京都在住の装丁家、矢萩多聞さんの新刊が、ミシマ社の「コーヒーと一冊」シリーズとして出ました。タイトルは「たもんのインドだもん」(1080円)です。

インド暮らしの長い多聞さんが、何、それっ?と思いつつも、そういう生活もありか、と納得してしまうインドの人々の日常を書いたエッセイです。

すぐに、お前の家を見せてとズカズカ入ってくる話や、別に性的関係があるわけではなく、恰幅のいいおじさん同士や、女性たちが手をつないで闊歩している街中の光景とか、笑える話がリラックスした文章で語られていきます。

いいなぁ〜と思うのは、17歳の頃、はじめてインド人の友だちの家に泊った時のこと。お母さんの手料理がどんどん出て来て、矢萩さんは、どれから食べるのと訊いたところ、こんな答えが返ってきました。

「あなたのお皿はあなたの宇宙よ。順番なんてない。好きに混ぜ、食べなさい。人生を楽しみなさい。」

著者は「皿のなかの自由。なんて美しい言葉だろう。」と感動して、モリモリ食べるのですが、ホント美しい言葉ですね。

楽しい話、ひっくり返りそうになる話の中に、生きることの根本的姿勢にまつわる、著者の経験に出会います。それは、彼が町を歩いてた時、突然、看板が落ちてきたのです。幸いけがはなかったのですが、この国では、路肩にバスが横転していたり、いきなり車が炎上したりなどはよくある事らしい。そういう日常の中で、彼は「たまたまで生きている」ことを確信します。

「大きな事故も、小さなミスも、日々のささいな選択肢の末に、起こるべくして起きているような気がする。良いことも悪いこともごったまぜ。複雑にからまった縦横の糸と糸の間を、祈りながら、忘れながら、綱渡りのように歩くほかない。」

人生は綱渡りだ!多分、日本ではなかなか納得できない考えかもしれません。

著者が晶文社の「就職しないで生きるには」シリーズの一冊として出した「偶然の装丁家」 も近日中に再入荷いたします。併せてお読み下さい。

大阪生まれの写真家、渋谷敦志の新作「回帰するブラジル」(瀬戸内人3996円)が入荷しました。

ブラジルと言えば、ビーチ、サンバ、サッカーというよくあるイメージを払拭してくれる写真集です。決して、この国の政治的、経済的現状が良いというわけではありませんが、写真集に登場する子供たちの笑顔、男たち、女たちの表情に魅せられます。

「憧憬にも似た未知の世界へのまなざしを生きる道標に、撮り手である自分の心を試しながら、そのまなざしのもっと向こう側にあるであろう、未来とも希望とも言っていい光の射す場所を探し求めてきた。それがぼくの写真であり、そのはじまりの場所がブラジルだった。」と、写真家は言います。

その街角の雑踏の音、響き渡る情熱的な音楽が聴こえ、大陸を渡ってゆく熱い風を肌で感じることが出来ます。その先に見えてくるのは、「未来とも希望とも言っていい光の射す場所」なのかもしれません。

この国の原語であるポルトガル語に「サウダージ/Saudade」という言葉があります。郷愁、憧憬、思慕、切なさ、などの意味合いを持つ単語です。ブラジルの歌によく使用されていて、温かい家庭で、無邪気に楽しい日々を過ごした過去の自分への郷愁を思い起こさせるみたいです。そういった複雑な意味あいを兼ね備えた言葉のチャーミングな魅力を、この写真集は表現しています。

 

もう一人、京都生まれの疋田千里のセカンド写真集「A Day in India」(ミニプレス/1300円)も入荷しました。前作でブラジルを撮影した彼女が今回選んだのが、インド。カラフルなインドの姿が捉えられていましすが、決して極彩色のインドではないところが魅力です。この国の青空の美しさが心に染み込む写真集です。

彼女は9月10日(土)〜21日(水)まで、西陣のマヤルカ古書店にて「トラベリング・ウィズ・スパイス」と題して写真展を開催します。10日、11日、19日にはそれぞれイベントもありますので、興味のある方はぜひどうぞ。

