2012年12月、出町柳商店街を特集した「気になる京都1号」が発売されました。

当初、こちらの感覚ではそんなには売れないかもなぁ〜、とちょっと思ったりしてました。が、そんな杞憂など吹き飛ばす売行きで、15年には三条商店街を特集した2号を出版、翌16年にはパン屋さん特集の3号が出ました。どの号も未だ売れ続け、ミニプレス平台の一等席を占拠し続けています。

そして最新号はカフェのモーニング特集です。

「近所のおじちゃんは今日もあの席に座っている。トーストを食べ終えて、週刊誌を読みながら珈琲を飲んでいる。そんな喫茶店の『モーニング』風景。」

この本を一人で編集した太貫まひろさんは、市内のカフェを週末の楽しみに回りました。掲載されているどの店のモーニングも、実に美味しそうです。

レティシア書房のご近所さん「COFFEEポケット」は、通る度に気になっていました。雑穀パンを使用したサンドウィッチは、すぐにでも噛りつきたくなります。また、あっという間に無くなる「Cafe廻廊」のモーニング。太貫さんは「ほどなく運ばれてきたトーストは、宝石のように美しかった。」と表現されています。だいたいトーストと珈琲という献立ですが、それぞれ個性的です。

太貫さんは、さらに足を伸ばし、モーニング発祥の地と言われる愛知県一宮市に出向きます。一宮商工会議所が中心となって作成したモーニングマップを手にして、向かったお店は「グリーンカフェ」。ドリンク代のみで、モーニングサービスが6種類も用意されているのだとか。彼女が選んだのはサラダセット。「ホットコーヒーだけの値段で何が出てきたかと言えば、サラダ、コーンスープ、ゆでたまご、ポテトサラダ、オレンジ、クロワッサン!ここまでサービスして頂けるとは・・・。さすが発祥の地、これはまごうかたなき『文化』である。」と大満足だったみたいです。

約101件のモーニング情報が掲載された「おさんぽMAP」も付いていますので、この地図を参考にしながらモーニング巡りはいかがでしょうか。

ところで、この号の最終ページに紹介されている喫茶店は、店の名前、場所はシークレットになっています。フットボールが好きな店主が、このスポーツに因んだ名前を付けたとか。美味しそうなサンドウィッチが目を引きます。さて、どこの店なのでしょうか?

「気になる京都」1〜3号は864円、4号は950円です。

 

いまがわゆいさんは、岡山県在住のイラストレーター。

昼間は書店員、夜は絵を描く仕事という二足の草鞋をはいています。ミニプレスを手づくりしているので、三足かな。

2年前大阪のイベント出店の際に京都へ寄り、「ドーナツの穴」というミニプレスを持ちこんで来られました。例によって、店長即決で店に置く事になりましたが、可愛い女の子のイラストエッセイは完売。その後「ドーナツの穴2」「おきらく書店員のまいにち」「本づくりワークショップ」「おえかきどうぐのはなし」など次々ヒット作を出されてきました。固定ファンも多く、その丁寧な仕事でさらに広く読者層を開拓中です。初めての方もこの機会にぜひ手に取ってみてください。ただいまのところ、京都で、いまがわさんの本を販売しているのはうちだけだと思います。

今回、いまがわさんの地元以外で初めての原画展には、遠くからもファンがご来店。初日、展示した直後から本やお菓子の話で大いに盛り上がっていました。驚いたのは、原画と印刷されたものが同サイズだったこと。ものすごく細かい字と絵が原寸サイズ。ご本人曰く「私、大きな絵が描けないんです。」修正液の跡の一つもなく、切り貼りもない原画は気持ちよく、好きな仕事をコツコツ仕上げている姿を想像して、なんだかこちらが嬉しくなりました。今まで出版されたミニプレスのバックナンバーを揃え、トートバッグ、缶バッチ、ポストカード、ブックマーク、コインケースなど雑貨もいっぱい並べてもらいました。レティシア書房は、いつになくお花畑のような可愛い雰囲気にあふれています。ちなみに、個展のためのフリーペーパーには、京都初個展のいきさつが楽しく書かれています。

