本に関する、面白い企画や話題満載のミニプレス「BOOK5」が、本日発売の22号をもって終了することになりました。レティシア書房オープン時から、お世話になり、毎号楽しみながら読んできました。古書店初心者だった私には、学ばせてもらうことも多かった雑誌です。

最終号の特集は年末恒例の「今年のアンケート」です。毎回、豪華メンバーで岡崎武志、世田谷ピンポンズ、林哲夫、萩原魚雷、山川直人、南陀楼綾繁、宇田智子、内堀弘、島田潤一郎、木村衣有子、そして銀閣寺「善行堂」まで、本好きなら知っている人のオンパレードです。

今年出た本のベストではなく、その人の読んだ本のベストなんで、多種多様な、出版された年代もバラバラなものがあげられています。

岡崎さんが、夏葉社の「移動図書館ひまわり号」をベスト3の一冊に上げておられます。「フロンティア精神と『図書』魂の美しい結合。」と評されていますが、同感です。

私が読みたい本として購買リストに入れている、宮田昇「小尾俊人の戦後 みすず書房出発の頃」(みすず書房)は人文出版社みすず書房の戦後を描いたノンフィクションです。推薦者の南陀楼綾繁さんは「小さな出版社や書店を経営している(もしくはこれからはじめようとしている)人にはこの本を読んでほしいと」と書かれていますが、出版社立ち上げの情熱がひしひし伝わってくる本だと思います。

ミニプレス「のんべえ春秋」や「コッペパンの本」で、当店でもお馴染みの木村衣有子さんは、「福島第一原発廃炉図鑑」(太田出版)を上げていましたが、彼女は今、東京と福島を行ったり来たりの生活らしいです。福島第一原発の仕組み、周辺の見所を真正面から描いた本とのこと。興味ありますね。

で、私のベスト3は、よくここまで自分をさらけ出したと感心した山下賢治「ガケ書房の日々」(夏葉社)、泣いてはいけないと思いながらページを捲った河崎秋子「颶風(ぐふう)の王」(角川書店)、没後20年を記念して出版された湯川豊「星野道夫 風の行方を」(新潮社)です。

「BOOK5」の特集では、本以外で印象に残ったことを取り上げるコーナーもあります。その中で、岡崎武志さんがNHKドラマ「夏目漱石の妻」を評価しながら、大河ドラマで関川夏央&谷口ジローのコンビによるコミック「漱石とその時代」を取り上げるべきだとおっしゃってますが、いや、それは是非是非ドラマ化してもらいたいものです。

なお「BOOK5」はバックナンバーも在庫しています。

 

 

★レティシア書房 年末年始休業のお知らせ

12月29日〜2017年1月4日まで休業いたします。新年は1月5日から平常通り営業いたします。

真っ赤な外函を取ると、出てくるのが、やはり赤一色の装幀の表紙。”History of Modern Art”という文字がうっすら浮かび上がっています。トータルで750ページの偉容を誇るこの本は、H.H.アーナスン著「現代美術の歴史」(美術出版社/初版5000円)です。

近現代美術史に始まり、今世紀の現代美術を下記の様に区分して追いかけて行きます

フォービズム→ドイツにおける表現主義→キュビズム→キュビズムの波及→20世紀初期の建築→幻想からダダへ→そして新即物主義→両大戦間のエコール・ド・パリ→シュルレアリスム→建築における国際様式→両大戦間の国際的な抽象美術→両大戦間のアメリカ美術→抽象表現主義とアメリカの新しい彫刻→戦後のヨーロッパ絵画と彫刻→ポップア−ト→1960年代の抽象→建築における国際様式 第二の波動→ポストミニマルの70年代→多元的な70年代→借用の80年代→建築におけるポスト・モダン

読むのに大変な労力の要る大著ですが、白黒、カラー図版を惜しみなく使用しているので、私などは、お気に入りを見つけて、その作家の項目を読み始めるのがベターです。

ところで、こういう美術の作品ってステキなものが多いせいか、CDジャケットに使われていんですね。3枚見つけました。また、アレクサンダー・コールダーの「ロブスターの捕り器と魚のしっぽ」というモビール風の作品は、海外の映画会社のロゴ宣伝に使用されていることを発見しました。映画のオープニングでモビールがゆらゆら揺れている横に会社のロゴが出てくるのをご覧になった方もおられると思います。ひょっとしたら、本の装幀に使われているのも見つかるかも。因みに発売された(1995年)のお値段は25000円です。

