以前、「罪の声」と言う小説を紹介しました。極めて完成度の高い作品で映画化もされました。著者は塩田武士。1979年兵庫生まれで、神戸新聞社に勤務、2010年「盤上のアルファ」で第5回小説現代長編新人賞を受賞し、2017年「罪の声」で第7回山田風太郎賞を受賞しました。

松本清張ばりの社会派長編サスペンス文学の作家だと思います。新作「朱色の化身」(講談社/新刊1925円)は、最後の最後まで読者を惹きつけて止みません。これは推理小説ではありません。昭和、平成、令和を生きる女性の家族の果てしない悲しみの物語です。

ライターの大路亨は、元新聞記者の父親から辻珠緒という女性を探し出してくれと頼まれます。彼女は一世を風靡したゲーム開発者でしたが、突如消息を絶ちました。なぜ、父親がそんな依頼をしてきたのかという疑問を抱きながらも、彼女の友人、同期生、元夫など関係者に会っていきます。

驚くべきは物語の進め方です。「檜山達彦の証言二◯二◯年十月二十二日」というように、大路が会った人物の話を並べてゆくのです。読者もその場に立ち会って、話を聞いてゆくことになります。圧倒的なリアリズムです。事件を解きほどいてゆくというカタルシスはありません。大路は、やがて珠緒の人生に、昭和三十一年福井県の北部にある芦原温泉で起きた大火が大きく影響を及ぼしていることに気づきます。そこで何が起こったのか。戦争、貧困、差別様々な悲惨な状況の中を生き抜いてゆく辻家の女性たち。

大路はいろんな関係者に会ううちに、多くの情報に向き合う羽目になります。それは真実なのか、それとも歪めれたものなのか。それらを一つ一つ整理し精査して、真実へと向かっていきます。

この作品も映画化されるのでしょうか。個性的な証言者が沢山登場するので、どんな役者がやるのか考えるだけでも楽しいと思います。小説の面白さ、醍醐味を味わえる一冊です。初版には「塩田武士インタビュー」という小冊子が付いています。

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