金沢に住む普通のおばあちゃん、マスダさん著「金沢ばあばのまほう手帖」(風土社/新刊1980円)は、日々の料理や暮らしを楽しむちょっとした知恵が満載の本です。マスダさんは、昭和14年に石川県に生まれました。18歳の時、金沢に住み始め、以来この地で暮らしています。

「私がこれまで普通にして来た金沢の暮らしのことを知りたい人がいるらしくて、なんやら恥ずかしいけどね、普段の暮らしの一部である、食べ物、掃除、信仰と、いつものレシピや行事ごとなどを季節ごとにまとめてみたし、ちょっとした合間にでも読んでみてね。」

というように、日々の食事のレシピが紹介されています。ゴージャスな料理でありませんが、どれも優しくて美味しそう。「エビス」という乾燥寒天を使った郷土料理なんかも掲載されています。

「熱が出たら、梅干しの種を取って、実を左右のこめかみに濡れたまま貼りつける。熱を吸って梅干しがカラカラに乾くので、それを繰り返ししているうちに熱が下がってくるね」

なんて、おばあちゃんの知恵も必読です。

もう一点。こちらは地元京都で面白い本を出して来たしろうべえ書房の新刊「京都町中華倶楽部」(650円)です。京都には、昔ながらの中華屋さんが沢山あり、「中華料理」と染め抜かれた赤い暖簾が古都に溶け込んでいました。しかし最近は、町の中華料理店がどんどん閉店して、代わりに台頭して来たのがラーメン専門店です。それもまた時代の流れなのでしょうね。

「この本は、京都の町中華をアーカイブする目的で作られました。ただのグルメ紹介だけでなく、店のたたずまい、大将やお客さんの風貌、店の周りの町並みも含めて、まるごとその町中華の<味わい>として書き残してゆこうという試みです。」

今回は西陣亭(2020年閉店)の大将の切ない話と、西陣の歴史が語られています。「西陣織という一つの産業に基づいて形成された町・西陣の真ん中で、西陣亭もその胃袋となって繁栄を支えてきた店の一軒」と位置付けられています。西陣中心地図も付いているので、散策には最適です。

さらに、京都中華屋地図があり、本誌が推挙する店が掲載、そして詳細なレポートまであります。これはその辺の情報誌には真似出来んなぁ〜と思います。なお、「京都町中華倶楽部」は、表紙に「創刊号」とあるように、今後も出ます! 中華屋だけで引っ張るのか!と思うと応援したくなりますね。

 

 

沖田修一監督作品「おらおらでひとりいぐも」(京都シネマにて上映中)は、老いも若きも観てほしい映画です。一人暮らしのおばあちゃんの映画ですと言ってしまうと、なんだか暗そうなんて思うかもしれませんが、大丈夫。笑えます。でも、老人を茶化しているわけでもなく、しっかりと見つめています。

1964年東京オリンピックの年。東北生まれの桃子さんは、お見合い結婚を投げ捨て、東京へと向かいます。そこで見染めた男性と結ばれ、子供も二人授かりました。それから55年。夫に先立たれ、子供とも疎遠になり、外出するのは病院と図書館で本を借りる時ぐらい。ひとりで暮らす家は、いつも静かでした。

突然、3人の男が現れます。実は彼らは桃子さんの心の声が人の形となって現れたのです。ワイワイガヤガヤと雑談したり、家の中で踊ったりと、何かと騒がしいのですが、実際には見えない人たちなので当然なのですがふっと消えたりします。そうしてまた、静かな空間で、いつもの生活に戻ります。

映画は、この3人との交流と、桃子さんが回想する若い時の自分の姿を交互に織り交ぜながら、老いた彼女に寄り添います。「老い」と「孤独」というテーマを沖田監督は、大胆で、そして軽妙洒脱に仕上げていきます。

前作「モリのいる場所」でも、老人画家、熊谷守一を描いた沖田監督は、とんでもなくユニークな手法で、私たちが否応もなく向き合う孤独と老いを見つめ、それでも一人で自由に生きてゆくんだという心意気を描きました。映画後半、森を散歩する桃子さんが、まるで森と会話するように、ゆっくりと歩みながら、ひとりで生きてゆく心持ちを高めているところは感動的です。