さて、豆本を作っておられる、杉本さんの新作が4点届きました。アポリネール「アムステルダムの水夫」、夏目漱石の「硝子戸の中」、小川未明の「橋の上」、石川啄木の「第十八号室より悲しき玩具抜粋」の四冊です。すべて素敵な装幀が施されています。

小川未明の「橋の上」は、和綴じの表紙に夕闇迫る川辺の橋を描いてあるもの。泣き止まない子どもに手こずる夫婦、誰もいない橋の上で、彼らを見つめる黒い影を描いたちょっとゾッとする小川らしい小品ですが、この表紙の絵がその世界にピッタリです。本好きの方へのプレゼントに最適です。ここだけにある本ですから。お値段は横7.5cm×縦9.5cmの豆本各1620円です。(限定販売)

 

 

 

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「テイク・ファイブ」という有名なジャズの曲があります。確か、煙草のCMでも使われたいたので、広く知られていると思います。

この曲をパキスタンの音楽家が、インドの楽器シタールとパーカッション、バイオリンのアンサンブルで演奏して、それがyoutubeで公開され、あれよあれよという間に広まり、本場NYのジャズミュージシャンと共演を果たすまでを描いた映画「ソング・オブ・ラフォール」。これ、ミュージシャンのサクセスストーリーと思うと、違うんですね。

「ロリウッド」と呼ばれるパキスタン映画産業の中心都市、ラホール。しかし、70年代後半から、時の政権がイスラム原理主義を強化し、音楽活動が制限され、90年代に台頭し始めたタリバンによる歌舞音曲の破壊によって音楽の世界は衰退の一途を辿ります。

そんな中、一部の音楽家たちが伝統音楽の継承、再生のために立上がります。往年の音楽職人たちを集めて楽団「サッチャル・ジャズ・アンサンブル」を結成し、シタールやタブラなどの古典楽器を用いて、ジャズに挑戦します。このままでは、パキスタンの長い伝統に培われた音楽は消えてします。その危機感が「テイク・ファイヴ」を全く新しい音楽として甦らせます。え?え?これがあの「テイク・ファイヴ?」と、最初は戸惑いましたが、びよろ〜ん、びよろ〜んと鳴り続けるシタールと、渋い音色のパーカッション、タブラのサウンドはなかなか気持ちいいのです。アジア的というか、哀愁溢れる異国情緒満載です。

映画は、直接的に今日のパキスタンの政治状況を描き出すことはしませんが、音楽が自由に演奏できないこの国の現状が見えてきます。NYのジャズミュージシャンに迎えられて、大劇場で本場のオーケストラと共演するのですが、俺たちのジャスをアジアの小国がやってるから、暖かく迎えてやろうみたいなアメリカ人の奢りも感じました。

しかし、NYの路上でゴミバケツを引っくり返して、パーッカションにして音楽を奏でるミュージシャンに、「俺たちと同じ貧しいミュージシャンだね」と彼らが拍手するところは素敵でした。

 

「全世界に知ってほしい。パキスタン人は芸術家でテロリストじゃないことを」

という台詞が染み入る映画でした。

監督はシャルミール・ウベード=チナーイ。パキスタン、カラチ生まれ。人権や女性問題を主題としたドキュメンタリーを多く手がけるドキュメンタリー監督、活動家。それらの短編ドキュメンタリーの数々は世界中の映画祭で賞を受けています。本作が初の長編ドキュメンタリー映画です。

 

 

 

★レティシア書房は12月29日〜2017年1月4日まで休業いたします。新年は1月5日から平常通り営業いたします。


内外で高い評価を受けている映画監督、是枝裕和。「そして父になる」「海街ダイアリー」「海よりもまだ深く」などご覧になった方も多いと思います。

是枝監督が、これまでの表現活動を語った「映画を撮りながら考えたこと」(ミシマ社2592円)は、面白い一冊でした。映画監督の本ですが、細かい技術論や、抽象的な映画表現論ではありません。彼はTVドキュメンタリーの出身なので、自分が育ったTV界に言及している部分が多く、日頃何気なく見ているTVのバックステージのことも描かれています。