でも可愛いだけでなく、例えば「おきらく書店員のまいにち」は、本屋さんの裏側や書店員の素顔を、本への愛情をたっぷりこめて描いていて読み応えあります。好きなものがあるって、幸せなことだな〜ってこの展覧会をみていて改めて思いました。好きな事を続けるパワーが眩しい!こちらも夏バテしてる場合じゃありませんね。(女房)

★「いまがわゆいのイラストエッセイ展」は8月28日(火)〜9月2日(日)まで

その後作品を入れ替えて「いまがわゆい・すずきみさき2人展 おかしなうさぎ展」は9月4日(火)〜9日(日)まで

 

 

 

5歳になる雑種犬を、動物保護団体ARK(アニマルレフュージ関西)から連れて帰ってきたのは、今から12年前のこと。「マロンの散歩道」と題して、この犬の事は時々ブログでも書いて来ました。今日は最終回。そうです、昨日の朝、彼女は安らかに旅立ちました。17歳。よく頑張りました。

この夏の初め頃から、後ろ足が弱ってきてはいました。しかし、なにしろ散歩が大好きで、朝早く、近くにある京都御所まで行くと、顔なじみのワンコ達に挨拶したり、おやつを下さるFさんを目がけて一目散に走るのが日課でした。このところは、もはや速く駆けることはできませんでしたが、それでもおやつ目当てにタッタと顔を上げて。そんなマロンが1ヶ月程前から、帰り道はもう歩けなくて、連れ合いがバギーを押して迎えに来て、乗って帰るようになりました。(バギーも、有り難い事にワンコ友だちのご紹介で借りることができました。)亡くなる1日前だけ寝込んで、夜はちょっと苦しげな声で鳴いていましたが、獣医さんから頂いた痛み止めを飲んで、我々が撫でてやると眠り、次の日の朝、大きな息を3回したと思ったらそのまま逝きました。

我が家に来た時は、連れ合いは新刊書店の店長でした。いろんな事があって会社を辞めようと決心した時も、犬との散歩中だったそう。レティシア書房を開店した当時、天気の良い日は店の前に出て、愛想を振りまくわけでもなく昼寝を楽しんでましたが、多くのお客様に可愛がってもらっていました。しんどい時も嬉しい時も、いつも傍にいてくれました。

ギャラリーで個展をされていた写真家さんに、犬猫カレンダーのモデル犬として使ってもらったことも良い思い出になりました。カレンダー買い占めて、配りまくりましたっけ。

「マロンが待っているから」と言って、夕方帰宅を急ぐこともなくなります。手に入れた少しの開放感は、しかし、「お帰り。散歩待っていたよ。」とまっすぐこちらをみてくれる瞳や、抱きしめた時の匂いや体温の喪失感には敵いません。「生きて行く限り、何かを失い続ける」と、朝ドラのセリフにありました。別れは確かに哀しいですが、優しい犬との出会いは一生の宝と思うことにします。マロンを可愛がって下さったお客様に、この場を借りてお礼申し上げます。皆様、厳しい夏もあと少し。乗り切ってまいりましょう。(女房)

 

 

ARKの写真展は9月12日(水)〜23日(日)当ギャラリーで開催 します。

 

 

 

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2017年度ベルリン映画祭金熊賞を受賞したイルディコー・エニェディ監督作品「心と体と」(京都シネマにて上映中)は不思議な、でも奥深い映画でした。この映画の描写に三つの優れた点があります。

1. 野性の鹿の撮影が見事。

2.屠殺現場のリアルな毎日が描かれている。

3.人間は浴槽で手首を切って自殺をはかっても、そう簡単には死ねない。

はぁ〜?どんな映画なんや、それは?と頭を傾げたくなるでしょうが、実は、究極の“Boy meets Girl”映画です。

ブダペスト郊外の食肉処理場。代理職員として働くマーリアはコミュニケーションが苦手で職場になじめない女性です。彼女の上司のエンドレは何かと彼女を気にかけるのですが、上手くコミュニケーションが取れません。しかし、ひょんな事からマーリアとエンドレが同じ夢を共有していたことが明らかになります。。その夢はなんと、二人は野性の鹿として出会い、共に行動していたのです。