桃子さんを演じた田中裕子が絶品でした。

砂澤ビッキは、作家の武田泰淳の小説「森と湖の祭り」の主人公のモデルになったアイヌの木彫家です。彼は、1931年旭川に生まれました。ビッキという名前はアイヌ語ではなく、方言で「カエル」のことで、本人が気に入って使い始めたそうです。

芦原伸著「ラストカムイ」(白水社/古書2200円)は、ビッキの足跡を辿って北海道各地を巡り、さらにカナダの少数民族ハイダ・グアイの人々の元に赴き、綿密な取材を重ねていきます。そして北太平洋沿岸の先住民(ハイダ族)の生活にアイヌ文化の影があることを感じ、さらにはハイダ族の始祖は縄文人ではなかったのかという仮説を打ちたて、それが仮説ではない確信を持つまでを描いたノンフィクションです。

ビッキは、幼少の頃、美瑛川の川岸大地に入植した父親の開墾生活を見ながら育ち、アイヌとしてのアイデンティティーを認識しました。その一方、目前に広がる大自然に魅了され、「木彫造形の芽生えと絵心の楽しみを教えてくれた」と書かれています。

やがて、阿寒に移ったビッキは、テントを背負って、森に入り込み、樹木と語らいました。「アイヌは科学ではなく、長らく森と共生してきた経験や信仰から植物にも霊魂が宿っていることを知っていた。またそれぞれも樹木の特性も熟知していて、感謝しながら利用していた。」と著者が記すように、ビッキも森を理解し、その中から、彼のアートが出来上がってきました。

面白いと思ったのは、澁澤龍彦が絡んでくるところです。「ビッキの生涯を思う時、この鎌倉での澁澤龍彦との出会いがのちのビッキの芸術を決定づけたのではないか。」と。

本書では、彼の生きた時代とアイヌの歴史を重ねながら生涯を追いかけていきます。その最期は壮絶でした。1989年、すでに大腸ガンが骨髄にまで転移し、手遅れの状態でした。にも関わらず、神奈川県民ホールで行なわれる展覧会には、ベットに寝たまま会場に赴き展示の指示をして、なんとか北海道に戻りました。そして、それから数日後に亡くなりました。享年57歳でした。

本書の後半、北大西洋沿岸の先住民族とアイヌとの関係、さらに縄文人が関わってくる大きな物語は、これだけで一冊の本になりそうです。

「この物語を書こうと思った動機はハイダ・グアイの木彫文化がアイヌアートに伝わっていないかとの検証を試みることだった。しかし、今ではそれは逆で、縄文人がベーリンジアを越え、アメリカ先住民・ハイダ民族の始祖となったのではないか、と考えるようになった。」

こんな壮大な仮説の本、読んでみたいです。

 

 

 

森村泰昌という美術家、ご存知ですよね。1985年、ゴッホの「包帯をしてパイプをくわえた自画像」に扮した森村のセルフポート写真を発表し、その後も様々な人物に化けた作品を発表しています。

「自画像の告白」(筑摩書房/古書1600円)を開けて、大笑いしてしまいました。それはメキシコの女流作家フリーダ・カーロに扮した作品でした。似てるとか似てない以前に、ここまで出来るって凄いです。カーロに扮した森村が車椅子に座っています。彼の周りには、大きな花輪が並んでいて、その中にはカーロの作品を模写したものが組み込まれています。

本書には、彼が扮した12人の美術家が登場します。そして、それぞれに私自身を語り出すのです。え?ほんと?うそ???森村という作家を通して語られる大御所たちの真実。ゴッホが渋谷の繁華街をふらついている作品もお見逃しなく。なお、この本は、大阪国立美術館「自画像の美術史展」で発表された初の長編映像作品を書籍化したものです。きっと、映像も面白かったでしょうね。

もう一点、ご紹介します。こちらは画家、装幀家として本好きにはファンの多い金井田英津子の新作が入りました。泉鏡花の作品を装幀した「絵本の春」(朝日出版社/新刊2310円)です。萩原朔太郎「猫町」、内田百閒「冥土」、夏目漱石「夢十夜」などは、今でも集めている方が多い書籍です。(当店には「冥土」だけ在庫あり)

泉鏡花の世界は幻想的で美しい情景が漂っています。そこには得体の知れないものがいる異界への入り口が待ち受けています。この作品の絵を担当した時、金井田は「名文家の文章が喚起するものにひたすら向き合い悩んだ日々」と回想しています。深い闇に引きずり込まれそうになってきます。画本の傑作がまた誕生しました。

