田中六花さんの台湾手帳が4点入荷しました。「台北あれこれ」、「日々あれこれ」、「高雄あれこれ」そして「書店あれこれ」です。(各500円)

本好きなら、一番気になるのが「書店あれこれ」でしょうね。表紙には、書架の前でまったり昼寝中の書店猫。これだけで手に取ってしまいました。大型書店から、独立系の小さな書店、雑貨やミニプレスを扱っている店など、どの店も魅力的です。ご当地のミニプレスを手広く扱っている「書房味道」では、ミニプレスの紹介もされていて、「秋刀魚」という日本紹介の雑誌もあるみたいです。また、週末だけオープンしていて、台湾、日本、欧米のミニプレスを扱う「下北沢世代」なんて店もあります。

「台北あれこれ」は、豊かな食文化の紹介から始まります。世界のどこよりも、ドリンクの種類が多いのが台湾ではないかと著者は書いていますが、まさかの組み合わせで、オリジナルドリンクがどんどん出来上がっているらしい。ヤクルトが緑茶やレモネードと合体したり。ステキなカフェやインディーズに強いCDショップなど面白そうなお店がいっぱい。その中の個性派本屋「田園城市」には「社長の古本屋」というコーナーには、「非情城市」のサントラレコードや、川端の「古都」の映画スチールが飾ってあったりと、ぜひお邪魔したい場所です。

「日々あれこれ」は、台湾でみつけた楽しみが詰まっています。食堂の手書きメニューから、なんとも味わい深い散髪屋さんのイラストまで、ぶらりぶらりの散歩途中で拾い集めた面白いものが満載です。筆者は、篆刻を習っていたみたいで、味わい深い篆刻の世界も紹介されています。

4冊目の「高雄あれこれ」。高雄?どこ? そう、高雄は、台湾南部にあります。港町なので、様々な文化を吸収してきた雰囲気が街に残っているらしい。カラフルな看板は猥雑で、下町感一杯です。漢字表記はなんとなく読めて嬉しいですね。元日本料亭だった場所を改築した「書店喫茶・一二三亭」は、なんだか落ち着けそうなお店です。

この台湾手帳を発行されている田中六花さんは、語学留学を経て、日本と台湾を繋ぐ各種イベントを企画、台湾歴18年のベテランです。HP「台湾情報」もチェックしてみては如何でしょうか。

 

★吉田篤弘の新刊「京都で考えた」(1620円)が発売されます。

全国発売は10月20日ですが、京都地区先行販売が決まりました。また、ご予約された方には先着でサイン本をお渡しします。先行発売は10月12日(木)です

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先日、アメリカンフットボールの選手達が、トランプ大統領の黒人差別主義的態度に抗議して国家斉唱をボイコット。それに対して、単細胞のトランプが、非国民呼ばわりするという新聞記事を見ました。アメリカにいた時、このスポーツの魅力に取り憑かれて、地元「サンフランシスコ49ズ」の応援に出かけたものでした。フットボールで敵陣地に突っ込む選手たちの大半は黒人です。トップスピードでディフェンスラインを突破する彼らはもう最高でした。しかし、この競技に熱狂しているのは大半が白人です。今回の抗議にも、会場からブーイングや、罵倒する声が飛び交ったとの事です。アメリカの音楽、映画、小説で青春時代を過ごし、わざわざ現地の空気を吸いにいった身にとって悲しい記事でした。

何ごとにも幼稚な国家になってしまったアメリカですが、実は音楽業界でも、レコードジャケットを巡っても熾烈な戦いがありました。

ジャズの帝王マイルス・ディビスは、1957年「マイルスアヘッド」を完成させます。そのアルバムジャケットには、彼の意図に反し黒人を使用せずに、ヨットの上で寛ぐ優雅な白人女性が使用されました。ここから、彼のレコード会社との戦いが始まります。

そして、61年名作「サムディ・マイ・プリンス・ウィル・カム」(CD1050円)で黒人を起用することができました。こちらを見つめる女性の姿にマイルスの、ついにやったぜ!という気持ちがこもっています。65年「ESP」を経て、67年「ソーサラー」では、ぐっと前を見つめる女性の横顔をジャケにしました。

