池澤夏樹編集で発行された「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」は、とてもユニークな文学全集で、古典を現代の人気作家たちが翻訳していました。全30巻だいたい読みましたが、まだ手をつけていないのが、角田光代翻訳の「源氏物語」(全3巻)と古川日出男翻訳の「平家物語」です。

古川版「平家物語」はアニメ化され、深夜TV、Netflix等の配信サービスで放映していて、キャラクター原案は高野文子というのも話題になっています。

そして、外伝的な「平家物語犬王の巻」(河出文庫/古書500円)が文庫化されました。古川的疾走感抜群の物語です!

ここに登場する少年は二人。友魚と、彼より若い犬王です。共通点はどちらも身体的ハンディキャップがあること。友魚は盲目、犬王は奇形の顔と体を持っています。二人は、片や琵琶法師として、片や能楽師として世間に向かってゆきます。

解説で池澤が「小説はプロットだと人は思っている。あるいは登場人物。時代や社会。しかし、小説は文芸なのだ。だからまずは文体。

この『平家物語犬王の巻』の文章はどのページを開いてもわかるとおり、速い。センテンスが短く、改行が多く、形容に凝らない。ぱきぱきと進む。たぶん口承文芸のスタイルなのだろう。」

べんべんべんと鳴り響く琵琶の音色に重なる謳いか、あるいは超技巧派のギタリストのロックサウンドか、聴きどころ、いや読みどころ満載の小説です。

醜い者、不浄の者として虐げられてきた二人が、独自の平家物語を創作して、芸能の世界へ打ってでるエンタメです。そして本年夏には、アニメ映画化が決定。キャラクター原案は松本大洋です。

物語の中で多用される体言止めが、さらに文体に力をつけ、私たちを引っ張ってゆきます。池澤は、形容詞、副詞、修飾語句を多用する政治家の言葉に対して、「これに対抗し、これを撲滅するのが文芸に携わる者の責務である。一国の文芸を支えているのは作家であり、詩人であり、動詞という太い柱に支えれれた彼らの文章である。」

「犬王は、生きた、おお生きのびた!犬王は、這った、ずるずると床を這い、おお地面を這い、おお、おお、立った!」グイグイと迫ってきます。古川版「平家物語」も、挑戦してみようという気になります。

ちなみに犬王は実在の人物で、観阿弥と同時期に活躍した近江能楽日吉座の大夫で、観阿弥・世阿弥と人気を二分しました。