小幡明(Obata Mei)さんは、2010年から手描きの「Papel Soluna」という新聞型ミニプレスを発行しています。レティシア書房でも人気の冊子です。世界を一人で旅して、そこで出会った人々、食べ物、風景、歴史、建物などが、絵と文で綴られていて、上手いな〜といつも思っていました。本人が好奇心いっぱい元気一杯で、初めてのことを楽しみながら描いているので、読む方も楽しい。

今回その原画が展示されています。ペンで輪郭を描き、色鉛筆で着色してありますが、細かい味のある線に改めて魅了されました。ミニプレスやグッズをあまりに上手に作られるので、そちらに目が奪われますが、彼女は素晴らしい絵描きさんだとつくづく思いました。お話を聞いてみると、大学で銅版画を専攻していたそうです。

そして「Papel Soluna」(330円)の全ナンバーがずらりと並びました。これまた壮観です。一つ一つに面白い体験が詰まっています。「Papel Soluna」ファンの方も、彼女の絵をご存知ない方も、ぜひご覧いただきたいと思います。最新号もご用意しております。ところで、「Papel Soluna」というのはどういう意味だと思います?Papelはスペイン語で紙。 SolunaのSolは太陽を意味し、lunaは月のこと。小幡さんの名前「明」を分解すると、なんと太陽と月。いわば小幡さんが楽しんで描くペーパーというわけです。

旅先から小幡さんがご両親に出したハガキ(写真右)も楽しいです。元気に旅している証拠に行く先々からスケッチを送られているのですが、表に貼ってある各国の切手も美しい。こんなハガキが外国から届いたら嬉しいでしょうね。彼女の作るミニプレスの原点のような気もします。

この展覧会では、手作りの陶器のブローチ(3780円〜)、手ぬぐい(1750円)、ミニノート(400円)、すごろくセット(2330円)、ポストカード(220円)の他に、台湾で仕入れたバッグや封筒など可愛いグッズを販売しています。「Papel Soluna」の雰囲気そのまま丸ごと展示したようなウキウキ感いっぱいの『世界ひとめぐり旅路録』をどうぞお楽しみください。

なお、展覧会中に旅のトークイベントを下記の通り予定しております。興味のある方どうぞお越しください。(女房)

★イベントのお知らせ

「世界ひとめぐり旅路録」展開催中の小幡明さんが、14日(金)19時半より、FMひらかたパーソナリティー久保有美さんと一緒に「小幡明の旅の話アレコレ」と題したトークショーを当店にて開催します。(参加費1000円/要予約)

 

 

 

本に関する書籍を発行している神戸市の出版社、苦楽堂の作品はユニークです。

先ずは、3冊シリーズで出版されている「次の本へ」(1944円)。様々な人たちが紹介する「面白い2冊目」とどう出会うかを集めたユニークな本です。一冊は読んだ、しかし次にどんな本を読めば良いのかをわからないという方々へ、こんな本からあんな本へと繋がったということを紹介してくれます。フランクルの「夜と霧」から、同じ著者の「それでも人生にイエスと言う」という繋がりは、成る程と思いました。坪内祐三「靖国」から赤坂真理の「東京プリズン」も戦後を考えるということでは納得です。でも、中にはそっちへ向かうのかとびっくりさせてくれるものも沢山あります。

この本は売れたので、第二弾「「続・次の本へ」(1620円)が登場しました。山崎ナオコーラ、山折哲雄、最相葉月などの著名人も参加、さらにヒートアップしていきます。第三弾「次の本へ しごと編」(1728円)は、少し切り口を変えて、囲碁棋士、映画館支配人、喫茶店店主、遊覧航海士、ラジオ記者など、様々な仕事をしている人たちが、一体どんな本を読み繋いでいるのかを集めています。元保育士の方は、「怪獣大図鑑」から「特撮秘宝Vol.1」へ。コンサートホール企画に携わる人は、「戦後日本のジャズ文化」から「芝居上手な大阪人へ」などフムフムの連続です。

さて、こんな本出すのか!とびっくりしたのが「スリップの技法」(1543円)です。「スリップ」は、新刊本に挟まれている栞みたいなもので、新刊書店で本を買うと、このスリップは店員が抜き取ります。集まったスリップをもとに在庫のチェック、発注や売場の管理に使います。業界人以外にこんな本読むの?と半信半疑で置いてみたら、数冊売れました。お買いになられたお客様に書店関係の方ですか?と聞くと、「いいえ、でも面白そうだから。」というお返事に、そうか〜面白いと思う人がいるんだと感心しました。