 

 

本日から、なかま郁子の手袋展「ラトビアミトンに魅せられて」が始まりました。

「ラトビアミトン」というのは、北ヨーロッパバルト三国の真ん中にあるラトビアで、編み継がれてきた伝統柄のミトン(手袋)のことです。昔は結婚式などで、招待客に花嫁が編んだミトンが配られたことがあったのだそうです。

なかまさんは、北海道釧路湿原で26年間「なかまの家」という宿を夫婦で営んでいましたが、子供達が独立したのをきっかけに2016年に宿を閉めました。その年の春に、前から憧れていた「ラトビアミトン」を編むために思い切って現地に飛びます。羊を飼い、糸を紡ぎ、家族の着る物を編み、編み物歴はざっと50年という人ですが、ラトビアミトンは、見よう見まねで編んでみても納得できるものがなかなかできなかったと言います。現地では、バイブルのようなテキストに出会い、知り合った友人に毛糸を送ってもらい今も編み続けています。

少しハリ感のあるラトビア産の毛糸を、細い棒針できちっと編むのが良いこともわかり、今回の個展ではミトンに加えて指出しミトンやリストウォーマーもたくさん並んでいます。北ヨーロッパに比べると暖かなこちらの冬には指出しのミトンはとても便利そうです。(ミトンは、15000円〜20000円。指なしミトンは、7,000円〜。リストウォーマーは、5000円〜。ミニミトンストラップ1500円。など)

祈りを込めたような「太陽の女神」「月の神」「繁栄の神」「知恵とあの世」という伝統柄は本当に美しく、「きっと京都で個展してね」と2年前に頼んだ甲斐がありました。ラトビアミトンは、一生かかっても編み切れない奥深さが魅力なのだそうです。遠いラトビアという国に思いを馳せてご覧ください。(女房)

「ラトビアミトンに魅せられて」なかま郁子の手袋展は、

11月18日(水)〜29(日) 13:00〜19:00 月火定休

 

1973年8月、ストックホルムで発生した「銀行強盗人質立てこもり事件」における人質解放後の捜査で、人質が警察に銃を向けるなど犯人に協力して警察に敵対する行動を取っていたことが判明しました。また、解放後も人質が犯人をかばい、警察に非協力的な証言を行ったこともありました。本来ならばありえないような人質と犯人が親密になる状況を「ストックホルム症候群」と呼ぶようになり、その後もハイジャック事件などで、見られるようになりました。

この言葉の語源となった立てこもり事件を映画化したのが、「ストックホルム・ケース」(京都シネマにて上映中)です。犯罪映画というものの、正統派のサスペンスものではありません。いや、笑ってしまうような作り方です。

アメリカ人丸出しの格好で銀行に押し入ったラースは、行員3人を人質にして、犯罪仲間の釈放と逃亡資金を要求します。逃亡用の車を手配する時に、「マックィーンの『ブリット』で彼が乗っていた車を用意しろ」とかいう辺りから、もうメチャクチャです。やがて、事態は膠着して、長期戦に突入していきます。最初は恐怖だけだった女性行員のビアンカとの間に不思議な共感が生まれていきます。

怖いのか、不真面目なのかわからん強盗を演じるイーサン・ホークの演技が面白いです。B・ディランの「明日は遠く」をハモリながら強盗に押し入り、突入した警官を抑え込むや否や、お前も歌え!と脅迫、歌わすという無茶ぶりですが、本当のところ悪人ではないのかもしれません。

後半は、金庫室に閉じ込められた犯人と人質との会話が主になっていきます。そして、あろうことか、ラースとビアンカは結ばれてしまうのです。映画の最初に「事実を元にした物語」というクレジットが出ますが、さすがにこれはフィクションではないかしら。

ラスト、当然ラースたちは逮捕されてしまいます。一方のビアンカは、浜辺で子供と遊ぶ夫を虚ろな視線で見つめています。愛する家族のもとに戻れて幸せなはずなのに、なぜかそうとは見えない表情で幕。彼女が何を思っているのか、映画は何も語ることなく終わります。ヨーロッパ映画らしいエンディングです。

 

