生物学者の福岡伸一著「ナチュラリスト」(新潮社/古書950円)は、彼が生命の本質を知るための長い学問的旅路で知った、ナチュラリストたちの「ひたむきさと好奇心を知ってもらいたい」という思いを本にしたものです。

「ナチュラリストであることは喜びです。世界の美しさと精妙さに気づくことは、心を豊かにしてくれます。そして何かを学ぶことは自分を自由にしてくれます」

先ず彼が紹介するのはドリトル先生です。動物と自由に話せるドリトル先生の持っている「好ましさの本質」を福岡ハカセはこう分析しています。

「ドリトル先生は、すべてのことに公平な人でした。最初の最初からフェアであり、フェアでありつづけた人でした。この『公平』こそが博物学の基本かもしれません。つまり、他の生物を人間の視点から有用、無用というふうにわけへだてしません。生きとし生けるもの公平に扱うのです。」

初めて自然の美しさ、巧妙さ、大きさに触れた時の、はっとする喜びは謙虚です。しかし、成長すると共に、自分の思考を整理し、制度化していき、最初のピュアな気持ちは抑えられていきます。ドリトル先生は、大人になってもそんな気持ちを忘れずに、全てをフェアに見つめる人物なのです。

「生物学者は、新種を見つけ出すことを、『新種を発見する』とは言わない。新種を『書く』と言う。新種を見つけることは、新種を書くこと。見つけ、名づけ、みつめること。」であり、名づけるという行為を通して、言葉が世界と結びつけられ、世界はひとつひとつ記述されていきます。ところが、ドリトル先生は違うのです。名付けて、見つめるのではなく、その相手の語る言葉に耳を澄まして、彼らの言葉を吸い上げてきたのです、それがドリトル先生の物語なのです。

ドリトル先生の物語をきっかけにして、ナチュラリストとは何かというテーマへと向かい、福岡ハカセが、あ、この人ナチュラリストだ!と思った方がどんどん登場してきます。その語り口は、穏やかで、相手へのリスペクトに満ちたものです。もちろん専門的な話も出てきますが、素直に理解できます。そして、最後で福岡ハカセは驚くべき発言をします。

「そろそろ私は分子生物学者をやめるときかもしれない。そして、私がほんとうに好きだったはずの生物学者にもどるときがきたのかもしれないと感じた。いまからでも本来のナチュラリストに戻ることができるだろうか。」

なんと研究室をたたみ、学生を送り出し、全く違う学部へと移っていきました。この本、実は福岡ハカセの人生の一大転換点を捉えた読み物なのでした。面白い!

 

 

 

 

 

 

 

これは、今の時代ならではの青春映画です。

主人公は父親を亡くした少年ユリシーズ。少年なんだけれども、心は女性。いわゆるトランス・ジェンダーです。ユリシーズは学校では、オカマ野郎といじめられ、小さな弟には、母のハイヒールを履いているところを見られてしまい、兄弟の関係もギクシャクしています。父を亡くした母子を心配して、母親が働いている間自宅に来て世話をしてくれている伯母は、厳格なキリスト教徒で、男の子が女性になるなんてぜったい許せません。

周りの差別的な視線に耐えられなくなったユリシーズは、ストリートで出会ったトランスジェンダーのグループに「土曜の夜の教会」へと誘われます。そこは静かな昼間の教会とは異なり、ダンスや音楽を楽しみながら、同じ境遇の仲間と語らう場として開放されていたのです。ユリシーズは、その自由な雰囲気に夢中になり、少しずつ自分を解放してゆく姿がミュージカルタッチで描かれています。

自分はこのままでいいんだと自信をもてるようになり、街中でダンスの練習をしたり、いつも逃げていたいじっめ子には、振り返って投げキスを送るほど変わって行きます。音楽といい、振り付けといい、ここは感動的なシーンです。