もう一冊。「真っ直ぐに本を売る」(1944円)は、出版社から直接仕入れをしたり、もっと簡便なやり方で本を仕入れるやり方を説明した本です。これまた本屋さん以外の人は読まないのかと思っていると、違う商売の方が買われたり、メディア関係の方が買われたりと面白い売れ方をしている本なのです。

およそ一般向けとは言い難い本を出版する、苦楽堂を応援していきたいと思っています。

レティシア書房連休のお知らせ

誠に勝手ながら、6月3日(月)4日(火)連休いたします 

 

今年87歳の小林信彦は、最も敬愛する作家の一人です。教養、大衆芸能への知識、文学的技量に加えて、ユーモアと笑いのセンスを兼ね備えた作家です。この人の映画論、コラムに駄文はなく、作品の評価も的確で信頼していました。週刊文春で連載されていた「本音を申せば」は、楽しみでした。80歳を超えた作家が、広瀬すずや、橋本愛を語るのですからね。ただ残念ながら、体調を理由に休載中です。

小林が2003年に出した「名人」(文藝春秋)が、朝日新聞社から文庫で再発(古書300円)されました。しかも1981年「ブルータス」に収録された古今亭志ん朝との対談も再録されています。「名人」というタイトルからわかるように、これは江戸落語を代表する古今亭志ん生と、その息子志ん朝について書かれたものです。米朝一門に代表される上方落語は見たことがありますが、江戸のは実際に見たことがありません。だから、この本はとても興味深く読みました。

落語に興味のない人は、後半かなりページを割いて書かれた「落語・言葉・漱石」をどうぞ。「夏目漱石と落語」と題された章では、漱石の「我輩は猫である」と落語の世界を様々な角度からアプローチしていきます。

「江戸芸能を源流とするもっとも洗練された笑いが、じかに西洋に触れてきたもっとも知的な作家の筆によって蘇ったのは、明治文学史上の大きな皮肉である。」

「文学の中に<厳粛な真実・人生>のみを求めた(同時代の)自然主義作家の作品の大半が読まれなくなった今日、『猫』は依然として読み継がれている。それも、<教科書にのっているから読まれる>古典のたぐいではなく、ぼく自身が体験したように、もっとスリリングで白熱した読書の時を過ごすことができる。このような作品を古典の枠内に閉じこめておくのは読書界にとって大きなマイナスである」

というのが小林の「我輩は猫である」評価の核心です。

最後に収録されている対談で、志ん朝が「芸」の定義をこんな風に語っています。

「芸というのは、やはり聞いている人に魔術をかけるというか、何もないのに本当に飲んだように見せたりという、まやかしに近いものでしょう。まやかしに近いものというのは、精一杯やっちゃうと、相手はまやかされないんですよ」

至極名言です。余裕のないところに良い芸はない。それは小説も一緒だと小林も賛成しています。

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誠に勝手ながら、6月3日(月)4日(火)連休いたします 

 

 

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前田亜紀著「カレーライスを一から作る」(ポプラ社/古書750円)が面白い!カレーライスを作る本のどこが面白いの??とお思いの方、これ単なるレシピ本ではありません。

カレーを作るなら、まずスーパーへ行って、具材を買い調理し、ご飯を炊いて盛り付けて、はい終わりというのがフツーですが、ここで作るカレーライスは、すべて一から作ってゆくのです。つまり、

1.野菜を種から育てる 2.お米を苗から作る 3.肉となる鳥をヒナから育てて、屠殺する 4.塩、スパイス、器もスプーンも一から作ってゆく

というカレーの作り方です。

提案したのは、「グレートジャーニー」で有名な冒険家の関野吉晴。で、それを実行したのがドキュメンタリー番組制作者の前田亜紀。実際に作ったのは武蔵野美術大学の学生たち。期間は1年間。4本足の動物は一般人は殺せないので、2本足の鳥なら大丈夫。なら、鶏よりダチョウが面白いと、ダチョウカレーに決定します。総勢150名ほどが参加した、奇妙なプロジェクトのスタートです。