★四条河原町にある書店「京都メリーゴーランド」で、昨日より「ミシマ社のヒミツ展」が始まりました。当店でされた時とは一味も二味も違う展覧会です。

 

 

 

イタリアを代表する作家、イタロ・カルヴィーノは、50年代半ばに全国を巡って200編の民話を集め、「イタリア民話集」という本を出版しました。その中に「梨といっしょに売られた女の子」という一編がありました。そのお話に魅せられたのが、絵本作家の酒井駒子でした。そして関口英子の翻訳、酒井駒子の絵で発売されたのが「梨の子ペリーナ」(BL出版/新刊1760円)です。

梨の木に守られた女の子ペリーナの冒険物語。勇敢で、かしこいペリーナは、王の命じた難題に立ち向かいます。満月の下、彼女が梨の木の上に寝ている絵がそれはそれは美しい。旅先でペリーナの前に現れる不思議なおばあさんのおかげで、様々な難関を突破していきます。彼女が助けた人や犬たちが、手を差し伸べてくれる描写も素敵です。酒井駒子さんの優しく繊細なタッチの絵が、ペリーナの優しさを際立たせています。酒井駒子ファンは、持っていてほしい作品です。

もう一つ。以前ヒメネス作「プラテーロとぼく」という、ロバのプラテーロと少年の物語をご紹介しましたが、ヒメネスの物語から28点を選んで、山本容子が銅版画で描いた「プラテーロとわたし」(理論社/古書1600円)もとても美しい本です。

山本は、銅版をオレンジ色の絵の具を塗布したキャンパスに刷っていて、「オレンジ色のベースは、ヒメネスとプラテーロの素肌のあたたかさと、太陽があたためた大地の色、信頼関係の色。」と書いています。

確かにプラテーロの背中や、顔がとても優しい。切なく、もの哀しい世界が広がってゆく一冊です。なお、ギター演奏と朗読による「プラテーロとわたし」というCDも発売されています。

 

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松嶋智佐著「女副署長」(新調文庫/古書300円)は、警察小説としては極めてユニークな一冊です。

先ず、著者の経歴が面白い。高校卒業後、警察官になり、日本初の女性白バイ隊員となりました。退職後、作家に転身して、2006年には織田作之助賞を受賞しています。そして物語はというと、とある警察署に赴任してきた副署長のたった一夜の経験を描いています。

まさに大型台風が通過する夜、警察署の敷地内で警察官が刺し殺されます。犯人はまだ署内にいる可能性が高いので、署はロックアウトされます。しかし、台風の激しい雨と風のため市内各地で救助要請が続発します。片や台風、片や殺人事件という状況下で副署長が活躍する物語です。面白いのは、彼女のヒロイックな活躍が中心ではなく、この警察署に所属する警察官たち全てが主人公と言ってもいいほど、リアルに描かれていくこと。何せ、元警察官だけあって、その描写は著者自身が経験したものが反映されているはずです。

最初のページに4階建ての警察署の地図が載っています。何でこんなものが必要かというと、多くの警察官が各階を上へ下へと移動するのです。そして、アメリカのTVドラマ「 ER」みたいに、場面がパッ、パッと切り替わり、息つく暇のない構成になっています。手提げカメラを担いで、この小説通りに映像化したら、さぞ面白い映画になると思います。

あとがきでミステリー評論家の吉野仁がこう書いています。

「『女副署長』というタイトルから、女子幹部の警察官が抱える困難を強く前面に押し出した部分が主軸の話なのだろうと勝手に想像していた。もちろん、そうした面もしっかりと含みつつ、むしろここに描かれているのは、<ひとつの警察署丸ごと>である。所属する警察官たちばかりか、建物を含めたすべてだ。それらを余すことなく物語の中にぶち込もうとしているかのような書きぶりなのだ。」

そうです。読んでいる間、こちらも署内をドタバタ走っているような臨場感が味わえます。

ラストの「POLICE WOMAN」という言葉に、著者の警官だった矜持を見た気分です。警察署に出向くとき(?)ぜひお読み下さい。

北海道釧路在住のネイチャーガイドで、写真家。そしてウィルダネスロッジ「ヒッコリーウインド」オーナーの安藤誠さんの「日常の奇跡ー安藤誠の世界」(どう出版/新刊1870円)が入荷しました。

