本著「この30年の小説、ぜんぶ」(河出書房新書/新刊1078円)は、平成から令和まで約30年間に発表された小説を巡って、高橋源一郎と斎藤美奈子の、作家と文芸評論家が語りに語ったもので、元々雑誌「SIGHT 」で2003年から14年までスポット的に開催されたものなどをまとめたものです。この本が面白いのは、小説を通して、その時の日本社会について論じているところです。

「ほんとうに社会のことを知りたいなら、小説を読むべきなのである。なぜなら、小説家たちは、誰よりも深く、社会の底まで潜り、そこで起こっていることを自分たちの目で調べ、確認し、そして、そのことを、わたしたちに知らせるために、また浮上してくる。そして、そのすべてを小説の中で報告してくれるのだから。」

と、高橋は書いています。バブル崩壊、昭和の終わり、東日本大震災、そしてコロナの流行と、めまぐるしく変遷してゆく社会状況と、小説の相関関係を解き明かしていきます。各章の見出しに社会の変化が滲んでいます。

2011「震災で小説が読めなくなった」 2012「父よ、あなたはどこに消えた」、2013「近代文学が自信をなくしている」、2014「そしてみんな動物になった」、2019「文学のOSが変わった」、2021「コロナ禍がやってきた」と、なかなかのタイトルです。

急死した西村賢太の「苦役列車」から、ブレイディみかこ「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」まで数多くの作品が爼上にのり、時折辛口コメントも混ぜながら、視点の異なる二人による戦後から今日に至る現代論になっています。小山田浩子、松田青子、いとうせいこう、柴崎友香、津村記久子、川上弘美、多和田葉子等、当店でも力を入れている作家たちも数多く登場します。