「避難….。生活を根こそぎ持って行く言葉だ。簡単に使って欲しくない」

これ、総理大臣の言葉です。と言っても、もちろんあのアベちゃんではありません。映画「シン・ゴジラ」に登場する総理大臣です。

「シン・ゴジラ」は傑作です。捻った怪獣映画です。いや、「会議映画」とでも称すべき内容です。

ゴジラ東京湾に出現!さぁ、慌てふためく政府に官僚。会議につぐ会議。次々と発足する委員会。映画は、丁寧すぎる程、それらの会議を追いかけていきます。まるで、首相官邸と各省庁をジェットコースターに乗って回っている気になりますが、それが面白いのが不思議です(逆に子供には全然つまんないかも)。省庁間の根回しに、駆け引き。決まらない政府の方針。「会議は踊る」です。

一匹の怪獣の出現に政策執行能力なしの状態に陥る、そんな複雑な政治管理システムの中で、私たちは生きていることを映画はリアルに描きだしていきます。怪獣ではなく大地震、原発事故等でも状況は同じさ、と放射能を撒き散らしながらゴジラは首都を蹂躙していきます。徐々に都内が汚染されていく描写は、福島の事故を経験した私たちにとって絵空事には見えません。

さて、進化するゴジラに恐れをなした国連やら大国は、日本に核攻撃してしまえという決定をします。そう、これは日本への三度目の核攻撃の恐怖まで描き出します。もちろん、そんな攻撃の引き金を弾くことなく終わるのですが、しかし、引き金に手をかけたままというのがゾッとします。

もう一つ、この映画の見所は、東京の殲滅する姿が徹底的に描かれていることです。ゴジラも凄まじいのですが、迎え撃つ方も、山手線列車に爆弾搭載して突っ込む、超高層ビル群をミサイルで破壊してゴジラを下敷きにする、などまるで地獄絵です。もちろん特撮技術の進化ということもあるでしょうが、「エヴァンゲリオン」を世に送り出した、庵野秀明監督の美意識とオタク度が見事に作品に投影されています。

ラスト、ぶっ壊した東京駅に屹立するゴジラの姿は語り継がれると思います。

 

 

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「何気なく机の上を見ると、真っ黒な紙が何枚か置いてあり、その横に原稿用紙と万年筆があった。この時、吸い寄せられるように、机に近づいた。真っ黒な紙は原稿用紙の裏紙で下書きを推敲したあとであった。鬼気迫るものがあった。」

これは、立原正秋が治療のため入院していた病室に、著者高橋一清が訪れた時のワンカットです。高橋は、昭和文学史を代表する司馬遼太郎、松本清張、遠藤周作、中上健次、辻邦生達に寄り添った編集者。文藝春秋入社後、多くの作家のデビューに立ち会った高橋が思い起こす数々のエピソードを綴ったのが「編集者魂」(集英社文庫350円)です。

偉大な文学者の側面を知る本としての価値もさることながら、明晰な文章で読ませる、作家を巡る短編小説の如き趣きのある一冊です。中でも立原を巡るエピソードは、素敵です。

立原亡き後、遺品として渡されたネクタイ。著者は、自分が担当した作家が、芥川賞、直木賞を受賞した作家の授賞式につけることを決めていました。それは、天国の立原に見ていてくださいという意味を込めていました。しかし、一度だけ違う日につけました。それは、

「立原潮(長男)さんが夷に開いていた『懐石 立原』を初めて訪れた日である。『これに見覚えがありますか?」と尋ねたら、潮さんは深く頷いて、顔を上げずに調理場へと消えた」

その情景がありありと浮かぶ幕切れです。

大学時代愛読した辻邦生の項では、「先人の文章では、横光利一を筆写して、感覚的な内容をいかに文章化するかを学んだとうかがった。志賀直哉は中学生の頃に書き写し、詩的完璧さと清澄さにおいて日本の散文の最高のものとして、謙虚に学ぼうとした」と、辻の言葉が書かれています。