“Black is Beautiful”を象徴するジャケットでした。

話は変わりますが、店の棚に「人間だって空を飛べる アメリカ黒人民話集」(福音館900円)があります。この本は、アメリカの黒人民話を、バージニア・ハミルトンという文学者が語り直したものを集めています。たいていの民族が持っている民話同様に、動物、魔法使い、お化けなどが登場しますが、他民族のものとはっきり違うのは、白人の奴隷として酷使されてきた人々の間で語り継がれてきたものだということす。迫害された民族の悲しみが漂っていますけれども、その半面ユーモアもあり、陽気な話が見受けられます。翻訳した金関寿夫は、この本からジャズを連想したとして、こう書いています。

「ジャズの持つ楽しい、軽快なリズムの底には、いつもあの黒人ブルースの、悲しいむせび泣きの声が、はっきり聞き取れるのです。」

マイルス・ディビスは、そんな感傷的な気分なんか捨て去り、常に新しい音楽を模索していました。黒人であることなんかどうでもいい、オレはマイルスだ!という姿が生涯カッコ良かった。

トランプ大統領は、抗議した選手をつまみ出せ!と怒鳴ったみたいですが、くそ野郎はお前だ!と、マイルスなら言うでしょう。

 

 

 

★吉田篤弘の新刊「京都で考えた」(1620円)が発売されます。

全国発売は10月20日ですが、京都地区先行販売が決まりました。また、ご予約された方には先着でサイン本をお渡しします。先行発売は10月12日(木)です

毎日、本を中心に、映画、音楽等の紹介を書いているのですが、たまに美術展に出かけた時は、その印象をブログに残すようにしています。しかし、絵画の解説ってホントに難しい。風景が美しい、人物の描写が素晴らしい、みたいな恥ずかしい文章になりがちです。

先日入荷した江國香織の「日のあたる白い壁」(白泉社/絶版500円)は、こうやって絵画の解説をすれば、わかりやすく、しかも書き手の心情を伝えることができるのだなぁ〜と感心しました。好きな画家の一枚に、著者が魅かれていったワケを書いているのですが、なる程と納得します。絵画自体の説明やら、画家の歴史的背景を極力抑えているスタイルがよろしい。著者とその絵の間の個人的な物語に引込まれて、その作品を見に出かけたくなったりします。

ゴーギャンの「オレンジのある静物」の出だしは「こんなにおいしそうなオレンジの絵はみたことない。」と作品が急に身近になるようだし、カリエールの「想い」ではゴダールの映画「気違いピエロ」のある台詞から始まります。東郷青児は、自由が丘のモンブランというケーキ屋さんの包み紙に描かれた女性の話から始まって、

「そこに描かれているのは、この世のものではないような女のひとだった。かといって人形のようではなく、外国人のようでもなかった。ひどく華奢なのに、一方でどこかが奇妙に肉感的なのだ。年齢もあやしく、おねえさん、というには匂やかな色気があって洗練されすぎていたし、中年の婦人、というには美しすぎるようにおもえた。小鳥みたいな女だ。」とあざやかに描きだします。

江國の作品への深い愛情が飛び出したのが、小倉遊亀の「家族達」です。

「みて!私が描いたわけでもないのに、私はこの絵について、そう言いたくなってしまう。みて! こんなにすこやかで堂々として、みずみずしく、生命力に溢れた絵を、日本の女性が描いたの、と。」

たっぷりした存在感に溢れた作品で、シンプルであり大胆なタッチが際立っています。この解説の終わりに、江國は小倉と同時代に活躍していたジョージア・オキーフのことを引合いにだして、

「ちょうど同じ時代に、日本とアメリカで絵を描いていた二人の女性。二人共、かっこいいと思う。」と結んでいます。

どこから読んでも、絵画を見るワクワク感をぐっと上げてくれる一冊です。

 

 

★吉田篤弘の新刊「京都で考えた」(1620円)が発売されます。

全国発売は10月20日ですが、京都地区先行販売が決まりました。また、ご予約された方には先着でサイン本をお渡しします。先行発売は10月12日(木)です。


 

北海道帯広発の「スロウ」(905円)、四国香川発の「IKUNAS 」(756円)、九州長崎発の「らく」1080円)の三誌の新刊が揃いました。

「スロウ 第52号」の特集は「牧草うまれのチーズ」。北海道の各地で、工夫をこらし、様々な挑戦を重ねて個性的なチーズを生産している酪農家が紹介されています。その中で印象的だったのが、「チーズ工房 小栗」の小栗美笑子さんの言葉でした。大半の牧場が効率経営を目指し、配合飼料中心の屋内飼育がメインですが、草食動物の牛を放牧しない事に疑問を持った彼女は、放牧飼育に踏み出します。生産量こそ減ったものの、美味しいチーズを送り出すことができました。