しかし、相変わらず伯母との関係は最悪で、ついに家を飛び出してしまいます。その先に待っているものは………。

長編映画初監督のディモン・カーダシスは、LGBT支援プログラムの「サタデー・チャーチ」でのボランティア活動をもとに脚本を作り上げ、トランスジェンダーの俳優たちを起用して、一人の若者が、自分を肯定して生きて行く姿を描いていきます。ラスト、憧れのハイヒールを履き、ドレスに身を包んで舞台に立つユリシーズは、自信と誇りに満ちています。母親が、一度きりの人生だから好きに生きなさい、と抱きしめて認めてくれたことが、きっとなによりユリシーズの支えになっているにちがいありません。

因みに、この作品「オースティング・レズビアン映画祭最優秀長編作品賞」、「サンフランシスコLGBT国際映画祭新人監督賞」、「シアトルレズビアン&ゲイ映画祭観客賞」、「カレイドスコープLGBT映画祭最優秀US長編作品賞」などを受賞しています。こんなにも多くのゲイ&レズビアン映画祭があるんですね。でも、平日とはいえ映画館のお客さんは少なかったし、上映期間は短いかもしれません。お早めに!

 

 

 

 

インドの小さな出版社タラブックスについて書かれた「タラブックス」(玄光社/古書1700円)。タラブックスの出す手作り感一杯の絵本は、何度読み返しても、飽きてのこない本です。この出版社がどんなポリシーで本を出しているのか、今までに出版された本、タラブックスで働いている人びとのインタビューなど、さまざまな角度から魅力を探っています。

タラブックスは、1995年、独立系児童書専門出版社として、スタートしました。出版社を引っ張るのは二人の女性です。創設者のギータ・ヴォルフは、比較文学を学び、パートナーのV.ギータは、編集者であり、作家であり、また子どもの教育や女性問題などの社会問題に取り組んでいます。タラブックスが目指したのは、インドだからこそ生み出せる、インドの子どもたちに読ませたい、インドの子どもたちのための本です。

「六ヶ月かかります」

これは、内外からの注文に対するこの出版社の返事です。どれだけ長い時間がかかろうと、本の職人たちが自信を持って届けられるかが大切な事なのです。良い物は、時間がかかるのです。私たちは、何でもすぐに手に入る時代に生きています。常に新しいものを提供され、洪水のような商品とサービスに慣らされています。

「大量生産と大量消費と大量破壊は繰り返される。目新しいものに飛びつく一方で、私たちは成長を強いられる資本主義経済にうんざりし始めている。いつまで大きくなりつづけなければいけないの、と。」

タラブックスの考え方は、こういう時代へのアンチテーゼでもあります。そして、タラブックスは、少数民族、インド社会から見捨てられた弱者も積極的に会社に迎え入れ、働く場所を提供しています。本に携わる人たちが豊かに暮らせる会社を目指しています。

ギータ・ヴォルフとV.ギータのインタビューが掲載されていますが、その中で、ギータが、会社を大きくすることに意味がなく、小さい規模で全てのメンバーと共同作業をしてゆく重要性に触れながら、こう述べています。

「本(仕事)の質を保ちながら、私たち同士の良い関係性を保ち、働いている人たちとその仕事の関係性を保つためには、比較的ちいさくあるということが大切」

出版社の紹介から、仕事のあり方、社会の在り方までに言及していきます。

巻末に、この出版社が出した書籍が、カラー写真で紹介されています。まだタラブックスのことをご存知ではない方は、このリストをご覧ください。なお、6月25日から、京都細見美術館で「世界を変える美しい本 タラブックスの挑戦」展が始まります。これは、行かねばなりません。

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アメリカ合衆国は、我々に最も身近な国です。数えきれないぐらいのアメリカ映画を観たし、アメリカ文学も読んできたし、耳が痛くなるほどロックやジャズ、ソウルにラップを聴いてきたし、実際に一年ほど住んでいたこともありました。この国のことは、少しは知っているつもりでいました。

