「EF58」と言っただけで、あぁ、あの電気機関車か!とその姿を思い起こす方は、鉄道ファンでしょう。

一時、日本の長距離列車を牽引していた電気機関車です。私が高校生の時、友人と九州一周旅行に出発した時の夜行列車も、京都22時発の東京行き急行列車「銀河」に乗った時もこの電気機関車が牽引していました。青春時代の旅はEF58がいつも一緒でした。

西村繁男の絵本「やこうれっしゃ」(福音館/新刊990円)の表紙絵は、EF58110のナンバーを付けた電気機関車が長距離列車を引っ張っています。

西村繁男は1947年生まれの絵本作家です。私よりもう少し年上。つまり著者にとってもこの機関車はなじみ深かったわけです。絵本は上野駅中央改札から始まります。季節は冬。スキーを担いだ若者、帰省する親子、引き出物を手にして挨拶を交わす人々が次々列車へ乗り込んでいきます。全編文章もセリフもありません。

ホームでお弁当を買い込み、寝台車に乗る人、四人がけの普通座席に座る人、リクライニングシートの一等車に乗る人。目的は違いますが、あちこちで会話が弾んで賑やかです。改札にいた多くの人々がそれぞれの座席に収まる様子が面白い。ページをめくっていくと、車内の様子が細かく描き込まれています。一昔の長距離列車、それも夜に出発する列車には、どこか濃密な雰囲気がありました。深夜、それぞれの席で眠りにつく乗客。若い方は体験したことがないかもしれませんが、硬い座席で寝るのは、なかなか大変でした。そんな様子も見ることができます。

上野を出た時には、雪など降っていなかったのに、いつの間にか車輪も真っ白になっています。朝7時、どうやら終着の金沢に着いたようです。帰ってきた安堵感、さぁこれから観光だという期待感、乗客の感情がホーム一杯に漂っています。ホームにある手洗い場で顔を洗っている人もいます。

本書が初めて世に出たのは1980年。それから版を重ねて、2020年には34刷。驚異のロングセラーです。現代のスピーディーな旅とは全く違い、ここには旅情があります。もうこんな旅は物理的に不可能ですが、だからこそ、あの時代へのしみじみとした思いが読者を捉えているのかもしれません。

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