ここで、関野はひとつ提案します。「作物をなるべく自然に近い形で育てようという提案だ。野菜や米をより早く、より大きく育てるための化学肥料や、害虫を防ぐための農薬は一切使わないやり方で作ってみよう」というものです。しかし、畑仕事もしたことのない、ましてダチョウなんて飼ったことのない学生たちです。次々とトラブルやら、難問が押し寄せてきます。ダチョウのヒナが全部死んでしまい、ここで、熱が引いたみたいに多くの学生が去っていきます。しかし、プロジェクトは続きます。

「一から作る」という関野の言葉には彼の自然への思いが込められています。

「私たちは自然のものを『ゼロから』作ることはできない。種から植物を育てることはできる。生まれた動物を大きく育てることもできる。でも、何もない『ゼロ』から、種や命を生み出すことはできない。だから、始まりは『ゼロ』ではなく『一』なのだ。自然から生み出す大事な『一』」

『一』からスタートしてゆくことで、命を見つめ、社会を見つめるのが、このプロジェクトの原点です。実際、最後まで付き合った学生たちの社会を見る目が変化してきているのです。

関野は「体を通して学んだことは、すぐに結果は出ないし、そもそも、すぐに身につく知識を教えているつもりはない。」と考えます。そして、その体験から10年ぐらい経過した時に、ああ、あれは、こういうことだったんだと分かってくれればいい、と。

「答えはすぐに出なくて良い。いつまでも待つ。それが関野ゼミなのだ。」

蛇足ながら、著者は「カレーライスを一から作る」というタイトルで劇場公開映画を作ってしまいました。

 

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誠に勝手ながら、6月3日(月)4日(火)連休いたします 。

 

「なnD7」(972円)は、「なんとなく、クリティック」、「nu」、「DU 」の編集者三人が集まって作ったミニプレスです。それぞれの雑誌の頭文字を取って作った雑誌です。最後の「7」は7号の意味です。

本好き、ギャラリー好き、音楽好きには刺激的な記事、インタビューが満載です。最近話題のケイト・ザンプレス著「ヒロインズ」を翻訳して、自らが主宰する翻訳・出版プロジェクトC.I.P.Booksから出版した西山敦子さんの元へ、近代ナリコさんがインタビューにゆく記事が巻頭にあります。

近代さんはこの本を、文学の本質、作家という職業の意味、ジェンダーなど、多くの問題を詰め込みながら、「書くことから疎外された女の人たちの歴史を追っている評伝でもある。しかも、そのスタイルを壊すような評論家という客観的な立場から対象化して何かを評論する方法も、ひっくり返して書いていますよね」と評価しています。ザンプレスと一歳違いの翻訳者の西山さんと、熱っぽい対談が始まります。

暫くページをめくっていると、夏葉社代表島田潤一郎さんが登場。島田さんは、夏葉社としての出版活動とは別にインディーズレーベル「岬書店」を立ち上げ、その第1作として本人が執筆した「90年代の若者たち」(1404円)を刊行しました。なぜ、インディーズレーベルを立ち上げたのかを語っています。インタビューの場所が、書店「title」さんに納品にゆく道すがらというのが島田さんらしくていい感じです。「綺麗な本を作る、美しい出版社」という夏葉社のイメージに対して、島田さんは「くすぐったいところはあるんですよ」と話し始め、こう続けます。

「綺麗な装丁の美しい本って、洗練されているようで非常に保守的だし、排他的なんです。綺麗な本作りって、雑味のようなものをどんどん省いていけばできるし、そんなに難しいものではなくて、少なくとも僕以外の人でもできる仕事で、そこにあまり未来はない」

だから自由な雰囲気で表現できる場として、岬書店を立ち上げたということです。私は90年代の若者ではありませんが、この本は面白かった。以前ブログで紹介しましたので、ぜひお読みください。

さらに読み進めてゆくと、神戸元町の古書店「1003」のオーナー奥村千織さんが登場します。元司書の彼女が、何故、古書店を立ち上げようとした のか、その後押しをしたのが岡本太郎の著書「自分の中に毒を持て」だったことなど、興味あるお話ばかりです。こんな風に、様々な場所でユニークなコンセプトでお店を始めた人たちの話が満載です。文庫サイズなので、持ち運びも便利ですよ。

★イベントのお知らせ

6月5日(水)より「世界ひとめぐり旅路録」展をされる小幡明さんが、14日(金)19時半より、FMひらかたパーソナリティー久保有美さんと一緒に「小幡明の旅の話アレコレ」と題したトークショーを当店にて開催します。(参加費1000円/要予約

 

連休のお知ら

 