しかし、リン・ディンの「アメリカ死にかけ物語」(河出書房/2200円古書)を読んで、本当の姿を何も知らなかったことがわかりました。これは、小説ではありません。著者が、2013年4月、ワイオミング州を皮切りに、アメリカ全土を歩き回り、2015年ペンシルバニア州で終わった旅の全てをまとめたノンフィクションです。ホームレス、薬物中毒、ビジネスに失敗した男、DV男、アル中、退役軍人、路上ギャング等々のオールスター物語です。著者は、彼らに「あんまり美味くないビール」を奢って、彼らの物語を聴いていきます。どこもかしこも荒廃した都市の片隅で生きる、名も無い人々の声を拾い集めた、ある種の路上文学でもあります。

社会学者の岸政彦が「リン・ディンの文章を読むと、猛烈に酒が飲みたくなる。一杯オゴるから、今度は俺の話も聞いてくれ。この国も、もうダメかもしれないから。」という文章を寄せていますが、確かに強い酒が要ります。

「人間が実にさまざまな方法で死ぬように、場所も数えきれない方法で滅びていく。死んだ人間とは異なり、破綻した都市や国はたいてい完全に消滅しまうことはなく、影やゾンビとなっていつまでも残り続けるか、完全に違う場所になる。アメリカの都市の大半は、ゾンビになった。そして今やアメリカ自体が罵り言葉をはき、ふらつきながら拳を振り上げるゾンビとなり、何億兆ドルもする巡航ミサイルが腐敗して膨張した死体にくくりつけられている。」

と、旅の終わりに著者は総括しています。けれでも、ではこの本がそんな「死にたい」のアメリカの現実のリポートだけなのかと問われれば、いやそうではありません。

「私たちは生きている」

誰にも認められることなく消えてゆく人生だとしても、今、ここを生きているという人々の声なき声を、丹念に集めています。希望はないのかもしれません、でも生きているという強い意志がこの本には満ちているのです。やりきれない気分をごまかすために、強い酒を欲するのと同時に、多くの名もなき人々に一杯奢りたくなるのです。

蛇足ながら、先ほどの岸政彦著「断片的なものの社会学」(朝日出版社/古書1300円)もいい本です。

アメリカ西海岸の映画人のお祭り騒ぎとは言え、アカデミー賞は映画ファンなら気になるところです。今年の主演女優賞候補に、グレン・クローズがノミネートされていました。過去、何回もノミネートされているにも関わらず、オスカーを手にしていません。メリル・ストリープに匹敵するぐらいの演技派女優なのに、です……。

ビョルン・ルンゲ監督作品「天才作家の妻40年目の真実」は、彼女なくしては成り立たない作品でした。現代文学の作家ジョゼフと妻ジョーン(グレン・クローズ)のもとに、ノーベル文学賞受賞の吉報が届きます。ふたりは授賞式が行われるストックホルムを訪れますが、ジョゼフの経歴に疑惑を持ち、その秘密を暴こうとする記者ナサニエルがストックホルムまでやって来て、何かと絡んできます。

映画は、授賞式へ向かう夫婦の姿を捉えながら、過去へと戻ります。若き日、文学的才能が豊かだったジョーンですが、作家になる夢を諦め、ジョゼフとの結婚後、彼の影武者となって夫の文学的成功を支えて来ました。しかし、度重なる夫の浮気癖にうんざりして、心の奥底に押殺していた夫への不満や怒りが噴き出し、夫婦の関係が崩壊へと向かいます。クライマックスの授賞式当日、さて、彼女はどんな行動を取るのか…….。

 

グレン・クローズは、「101匹わんちゃん」のリメイク映画「101」で、可愛い犬たちの敵役でど派手な悪女を演じ、肥溜めに落ちて笑わせてくれたりと、これまで硬軟色々な役柄を演じてきました。1984年、ロバート・レッドフォード主演の野球映画の傑作「ナチュラル」の清楚な恋人役から、数十年彼女をスクリーンで観て来ました。そして今72歳の彼女が見せてくれる女優の実力!