映画は、無味乾燥とした日常の合間に、その夢に出て来る鹿のショットを挟みこみながら進行していきます。奇妙な一致に驚き、二人は、夢の話をきっかけに急接近していきます。マーリアは戸惑いながらもエンドレに強く惹かれていきますが、彼からのアプローチにうまく応えられず二人はすれ違ってしまう。夢の中では仲の良い鹿のカップルなのですが、現実世界ではなかなか、一筋縄には進みません。

男と女が惹かれ合ってゆくプロセスを、静謐な室内風景と、躍動感溢れた鹿の動きに象徴させながら描き出しています。こんな二人の恋模様の結末がどうなるのか….。ラストショットはお見事!でした。

★当店ロングセラー「気になる京都」第4巻販売開始しました。今回の特集はカフェのモーニング特集です。(950円)

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レティシア書房の夏の古本市も、後数時間で終了です。ご来店いただいたお客様、出品していただいた方々、本当にありがとうございました。最終日、最後の本のご紹介です。

インドの人々が、ガンジス河に骨を流し、その同じ河で平気で沐浴するのが、日本人には理解しがたい部分があります。しかし、古代から、この河には不思議な神話が存在していました。それを絵本化したのが「天からおりてきた河」(1000円/出品 居留守文庫)です。ネイティブアメリカンの文化を絵本にした「父は空 母は大地」の作者、寮美千子が文章を書き、イラストレーターの山田博之が絵を担当しました。とんでもないスケールの物語が展開するのですが、なるほど、この河はインドの人々にとっては特別の存在なのですね。

 

昨今のコーヒーブームで、色々な本が出版されています。しかし、「缶コーヒー」のみを対象にした山崎幹夫「缶コーヒー風景論」(1000円/出品 榊翠簾堂)は珍しいかもしれません。1969年の発売以降、各メーカーが手を変え品を変え生き残りの営業バトルを繰り広げてきた、缶コーヒー業界の変遷を20年にわたって集めた缶コーヒーの空き缶をもとに検証したユニークな本です。缶コーヒーのパッケージの移り変わりから、自動販売機だらけの現代社会の日常まで見据えています。でも、この表紙はなんだかね……..。

 

最近、「本屋な日々青春編」(トランスビュー1944円)という力作を刊行した石橋毅史が、数年前に発表した「『本屋』は死なない」(500円出品/ ヒトノホン)は、新刊書店業界の厳しい環境の中で、真っ当な書店を持続させようとしている全国の書店員、店主たちへのインタビューを通じて、本屋の未来を探ったルポルタージュです。新刊書店にいた私には、この業界の明るくない未来は熟知していますが、それでもなお、それに抗おうとする書店員たちの言葉は重くつき刺さってきます。この業界のため、お前は何かやったのかと。レティシア書房で、新刊業界で出来なかったことをやっているつもりですが……..。

古本、新刊本とその流通形態は違えども、本好きならば、この業界でがんばっている人達の姿を見ておいて損はないと思います。

★夏休みのお知らせ  8月20日(月)〜24日(金)休業いたします。

★ 「気になる京都」4号ついに発売!8月28日から販売開始いたします。4号の特集は「カフェのモーニング」です。

 

 

 

古本市も明日までになりました。連日猛暑にも関わらず、多くのお客様にお越しいただきありがとうございます。まだまだ、いい本が眠っていますよ!

安西水丸「メランコリーララバイ」(1500円/出品 とほん)。著者が亡くなってから大半が絶版になって、価格が上がったまま下がる気配のない安西の、60年代の青春の光と影を描いた自伝的小説です。この価格はお買い得!

アラン・シリトーの原作を映画化した「長距離ランナーの孤独』を観た後、新宿の老舗ジャズ喫茶DIGに入る主人公。「店内は暗く、くすんだ壁はコーヒー色に近い。壁にパネル貼りされているジャズ・プレイヤーの写真も煙草の脂にくすんでいる」という場面など、著者の青春時代の体験だったのでしょう。個人的には「朝陽のさし込む部屋で、ぼくはベン・シャーンを開いていた。草原に寝そべる失業者や、レンガの壁に向かってハンドボールに興じる男たちがいる。ベン・シャーンの描く風景はどこかもの哀しい」というフレーズにグッときた覚えがあります。

 

 