今、恐ろしく保守化しているこの業界ですが、60〜70年代にかけては、かなりアナーキーな状況でした。是枝は、当時の少年の人気ナンバーワン番組だった「ウルトラマン」シリーズで脚本を書いていた佐々木守を取り上げていました。佐々木は、積極的に戦わないウルトラマンを書いています。「戦いの根拠になる正義がない」というスタンスでこのヒーローを描いていたのが、少年だった是枝には新鮮だったと回想しています。その後、TVは、新しい表現を求めない場所へとシフトしていきます。

吉田秋生のコミック「海街diary1/蝉時雨のやむ頃」を映画化した「海街diary」は素敵な作品でした。鎌倉に住む四人の女性の日々の細やかな感情にゆらめきを描いているのですが、彼が参考にしていたのは、何度も映画化された谷崎潤一郎の「細雪」だったことも、この本で知りました。

一人の表現者が、TV映像にしろ、劇場映画にしろ、業界の悪しき慣習や、体制に抗いながら己の世界を創り上げてゆく物語として、一気に読める本でした。

さて、是枝を育んだTV界に、創成期から今日に至るまで包括的に楽しく読ませてくれるのが、荒俣宏の「TV博物誌」(小学館900円)です。

1961年から69年まで続いた刑事ドラマ「七人の刑事」は、今日の刑事ものの原点とも言える作品ですが、この番組を演出した今野勉とのインタビューも掲載されていて、「月光仮面」「鉄腕アトム」等々を見ながら大きくなった僕たちテレビっ子には、興味のある話ばかりです。一方、大阪局で、東京発の番組とは全く世界の違う高視聴率を稼いだ「番頭はんと丁稚どん」「スチャラカ社員」「てなもんや三度笠」を製作した澤田隆治を通して、何故、関西発の番組はこうも異質なのかを論じています。「アタリ前田のクラッカー」なんて、ある年齢以上でないと全く通じないでしょうが、毎週楽しみでした。

 

 

彼女のフェルトは、一言で言えば「男前」。「こすりの加藤」と自称されるくらい縮毛をかけるので、しっかり感がちがいます。しっかり堅いけれど、羊毛なので、手に取ってみると驚くほど軽く、暖かい。

加藤ますみさん(ZUS)のフェルト展は、2014年12月に初めて開催しました。2015年がヒツジ年だったので、羊毛でヒツジをたくさん作って頂けたら楽しい!とお話したら、即座にのってくださいました。「次は酉年に向けて、きっと2016年12月に!」という約束とおり、たくさんの鶏たちを引き連れて来て頂きました。親子の鶏は、「干支セット」として飾ってもらえるものと、ポケット代わりのバッグがあります。どちらも動物キャラを得意とされている加藤さんの、なんとも愛らしい作品です。

私が欲しいな、と思っているのは「お座布団」(写真上・1枚10000円)。中綿がはいっていなくても、フェルトが二重なので十分暖かくて、編んでいるものより季節を選びません。お尻に敷くのがもったいないからと、大切なものを並べるマットとして購入された方もいらっしゃっいました。「これはね、防災グッズになるんですよ。」と加藤さん。頭にのせたら頭巾のようになって、熊本のお友達に喜ばれたとか。フェルトは燃えにくいし(少しは焦げる)、水にも強い。防災グッズにはもってこい。動物の毛ってすごいです。

リュックサックも、軽くて美しいものが並びました。リュックを背負うと暖かいっていうのは、これからの季節、なんだか嬉しいですよね。2年ほど前から年に2〜3個作り続けておられる大作「キャリーバッグ」も、ぜひ実物をみてください。気の遠くなるほど時間のかかる作業だろうと思うのですが、「時々、大きなものが作りたくなる。」と、またまた男前なお言葉。どこまでも力強い。ご本人も作品もますます好きになります。

もちろんお馴染みの動物キャラのキーホルダー・ペットボトルホルダーも、人気のスリッパもたくさん並びました。今回新しく「ICホルダー」(イヌ・ネコ)も定番に加わりました。暮らしの中から、楽しくてユニークな発想を形にする実力者、加藤ますみさん。何かと忙しい時期ではありますが、彼女のステキなフェルト作品に、ぜひ触れてみてください。(女房)

