7月3日(水)より、「ことばの生まれる景色」原画展が始まります。この本は、以前ブログでも紹介しましたが、東京の書店「title」店主、辻山良雄さんが書かれた本です。店主が選んだ作家作品世界をnakabanさんが、描いています。

nakabanさんは、1974年広島生まれの画家。絵本だけでなく、本の装丁、アニメーション制作など幅広い活動をされています。最近の装丁では、山尾省三の二冊「五月の風 山尾省三の詩とことば」(野草社2484円)、「火を焚きなさい」(野草社1944円)が、印象的でした。

絵本も素敵で、今回ご紹介するのは、「ぼくとたいようのふね」(BL出版/古書1100円)と「よるのむこう」(白泉社/新刊1728円)です。「旅する」ことをテーマにしているnakabanさんらしい作品です。

「ぼくとたいようのふね」は、少年が夜中、小さな船を持って川に行くところから物語は始まります。「みずにうつった つきのうえにふねをうかべた」少年は、「いってらっしゃい ちいさな ぼく」と言いながら船を送り出します。少年の分身が乗っているかのように、船は川を滑りだします。波を越え、未知の世界へと向かいます。朝を迎えると、小さかった船は、不思議なことに大きな客船となって、さらに航海を続けます。爽やかな風が吹き込んでくるような空と海の絵がいっぱいに広がります。

「よるのむこう」は、帯に「静かな夜、旅に出るような気持ちで、そっとめくってください。ページという車窓を、宝石のように深く美しいシーンが流れてゆく大切な時間に開きたい、大切な人に贈りたい絵本です」と書かれている通り、幻想的な絵本です。「てがとどきそうな あお まよなか れっしゃにゆられ あおいゆめをみていた まどのそとに ひかりが ひとつぶ ふたつぶ」と詩的な言葉が、旅へと連れ出してくれます。「銀河鉄道の夜」のような不思議な世界の入口。深い緑と、濃い青色が支配する絵の中に溶け込んで、次元を超えた旅に誘われます。

nakabanさんの「青色」は、引き込まれるような魅惑的な夜の深い色合いと、夜明けの海や緑の大地に爽快な風が吹き抜けいくような透明な色合いが、どちらも本当に素晴らしいです。

原画展までには、あと数冊入荷予定しています。お楽しみに!

 

●なお、7月1日(月)〜15日(土)誠光社で「nakabanの旅するブックシェルフ誠光社篇〜もうひとつの『ことばの生まれる景色』〜」が開催されます。nakabanさんの世界をお楽しみください。

 

♫トーク&ライブのお知らせ  

7月13日(土)18時30分より 『澤口たまみ(語り)石澤由男(ベース)ライブ』

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが再決定。澤口たまみがさんが岩手のイントネーションで賢治作品を朗読。ベーシスト石澤由男が伴奏を添えます。     朗読作品は、岩手の自然を見つめ、野原や林からおはなしを貰ってきたという「鹿おどりのはじまり」他を予定。

●18時受付開始  18時30分より (2000円)ご予約ください。

                     075−212−1772(レティシア書房)


 

おおば比呂司をご存知ですか?1921年札幌生まれの漫画家&デザイナーです。

幼少から絵画・イラストの才能を発揮。1942年、徴兵で陸軍航空隊入隊して、この時の体験が、後の飛行機デッサン創作に活かされる事となります。除隊後、東京で漫画家として活動を始め、新聞各紙にイラストを描き人気を得ます。京都の和菓子「おたべ」は発売以来、彼のイラストを使用しています。

独創的な飛行機デッサンを十分に発揮した、ちょっとレアな「私の航空博物館」(東京堂出版/古書2500円)を入荷しました。函には、懐かしい複葉機とアポロ月着陸船が一緒に描かれています。ブルーの表紙には、航空ファンなら大喜びそうな戦闘機のデザイン、表紙をめくるとデフォルメされた羽田飛行場のイラストが登場します。以前、この本を古本市で見かけた時、心惹かれて買おうと価格を見て、えっ!こんな高いの?と諦めたことがありました。

この本は彼のイラストを集めていますが、後書きで「飛行機はまさに言うところのフライング・マシンだがそれにまつわる人々もお話はまさに”人生の航跡”であった」と書かれている通り、飛行機にまつわる人々の話、自身の体験をエッセイ風にまとめあげてあります。

