東京の深窓のご令嬢と、地方から東京へ出てきた女子大生の人生が不思議な縁で交差してゆく物語「あのこは貴族」(古書900円)は、一つ間違えば浮ついたトレンディドラマになってしまいそうな題材です。しかし著者は、その危険を回避しながら、東京という都市の息苦しさと、狭い世界に溺れかけていきそうな女性の人生を見事に描き切りました。

名家のお嬢様の華子は「もし三十を過ぎても結婚できなかったらと思うと、華子は身がすくんでしまう。できるだけ早く結婚しなくては、いい人と巡り合わなくてはと焦りを募らせる。」

着付け学校に通い、そこで仲良くなった女性たちは「なにより妻という自分の立場に対する自負はことのほか強固であり、絶対的だった。アイデンティティのほとんどが、妻であり母であることで占められていて、それは揺るぎない。」華子は婚活へと走り出します。

「東京の街には、しきたりと常識がないまぜになったような共通認識が張り巡らされていて、それは代々ここに住み続けている人たちに脈々と共有されていた」

彼女はそんな認識を身につけた、名家のお坊ちゃん青木に出会います。「東京の真ん中にある、狭い狭い世界。とてつもなく小さなサークル。当人たち以外にはさして知られることもなく、知られる必要もなく、ひっそりしていたが、そこに属していることで生まれる信頼と安心感は、絶大だった。」

そんな安心感に乗せられて彼女は一気に結婚へ向かいます。ここまでが第一部。第二部は「外部 (ある地方都市と女子の運命)」というタイトルで始まります。とある、地方都市から慶應大学に入学した時岡美紀は、大学のゴージャスな雰囲気と、おしゃれな学生たちに目を丸くしながら、学生生活をスタートします。しかし、故郷にいる父親の仕事がうまく行かず、学費を送ってもらえなくなり、彼女はアルバイトで始めた夜の仕事にのめり込み、大学にも行かなくなります。夜の世界で出会った青木とは肉体関係があるものの、距離のある関係を保っています。

ここから、第三部「邂逅(女同士の義理、結婚、連鎖)」の始まりです。美紀は、華子の友人逸子と偶然出会い、やがて華子のことを知ります。一方華子は、豪華な結婚式を挙げたものの、無味乾燥で、ハイソサエティーな者同士の狭い世界にいなければならない状態に、アップアップしています。もともと、自分もその世界の住人だったのですが、美紀と出会い、逸子との友情を通して、見つめ直していきます。この章も下手をすれば、癒しと再生みたいなテーマになりそうですが、著者の筆さばきが見事でした。近松門左衛門の浄瑠璃「心中天網島」がベースラインになっているのです。

山内マリコは、性をテーマにした「女による女のためのR-18文学賞」で2008年読者賞を受賞し、現代女性のリアリティーを描ける作家の一人です。昨年、門脇麦(華子)、水原希子(美紀)石橋静河(逸子)、岨手 由貴子監督&脚本で映画化されました。劇場に行けなかったのですが、TV放映を録画してもらうことができました。観るのが楽しみです!