★「ZUS HAND MADE FERT」展は12月28日(水)まで。

 月曜日定休(最終日は18時)

 

★レティシア書房は12月29日〜2017年1月4日まで休業いたします。新年は1月5日から平常通り営業いたします。

 

 

 

 

新しいミニプレス「季刊25時」が届きました。

「一日の終りでもあって、始まりでもある25時。好きなお店に立ち寄ったとき、ちょっとページをめくりたくなる。そんな雑誌があってもいいんじゃないかという思いから生まれた冊子です。」という主旨で大阪の(株)経堂福島出版社が発行。

「自分の時間に楽しめて、新しい発見やちょっとした教養に触れる酒場雑誌」というのですが、もちろん酒場に行かなくても、ポケットに入れて、通勤、通学の帰り時分に読むのにいいかも。中身はこんな具合です。

1号「歌謡曲、大好き」

巻頭インタビューは、元祖ご三家の一人、西郷輝彦です。代表作「星のフラメンコ」はかっこ良かったです。インタビューによると、65年当時なんと、1年間にシングル13枚をリリースとか。さらに玉置宏の流暢なMCで始まる「お口の恋人ロッテ提供、ロッテ歌のアルバム」(50代以上の方には涙ものですな)の他、すべて生放送の歌番組に出演し、ヒットした歌を直ぐに映画にする「歌謡映画」まで主演と、超多忙な日々。歌謡曲黄金時代の話満載の号です。

 

2号「ぼくたちの大好きな伊丹十三」

こちらの巻頭インタビューは、伊丹と親交の深かったフードコラムニスト、門上武司さんが、私もぜひ行ってみたい松山市にある「伊丹十三記念館」を巡りながら、マルチな才能を発揮した伊丹の魅力に迫っていきます。どの分野でも豊富な知識と蘊蓄を持つ伊丹ですが、それが嫌味にもキザにもならない。そのことを門上さんはこう考えています。

「知識がどこかからの受け売りではなく、一度自分のなかで吟味して咀嚼して、血肉化したあとの発言であること。最後は、経験というのかな、実績というのかな、伊丹さんが生きてきた時間や世界が圧倒的なので説得力の度合いが違いますね、だからでしょうね。」

究極のスタイリスト伊丹十三の魅力が詰まった一冊です。

8号「加点主義で行こう」

ん?加点主義って何だ?平たく言えば、人の悪いところを積み重ねて、その人の価値を減点してゆくよりも、良いところを加点していこうよという考え方で、当雑誌の編集者でもあるタレントの松尾貴史と、脳科学者茂木健一郎との突っ込んだ対談を通して、読者に提示していきます。茂木は、人の評価の仕方はもっと多様であってほしい、しかし、この国にはそういう流れがなくなってきている、と危惧しています。

この対談のあとに「加点して生きてゆく人への応援歌」として各界の著名な人達の言葉が採録されていて、どれも説得力があるのですが、その中から写真家、土門拳の言葉

「気力は眼にでる 生活は顔色にでる 年齢は肩にでる 教養は声にでる」

或は、水木しげる「少年よ、がんばるなかれ」

そして意味深なタモリの言葉「わたしもあなたの作品の一つです」と、フムフムの連続です。「25時」は各500円(税込み)。

江戸文化研究家の田中優子著「江戸の音」(河出書房新社700円)は、江戸時代の劇場、街角に流れていた三味線の音色をもとに、江戸のモダニズムと深い音楽性を考察する刺激的な一冊です。

能「安宅」を歌舞伎にした、お馴染み「勧進帳」。「安宅」は他の能の演目同様に、極めてストイックな舞台で粛々と進行していきます。ところが、歌舞伎「勧進帳」になると、緋毛氈が舞台後方に横一文字に引かれ、ズラリと三味線の弾き手が並びます。幕明きは、能の謡いで始まるのですが、突如三味線のアンサンブルが始まると、もう別世界。エキサイティングでスリリリングな舞台へと進んでいきます。本書はそういった解りやすい例をあげながら、音という視点で江戸を見てゆくユニークな一冊です。武満徹との「江戸音曲の広がり」はぜひ一読していただきたい対論です。

