「『セニョール、ミシラゴだ。チューパ・サングレのミシラゴだ。』 当時、ミシラゴという言葉は知らなかったが、 チューパ・サングレ(血を吸う)と聞いてその意味がつかめた。木戸や屋根の隙間から吸血コウモリが侵入してきたのだ。」

絶対に、こんな場所には旅したくはありません。さらに川には毒ヘビがうようよ。

写真家の高野潤著「風のアンデス」(学研/古書1050円)は、タイトル通り、アンデスを高原、高地、谷間、辺境、そしてアマゾン上流地帯に分けて、著者の旅の体験談を一冊にまとめたものです。

辺境への旅をしたいと思ったことはありませんが、その割にこういう本は読んできました。地球上には未知の世界が数多く存在することを教えてくれるのです。

「パタゴニアは空虚な風だけの世界、ここは風の砂漠かと思いはじめた。気持ちがすさみ、底なしの寂しさに包まれる。連日、地面をはうような横なぐりの雨にテントが襲われるため、フライシートの効果もなく床内部までびしょ濡れになる」

かと思えば、「ソンダ(猛暑による温度上昇で生まれる暴風)も生まれるほどの高温乾燥の猛暑である。ひとりで叫んで驚いたが、煙草の火先が触れただけで、頭からかぶっていたタオルがくすぶりかけ、同時に炎を上げて燃えはじめた。」

などと、超過酷な自然に向き合い、死ぬ一歩手前まで行った体験が語られます。予想のできない自然現象、不気味な毒ヘビや、猛獣と出会う危険。さらにはとんでもないエネルギーが押し寄せてくる鉄砲水、はたまた直撃されたら即死間違いなしの大きな岩石の落下など、危険、危険の旅。

なんでこんな旅に出かけるの?と逆に聞きたくなってきます。

あとがきで著者は「野生動物、雷、その怖さに怯えたかと思うと、予想もしていなかった牛が現れて不安感を与える。さらに、風や水の恐怖が待ち受けている。一転して、アマゾンに出かければ、そこには得体の知れない別種の危険や困難がひそんでいる。」

しかし、著者はこの怖さを感じつづけることが、自然の中で過ごそうとするためには、もっとも大切なことだと言います。自然に対して謙虚になれるというのです。

私のような都市生活者にとって、自然は優しさであり癒しの拠り所です。しかし、そうではない自然の方が沢山あるという事実。そして、ひょっとしたら、今騒がれている異常気象や、自然破壊の爪痕は、こんな所にこそ存在し、広がっているのではないかという、当たって欲しくない予想を感じる一冊でした。

 

 

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