「介護酪農っていう言葉、聞いたことある?舎飼いの場合、朝昼晩食べ物を与えて。排せつ物の片づけもして……。でも、放牧にしたら、牛たちが自分でできることは自分でやってくれるから。労働的にも楽になりました」勇気を出して原点に帰った人の金言だと思います。

「IKUNAS」最新号の特集は「四国で暮らす」です。他府県から四国にやってきて、この地域に魅力を感じて、生活の場を構えて、それぞれの生き方をしている人達が登場します。こういう企画では、トップには無農薬農家や、陶芸家とかが登場する場合が多いのですが、今回は違いました。松山から車で1時間少しかかる、田園風景広がる場所で、オーダーメイドウェディングドレスブランドを展開している女性です。不便さも、ものづくりの糧にできるのですね。

ところで、産業廃棄物で話題になった豊島って、こんなに魅力的な島になっていたんですね。直島と共に瀬戸内芸術際の人気スポットになりましたが、オフシーズンだからこその愉しみ方もあるようです。周囲20キロ程に小さな島をサイクリングして、面白い場所を巡ったり、ドイツから豊島に移ってきた映像&音楽ユニット「ウサギニンゲン」のパフォーマンスを楽しんだりと、とっておきの時間がみつかりそうです。

地元長崎の情報を発信する「らく」最新号(37号)は、10月7日から9日まで行われる勇壮なお祭り「長崎くんち」の特集です。先ず、山頭範之の写真を楽しんでください。写真集と言っても過言ではないぐらいのボリュームです。京都の街中に住んでいると、祇園祭や葵祭のような雅びなものがメインなので、この力強い祭りは新鮮です。満身の力で鉾を引く男たちの姿、ぐいと前方を睨みつける男衆の勇ましい姿などを、写真家はリアルに、美しく捉えています。

ほぼ一冊丸ごと、長崎くんちの特集ですが、市内にできた「ブック船長」という雑貨&書店が紹介されています。長崎にこだわった本、地図、ポストカードを取り揃えた小さな書店です。本やカードを選ぶだけでなく、プロの編集者が本作りの相談にのってくれるコーナーまで完備しています。こちらも見逃せません。

 

 

★吉田篤弘の新刊「京都で考えた」(1620円)が発売されます。

全国発売は10月20日ですが、京都地区先行販売が決まりました。また、ご予約された方には先着でサイン本をお渡しします。先行発売は10月12日(木)です。


 

 

 

 

愛媛県松山市にある伊丹十三記念館が、文庫サイズのガイドブックを出していました。題して「伊丹十三記念館ガイドブック」(1000円)。多方面で才能を発揮した伊丹の痕跡を、商業デザイナー、俳優、エッセイスト、イラストレーター、精神分析啓蒙家、CM作家、映画監督と、活躍したフィールド別に、さらに料理通、乗物マニア、猫好きという趣味の世界からも紹介していきます。

60年代、映画出演のため滞在していた、ヨーロッパでの日々を綴ったエッセイが、山口瞳編集の雑誌「洋酒天国」に「ヨーロッパ退屈日記」として掲載されました。今なら、「ですよね」とか「なのだ」といった、話しかけてくるような言葉の使い方はフツーですが、当時は極めて珍しいものでした。こういう文体を開拓していったのが、伊丹でした。

ここでは取り上げられていませんが、翻訳家としての伊丹もわすれてはいけません。W・サローヤンの「パパ・ユア・クレージー」は、今もよく読まれていますし、マイク・マクレディ「主夫と生活」(KTC出版)といったエッセイも翻訳しています。これは、仕事を辞めて主夫になった著者が、育児や家事に奮闘した1年間を記録した実録ものです。伊丹の翻訳しそうな一冊です。

このガイドブックで貴重なのは、CM作家として活躍していた時代の作品が取り上げられていることです。CMの画像と解説が一緒になっていて、彼の才気ぶりが伺えます。担当していた「マヨネーズ」CMで「スーパーにおける味の素マヨネーズの正しい買い方」の絵コンテとナレーションが収録されていて、これを見ていると、後年、細部まで拘り続けた映像作家としての伊丹を彷彿とさせます。