京都在住のマリンバ奏者でエッセイストの通崎睦美が、平岡養一の生涯を描いた「木琴ディズ」(講談社1550円)も面白い本です。

平岡養一は、明治40年生まれ。独学で木琴を学び、当時、木琴奏者の王国だったアメリカに単身渡航し、なんとNBC専属の奏者になり、日米開戦まで演奏を続け、世界一の木琴奏者にまで上りつめました。そして、戦後、独特のスイング感覚で国民的音楽家になっていきました。その音楽人生を追いかけていきますが、実は、皮肉なことに著者の演奏するマリンバの日本上陸で、木琴の時代が幕を閉じることになっていきます。「天使突破一丁目」、「通崎好み」等のエッセイでお馴染みの著者が、300数ページに渡り、波乱に満ちた男の人生を描ききっています。

そして、もう一点。これは本ではないのですが、ディズニーの古典的映画「ファンタジア」の3枚組レコードです。中に映画「ファンタジア」の画集が入っているのですが、これが貴重です。この映画は1940年、ウォルト・ディズニー製作によるアニメーション映画で、本格的にクラシック音楽を駆使した画期的な作品でした。フィルムの精度も映画技術も、今日とは比較にならない程貧弱だった時代に、これ程優れた作品を作ったのは驚きです。本がいつぐらいに発売されたのか、詳しい情報がないので判断できませんが、十数ページに渡って映画のワンシーンを描いたものが綴じてあります。まるで画集を開くような感じです。全編にわたっての音楽演奏は、レポルド・ストコフスキー指揮フィラデルフイア管弦楽団。レコードから流れるクラシックを聴きながら、ひと時壮大なファンタジーの世界に遊んでください。珍しい一品で、バカみたいに高い値段がついていたことがありましたが、当店は4000円で出しています。 

 

 

 

新刊書店店長として仕事をしていた時代、新刊の小説は片っ端から、読んでいました。もちろんただで….。本来は、店内の本を休憩室に持ち込まない事、買って読む事というお達しがあったのですが、店長は別、と勝手に解釈。職権乱用ってやつですね。

今、第一線で活躍中の作家は、ほぼ読んだのではないでしょうか。最後まで読めなかった一人を除いて。その作家は恩田陸。SF、ファンタジー系の作家としてヒット作を連発していたのに、途中でだれてくるのです。小難しいとかストーリーが迫ってこないとか、ではないのですが、途中で売場に戻してしまうというのが常でした。

ところが、「六月の夜と昼のあわいに」(朝日新聞出版600円)は、手に取った瞬間から、あれれ、と言う間に読み切りました。10の短篇で構成された本作は、各短篇の頭に杉本秀太郎の序詞(和歌で使用される修辞法で、特定の語の前に置いて、比喩、掛詞、同音語などの関係に係る言葉)が付いています。そしてさらに各篇の扉に、新鋭作家によるアートが付いています。多分、そんな構成に惹かれて読み始めたのですが、シュールで幻想的な世界に巻き込まれました。イメージが思い切り飛翔する世界です。

「なぜ日本の泥棒が背負っているのは、いつも唐草模様の風呂敷なのだろう」で始まる「唐草模様」はやがて、この模様がぐるぐると回り出す不思議な世界へと連れ出します。

以前、読めなかった作家を面白く読み切る。これって、書店主のおいしい仕事かもしれません。現役の作家で、絶版になっていない本を紹介するのは、新刊書店員の仕事のはずでした。しかし、無駄に忙しい勤務体制では、それは無理。ならば、古書店が、と思い、今年もそういった本を紹介してきました。稲葉眞弓「半島へ」(この方は故人です)、石田千「唄めぐり」、河崎秋子「颶風の王」、黒川創「京都」、松家仁之「優雅なのかどうか、わからない」、湯本香樹実「岸辺の旅」、小川洋子「いつもかれらはどこかに」等々。

歴史の彼方に埋もれた作家を掘り起こすのも仕事かもしれませんが、今の作家の、あんまり知られていない本をどんどん紹介していくのも仕事ではないでしょうか。私は、そっちに比重をかけていきたいと思います。

「TIME TRAVEL」(1080円)というミニプレスが創刊されました。創刊号の特集は「HAWAI’I」です。旅行情報誌と思われる方、大ハズレです。歴史的アプローチから、ハワイに渡った日本人の歴史とその歩みを見つめるのがテーマです。でも、堅苦しい歴史書ではありません。