成る程、その膨大な研鑽と努力が、みずみずしい感性と豊かな想像力に支えられた壮大な物語が出来上がったのですね。

ところで、文藝春秋には、もう一人、深い情感を湛えた文章を書く編集者がいました。湯川豊。最近では「星野道夫 風の行方を追って」を出版しています。(もちろん、発売と同時に購入、ゆっくりと読んでいます)。渓流に溢れる生命の輝きを描写した「夜明けの森、夕暮の谷」(マガジンハウス/絶版1100円)は、その代表作だとおもいます。

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『微花(かすか)とは、図鑑です。名ざせない植物、との距りの。季刊誌です。その名を知るまでのひとときの季節の。目ざましいものではなくてかすかなものを、他をしのぐものではなくて他がこぼすものを、あらしめるもの、またあらしめようと目ざすこころみです。』

と書かれたミニプレス「微花」の写真展「名ざせない植物との距り」展が始まりました。

初めてこのミニプレスを持って来られた時、街角に咲く花々の写真と文章だけで構成された中身を見て、優しい、微かな感じをどう受け止められるのだろう、売れるかな〜と半信半疑だったのが、なんと、いつも完売で、自分のセンスの無さに気づかされた、と店長が反省しきり。

「微花」には、レアな花もなければ、美しさを競い合うようなゴージャスな花もありません。人知れず、ひっそりと咲く花々ばかりなのですが、改めてその美しさに目を止めて、その花の向こうに広がる、それぞれの季節の空気をみることができます。

 

そんな素敵な写真を是非、ギャラリーで多くの人に見てもらいたいということをお願いしたところ、著者のお二人に快諾していただき、今回の開催となりました。

展示方法が素敵です。花によって、作品の大きさは違っていて、上方を見ると空が広がり、例えばネムノキが揺れています。百日紅は、毎朝御所の散歩で見ていますが、切り取った画面だと、また違った花にみえたりします。落ちた木槿、一日花と言われるように毎日散ってしまう花ですが、それがまた瑞々しくもあわれで美しい。中でも私は、有刺鉄線の内側に咲くセイタカアワダチソウの風景がとても好きです。

柳、ハナミズキ、椿、どれも身近にある植物ですが、こうして二人の目線を通して見ると、初めて見る様な新鮮な驚きがあります。どうして今まで気づかずに通り過ぎてきたんだろう、と急ぎ足の時間をちょっと緩めて、深呼吸してみたり。

残暑厳しい京都の街中で、少し足下をみたり、空を仰いだりしてみませんか。(女房)

微花写真展「名ざせない植物との距り」 

8月27日〜9月4日(日)月曜定休 12:00〜20:00

 

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「夏の一箱古本市」終了後、数日間お休みをいただき、北海道へと向いました。

台風が北海道に上陸して被害も伝わる中、当日はまたもや台風が関東方面に…..。飛行機は定刻通り飛んだものの、釧路はやはり雨でした。

出迎えてくれた鶴居村の宿ヒッコリーウインドオーナー、安藤誠さんは、ネイチャーガイドでありプロカメラマン。握手するなり「今から、知床に向かうよ。」って、この雨の中を??

数時間のドライブで着いた所は、鱒が遡上する「さくらの滝」。恐ろしい水量の川を、果敢にアタックする姿を見て、ワクワク!その後、神秘的なコバルトブルー色の「神の子池」に向かいました。摩周湖からの地下水が湧き出ている山の奥にある池で、摩周湖(カムイトー=神の湖)の伏流水からできているという言い伝えからそう呼ばれています。周囲220m、水深5mの小さな池で、 水が澄んでいるので底までくっきりと見えます。

 

翌日は快晴。お約束のカヌーツアー・・・・しかし、河に行かず、山の中へ。安藤さんと、ネイチャーガイド研修生ケンちゃんが、30キロのカヌーを担いで、森の奥へと向かいます。立て看板には「ヒグマ出没注意」。道なき道を抜けて到着したのは阿寒国立公園内「ひょうたん沼」。

辺り一帯を支配する静寂。滑るように湖面を移動するカヌーのパドルの音だけが聞えます。東山魁夷の作品のような森の風景。大きな自然に抱かれている心地よさとはこんな情景のことなのだと思いました。