今回の映画では、様々な感情が交差するジョーンの内面をヒステリックになることなく、ちょっとした動作や、表情の変化で演じていきます。女優としてのキャリア、歩んできた人生の重みが、ずっしりと出ている傑作でした。これで賞を取らなければ、どういう選考してるんねん?と疑いたくなるほどです。25日の発表が楽しみです。

 

美味しそうな大きな苺。これ、やぎ〜ぬさんの「彫紙アート」の作品です。

彫紙?紙を彫る、とは聞き慣れませんが、つまり、何枚か色違いの紙を重ねて、束ね、下絵に則してアートナイフを使い、文字通り彫りぬいて作り上げます。束ねられた紙の枚数が多い程、複雑な色彩の作品ができる「彫紙アート」は、林敬三氏が考案した日本生まれの技法だということです。2013年、その林氏に師事し、「彫紙アートやぎ〜ぬ工房」としてイベントやワークショップなどで活動しているやぎ〜ぬさんの関西で初めての個展を本日より開催いたします。

彼女の作品の特徴は「食べ物」がテーマになっていること。マットな紙質から、食べ物の瑞々しさがどこまで表現できるかが腕の見せ所です。彼女曰く『シズル感』(食べ物が美味しそうな感じ)にこだわって作っています。今回は、春に初めての京都での展覧会ということで、「苺」の作品をいくつか並べて頂きました。題して「いちご・いちえ」。

一見するとポスターのようで、フラットな絵に見えるのですが、近寄ると何枚も重ねられた紙の厚みで、奥行きを感じます。独特の立体感で、3Dならぬ2.5Dアート。「ある日のパンケーキ」(写真右)は、56枚の重ねた紙を彫ってあります。横から撮った写真(左)でその厚みがわかっていただけるでしょうか?時間と根気のいる作業に違いないのだけれど、「パンケーキ」や、「チョココルネ」、「たいやき」、「苺パフェ」などを作品にしていくところがとても面白いと思いました。ゴージャスな花や、見るからに重厚な動物作品ではなく、なんか飄々としていて、鼻歌まじりに軽やかにステップしているようにみえます。

やぎ〜ぬさんの作品を初めて見たのは、東京の古書店「甘夏書店」さん主催の「本と遊ぶ・ブックカバーとしおり展」でした。チョココルネ好きの私が、つい購入したのが彼女の厚みのあるブックカバーでした。そのときも確か、他にはジャムパンかなにか美味しそうなものが彫られていましたっけ。個展では、紙で作ったイヤリング・ピアス(1200円)かんざし(4800円)なども並んでいます。素材が紙なので軽いですよ。

紙と食べ物をこよなく愛するやぎ〜ぬさんの「彫紙アート」をぜひこの機会にご覧頂きたいと思います。ただいま京都御所は梅満開。お散歩のついでにお立ち寄り下さいませ。(女房)

 

やぎ〜ぬ個展「紙を彫る?彫紙アート いちご・いちえ」展は2月21日(木)〜3月3日(日)

12時〜20時月曜日定休

 

 

 

 

「女子の古本市」本日最終日となりました。ご来店いただいた皆様、本当にありがとうございました。今からだと間に合わないかもしれませんが、最後まで素敵な本をご紹介します。

これは美しい!と目を見張ったのが。豊岡東江画による「花時」(1600円/出品・クロアゼイユ)です。豊岡東江は、明治10年生まれの画家で、狩野派の技術を身につけて、特に自然描写に優れていました。彼女が描いた植物写生画600種をオールカラーで収録しています。春夏秋冬別に分類されていて、それぞれに解説が付いています。我が国の植物がいかに豊かであるかを、再認識しました。

明治生まれの土門拳は、日本を代表する写真家であることは誰もが知っています。土門の写真の大きな流れに、リアリズム写真と、古寺巡礼写真があります。その二つの流れを交差させながら、土門写真の本質に迫っていったのが岡井耀毅「土門拳の格闘」(1100円/出品・半月舎)です。土門の写真を見ていると、彼とは正反対の演出写真を撮り続けていた植田正治をどう考えていたのかが気になるのですが、本書に「植田正治の演出写真を認めながらも、土門拳の本意は、ドキュメンタリーの本質としての真正リアリリズムを『日演出』のスナップ的手法においていることが看取され、はやくも『絶対日演出』を唱えた萌芽があらわれてきている」という、若き日の土門を捉えた文章に出会い、納得しました。