愛猫家としての伊丹も取り上げていますが、伊丹自身による猫のイラストが何点か描かれています。絵が上手いのは有名ですが、それにしても上手い!猫好きはぜひ見て下さい。

さすがに記念館が制作しただけあって、父伊丹万作と共に移っている赤ん坊の時の写真とか、小学校時代に作った日記、細かく描いた植物のスケッチ、デザイナー時代の車内吊りポスターの図録まで多方面に渡って集められています。この本片手に記念館に出向きたいものです。

★吉田篤弘の新刊「京都で考えた」(1620円)が発売されます。

全国発売は10月20日ですが、京都地区先行販売が決まりました。また、ご予約された方には先着でサイン本をお渡しします。先行発売は10月12日(木)です。

 

寡作で地味な小説家、結城信一の「空の細道」(河出書房新社/初版/帯/函1400円)は、一人暮らしの老人と、近くに住む若い女性の交流を描いた作品を中心とした短篇集です。

人生の先輩の老人が、やさしく若い女性を見守る話かと思いきや、もうメソメソ、イジイジ老人の独白と妄想につきあうことになります。若い方にはお薦めしませんが、何故かのめり込んでしまう不思議な小説です。

本のタイトルになっている「空の細道」は、これほどまでに静謐で透明な文章で、一人の老人の心の孤独を哀切なタッチで描ききった作品です。

「空の細道」はこんな文章で始まります。

「夏の強い日差しが、やや前こごみの背中に、突刺さる。頭の芯をめぐって、真赤な渦が盛り上がるやうで、ふらつくほどの眩暈がしてくる。………..山形老人は庭の片隅で、もう三十分あまりもうずくまっていた。」

妻を亡くし、娘にも先立たれた老人の日々が、わずか30ページ程で描かれています。病室に担ぎ込まれた老人は、病室の窓から、小鳥たちの通い路になっている細い道路を発見します。その路を見つめる老人の哀惜の表情で、小説は幕を降ろします。

短篇集の後半は、「薄い光が見えてくる夜明けに、戸村老人は起きて、もう居間の椅子にいる。そして、自分ひとりの、朝の珈琲を飲む。次第に明るんでくるのにあはせて、庭先に訪れる二、三の小鳥の短い声が、張りつめたひびきにきこえてくる」という日常をすごす老人と、かおりという若い女性の交流を描いた連作集です。老人の死への思い、若い生命力への憧憬、そして幻想などが交差しながら物語は進みます。かおりとの間には、性的な、あるいは男女間の愛情が存在はしていないのですが、ふと隙間から、それらしきものが顔を出してきます。それは老人の一方的な妄想ではなく、かおりも近づいてきます。それを老いの醜さだとか、死の恐怖から逃れるための手段だとか、そんな言葉で単純に決めつけられないのは、作家が原稿用紙の前で削いで、削いで作り上げた静かな文章の力によるものです。

40代の方、興味があれがどうぞ、50代の方、老いの準備のために、そして60代の方、必読です。

 

★吉田篤弘の新刊「京都で考えた」(1620円)が発売されます。

全国発売は10月20日ですが、京都地区先行販売が決まりました。また、ご予約された方には先着でサイン本をお渡しします。先行発売は10月12日(木)です。

 

 

漫画界の巨人手塚治虫と言えば、「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」等々、子供たちのために明るく輝かしい未来を描きだした作家としての印象が強いです。しかしコミック好きにはよく知られているように、彼には、人間の暗部の底の底まで描ききった、いわば「黒手塚」の作品が存在します。その中でも、ここまで人間を追い詰めるのかと唸ったのが、傑作「ムウ/MW」(全2巻1000円)です。

とある小さな島で、不良グループの人質になった歌舞伎役者の息子、結城美知夫。大金をせしめようとした矢先、その島に隠されていた某国の毒ガスが漏れてしまい、美知夫とグループの一人を覗いて島の住民もすべて死んでしまいます。その後、グループの一員だった賀来は、自分の罪を改め神父の道を歩みます。一方、美知夫はエリート銀行マンとして、着々と出世街道を登っていきます。