安藤さんはまたギターリストでもあり、音楽好き仲間として、会えば話が盛り上がる関係で、その夜はヒッコリーウインドに、ギタリストの藤本裕治さんが駆けつけ、突然のライブ。素敵なブルースで夜が更けていきました。

翌日は、釧路の西北、白糠町で義弟がやっている茶路めん羊牧場で、牧場が運営するレストラ「クオーレ」に行き、羊肉を使った料理を楽しみました。「クオーレ」は昨秋開店し、地元の若いシェフが、美味しい料理を出すという評判をもらっていて、今回の旅の目的の一つでした。メインディッシュの「仔羊のロースト 季節の野菜添え」(写真右)は絶品。暮れてゆく牧場風景を遠くに見ながら数日のバカンスは終了となりました。

 

★なお、毎年当店で開催している安藤誠「安藤塾」は10月末を予定しています。正式な日時が決まりましたら、お知らせします。今年もまた美しい写真と共に、楽しい話が聞けると思いますよ。

「夏の古本市」本日最終です。酷暑の中、多くの方にご来店いただき、まことにありがとうございました。参加して頂いた26店の皆様、素敵な本をありがとうございました。

古本市開催中も、色々と面白い本が沢山入荷しています。ミニプレス「公園道具」(864円)の第4集です。写真家、木藤冨士夫が都内の夜の公園で、遊戯道具やら、オブジェに照明を入れて撮影したものを集めた写真集です。(Vol.1〜3は完売です)

不思議な世界が展開します。蛙の口から飛び出したすべり台の写真が表紙ですが、このカエルまるで生きているみたいで、夜な夜な、子供たちが遊びに来るのを待っているのかもしれません。

今回、同時に、木藤さんの作品集「ZOO COLLECTION」(1544円)も入荷しました。白黒で撮影された動物たち。彼らの全体像を撮るのではなく、その一部分をクローズアップした作品で構成されています。

彫刻のような象の鼻、暗闇に浮かび上がるシマウマの模様、遥か彼方を見つめる羊の眼、地獄からの使者のようなワニの顔、深い対話をしてくれそうなキリンと多種多様な動物たちの表情を見ることができます。

 

 

京都発の文芸雑誌「APIED」(648円)。最新号の特集は「小説と映画」。色んな映画とその原作にまつわるエッセイ満載ですが、その中に、小川洋子の「猫を抱いて象と泳ぐ」に関しての文章をみつけました。

えっ、この小説映画になってた??と読み始めると、これ筆者の妄想でしたが、なかなか面白い。かつて、ミニコミ雑誌でベスト映画を選んだ時、「埴谷雄高の『死霊』を香川照之の主演で観たい」とユニークな意見を書かれただけのことはあります。

小川洋子の作品では、「薬指の標本」がフランスで映画化されています。筆者は、フランス映画なのにまるで違和感がなく、「物語にほぼ忠実で妖しさと静謐さ、幻想的な香りは失われていない」と書かれています。私は映画は観ていませんが、原作の「妖しさと静謐さ」はヨーロッパ的だなと思いました。確か、「人質の朗読会」(中央公論新社800円)はWOWWOWでドラマ化されましたが、これは渋い役者一杯のアメリカで映画化してもらいたい。できれば、映画で物語を語ることをよく知っているクリント・イーストウッドに演出してもらえれば最高ですね。

 

★勝手ながら8月21日(日)〜25日(木)夏休みをいただきます。

よろしくお願いします。 

 

 

 

明日で夏の古本市も終了です。後半になっても、多くのお客様にご来店いただきありがとうございます。鰹の一本釣の如く、いい本を釣り上げるお客様の腕前を、驚きながら拝見しています。

「こんな本あります」の紹介も本日で最後。ぎりぎりまで参加店の箱を覗いて、面白そうな本を紹介させてもらいます。

さて、一番手は絵本「みそかいばし」。夢を主題とした民話をもとに作られた絵本を武井武雄が描いています。江戸時代、夢に現れた仙人の言葉を信じたちょうきちのお話。武井独特の渋い色彩と洗練されたデザインが、やっぱり素敵です。