絶版になった名作絵本ジョン・バーニンガム著、谷川俊太郎訳の「コートニー」(1500円 /出品honeycombBooks)は、名作に相応しい絵本です。野犬収容所の収容されていたコートニーという犬が主人公です。。コートニーがある家族にもらわれて、その家で料理を作ったり、家事をしたりします。家火事が起こった時も、赤ちゃんをひょいと救い出すスーパー犬です。しかし、ある日ふと姿を消してしまいます。老犬だったので、おそらく死んでしまったのでしょう。この絵本、ここで終わりではありません。そのあと、この家族に起こった不思議な出来事!泣かせますね。

最後にご紹介するのは、本の中身ではありません。佐野繁次郎の装幀です。梶山季之「虹を掴む」(700円/出品・榊翠簾堂)、酒井博六「ピラミッド」(700円/出品・榊翠簾堂)。

✳️「女子の古本市」は本日18時で閉店いたします。なお、明日から20日(水)まで臨時休業いたします。

 

いよいよ古本市も明日まで(最終日は18時閉店)。連日、多くのお客様にご来店いただきありがとうございます。だんだん残り少なくなってきましたが、まだまだ面白いものがあります。

雑誌「ブルータス」がまとめて出品されています。(各100円/出品・AMANATOU)面白い特集のものばかりです。「泣ける映画」「映画監督論」「ブルータスのスタジオジブリ特集」といった映画関連。「オトナのマンガ」「今日の糸井重里」「世の中が変わるときに読む263冊」といった本関連。「最高の朝食を」「美味求真」などの食関係のものなど各種あります。私もこの雑誌は、企画が面白い時にはいつも買っています。そして、必要なところだけ切り取って保存しています。切った貼ったして、オリジナルのブルータス作ってみてはいかがでしょう。

映画好きに「円谷英二特撮世界」(800円/出品・星月夜)。円谷は初代ゴジラの産みの親にして、日本特撮映画を立ち上げた巨人です。小中学校時代、夏休みとお正月に東宝系劇場で上映されている円谷映画が楽しみで、どれほどのワクワクして観たことか。彼のSF映画で過ごした少年少女には、懐かしい気分にさせてくれます。この本で初めて知ったのですが、彼が特撮を担当した、殺人鬼を描く「虹男」という1949年の作品は、日本初のパートカラー(一部だけカラーになる映画)作品でした。特撮映画の神様ですが、妙にエロティックなシーンを作る人だったみたいで、子ども心に”萌えました”

 

洋書と日本語版を一緒にした絵本が出ています。アンジェラ・マクアリスター文、アンジェラ・バレット絵による「氷の宮殿」(2冊セットで1000円/.出品・葉月と友だち文庫)です。昔、冷蔵庫のなかった頃、ヨーロッパの屋敷には氷を蓄える蔵があり、その一部は地下に作られて、太陽の光を完全に遮って、一年中氷を蓄えることが可能だった時代のお話です。洋書と日本版の紙質、インクの違いなど見比べてみてください。

⭐️休業のお知らせ 

勝手ながら、2月18日(月)〜20日(水)連休いたします。

 

 

 

犬猫の写真集って、どれも似たり寄ったり。でも、エリオット・アーウィットの「我々は犬である」(600円/出品・橘史館)は、傑作です。多くの名カメラマンが集まるマグナム・フォトのメンバーのアーウィットだけに、犬と街角、犬と人の関わりを見事に捉えています。可愛く、健気で、どこか寂しげな犬たちの表情がなんともいい。どの写真も魅力的ですが、私のお気に入りは、1986年中国で撮られた1枚(P128)、野性味がある精悍な犬の姿です。こういう古風な佇まいの犬っていいな〜。ところで、裏表紙の写真が、犬の格好して、お立ち台に上がっている男性なのですが、これってエリオット・アーウィットなのでしょうか?案外、ベストな作品かも……..。