実は二人は同性愛の関係にあり、賀来はその事に苦しめられます。しかし、美知夫に出会うと体を許してしまいます。手塚はこの二人の抱き合う所も描写していきます。その美知夫も恐ろしい野望があり、そのためならば殺人、レイプも平気で行っていきます。阻止しようとする賀来も、美知夫に逆らいきれず、地獄の底まで付き合わざるを得なくなっていきます

この本が発表されたのが1989年。同性愛への理解もまだまだなかった時代に、手塚はこの二人の性と生を中心にスケールの大きな物語を作り出しました。あえて、人間の底なしの地獄へと踏み込んだのです。物語の後半は、島に貯蔵されていた毒ガスをめぐる、松本清張ばりの社会派サスペンスへとなだれ込むのですが、物語の大きさ、起伏の巧みさなど、やはり手塚ならではの描写です。

そして、ぞっとするラストが待ち受けています。おそらく従来の手塚作品にはない、人間への不信に満ちた幕切れです。美知夫と愛犬の獣姦っぽいシーンまで入れたこの作品は、目を背けたくなる場面もあるのですが、それでもどんどん読みたくなるのは、作家の力量ですね。

“黒”い作品の代表格「奇子AYAKO」(全2巻1000円)も入荷しています。ぜひもう一つの手塚作品をお楽しみ下さい。

 

 

 

★吉田篤弘の新刊「京都で考えた」(1620円)が発売されます。

全国発売は10月20日ですが、京都地区先行販売が決まりました。また、ご予約された方には先着でサイン本をお渡しします。先行発売は10月12日(木)です。

 

 

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レベッカ・ボンド作「森のおくから」(ゴブリン書房1200円)は、サブタイトルに「むかし、カナダであった ほんとうのはなし」と付いています。著者の祖父、アントニオ・ウィリー・ジローが100年ほど前に経験したことを絵本にしています。

1914年のこと。アントニオは深い森に囲まれたゴーガンダという小さな町に住んでいました。両親は、林業に従事する人、鉱石を取る人などの、長期間森で働く人々のためにホテルを経営していました。幼いアントニオは、大人たちの話を聴くのが大好きでした。そして時には、一人で森に入っては遊んでいました。彼が5才の時、山火事が起こります。火の勢いは激しく、住民もホテルの客もみんなゴーガンダ湖へと逃げ出し、鎮火するのを待っていました。すると、そこへ森の奥から、熊や鹿など多くの動物も湖へ逃げてきて、人々と一緒に山火事を見つめるという出来事が起きます。やがて、火は弱まり、動物達も人間達もやれやれという表情で、なんのトラブルも起こさずに、それぞれの住処へと戻っていきました。

 

ペンと水彩で細かく描き込まれた森や、動物たちの表情、ホテルの様子など奥行きのある絵が美しい。そして、俯瞰で捉えた湖に動物と人々が一緒にいる画面が、次のページでは、さらに近寄り、アントニオの周りにカモシカや狐が集まってきます。動物達も同じ森に住む生きるものとして、住人と静かに佇んでいるなんともステキな画面です。

さて、もう一冊絵本を紹介します。優れた児童文学者でありながら、幻想味たっぷりの怪奇小説で日本でも人気の高いウォルター・デ・ラ・メアが詩をつけて、カロリーナ・ラベイが絵を描いた「おぼろ月のおさんぽ」(岩崎書店1200円)です。

夜空のお月様が、地上に降りてきて、身体は猫になって散歩するというメルヘンです。静寂が支配する森の中を、月光で周りを照らしながら歩いてゆくお月さまの姿が可愛らしく描かれています。

デ・ラ・メアと言えば、橋本治の翻訳した「まぼろしの顔」が傑作ですが、創元推理文庫の収められた「死者の誘い」もいいです。前者は美本なら高額で取引されています。後者は絶版ですがそう高くはありません。(近日入荷します!)