一応、子供向けの絵本ですが、大人も十分楽しめるのがH.A.レイの「星座を見つけよう」です。どの星とどの星を結びつけるのかを、簡単に学べます。星座の説明に始まり、天文学で使用する「光年」という単位の解説、季節ごとの星図の紹介まで、一通りの天文の知識が得られます。私の星座はふたご座。これは黄道の星座のひとつで「火星や金星などのような、わく星をみつけるのにべんりだ。だから黄道星座は宇宙旅行に関心をもっている人たちには、とてもたいせつなのだ。」なんて解説も見逃せません。

「介助犬ターシャ」という素敵な写真絵本を出した大塚敦子の「さよならエルマおばあさん」も、子供にも、大人にも読んでほしい一冊です。

死期の迫ったエルマおばあさんの、最後の一年間を撮った作品で、おばあさんと仲良しの猫が、彼女の最期を語っていきます。これはとても幸せな死を写真にした一冊ですが、ポツンと庭に座る猫のラストショットは演出とはいえ泣かせます。このショットの前に、おばあさんの友人たちが一堂に会した写真が載っていますが、みんなの口から語られる思い出を通して、おばあさんが記憶の中に生き続ける姿が見えて来ます。死を語る事を避けないで、ホスピスケアを写した優れた本です。

今回、出品されている多くの図録を紹介できませんでしたが、一冊だけご紹介。1984年京都市立美術館で行われた「バルチュス展」の図録です。「バルチュスの世界の持つ不思議なーそれ故に魔力的なー特色のひとつは、その異様なまでの静けさである。」と高階秀爾は書いていますが、その事を納得させられる「コメルス・サンタンドレ小路」。とある街角にたむろする人々。大人に子供、若い女性におばあさん、それに犬まで描かれているのに、生の匂いが立ち登ってきません。ぞおっとする静けさの漂う世界に、逆に心惹かれます。

 

★本日の紹介本一覧 (「書名」/出版社/価格/出品店)

「みそかいばし」(フレーベル館/1500円/おひさまゆうびん舎) 「星座を見つけよう」(福音館/500円/葉月と友だち文庫)「さよならエルマおばあさん」(小学館/300円/マヤルカ古書店) 「バルチュス展」(図録/800円/葉月と友だち文庫)

★レティシア書房 夏の一箱古本市は8月20日(土)まで開催中 (最終日は18時まで。)

★レティシア書房 夏休みのお知らせ 8月21日(日)〜25日(木)

 

 

タイトルだけで判断してはいけないという一冊のご紹介です。吉野朔実の「お母さんは『赤毛のアン』が大好き」。表紙には「赤毛のアン」っぽいイラストが描かれているので、ああ、アンの関連本ね、などと思ってはいけません。ポール・オースターに始まる書評集、それもマンガで綴られています。取り上げられている本は、文芸、サスペンス、エッセイと何でもござれですが、幅広い趣味に驚きです。今回、出品されている文庫版には、「偶然と貧乏の達人ポール・オースター」と題して、筆者と柴田元幸との対談が掲載されています。同じ作者で「お父さんは時代小説(チャンバラ)が大好き」は、尾崎放哉から始まります。

マンガ家が登場したとことろで、もう一作ご紹介、安野モモヨ、山本直樹、古谷兎丸、吉田戦車等第一線で活躍しているマンガ家にインタビューしたのが「マンガの道」。エロマンガの新天地を開いた山本直樹が、自作「ビリーバーズ」のモチーフになっているのが、連合赤軍のメンバーが書いた本に影響を受けている話や、音楽漫画「BECK」のハロルド作石が、マンガで音楽を表現することの難しさの一方で、「逆に、音が出ないからみんながすごい音を想像してくれるっていうので、得してる。」と語っているのも面白いところです。