6月3日(月))4日(火)連休いたします 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本の高度成長期、どこにでもあったドライブインの今の姿を取材したノンフィクションが、橋本倫史著「ドライブイン探訪」(筑摩書房/古書1400円)です。著者一人で、企画、取材、制作を手がけたミニプレス「月刊ドライブイン」全12号をもとに生まれました。ロードサイドに佇むドライブインと、そこを経営する人たちを丹念に取材した結果、戦後の日本の歩んできた姿がふわりと浮かんできます。

「日本全国に点在するドライブインは、一軒、また一軒と姿を消しつつある。でも、今ならまだ営業を続ける店が残っていて、話を聞くことができる。なぜドライブインを始めたのか。どうしてその場所だったのか。そこにどんな時間が流れて来たのか。そんな話をひとつひとつ拾い集めれば、日本の戦後史のようなものに触れることができるのではないか」

著者が、記録を残しておこうと思いたち、ドライブイン巡りを始めたのは2011年。日本中を東に西に駆け巡ります。今や、ポツンと取り残されているような感じのドライブインの写真が収録されています、しかし開店当時は、どのドライブインも目の回るような忙しさで、ほとんど眠る間もなく働き続けたというのが、携わった方々の一致した意見です。日本国内に道路網が整備されて、マイカーが増え、観光バスが増え、トラック便が増えて来た時代、どのドライブインも満員でした。

やがて高速道路が整備され、パーキングスペースが充実してくると、途端にロードサイドのドライブインは斜陽になっていきます。それでも細々とやっている場所が、全国にあるのです。地元に根を下ろし、個性的な品揃えで頑張っています。そんなお店の話を読んでいると、こちらの気分もほっとしてくるというか、なんとも言えない心地よさに包まれてきます。掲載されている写真も味があって、「よう、元気かい」とフーテンの寅さんがでできそうな風情です。

エピローグに登場する「ドライブイン薩摩隼人」は、昭和5年生まれの横道貞美さんと奥様の陽子さんが経営しています。貞美さんの戦後の人生物語だけで一冊の本ができそうなぐらい濃いのですが、彼は一時期「軍国酒場」という飲み屋をやっていました。先の大戦で亡くなった兵士たちの供養の場として、軍服や軍用品を飾っていましたが、愛国主義的な場所ではありません。政治的意見の全く違う人たちが集まってきた不思議な場所です。当時の遺品は、このドライブインに併設してある「戦史館」に今も展示されています。

貞美さんはこう言い切ります。

「人は皆、それぞれ考えが違うでしょう。違う考えを尊重する、それが飲酒主義よ。でも、今は違う考えを持っとる人を否定するでしょう。それはいかんわけよ。そうすると争いが生まれる。『軍国酒場』をやりよったけど、右翼でも国粋主義者でもないわけよ。戦争はいかん。もし戦争が起きれば私は逃げますよ」

地元を愛し必死に生き、働いてきた人たちの姿を捉えた傑作でした。本の帯で「title」の辻山さん、「ホホホ座」の山下さん、「蟲文庫」の田中さん、「ウララ」の宇田さんなど、各地の本屋の名物店主が推薦文を寄せていることでも、この本の面白さがわかります。

 

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6月5日(水)より「世界ひとめぐり旅路録」展をされる小幡明さんが、14日(金)19時半より、FMひらかたパーソナリティー久保有美さんと一緒に「小幡明の旅の話アレコレ」と題したトークショーを当店にて開催します。(参加費1000円/要予約)

「RBG」(京都シネマにて上映中)を観ました。

RBGって何の事?これ、人の名前です。正式な名前はルース・ベイダー・ギンズバーグ、通称RBGです。1933年生まれの彼女は、現役のアメリカ合衆国最高裁判所判事です。1972年、コロンビア大学ロースクールの女性初の常勤教員になったあたりから、自由人権協会で法廷闘争を数多く手がけ、性差別と戦う法律家として全国的な名声を博するようになります

若き日の彼女が弁護士へと進む道のり、彼女を生涯支えて来た夫との出会いを絡めながら、法律家として目指しているものを追いかけるドキュメンタリー映画です。あらゆる性差別に反対し、裁判で争い、女性の権利を一歩ずつ進めてゆく姿が、インタビューや、当時の裁判での音声、彼女の近くにいた人々の証言をもとに描かれていきます。

