「万引家族」の是枝裕和が、韓国の役者とスタッフと共に韓国で撮影した「ベイビー・ブローカー」(京都シネマ他で上映中)は、とても優しい映画でした。酷暑が続く毎日ですが、ぜひ劇場に足を運んでいただきたい作品です。

クリーニング店を営みながら借金に追われるサンヒョンと、〈赤ちゃんポスト〉がある施設で働く児童養護施設出身のドンスは、土砂降りの雨の晩、若い女ソヨンが置いていった赤ん坊を連れ去ります。それが彼らの裏稼業、ベイビー・ブローカーなのです。翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊が居ないことに気づき警察に通報しようとしたため、赤ちゃんを大切に育てる家族を見つけると言い訳しながら、二人はその場を取り繕います。しかし成り行きからソヨンも一緒に、養父母探しの旅に出ることになってしまいます。最初は口も聞かなかったソヨンでしたが、やがて二人と少しずつ心を通わせていきます。さらに児童施設の少年も加わり……。

これはロードームービーなんだということがすぐにわかってきます。旅をしていくうちにお互いを認め合い、いい関係を作ってゆくタイプの作品です。そのプロセスを、是枝監督はそれぞれの辛く苦しかった人生をはめ込みながら、彼らがひとつの「家族」になってゆく過程を描いていきます。その眼差しが実に優しい。そして、監督の意図を的確に把握してサンヒョンを演じた名優ソン・ガンホ(「パラサイト 半地下の家族」主演)が素晴らしい。こんな人に側にいて欲しいと思わせてくれます。

一方、ベイビー・ブローカーを検挙するため、ずっと二人を尾行している刑事スジンと後輩のイ刑事の張り込みシーンが何度も出てきます。そのスジンが、とても素敵な形でエンディングを飾ります。スジン役のぺ・ドゥナが、これまたとても上手い!

「万引家族」は傑作だと思いますが、個人的には繰り返し観たくなる作品ではありません。でも、この映画は何度お付き合いしてもいいよねと思いました。リアルに、厳しい今の世界を描きながら、希望があります。

ラストの余韻にずっと浸っていたい!