岡崎武志著「上京する文学」は、30歳を過ぎて上京した自らの人生から、元々の東京っ子ではなく、地方から上京した文学者の期待、不安、孤独、葛藤を書いた作品です。取り上げられている作家は18名。斎藤茂吉から村上春樹まで、上京者たちの心の内側へと迫ってゆくルポルタージュ。この中で宮沢賢治が、37年の短い生涯の中で9回も上京していたことは、賢治ファンの私には驚きでした。16時間あまりの東京への長旅の中で、様々な幻想に浸っていたはず。それが「銀河鉄道の夜」へと繋がったのかもしれません。最後に村上春樹が登場しますが、「村上作品には『一人っ子』として孤独を繰り育てた者にしか描けない透明な空気感がある」という論は是非お読みいただきたい。

 

★本日の紹介本一覧 (「書名」/出版社/価格/出品店)

 「お母さんは『赤毛のアン』が大好き」「お父さんは時代小説(チャンバラ)が大好き」(角川文庫/各250円/徒然舎)

「マンガの道」(ロッキング・オン/900円/ブックスダカラ)

「上京する文学」(新日本出版社/400円/古書てんてん堂)

 

 

 

 ★レティシア書房 夏の一箱古本市は8月20日(土)まで開催中 (最終日は18時まで。)

★レティシア書房 夏休みのお知らせ 8月21(日)〜25(木)


 

 

 

 

 

 

いよいよ、古本市も残り4日! まだまだ、面白い本があります。

例えば、和田誠「倫敦巴里」。和田のギャグ精神満載の抱腹絶倒の一冊です。表紙をめくると、今話題の「暮しの手帖」っぽいページが登場。しかし、そこに書かれているのは「殺しの手帖」。並べられたガラス瓶にはドクロマークが付いていて、これらが毒薬であることがわかります。その後に「毒入りおそうざい」コーナーとか、「殺しの中で考える」とか。いかにも「暮しの手帖」風に展開します。極めつけは、「殺しの手帖」社発行の本の告知です。いわく、

「巴里の空の下 硝煙のにおいは流れる」「家中みんなの凶器」「こんなとき殺し屋はどうしたらよいか」

決して愚劣なパロディーにならないところが、和田の品性の良さとレベルの高さです。例えば、ビュッフェ風「鉄人28号」レジエ風「鉄腕アトム」などの見事なこと!その真骨頂は、アメリカ大統領ニクソンを、「夢は夜開く」の替え歌で皮肉った「ニクソンの夢は夜開く」ですね。

本を持った瞬間に、これ面白そうと思わせるものってありますよね。三浦しおん「本屋さんで待ち合わせ」もそんな一冊です。これは、彼女の書評集なのですが、最初に登場するのは「女工哀史」。しかも、この本に「萌える」???というところからスタート。成る程、こういう書評の書き方ありなのかと唸りました。セレクトされる本も、はぁ?、へぇ〜の連発。例えば永井義男「江戸の下半身事情」で、彼女はこう書いています

「なによりすごいのは、下半身事情を日記などに記録した江戸時代人が大勢いたことだ。もちろん、それを丹念に拾い集め、江戸初心者にもわかりやすく教えてくれた本書の著者のすごさは言うまでもない」

本を読む楽しさ200%詰まった一冊です。

もう、一冊。鈴木明「追跡」。サスペンス小説ではありません。時代は幕末。戊辰戦争最後の五稜郭の戦い前夜。函館で撮影された一枚の写真。日本、フランスの軍人8名が写っていますが、この写真から明らかにされる幕末の日仏交流の姿を追いかけた歴史ノンフィクションです。著者はこの写真を見た時、奇妙な感情に左右されます。ここに写っている武士たちが、「日本刀を持っていない」事実に注目したところから、彼の幕末への旅が始まります。激烈な戦闘状態にあるにもかかわらず、帯刀していないなんておかしい。膨大な資料の山と格闘しながら、8人の軍人のその後を追いかけることで、この時代を浮きぼりにしていきます。そういう意味で「追跡」は的を得たタイトルです。

★本日の紹介本一覧 (「書名」/出版社/価格/出品店)

「倫敦巴里」(話の特集/1800円/徒然舎)「本屋さんで待ち合わせ」(大和書房/450円/ユニテ)「追跡」(集英社/500円/本は人生のおやつです)

 

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