「雨の動物園」等でお馴染みの船崎克彦が文章と絵を描いた「いぬねこはかせ」(900円/出品 徒然舎)は、京都市内にあったサンリード社から出た絵本です。もちろん絶版。奇妙な味わいがあります。具合の悪くなった飼い犬イザを病院に連れていった少年は、病院に置いて来たイザを取りにいきます。すると、驚いたことにイザは、顔だけは犬で白衣を着た医者になっていて、ここから奇妙な物語が始まります。シュールな展開ですが、なんとも言いがたい魅力にあふれた一冊です。

 

20世紀のアメリカ美術界を代表する画家ジョージア・オキーフが、晩年を過ごした二つの、自然で虚飾の一切ない家を撮影した写真集「オキーフの家」(2500円/出品 葉月と友だち文庫)。写真集の依頼を断り続けたオキーフでしたが、ニューメキシコにある二つの家の撮影をマイロン・ウッドに許可します。ウッドは数年かけて膨大な写真を撮ります。厳選された写真には、物質的栄華を拒み、シンプルに生きたオキーフの魂が宿っています。写真と共に、クリスティン・テイラー・ハッチンのエッセイが添えられています。彼女は、身体が衰えてきた

最晩年のオキーフと共に暮らし、身の回りの世話をした女性で、絵描きでもあります。翻訳を担当した江國香織は、ハッチンの文章を「独特のとっつきにくさに怯まず読み進むうちに、はっとするほど美しい瞬間があちこちに立ち現れる」と書いています。がっつりした文章も、お楽しみください。

 

★古書市は19日(日)まで。月曜定休。最終日は18時で閉店します。

★夏休みのお知らせ  8月20日(月)〜24日(金)休業いたします。

いよいよ、真夏の古本市も残り三日ですが、まだまだ面白い本があります。

今回は、文庫のご紹介です。

「ちくま文庫解説傑作集2」(400円/出品 ヒトノホン)は、タイトル通りちくま文庫についている解説で傑作とされているものを、ちくま文庫編集部が集めたものです。今村夏子「こちらあみ子」に町田康、高橋輝「誤植読本」」に堀江敏幸、高田渡「バーボン・ストリート。ブルース」にスズキコージ、鴨居羊子「わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい」に近代ナリコ、と、一癖も二癖もある人物が書いています。

その中でも、音楽家大槻ケンジが、やはり音楽家だった早川義夫が自分の経営していた本屋の顛末記を綴った「ぼくは本屋のおやじさん」に書いた解説は、特に面白いと思いました。「どんな仕事も楽じゃありません、でもね、どんな仕事にも良さがあるんです。だから、がんばりましょうよと教えてくれる本」だと書いて、最後をこう締めています。「二十四歳の時、僕がバンドをやめなかった理由の一つに、早川義夫著『ぼくは本屋のおやじさん』を読んで、『こりゃ大変だぁ、バンドの方がいいかも』と思ったから、ということがあったことを記しておきたい。」

ちくま文庫で何か面白い本をお探しなら、先ずこの解説本を読まれるのが近道です。

1943年29歳の若さでこの世を去った児童文学者、新美南吉の最晩年の作品「牛をつないだ椿の森」(400円/出品 とほん)の角川文庫本は、「ごんぎつね」「てぶくろを買いに」など代表作14編を収録しています。代表作「ごんぎつね」では、初版本に使用されていた谷中安規の版画が収録されています。このブログを書くために新美の事を調べていたら、彼は早くから宮沢賢治の作品を読み、高く評価していたそうです。賢治没後の昭和9年に開かれた「宮沢賢治友の会」にも出席していることもわかりました。まだ彼が学生だったころに、賢治は死亡しているので、二人が会ってはいないのが残念です。

一時、恐ろしい高値を付けていたサンリオ文庫から一冊出ています。ロジェ・カイヨワ「妖精物語からSFへ」(1000円/出品 はやね堂)です。シュルレアリズム運動から独自の思考を構築し、神秘的な存在への明晰な解析を行ってきたカイヨワは、SFの起源を、中世の妖精物語に求めます。そこから、怪奇小説を経由して、近代のSFヘとつながる系譜を論じていきます。解説を荒俣宏が書いています。こちらから読まれて、本編に進んでもいいと思います。

 

 

 

 