「帯広に飛んだ。東亜国内航空の111便は朝の七時十分、帯広に向かってテイクオフする。 お尻がフックラしたYS-11型機が、ロールスロイス・エンジンをキンキンうならせて上昇するときは、ちょっとスピード感があってうれしい。

しかし、空に浮くと、まさに浮いたカンジがするのは、このフックラとしたお尻のせいか……..とおもうのだが地上の流れがのんびりと見える。」

飛行機好きの少年が、ワクワクした気分で空旅を楽しんでいる様が見えてきます。私自身も、彼の飛行機デザインを小さい時から見続けて、飛行機、そして飛行場好きになりました。また、メカニックなデザインばかりでなく、羽田からアンカレッジに向かう時に出る機内食を事細かく描きこんでいるのも面白いです。どちらかといえば、ジェット機よりも、双発のプロペラ機に、作家の愛着や思いが満ち溢れていて楽しめます。

 

♫トーク&ライブ決定 7月13日(土)澤口たまみ(かたり)石澤由男(ベース)

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが再決定。澤口たまみがさんが岩手のイントネーションで賢治作品を朗読。ベーシスト石澤由男が伴奏を添えます。     朗読作品は、岩手の自然を見つめ、野原や林からおはなしを貰ってきたという「鹿おどりのはじまり」他を予定。

●18時会場18時30分スタート (2000円)ご予約ください

 

 

 

 

 

京都駅前伊勢丹デパートにある駅美術館「安珠写真展Invisible Kyoto」(6月30日まで)に行ってきました。この写真家の女性、元々はパリコレ等で活躍する国際的なモデルだったそうです。1990年に「サーカスの少年」を出版して写真家に転向、現在に至っています。

彼女はこの写真展についてこんな風に語っています。

「日本人のスピリチュアリティの概念が根付いた平安京。ここに人生100歳時代を豊かに生きる手がかりがあるかもしれません。命を愛おしみ平和を願う想いは『令和』も変わらないのですから。 私は平安京を知れば知るほど見えない世界を物語からひもとき、写真で寄り添いたいと思うのです」

様々な平安時代の物語の一部を写真の中に取り込んで、独自の世界観を展開していきます。「青馬」という作品(写真右)。平安時代、正月七日に「青馬」を眺めれば年中の邪気から逃れられることが知られていました。中国では青が「春」の象徴だったことから、当時は淡灰色の馬を「青馬」と呼んでいました。平安中期、青馬が白い馬になりその読み方だけが残ったみたいです。壁面一杯に広がる白い馬の姿を見つめていると、心や体にまとわりつく、うっとおしいものが飛んでいきそうです。深呼吸すると馬の呼吸音が聞こえてきます。

渡月橋の松枝を捉えた作品も素敵です。細い枝に苔や虫が寄生しています。その背後に広がる嵐山の自然。自然との共存を絵にしたような作品ですが、平安時代には「自然」という概念は存在せず、人と自然は一体でした。苔、松枝、水が織りなすハーモニーが響いてきます。

私がこの作品展に行った理由は、チラシにあった蛾と女の子のコラージュ風作品(写真左上)に惹かれたこと、さらにこの会場の音楽を細野晴臣が担当していたことです。どんなサウンドを聴かせてくれるのか興味津々でしたが、さすが細野。かすかに、遠くの方から響いてくるノイズ風の音を中心に構成された無機質な音楽が、会場を包みこんでいました。細野ファンなら行かなくてはね!

 

 

 

♫トーク&ライブ決定 7月13日(土)澤口たまみ(かたり)石澤由男(ベース)

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが再決定。澤口たまみがさんが岩手のイントネーションで賢治作品を朗読。ベーシスト石澤由男が伴奏を添えます。     朗読作品は、岩手の自然を見つめ、野原や林からおはなしを貰ってきたという「鹿おどりのはじまり」他を予定。

●18時会場18時30分スタート (2000円)ご予約ください

 

 


 

「ビルのまちに ガオー 夜のハイウェイに ガオー ダダダダ ダーンと たまがくる」

はい、この曲を歌える人は、ぜひ泉麻人著「冗談音楽の怪人三木鶏郎」(新潮選書/古書1000円)を読んでください。1963年、正月より放映の始まったTVアニメ「鉄人28号」(原作/手塚治虫)のテーマ曲です。昭和31年生まれの筆者は「僕にとって三木鶏郎といえば、まず『鉄人28号』なのだ。」と書いていますが、ほぼ同世代の私も、TVの前に居ました。

三木鶏郎の名前を聞いて、あ〜あの人かと思い起こせる人は、おそらく60代から上の世代でしょう。昭和20年代に彼が製作した人気ラジオ番組「日曜娯楽版」は、さすがに聞いたことがありませんが、昭和30年代から、TVに登場する数々のCMソング、例えば「ジンジン仁丹」とか、「カーンカン鐘紡〜」とかは、なんとなく覚えています。中でも、ポップシンガーの弘田三枝子を引っ張り出して、田辺製薬が発売した栄養ドリンク「アスパラ」のCMソングは、よく覚えています。「アスパラ アスパラ アスパラでやりぬこう」のフレーズは、小学校でも皆歌っていました。

戦後のラジオとCMソングで、世の人々を惹きつけた三木鶏郎という人物を、著者は当時の彼を知る人間に会い、また残っている様々な資料を精査し、足を使って取材をしています。「労作」という言葉がぴったりの一冊です。弘田三枝子にもインタビューしているから驚きです。

終戦直後、NHKに歌とコントを持ち込み、変てこな番組を国民的ラジオ番組にしてしまい、その中で使われた時事ネタのコントで多くの政治家を怒らせました。時の首相吉田茂をネタにして笑いにして、息子である吉田健一が、「愚劣な吉田攻撃」と自らの随筆で書いているぐらいです。(今のマスコミには絶対に真似できませんね。)

民間放送局が放送を開始すると、すかさずCMソングを製作し、消費時代の幕開けを牽引しました。日本初のCMソング、小西六写真工業のCMも彼でした。さらに彼は活躍の場を広げ、ディズニー映画「ダンボ」(1954年)の英語の歌を日本語にする仕事に携わります。「わんわん物語」では、翻訳以外にも声優のキャスティングに参加していきます。

いわば戦後の日本のポップカルチャーの先頭を走り抜けた男、三木鶏郎。この男の自伝は、ある面の日本の戦後の姿を見事に捉えています。ちなみに松下電気(現パナソニック)のCMソング「明るいナショナル」は、youtubeで白黒TV映像と共に見ることができます。

『常日ごろ使ってもらえるような  季節になったら思い出してもらえるような  置いて和んでもらえるような  そんなものが作りたくて  日々制作しています。』

田頭さんがこう綴っておられる通り、さりげなく日常生活に馴染む使い勝手の良さそうな器が並びました。

毎年、精力的に個展を開催されているのでいつかレティシア書房で、とお話ししていたところ今夏やっと実現しました。

初夏らしいしつらえで、苔玉が涼しげに揺れています。苔玉のカバーにも使える素敵な器、スープもたっぷり入りそうな大きめのティ一カップ、なんとも可愛いい果物や気球の絵付けが施された豆皿、小さな一輪挿し、優しい色合いのぐい呑、赤い土を生かしたカップなどなど。どれも思わず手に取ってみたくなるものばかりです。

私自身も彼女のお皿を毎日のように使っていますが、控えめで、それでいてどこか愛らしい。作品にお人柄が出ていると思っています。

今も絵付けの勉強はずっと続けておられて、毎年仲間の方々と作品展をされています。今回壁に飾った大皿(写真上)には、港の風景の絵が描かれています。ここにお寿司なんか盛ったらもちろん豪華なおもてなしになりますが、ここでも田頭さんの器は堂々とした形だけれど、はにかんだような優しい藍色で控えめです。

素敵な陶器のブローチ(2700円〜)も加わりました。季節の変わり目、ぜひ新しい自分用の器を探しにお立ち寄りください。(女房)

 

「田頭由起 陶展」は6月18日(火)〜30日(日)12時〜20時 (最終日は18時まで)月曜定休日

 

 

♫トーク&ライブ決定 7月13日(土)澤口たまみ(かたり)石澤由男(ベース)

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが決定。ゆったりとした豊かな時間の流れた前回同様、今回も期待度大です。賢治の言葉とウッドベースの響きが心地よく胸に伝わってきます。

 

 

 

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多分純文学の作家以上に、刑事小説や探偵小説を書く作家は、情景描写には念には念を入れなければならないと思います。大沢在昌の「新宿鮫」や、逢坂剛「カディスの赤い星」等の傑作群を読むとよくわかります。

元刑事で、今はしがない私立探偵の茜沢が活躍する「時の渚」(文春文庫/古書350円)は、きっちりと情景描写、そして戦中戦後の悲惨な境遇から幸せを求めて生きる人たちの歴史が、巧みに刷り込まれています。

元ヤクザの親分で、今は末期癌に冒されて余命いくばくもない老人から、35年前に生き別れた息子を探すように、茜沢が依頼されるところから話は始まります。ほんの僅かの手がかりを元に、探していきます。

「『生まれたその日に、赤の他人にくれてやった息子だよ、三十五年前の話だ』元気で生きていれば茜沢と同い年。人の記憶が風化するには十分な年月だ。困難な仕事になりそうな予感がした。」

と思った通り、捜索は袋小路に入ります。実は茜沢は、数年前に妻と子供を轢き逃げ事件で亡くし、その時の警察組織とのいざこざで彼は職を辞しています。

こういう小説の場合、主人公には深い傷があるのがお約束なのですが、感情過多に描いてしまうと、小説が安物になってしまいます。あくまでもストイックに描くことが鉄則です。人探しをしていくうちに、過去の忌まわしい事件とも関連があることがわかってきます。この辺りの物語の進め方も定石通りですが、登場人物がよく描かれているので、安心して読み進めます。

物語終盤、作家の出身校の立教大学で大活劇が描かれます。普通なら事件解決でチャンチャンなのですが、こここから更に物語が始まるのです。あえて言えば、重松清風な展開で「家族の絆」というテーマが浮上してきます。個人的には、ややオーバーラン気味に感じたのですが、亡くなった茜沢の父親の骨を散骨するシーンで、やはりこういう決着しかないと納得しました。

「寄せ波が膝を洗う深さまで踏み込んだ。水は冷たかった。ポリ容器の蓋を取り、引き波に合わせて骨灰を軽く一掴み撒いた。ほんの一瞬、波の上を漂って骨灰はすぐに沈んでいき、巻き上げられた砂と一緒になって沖合いへ運ばれていった。

また引き波を待って一掴み撒いた。永遠という時を刻む時計の振り子のように、渚は暖かやかなリズムで寄せと引きを繰り返し、やがて生きていた父の証のすべてが、海原の彼方へと呑み込まれていった。心の中に奇妙な温かい記憶だけが残った。」

ここに至って、いい物語に出会ったと思いました。

 

 

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1979年兵庫県生まれ、同志社大学文学部英文科卒業の作家松田青子は、劇団「ヨーロッパ企画」にスタッフ、俳優として参加します。恵文社一乗寺店でアルバイトをしていたときに、作家の福永信と知り合い、ブログに発表していた文章を福永に注目されて、同人誌に寄稿して、作家活動へ入っていきます。私は読んでいませんが、2013年発表の「スタッキング可能」で一躍注目されました。

彼女の小説に初めて接したのは、文芸雑誌に記載されていた短編で、タイトルも中身も忘れましたが、オフビートな、あるいは不思議な文体と物語の進行が心に焼き付きました。その後の超短編集「ワイルドフラワーの見えない一年」(河出書房新社/古書950円)は、これ小説??みたいなオンパレード。でも、面白いのです。

「You Are Not What You Eat」。横文字のタイトルなのですが、これ、主人公がひたすら吐きまくるだけのお話。「吐きはじめたのは、朝の四時頃のことだった。」で始まります。「わたしはさっさとつるつると光る白い便器に屈み込む。案の上、体の真ん中あたりからすぐに込みあげてくるものがある。はいはいとわたしは口を開けた。」

「はいはいとわたしは口を開けた。」なんてなかなか書けません。ここから、ひたすら吐くことを観察していき、「M&M」チョコレートらしきものが口から出てきます。「わたしはM&Mを食べた覚えがなかった」と主人公が不思議に思うあたりから、どんどん話が逸脱していきます。食事の前には読まない方がいいかもしれませんが、引き込まれますよ。

彼女の読書体験と映画体験を綴った「読めよ、さらば憂いなし」(河出書房新社/古書1350円)は、「痛快」な一冊です。訳知り顔のオヤジの書評集なんぞは読まなくてもいいですが、これは面白い。ワハハ、と笑ったり、そうだそうだと相づち打ってください。雑誌「フィガロ」で、「現代の女性にエールを送る3冊」として推薦しているのが、「ヒロインズ」、「説教したがる男たち」、「マリーアントワネットの日記」(これ吉川トリコのコミックです)ですから、この書評集で取り上げている本も推して知るべしです。

ちなみに彼女のペンネームですが、本人が松田聖子にあこがれていて、読者が「まつだ せいこ」と読み間違えたら面白いと考えたためと、Wikipediaに出ていました。

 

 ♫トーク&ライブ決定 7月13日(土)澤口たまみ(かたり)石澤由男(ベース)

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが決定。ゆったり、そして豊かな時間の流れた前回同様、今回も期待度大です。賢治の言葉とウッドベースの響きが心地よく胸に伝わってくること間違いなしです。

当店絵本人気No.1「ネコヅメのよる」(WAVE出版1512円)の著者、町田尚子さんの新作、「なまえのないねこ」(小峰書店1620円)入ってきました。

文は、竹下文子さんが書いています。主人公は、のらねこです。

「ぼくは ねこ。なまえのない ねこ。だれにも なまえを つけてもらったことが ない。 ちいさいときは ただの『こねこ』だった。 おおきくなってからは ただの『ねこ』だ。」

彼の周りの猫は、みんな名前を持っています。

本屋さんの猫は「げんた」という白黒のねこです。八百屋さんの猫は、どこがチビというぐらいの大猫(これ笑います)。町の多くのお店に猫がいるようです。お店ばかりか、お寺には「じゅげむ」という名前をつけてもらった猫までいます。

自分も何とかして名前が欲しい。そんなある日、雨宿りしていたベンチの下を小さな女の子が覗いて、「きみ、きれいな メロンいろの めを しているね」と声をかけられた彼は、気づきます。「そうだ。わかった。ほしかったのは、なまえじゃないんだ。」

じっと女の子を見上げる猫の横顔に、思わず泣いてしまいました。そうです。のらねこは、名前を呼んでくれる人が、愛してくれる人が欲しかったんです。町田さんの丁寧な絵に心を掴まれ、とっても幸せな気持ちになります。猫好きなあなた!必見です。

「ネコヅメのよる」も再入荷しました。ふてぶてしい猫が魅力的なこちらもお楽しみください。

 

 ♫トーク&ライブ決定 7月13日(土)澤口たまみ(かたり)石澤由男(ベース)

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが決定。ゆったり、そして豊かな時間の流れた前回同様、今回も期待度大です。賢治の言葉とウッドベースの響きが心地よく胸に伝わってくること間違いなしです。

 

 

京都dddギャラリーにて開催中(19日まで)の、矢萩多聞さんの「本の縁側展」に行ってきました。ご存知の方も多いと思いますが、矢萩さんは京都在住の本の装丁家です。展覧会では、2002年から2019年にかけてデザインした全装丁約500点がズラリと並び、どの本も手にとって中身を見ることができます。

彼は装丁家の自分の仕事をこう語っています。

「装丁とは、読者の目をひくためにあるわけでも、ありがたい芸術作品でもない。どんなに難しい学術書でも、紙やインキが、いくばくの居心地のよさをもたらしてくれる。どんなささやかな本でも、暗い時代の灯火になって、血の通う人間のあたたかさを照らしてくれる、どうかそういうものであってほしい、と祈るようにして、ぼくは本をつくってきた。」

作家に寄り添いながら、ある本は字体にこだわり、ある本は大胆なデザインで迫り、またある本では写真を見事に使い切って、読者に届けようとしていることが、実際に500冊もの本を手に取って触ると感じられます。

1999年の創業以来、人文系全般にわたる学術書を中心に出版活動してきた「春風社」で製作した本が多数ありました。私の勉強不足で、あまりこの出版社のことを知りませんでしたが、地味ながらいい本が並んでいました。何点か当店でも置きたいと思い、今古書で探しています。最近は、ミシマ社と組んだものも多く、昨年出版された「奇跡の本屋をつくりたい」(1620円)も矢萩さんの装丁でした。