ハワイに日系人が誕生したルーツを探り、先の世界大戦をどう戦ったのかを、現地での取材を含めてルポしていきます。戦時中、アメリカ軍として戦闘に参加した日系人部隊は、正面から日本人と衝突する太平洋方面ではなく、ヨーロッパ戦線に駆り出されていました。しかし、一部対日戦争に駆り出されて、諜報の仕事に就いていた日本人がいました。ハワイで生まれ、沖縄で育ち、ハワイに戻り、戦争に巻き込まれ、沖縄戦では塹壕を回って、投降を呼びかけた経験を持つ比憙武二郎さんのインタビューは鮮烈でした。

本好きには「郷愁から発信へ 日本語書店の変化」というレポートをぜひお読みいただきたい。ショッピングモールに入居している「博文堂」は、なんと1910年創業の日本語書店です。空路、東京から毎日、本や雑誌が届けられていて、日本と発売日はほぼ同時だそうですが、日本での価格よりは割高になっています。一方、再販価格制度(定価販売で値引きしない制度)がないので、ディスカウントされた新刊本が並んでいます。1940年代ホノルルには、日本語書店は13店舗あった記録が残っています。

しかし戦後、日本語を使う人々が減るに従って、減少し、現在のあるのはこの「博文堂」のみとのこと。そんな事実も、この本で教えてもらいました。

ところで、ハワイに平等院があることはご存知ですか。移民100年を記念して建立されたものですが、この写真(右)だけでは、よもやハワイとは誰が思うでしょうか?

時間を遡って、この魅力溢れる島と日本人の関係を語り尽くした希有な本ではないでしょうか。次号は沖縄特集です。こちらも期待しています。

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メリル・ストリープ&ヒュー・グラント主演映画「マダム・フローレンス」はお薦めです。

個人的に、何を演じても上手すぎるメリルは苦手で、どちらかと言えば敬遠してきた女優さんですが、「マディソン郡の橋」辺りから、馴染めるようになりました。

1940年代のニューヨークに生きた社交界のトップレディ、フローレンス・フォスター・ジェンキンスは、自分が稀代の音痴である事を自覚せずに、歌手になるために努力していました。そして、とうとうカーネギーホール出演のチャンスをゲットしてしまいます。妻の音痴を知り尽くしている夫は、ありとあらゆる手段を使ってコンサートを成功させようとします。そのドタバタぶりを面白可笑しく、ペーソスも交えながら、夫婦の情愛たっぷりにを描いていきます。

メリルはミュージカル映画にも出演したぐらいですから、歌唱力抜群です。それが、ものの見事に音程を外して歌います。映画館で今年、一番吹き出した瞬間です。よくもまぁ、微妙にヘタクソに歌えるものです。しかし、よく聞いていると、下手なんだけれども味があって、聴かせる時もあるというさじ加減は、巧みな演技力の証しです。

さて、フローレンスの夫を演じているのが、ヒュー・グラント。ロマンティックコメディ映画で、チャラチャラした二枚目を飽きずにやって来ました。予告編だけで沢山の俳優でしたので、主演作は一本も観ていませんでした。しかし、しかし、今回のフローレンスの夫役には仰天しました。

とにかく、粋なのです。そして純情なのです。ちょっとした仕種、手の動き、煙草の吸い方、台詞の言い回し、すべてがいいんです。1960年生まれのヒューは、今年56歳。”ロマコメの帝王”と言われた彼が、こんなになるなんて、長生きはするもんです。映画の中で、ジャズのリズムに合わせて彼が踊るシーンが出て来ます。キャメラはローアングルでその動きを捉えるのですが、躍動感溢れる動きに拍手したくなりました。笑って、泣かせて、気分良く帰らせてくれる映画の王道みたいな、今どき珍しいクラシックな映画でした。

 

なお蛇足ながら、このヘタクソな女性は実在の人物で、相続した莫大な遺産をNY音楽業界に投じ、76歳でカーネギーの舞台に本当に立ちました。凄い女性ですね。この写真の女性がそうです。彼女は晴れ舞台の一ヶ月後この世を去りました。