★古書市は19日(日)まで。月曜定休。なお最終日は18時で閉店します。

★夏休みのお知らせ  8月20日(月)〜24日(金)休業いたします。

 

 

 

 

昨日は、そう言えば敗戦記念日でした。TVの報道を見ていたら、戦没者への天皇の言葉には、先の大戦への加害者としての反省が通低音として存在するのに、この国の首相には、加害者としての意識まるでないノーテンキさでした。

今回の古本市にも、戦争を考えるユニークな本が出品されています。五十嵐太郎著「戦争と建築」(800円/出品 古書柳)です。ルネサンス時代の要塞都市のデザインに始まり、震災と空襲を受けて変貌した東京、昨今の街頭監視カメラに象徴される防犯システム、そして9・11以降、大都市を標的にされるテロと戦争の中で、建築がどう変貌してゆくかを論じた一冊です。

震災と戦災にあった東京では、バラックで作られた小屋、住宅が数多く見られました。これらは建築家の評価は低くても、経済的で機能的な建物で、1990年代増加した段ボールハウスはそんなバラック同様、廃棄されたものをリサイクルして作られたものとして興味深い。「サバイバルのための東京リサイクル」論の最後では、メディアのゴミ屋敷報道を、病理現象としてのゴミ屋敷論として反社会性を糾弾していることについて、こう警告しています。

「現代の繁栄に酔いしれ、廃墟の記憶や醜い現実から目をそらすために、『健全な』市民社会はバラック的なるものに敵意を抱くのだろうか。メディアはゴミ屋敷の浄化をエンターテイメント番組に仕立てあげる」

さて話変わって、天本英世という人をご存知でしょうか。SF、戦争、犯罪等々東宝映画に片っ端から出演し、その怪演ぶりで観客を驚かせた俳優です。私は、岡本喜八監督「日本の一番長い日」で、天皇の玉音放送阻止を叫ぶ軍人の狂信的行動や、映画「マタンゴ」の、顔がぐちゃぐちゃになった化け物が特に印象に残っています。しかし一方で、彼はロルカの詩を日本語とスペイン語で朗読できる唯一の俳優であり、スペイン文化、とりわけフラメンコに造詣の深い人でした。また、スペインの民族音楽のレコードのコレクターでもありました。

1980年「スペイン巡礼」が話の特集社から発売され、これが大ヒットになります。その後、この本を補遺する目的で書かれたのが「スペイン回想」(500円/出品 テルミヌス)です。「『スペイン巡礼』では書ききれない事どもも又多過ぎた。従って『スペイン巡礼』を補うという意味での、今度はエッセイとも言うべき二冊目の本」という位置づけで執筆した、と書いています。スペイン中を歩き回った彼の、この国への愛情あふれる旅の本です。

 

もう一点、角川文庫版の小林信彦「冬の神話」(1800円/出品 楽無駄書店)をご紹介します。これ、表紙の絵が金子國義なんですね。なので値段が高い!昭和12年集団疎開をさせられた60人程の小学生。疎開先で彼らが経験する飢え、暴力、背信、リンチといった暴力の連鎖。生存することにのみあけくれる壮絶な日々。疎開派世代の小林だからこそ、悪夢のような体験を描ける傑作です。戦争を郷愁なんかで描けるか、という作家の思いがこもっています。

 

 

 

★古書市は19日(日)まで。月曜定休。なお最終日は18時で閉店します。

★夏休みのお知らせ  8月20日(月)〜24日(金)休業いたします。


吉野朔実のコミック「本を読む兄、読まぬ兄」(1800円著者サイン入/出品 葉月と友だち文庫)は、本好きにはたまらん一冊です。各章、毎回テーマが決まっています。「他人の本棚」では、主人公の青年が、雑誌などに載っている「他人の本棚」は、結局「他人に見せたい本棚」なのだと、つぶやきます。

「自分が人に見せるなら見栄を張ってミルハウザーとかオースターとか堀江さんとか並べちゃうかな でもそれじゃ芸が無いよな、きれいすぎる」と。で、堀江敏幸の「雪沼とその周辺」、ポール・オースターの「トゥルー・ストーリーズ」、S・ミルハウザーの「マーティン・ドレスラーの夢」が紹介されています。成る程ね〜こんな本を並べておくと、いかにも趣味のいい読書家に見えるのかもしれません。こんな風に、毎回そのテーマに沿った本が並ぶのですが、書評集ではありません。あくまで、ノホホンとした主人公の日々の暮らしの中にある本のお話です。限定本の老舗出版社、京都の湯川書房のことも、マニアックにならずにサラリと紹介しています。