 

 

 

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

 

 

 

確か、50年代のアメリカ映画「スペンサーの山」だったと記憶しているのですが、街を出て都会に向かう青年に、老人が”Today is just another  day……..Have a nice trip” という台詞が、心に残るエンディングでした。

“Today is just another  day” 一見単調に見える毎日。けれども、少しづつ違っている。今日は今日、明日は明日。いい旅を続けてくださいと言われて青年はバスに乗ります。ジム・ジャームッシュの新作「パターソン」を見ていて、この台詞が甦りました。毎日の新しさ忘れずに、いい人生をとでも言いたげな老人の台詞が、響いてきました。

主人公の住むいかにもアメリカの小さな町の名前は、パターソンで、彼の名前もまた同じパターソン。市バスの運転手です。

毎日同じ時間に起きて、簡単な朝食を済ませ、歩いて会社に出向き、バスを運転して、同じ場所でランチボックスを開いて昼食、午後の仕事をこなして帰宅。夜は妻の作った料理を一緒に楽しみ、愛犬と散歩に行き、途中で馴染みのバーでビールを一杯。そんな生活が毎日、規則正しく続きます。映画は月曜日から次の月曜日までを丹念に淡々と描いていきます。

規則正しい毎日とはいうものの、ほんのちょっとした違いが日々起こります。バスが故障することもあるし、バーでの諍いにも巻き込まれる。ここまで書いて来ると、退屈な映画だと思われるかもしれませんが、ちょっと違うのが、この運転手の趣味です。詩作です。運転の前、ランチの後、または自宅で、ノートに思いついた詩を書き綴ります。まるで、微妙に変化する日々を慈しむように、ひたすら書き続けます。

世界の少しの変化を言葉に翻訳するのが、詩人の役割だとすれば、日々、始発のバスに射し込む朝日の輝きや、空の色、散歩の時の夜風の肌触りや、町の雑踏を歩む人々の姿をパターソンは見つめ、拾っていきます。私たちは、彼と一緒にお付き合いするようにパターソンという町をみつめます。そんなに大きな出来事ではなくても、生きていれば様々な事が起こります。まぁ、こんなもんかなぁ〜。上を目指さない、望まない、飄々と毎日を生きるパターソンの姿を、平凡で退屈だとは思わず、しみじみ幸せそうだな、と感じるのです。

「ストレンジャー・ザン・パラダイス」でセンセーショナルなデビューをした時、あの映画のポスターはクールだっだけれど、監督としての力量は、まだ信用していませんでした。が、小津安二郎ばりの映画リズムで展開する「パターソン」の演出には脱帽しました。

カンヌ映画祭で、パルムドッグ賞を受賞した犬の”マービン”の演技もお見逃し無く。

 

 

 

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真左・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

ご近所の出版社ミシマ社より、吉田篤弘の新刊「京都で考えた」(1620円)が発売されます。

全国発売は10月20日ですが、京都地区先行販売が決まりました。また、ご予約された方には先着でサイン本をお渡しします。先行発売は10月12日(木)です。

吉田は、クラフト・エヴィング商會で出版した数々の書籍を含めて当店でも人気の作家です。クラフト時代の作品では、猫、犬というテーマで文学アンソロジーを作った「犬」、「猫」(中央公論新社各900円/絶版)が、個人的にはベストだと思います。装幀のセンスの良さ、それぞれに登場する犬、猫のキャラの可愛らしさもさることながら、例えば猫編で取り上げられている寺田寅彦の「猫 子猫(大正10年発表」は寺田のエッセイストとして質の高さが伝わってきます。また、犬編で取り上げられている徳川夢声のユーモア溢れる「トム公の居候」など、選ばれた作品がどれも楽しい。

吉田のソロワークは、小説、エッセイと沢山あります。ややシュールな展開をする小説には好き嫌いもあると思いますが、「それからはスープのことばかり考えて暮らした」(暮らしの手帳社950円/絶版)などは、特に起伏のあるストーリー展開ではないのに、何故か心に残る小説です。

仕事を辞めた青年が、新しい町に来て、白い十字架が見える家を見つけ、「朝、起きると、まずカーテンをあけ、窓の向こうの白い十字架を眺めて煙草を一本吸う。この十字架も雲と光の加減で、日々、表情が変わってゆく。」という日々を見つめた小説で、初期の村上春樹っぽいニュアンスもありますが、登場するサンドイッチや、ポタージュといった小道具の使い方が絶妙です。

装幀には拘った本作りをしていますが、最近の作品「ブランケット・ブルームの星形乗車券」(幻冬舎1728円)は凝りに凝っています。本の上半分がイラストになっていて文章は下半分に集約されています。絵本のような、小説のような不思議な世界が展開します。

 

吉田篤弘の新刊「京都で考えた」ご予約お待ちしております。 

 

 

 

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします)