ブルース・チャトウィンは1940年イギリス生まれの作家ですが、変わった経歴を持っています。オークション業界最大手サザビーズで美術鑑定士を務め、コレクターとして成功を収めたのち、大学で考古学を学び、各地を歩き回りました。1978年「パタゴニア」で作家デビュー。その後、「ソングライン」「ウッツ男爵」と作品を発表しますが、89年HIVのため死去しました。49歳の人生でした。

クセのあるスタイルに熱烈なファンも多く、「パタゴニア」や「ソングライン」は入荷しても、すぐに売れていきます。そんなチャトウィンのドキュメンタリーを、ニュー・ジャーマン・シネマの中心的存在のヴェルナー・ヘルツォークが監督しました。個人的にこの人の映画「吸血鬼ノスフェラトゥ」や「フィッツカラルド」が大好きだったので、大いに期待して映画館へ行きました。

チャトウィンは、幼い時に祖母の家にあったブロントザウルス(ジュラ紀後期に存在した草食恐竜)の毛皮を見つけたことをきっかけに、先史時代に興味を持ち、世界中を探索します。そして、自分の足で未知の国を旅して、歩いて、小説を書く、というスタイルを確立します。「パタゴニア」は南米を、その後アボリジニ神話に興味を持ったオーストラリアの辺境を、歩き始めます。HIVに感染していたことを知った彼は、死期を悟ったアボリジニが生を授かった土地へと回帰することを学びます。そして自らの死を、どういう風に迎え入れるかを探りながら、「ソングライン」を書き上げます。

荒涼たる風景を的確な描写で描いた「パタゴニア」は面白く読みましたが、「ソングライン」はどうにもよく理解できず、途中で放り投げた経験があったのですが、映画を観て、そういうことだったのか!と納得しました。

チャトウィンと親交があったヘルツォーク監督が、彼の足跡を辿るように旅をして、そこで彼が見たもの、聞いたものを映像化したものを見て、私たちもチャトウィンを追体験していくのです。チャトウィンが10代の頃に足繁く通ったイギリスの古代遺跡、妻と暮らしたウェールズ、そして南半球へとカメラは旅を続けます。

「ノマディズム/放浪」に魅了されていたチャトウィンの世界を、見事に映像化した映画だと思いました。「歩いて世界を見る」ということの深い意味を知るためにも映画館に「足を運んで」いただきたいです。

映画にも登場するニコラス・シェイクスピアによる分厚い伝記「ブルース・チャトウィン」(角川書店/新刊4950円)も入荷しました。