうなんです。映画って嘘の世界なんです。その2時間あまりの嘘に付き合って、泣き、笑い、驚き、共感する。そして、こんな面白いものがあるんだったら、もうちょっと頑張ろうか、と思わせてくれるのが映画なのです。

「音楽で人は救えない。でも寄り添うことはできる」と言ったのは、坂本龍一だったと思います。「音楽」の部分をそのまま「映画」に変換できると思います。

家族という存在に悩みつづけてきた茉子が、血の繋がりではなく、田中先生と新しい関係を持つことで、一歩踏み出してゆくまでを描いた映画です。主演の茉子を演じた高畑充希もとてもチャーミングでした。

とても、お勧めの作品です。

⭐️本の紹介をZOOMにてさせたいただく「フライデーブックナイト」。次回は9月17日(金)です。

⭐️北海道のネイチャーガイド安藤誠さんのトークショーを今年も開催します。

10月24日(日)19時スタート(2000円)要予約