ところで、矢萩さんといえば、インドのタラブックスを紹介した人物としても有名です。ミシマ社からは「たもんのインドだもん」(1080円)も出ています。80数ページのインド紹介の本ですが、笑って、泣けてくる本です。この中で、音楽について、そうそうと同じ思いをもった文章があります。

「ぼくは音楽そのものよりも、音楽のまわりを取り囲む空間や人々が好きだった。そういう体験を通して音楽に触れてきたんだ、とそのときはじめて気がついた。パソコンや携帯端末からあらゆる国の音楽が簡単に取り出せても、そこにいたるまでの物語がない。それはずいぶん貧しい世界のように思えた。」

6月25日から〜8月18日まで細身美術館で「世界を変える美しい本 タラブックスの挑戦」という展覧会が始まります。まだ、タラブックスのことを知らない方は、ぜひ見に行ってください。手作り本の持っている深い味わいに感動されると思います。私も今から楽しみにしています。

 

★「世界ひとめぐり旅路録」展開催中の小幡明さんが、明日14日(金)19時半より、FMひらかたパーソナリティー久保有美さんと一緒に「小幡明の旅の話アレコレ」と題したトークショーを当店にて開催します。(参加費1000円/要予約)

 

1994年北斗出版から「森は海の恋人」が出版されました。著者の畠山 重篤は、1943年上海生まれ。戦後、父親の実家のある宮城県気仙沼で牡蠣、帆立の養殖に従事していました。汚水の垂れ流し等で海の汚染が始まった時、上流山間部の森林が果たす役割に着目し、気仙沼湾に注ぐ大川上流の室根山へ植樹を開始します。その経緯を書いたのが「森は海の恋人」でした。

今年、”牡蠣爺さん"こと畠山さんへの聞き語りで、「牡蠣の森と生きる」(中央公論社/古書950円)が出版されました。三キロもある大ダコを素手で捕まえていた幼年時代、父親が始めた牡蠣の養殖を手伝い出した若い頃、チリ地震で発生した津波で大打撃を受けたこと、帆立養殖に挑戦し、何度も失敗しながら、軌道に乗せて暮らしが楽になってきた日々、そして高度成長時代、三陸の海に異変が起こるまでが前半です。

東京オリンピックで日本が沸き立っていた頃、先ずノリの養殖に異変が起き、続けて牡蠣が思うように育たなくなります。海の汚染です。企業活動による排水や生活排水の汚れなどが、海を河川を汚していきます。そんな時、森の豊かな場所に魚が集まることを科学的に立証した北大の松永勝彦教授に出会います。

植物プランクトンが海藻や海中の窒素やリン等の栄養分を吸収するのを助けるのが、鉄分です。広葉樹が秋に落葉し、腐植土になる時に出来るフルボ酸は、地中の鉄と結合し、フルボ酸鉄となり、川を経由して海に流れ込んできます。鉄分を海に運んでいたのは、森で生まれたフルボ酸だったのです。

畠山さんは、早速仲間たちと植林運動を立ち上げ、森を豊かにしていきます。そのことが、長い目で見れば、海を豊かにするのです。

「森と川、海がつながり、鉄が供給されれば美しいふるさとはよみがえる。それがわたしの信念です」

畠山さんは、本業の傍ら植林作業を行い、地元の小学生の海辺の体験学習へと、活動のエリアを広げていきます。全て、順調と思っていた矢先、再び津波がこの地を襲います。東日本大震災です。その破壊の凄まじさが語られます。老人ホームに入所していた母親を失い、何もかもが流され、もうダメだと思ったある日のこと、「魚がいる!」と孫たちが叫びます。さらに、湾を調査した京大の田中克先生は、こんな言葉を伝えます。

「津波では、干潟を埋め立てた場所での被害は大きいですが、川や森の被害はほとんどありません。海が、津波で撹拌されて養分が海底から浮上してきたところに、森の養分が川を通して安定的に供給されています。畠山さん、”森は海の恋人”は真実です」

牡蠣を守り、海と山を守ってきた畠山さんの半生が、よくわかる聞き語りです。