安藤さんと初めて会ったのは、10年ほど前。ロッジに二泊ほどして、湿原をガイドしてもらったり、音楽の話や、彼のギターを聴きながら美味しいウィスキーをご馳走になったことを思い出します。その後、北海道の自然を語るネィチャートークツアーで当店にもお越しいただき、ここ数年は毎年開催してきました。彼が言い続けてきた大切なことが、この本にまとめられています。

「私が5、6歳の頃は、ヒグマにたいへん興味を持っていたそうです。クマに取り憑かれているのではないか、医者に診せなければならないのではないかと親が思い詰めるほど熱心だったと聞いています」

そんなクマ少年は、今、本格的にクマ保護のための活動を始めています。その話は当ブログ「安藤誠トークショー、今年もやりました。」をご参考にしてください。

彼は、昨今のマスコミのクマによる人災についての報道に偏りが多々あることを問題にしています。

「北海道の有名なお菓子に『山親爺』と言うクマの絵柄の入った昭和のお菓子があるのですが、それは、北海道では山で『クマ』と呼ぶと失礼だから、『おやじさん』と言うふうに畏敬の念を込めて呼んでいたそうです。」

クマのことだけでなく、荒れ果ててゆく自然に対して、何をなすべきかを本気で考え、行動している人だと思います。クマによる人災にアホなコメントを出していた環境大臣にこそ、一ヶ月ほどここで修行していただきたい。(右の写真は安藤さんの作品です。このクマの顔つきが好きです。)

プロのガイドとして、カメラマンとして、北海道の自然を語る者として、この人は本物だと思います。

自転車好きの彼は、こんなことを書いています。「自転車旅行は素晴らしい。自分で漕がなければ1メートルも進まない。しかし意思があれば、その意思をブーストさせて1日に100キロ以上の移動が自力のみで可能となるのだ。エンジンは自分自身。自分自身の心技体。諦めない心。何度となくやってくる坂道、時に信じられない過酷な峠や向かい風、雨にもみまわれる。しかし立ち向かって超えていくのだ。それが全て自分自身の結果と実績になる。」

前向きに全力疾走する安藤さんらしい言葉だと思います。

 

以前、池澤夏樹編集による日本文学全集が出版されました。その中で、池澤は古事記を現代語に翻訳し、話題になりました。私も面白く読みましたが、それから6年が経過し、古代を舞台にした小説を発表しました。

実在されたと言われるワカタケル、後の雄略天皇に焦点を当てた長編「ワカタケル」(日本経済出版社/古書1600円)です。

イチノヘノオシハ(市辺押歯)やら、ナダタノオホイラツメ(長田大郎女)やら、古代人独特の名前の人物が数多く登場しますが、覚えられなくても先へ進みましょう。(私はそうしました。)細かいところにこだわっていると、このダイナミックな歴史物語の面白さを堪能できなくなります。

国家の基本を作り上げたワカタケル。凄まじい暴力的世界と血塗られた権力闘争を平定し、国が整うまでを描いた叙事詩的物語なのですが、こんな描写も出てきます。

「何ごとも男が率先するのはよろしい。卑俗な世事などは男に任せてかまいませぬ。だが、本当に国生みをなしたのはイザナミであったことをお忘れなく。ものごとを底のところから作ってゆくのは、女であります。先の世を見通して道を示すのは、女であります。

戦の場ではせいぜい戦いなされ。刀を抜き、弓を引き、戈を振り立て、火を放つのは男。しかし、亡くなった者たちの後を満たす者を生むのは女。民草は一人残らず女の胎より生まれます。」

こう言い放ったのは、ワカタケルの乳母のヨサミです。そして物語後半、近隣の国への無謀な出兵を押しとどめようとしたのはワカタケルの大后のワカクサカでした。その後、女帝が国を治め、平和な国家建設へと向かいます。

さらに女王イヒトヨに至っては、「女と生まれた以上は男を床に迎えるのが当たり前と言う。さして興味なかったけれど、知らぬまま済ませるのも口惜しい気がして、試したの」とおっしゃる。さらにどう感じたかと言う問いに対しては、

「なにも。こんなものかと思い、一度で充分と思いました。それからは男を近づけなかった。だから子もいない。」

因みに彼女の治世は穏やかな日々だったそうです。

思慮深い女性たちが印象に残る物語でもありました。超おすすめです。

 

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