彼女の母親の教育が立派だったいうことがよくわかります。母親の教えは二つ。一つは自立すること、当時は女性は結婚して家庭に入るのが幸せとされていたにも関わらず。そしてもう一つは怒りで相手を論破しないことでした。彼女自身、怒りの言動は、自らをおとしめるとインタビューに答えています。彼女の話し方は常に控えめで、冷静で、生真面目です。

RBGは、あらゆる職場や、社会で起こって来た性差別に異議を唱え、是正して来ました。映画にも出て来ますが、入学者を男子に限定していたバージニア州立軍事学校の規定を違憲とする判決 (1996年)を行なっています。マッチョばかりの軍人養成学校であっても、資質に問題がなければ、性別に関わらず入学を認めさせる判決で、今では多くの女性が在籍しています。

守るべきは合衆国憲法。男女、人種の平等の理念に生きているRBGの魅力たっぷりの映画です。高校生相手に合衆国憲法修正第14条の男女の平等を語るところは感動的です。

意見の違う右派の判事でも、仕事を離れたところでは友人として付き合えるユーモアのある冷静なRBGが、「詐欺師」と強く非難した(後に謝罪しています)のがトランプ大統領でした。彼女を怒らせてしまった稀有な人物です。チャーミングな淑女ながら、眼光鋭い85歳。とても、素敵な映画でした。

 

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京都人の私にとって東京は所詮地方都市でしかないのですが、70年代から80年年代にかけての新宿、渋谷、原宿は憧れの場所でした。80年代には、レコード屋だったので、仕入れも兼ねてよく、この街には行っていました。

その一つの原宿の70年代を、四十五人が振り返る中村のん編著による「70s原宿原風景」(DU BOOKS/古書1600円)は、あの時代の刺激に満ちた街の様子を見事に捉えた一冊です。

60年代後半英国で音楽とファッションの革命、いわゆる「スウィンギング・ロンドン」の時代が起こり、また69年にはアメリカで野外ロックフェス「ウッドストック」が開催され、様々な若者のムーブメントが押し寄せてきます。それまで、閑静な住宅街だった原宿が、ファッションの街として生まれ変わってゆくのは、70年代でした。セントラルアパート1Fにあった、伝説のカフェ「レオン」には、時代の動きに敏感な若者が集まっていました。日本のスタイリスト第1号となった高橋靖子も、レオンの常連でした。(その写真も載っています)館ひろしが在籍していた「クールス」のメンバーもここでコーヒーを飲んでいました。いや、ファッションだけでなく、その後の日本のポップスを引っ張るミュージシャンたちが登場してきます。

「レオン」のあったビルの上は「セントラルアパート」という名前のアパートで、やはりここにも多くの表現者たちがいました。衝撃的な水俣の写真集を出したユージン・スミスもここで生活していました。当時、このアパートに住んでいた人の話も満載していますが、キラキラと眩しく光り輝いていた時代のアイコンみたいな存在でした。

私は、この時代の原宿を歩いた経験がないので、その雰囲気はわかりません。しかし、情報量が少ないことをハンディと思わず、なんとかカッコいいものを作り出していこうという若者たちの熱意は、京都にもありました。そのことを、本書を読みながら思い出しました。

「『ポパイ』に頻繁に取り上げられたビームスは、一気に若者のファションを開拓し、流行や遊びに敏感な都会的男子『ポパイ』少年御用達ショップとなっていきます。ベージュの分厚いクラフト紙に、オレンジ色で『american life shop BEAMS』と大きくロゴが入った持ち手のない紙袋を、ザクっと腕に抱えて歩くのが『ポパイ少年』の証でした。」

なんて文章に出会うと、藤井大丸コーナーバーゲンに馳せ参じては、VANやらJUNの袋片手に四条通りを闊歩した頃を思い出しました。本好きには、明治24年創業した書店「山陽堂書店」四代目オーナー、遠山秀子さんのお話と、お店の変遷を捉えた写真は必読ですよ。

 

梨木香歩の新作「椿宿の辺りに」(朝日新聞社/古書1200円)は、小説を読む醍醐味、楽しさを十分に味わえる傑作長編小説です。

神話をベースにしながら、不思議な物語が展開していきます。四十肩の痛みに苦しむ主人公山幸彦は、同じような体の痛みに悩まされている従兄妹の海幸比子が薦める鍼灸師を訪ねます。そして、霊能者みたいな特異なキャラの亀子とともに、治療の一環として今まで訪れたことのない先祖の屋敷に行く羽目になってしまいます。

