以前、同じ編者による「コーヒーと小説」をブログで紹介しました。1969年徳島に生まれ、徳島市内に「アアルトコーヒー」を開業しました。「コーヒーと小説」「コーヒーと随筆」に続き、今回出たのが「コーヒーと短編」(mille books/新刊1430円)です。太宰治、岡本かの子、坂口安吾、小川未明、芥川龍之介などトップクラスの文学者の短編小説、詩が並んでいます。

「変にくすぐったい気持ちで街の上の私を微笑ませた。丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けてきた奇怪な悪漢が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心にして大爆発するのだったらどんなに面白いだろう」という危ない文章で締めくくられる梶井基次郎の「檸檬」。「得たいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。」で、始まるこの短編の背景を作る京都の街並み、そして丸善書店の描写が見事な短編です。

短編小説の文学性の高さ、技法の見事さなどを味わうことができるアンソロジーに仕上がっています。再読して、お見事!と唸ったのは芥川龍之介の「蜜柑」でした。以前当ブログで紹介したとき、こんな文章を私は書いていました。

「空を舞う蜜柑の橙色と、列車の音、声を上げる男の子たち、そして小娘とそれを見つめる主人公の姿が映画のように流れていきます。芥川の小説が技巧に走り過ぎていると言われるのは、この辺りの描写かもしれません。」いや、ほんとに映画にしてみたい小品だと改めて思いました。映像だけでなく音まで聞こえてきそうでした。

谷崎の「小さな王国」は、短編というよりは中編小説に近い量です。耽美的な作品かと読み始めると、ブラックユーモアに富んだ作品で、真面目な学校の先生と不思議な転校生の物語。先生が常識を逸脱してゆくエンディングにぞっとしました。

本書のラストを飾るのは、安藤裕子の「謀られた猿」です。安藤裕子って誰?実は彼女の本職はシンガーソングライターですが、SF的世界を独特の言葉で描いてゆく物語は、ゾワゾワとさせられて面白い。因みに本書の表紙を飾っているのは彼女です。

庄野雄治編の短編アンソロジーは3冊全部読みました。どれもいい作品を選んでくれたと思いました。こういうアンソロジーを通して、新しい作家のお気に入りを見つけてください。