 

心がつらい時、ポジティブな言葉は、ほんとうに人を励ますのでしょうか。その気持ちに寄り添うネガティブな言葉にこそ、反応するのではないでしょうか。「絶望名人カフカの人生論」(800円/出品 夜の遊歩者」は、あまりにもネガティブすぎて笑えてくる貴重な一冊です。カフカは、生前は作家として認められず、サラリーマンでした。しかも、その仕事が嫌で嫌でたまりませんでした。結婚もしたかったのに、生涯独身、身体虚弱、不眠症。家族との関係も最悪。書いた長編小説はすべて途中で行き詰まり、満足したことがなく、もう全部燃やして、と恨み言一杯の遺書を残してこの世を去りました。そういう大作家がこんな言葉を残しています。

「将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」

ここまでくると、いやぁ〜オレはまだここまでじゃないなと笑ってしまいます。誰よりも落ち込み、弱音を吐き続けた作家カフカには、妙に力があります。生きるのに疲れた時、疲労回復にお使いください。

★古書市は19日(日)まで。月曜定休。なお最終日は18時で閉店します。

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本日、最初にご紹介するのは、柳原良平「船キチの航跡」(2000円/出品 1003)です。平成元年、海事プレス社が一般向けの雑誌「クルーズ」を創刊しました。柳原は創刊号から、ずっとエッセイを連載。船旅の魅力や、立ち寄る港のこと、船のことなどを語ってきました。もちろんイラストも。釧路港に入港する「おりえんとびいなす」号、横浜港大桟橋に佇む「クィーンエリザベス2」など、旅愁を誘うイラストを楽しみながら、柳原の船旅エッセイを楽しむ贅沢!「揺れている時には甲板で風に吹かれながらホロ酔い気分でいるのが一番である」と、彼は船旅でお酒を大いに楽しみます。横浜港ベイブリッジを通過するクリスタル・ハーモニー号を描いた作品の背後に広がる青空を見ていると、きっと酒も上手いことでしょう。

圧倒的パワーで、いやぁ~カッコいいなぁ〜と感動させてくれる写真集が出ています。アリ・セス・コーエン著「Advanced Style」(1200円/出品 榊翠簾堂)がそれです。登場するのは、60〜100歳代のアメリカNYに生きる女性たちです。「ここに出てくる女性たちは、社会が描く『年をとった女性』というイメージにひるまない。彼女たちは皆、若々しい心とスピリットを持っており、個々のスタイルと創造力で自己表現している」と著者が書いているとおり、世間の常識などどこ吹く風、自分の好きな服を堂々と着て街を闊歩しています。ど派手な色彩の服も、歳を重ねた女性が自信をもって着ると、ゴージャスで美しい。「ファッションはその人を物語るもの」と井川遥が推薦文を書いていますが、着るもの、身につけるものは、その人を丸ごと表現しています。元気の出る一冊です。

世界は広い!と思わせた一冊が、中村吉広「チベット語になった『坊ちゃん』」(900円/出品 マヤルカ書房)です。中国、青海省の小さな町にある学校で、偶然にチベットの学生に日本語を教えることになった日本人教師が経験した物語です。チベット語と日本語の文法が似ていることに着目した教師は、なんと夏目漱石の「坊ちゃん」を翻訳の授業で取上げます。その過程で巻き起こる様々な事件を通して、この教師と学生との交流が綴られていきます。

著者は「チベット人に日本語を教えるという行為は、上から施す援助活動などではなく、正に、『教えることは学ぶこと』を実感する体験となって、教える側の日本人に日本と日本語の再考と反省を迫るものとなる」とこの体験を振り返っています。チベット語の事を語りながら、日本語の本質を見つめた本なのです。

★古書市は19日(日)まで。月曜定休。なお最終日は18時で閉店します。

               ★夏休みのお知らせ  8月20日(月)〜24日(金)休業いたします。