祖父藪彦が繰り返し語ったという海幸彦山幸彦の物語、三人目の宙幸彦の存在、庭のお稲荷さま、天井の大黒様と曽祖父の手記、様々な要素が入り乱れて、家の歴史が解き明かされていきます。オカルト風に展開するとかと思えば、ファンタジー風になったりと、不思議な世界へと誘われていきます。コミカルな描写も盛り沢山で、実家に何か得体のしれないものがいるかもしれないと主人公たちがざわついた時、亀子が「共生共存、これに如くなし」と一喝するところでは、思い切り笑ってしまいました。梨木の小説には「家守綺譚」に代表されるように、気がつくとこの世から、少しずれた世界に、持っていかれるところが魅力です。

私たちの肉体、思い、神話、自然、過去、それら全てがつながっているということを「痛み」という肉体的現象を通して描くというウルトラC的物語です。作者の価値観がストレートに出ている文章があります。

「私は長い間、この痛みに苦しめられている間は、自分は何もできない、この痛みが終わった時点で、自分の本当の人生が始まり、有意義なことができるのだと思っていましたが、実は痛みに耐えている、そのときこそが、人生そのものだったと、思うようになりました。痛みとは生きる手ごたえそのもの、人生そのものに、向かい合っていたのだと。考えてみれば、これ以上に有意義な『仕事』があるでしょうか」

痛むのは生きているからこその現象で、完治を目指すのではなく、それなりに痛みとつき合っていくというのが大切なことなのです。痛みをめぐって、こんな物語が成り立つのですね。一気に読んでしまいました。

 

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1965年、イギリスで始まった人形特撮番組「サンダーバード」が、NHKで放送開始。1時間番組で、様々な災害、事故から人類を救う謎の組織「国際救助隊」を描いた物語でした。「サンダーバード。アー・ゴー」というかっこいいセリフとともに、響き渡るバリー・グレイのシンフォニックな音楽が流れ出すと、夕ご飯も放り出してTVの前に噛り付いたあなたに、必読の1冊が「サンダーバードを作った男 ジェリー・アンダーソン自伝」(洋泉社/古書2800円)です。

多目的機能を持って救助現場に駆けつけるサンダーバードの各機体の格好良さ、細部まで拘ったデザインの模型、リアリティを追求した特撮技術は、当時としては類を見ないクオリティを保ち、あの当時少年だったなら、タミヤ模型を買いまくった記憶があるのではないかと思います。最先端モードを取り入れ、登場人物のコスチュームや、ハイテク技術を備えた車に乗って活躍する女性ペネロープにも人気が集まり、女子たちが人形を買い求めていました。

ドラマを作ったのはジェリー・アンダーソン(1929~2012)。60年代から70年代にかけて特撮ドラマを中心にして活躍したTVプロデユーサーです。

彼の人生が、なんとも面白い。学校をドロップアウト、建築家養成校に行くも、すぐリタイア。なんとか映画の仕事をしたいと思いつつ、やっとつかんだパペット番組。それが当たり、パペット番組制作者として重宝されながら、いやいや、実写映画を作るんだという夢を叶える。が、大失敗。結局パペット番組に戻り大成功、という波乱万丈というか、行き当たりばったりというか……..。

1963年ドイツのマチルド鉱山で起きた、百数十人が生き埋めになった浸水落盤事故が発生します。29人が死亡、残りが救助された事故を知ったジェリーが、ハイテク技術を備えた集団があれば、被害を食い止められると言うテーマで物語を作ります。これが「サンダーバード」の始まりです。そこからスタッフの悪戦苦闘が始まるのですが、本書では133ページから、その時の状況が詳しく書かれています。よくぞ、サンダーバード2号の、ユニークなデザインを作り上げたものです。

CGのない時代、手作りでここまで緊張感あふれるドラマを作ったジェリーとその仲間たちは、20世紀を代表する映像作家だったと思います。(DVD 化、Ble-Ray化されています)

なお、この番組が与えた影響は計り知れなくて、「ウルトラマン」以降のメカデザイン、スーパーロボットものアニメに至るまで、方々で見受けられます。お父さん!子供たちに特撮ものの原点は、これだと自慢してください!

 

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6月5日(水)より「世界ひとめぐり旅路録」展をされる小幡明さんが、14日(金)19時半より、FMひらかたパーソナリティー久保有美さんと一緒に「小幡明の旅の話アレコレ」と題したトークショーを当店にて開催します。(参加費1000円/要予約)