小谷野敦の「忘れられたベストセラー作家」(800円/出品。半月舎)は、ちょいと違った視線から眺めた文学史で、肩の凝らない本です。話は明治時代の新聞小説から始まります。漱石や藤村が新聞連載小説を書いていたので、新聞小説=文学作品というイメージがありますが、実はそのほとんどが通俗小説で、今はもう忘れられた作家ばかりなのです。樋口一葉にしても、家計を助けるために小説家になろうとしたので、「新聞小説家の半井桃水に入門したのは、『たけくらべ』の様な『芸術小説』を書くつもりだったのではないのである」と著者は推理します。面白いのは、戦後のベストセラーで、”呪われた”になってしまった臼井吉見の「事故のてんまつ」です。これは、1977年自殺した川端康成の、自殺の原因に迫った内容なのですが、川端家からクレームが出て話の雲行きが怪しくなります。川端自身のルーツに関わることで、名誉毀損に当たると民事訴訟に持ち込まれ、敗訴、絶版にされてしまいます。こんな話、今でもよく新聞ネタになっていますが、昔からあったのです。

 

✨話は変わりますが、昨日人気イラストレーターの佐藤ジュンコさんが来店されました。現在、「マヤルカ古書店」で開催されている個展のために来京されているそうです。ミシマ社から出ている彼女の著書「佐藤ジュンコのおなか福福日記」(1620円)、「佐藤ジュンコのひとり飯な日々」(1080円)にサインと可愛いイラストを書いていただきました。ジュンコファンの方はお早めに(各一冊のみです)

 

 

⭐️休業のお知らせ   勝手ながら、2月18日(月)〜20日(水)連休いたします。

 

 

これは、絶対買い!というのが、松本大洋「ルーヴルの猫」上下セット(1500円/出品1003)。このコミックは、ブログでも以前に紹介しました。ルーブル美術館に住んでいる猫たちと、不思議な少女のお話です。ラスト、新しい世界に一歩踏み出す一匹の猫の姿が、眩しく輝きます。「ピンポン」時代の松本の躍動感あふれる画風も大好きでしたが、谷川俊太郎と組んだ「かないくん」、くどうなおこと組んだ「『いる』じゃん」辺りから、繊細なタッチの雰囲気や深い物語性が押し出されていて、この「ルーブルの猫」は、そんな今の松本の実力を発揮した作品です。ファンタジー文学の香りあるれる本です。

岡部伊都子の作品をまとめて出されている中に、めずらしい一冊がありました。「自然の象」(600円/出品・徒然舎)です。1974年から読売新聞で連載の始まったエッセイの79年のテーマが「自然の象」でした。それをまとめたのが本書です。

「鴨川大橋を渡っていて、南の空に長く連なる白いうろこ雲を見た。 さっさと刷毛で描いたようなリズミカルな白い斑点。なかには息づくばかりの筆勢のかすれや。渦巻の濃淡などがあって、この中空の巻積雲は、見飽かぬ造形の妙に秋を象徴する。鰯雲とも、鯖雲ともよばれる、美しい秋雲の相(すがた)だ。」

こういう文章を読んでいると、それだけで心 が落ち着いてきます。川西裕三郎によるモダンな感覚の版画が数多く使われています。カバーの「星空」という美しい作品も本書の価値を高めていると思います。

恐らく、私家版だと思いますが、古書市ならではの珍しい本が、写真家藤井保の「熊楠残像」(2200円/出品・ますく堂)です。和紙の表紙を開けると、飛び出すのが熊楠のデスマスク!その後に続くのが熊楠のコレクション、ヒキガエル、ヨウジウオ、ミミガイ、ハマガニ、イモリなどを撮影した標本写真。中上健次の序文が付いているだけの本ですが、各地の古本屋さんの在庫をチェックしてみると、売り切れが多く、一店だけ2500円つけていました。本の大きさは385mm × 265mm × 6mm と大きめです。

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