日本の高度成長期、どこにでもあったドライブインの今の姿を取材したノンフィクションが、橋本倫史著「ドライブイン探訪」(筑摩書房/古書1400円)です。著者一人で、企画、取材、制作を手がけたミニプレス「月刊ドライブイン」全12号をもとに生まれました。ロードサイドに佇むドライブインと、そこを経営する人たちを丹念に取材した結果、戦後の日本の歩んできた姿がふわりと浮かんできます。

「日本全国に点在するドライブインは、一軒、また一軒と姿を消しつつある。でも、今ならまだ営業を続ける店が残っていて、話を聞くことができる。なぜドライブインを始めたのか。どうしてその場所だったのか。そこにどんな時間が流れて来たのか。そんな話をひとつひとつ拾い集めれば、日本の戦後史のようなものに触れることができるのではないか」

著者が、記録を残しておこうと思いたち、ドライブイン巡りを始めたのは2011年。日本中を東に西に駆け巡ります。今や、ポツンと取り残されているような感じのドライブインの写真が収録されています、しかし開店当時は、どのドライブインも目の回るような忙しさで、ほとんど眠る間もなく働き続けたというのが、携わった方々の一致した意見です。日本国内に道路網が整備されて、マイカーが増え、観光バスが増え、トラック便が増えて来た時代、どのドライブインも満員でした。

やがて高速道路が整備され、パーキングスペースが充実してくると、途端にロードサイドのドライブインは斜陽になっていきます。それでも細々とやっている場所が、全国にあるのです。地元に根を下ろし、個性的な品揃えで頑張っています。そんなお店の話を読んでいると、こちらの気分もほっとしてくるというか、なんとも言えない心地よさに包まれてきます。掲載されている写真も味があって、「よう、元気かい」とフーテンの寅さんがでできそうな風情です。

エピローグに登場する「ドライブイン薩摩隼人」は、昭和5年生まれの横道貞美さんと奥様の陽子さんが経営しています。貞美さんの戦後の人生物語だけで一冊の本ができそうなぐらい濃いのですが、彼は一時期「軍国酒場」という飲み屋をやっていました。先の大戦で亡くなった兵士たちの供養の場として、軍服や軍用品を飾っていましたが、愛国主義的な場所ではありません。政治的意見の全く違う人たちが集まってきた不思議な場所です。当時の遺品は、このドライブインに併設してある「戦史館」に今も展示されています。

貞美さんはこう言い切ります。

「人は皆、それぞれ考えが違うでしょう。違う考えを尊重する、それが飲酒主義よ。でも、今は違う考えを持っとる人を否定するでしょう。それはいかんわけよ。そうすると争いが生まれる。『軍国酒場』をやりよったけど、右翼でも国粋主義者でもないわけよ。戦争はいかん。もし戦争が起きれば私は逃げますよ」

地元を愛し必死に生き、働いてきた人たちの姿を捉えた傑作でした。本の帯で「title」の辻山さん、「ホホホ座」の山下さん、「蟲文庫」の田中さん、「ウララ」の宇田さんなど、各地の本屋の名物店主が推薦文を寄せていることでも、この本の面白さがわかります。

 

★イベントのお知らせ

6月5日(水)より「世界ひとめぐり旅路録」展をされる小幡明さんが、14日(金)19時半より、FMひらかたパーソナリティー久保有美さんと一緒に「小幡明の旅の話アレコレ」と題したトークショーを当店にて開催します。(参加費1000円/要予約)

「RBG」(京都シネマにて上映中)を観ました。

RBGって何の事?これ、人の名前です。正式な名前はルース・ベイダー・ギンズバーグ、通称RBGです。1933年生まれの彼女は、現役のアメリカ合衆国最高裁判所判事です。1972年、コロンビア大学ロースクールの女性初の常勤教員になったあたりから、自由人権協会で法廷闘争を数多く手がけ、性差別と戦う法律家として全国的な名声を博するようになります

若き日の彼女が弁護士へと進む道のり、彼女を生涯支えて来た夫との出会いを絡めながら、法律家として目指しているものを追いかけるドキュメンタリー映画です。あらゆる性差別に反対し、裁判で争い、女性の権利を一歩ずつ進めてゆく姿が、インタビューや、当時の裁判での音声、彼女の近くにいた人々の証言をもとに描かれていきます。

彼女の母親の教育が立派だったいうことがよくわかります。母親の教えは二つ。一つは自立すること、当時は女性は結婚して家庭に入るのが幸せとされていたにも関わらず。そしてもう一つは怒りで相手を論破しないことでした。彼女自身、怒りの言動は、自らをおとしめるとインタビューに答えています。彼女の話し方は常に控えめで、冷静で、生真面目です。

RBGは、あらゆる職場や、社会で起こって来た性差別に異議を唱え、是正して来ました。映画にも出て来ますが、入学者を男子に限定していたバージニア州立軍事学校の規定を違憲とする判決 (1996年)を行なっています。マッチョばかりの軍人養成学校であっても、資質に問題がなければ、性別に関わらず入学を認めさせる判決で、今では多くの女性が在籍しています。

守るべきは合衆国憲法。男女、人種の平等の理念に生きているRBGの魅力たっぷりの映画です。高校生相手に合衆国憲法修正第14条の男女の平等を語るところは感動的です。

意見の違う右派の判事でも、仕事を離れたところでは友人として付き合えるユーモアのある冷静なRBGが、「詐欺師」と強く非難した(後に謝罪しています)のがトランプ大統領でした。彼女を怒らせてしまった稀有な人物です。チャーミングな淑女ながら、眼光鋭い85歳。とても、素敵な映画でした。

 

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京都人の私にとって東京は所詮地方都市でしかないのですが、70年代から80年年代にかけての新宿、渋谷、原宿は憧れの場所でした。80年代には、レコード屋だったので、仕入れも兼ねてよく、この街には行っていました。

その一つの原宿の70年代を、四十五人が振り返る中村のん編著による「70s原宿原風景」(DU BOOKS/古書1600円)は、あの時代の刺激に満ちた街の様子を見事に捉えた一冊です。

60年代後半英国で音楽とファッションの革命、いわゆる「スウィンギング・ロンドン」の時代が起こり、また69年にはアメリカで野外ロックフェス「ウッドストック」が開催され、様々な若者のムーブメントが押し寄せてきます。それまで、閑静な住宅街だった原宿が、ファッションの街として生まれ変わってゆくのは、70年代でした。セントラルアパート1Fにあった、伝説のカフェ「レオン」には、時代の動きに敏感な若者が集まっていました。日本のスタイリスト第1号となった高橋靖子も、レオンの常連でした。(その写真も載っています)館ひろしが在籍していた「クールス」のメンバーもここでコーヒーを飲んでいました。いや、ファッションだけでなく、その後の日本のポップスを引っ張るミュージシャンたちが登場してきます。

「レオン」のあったビルの上は「セントラルアパート」という名前のアパートで、やはりここにも多くの表現者たちがいました。衝撃的な水俣の写真集を出したユージン・スミスもここで生活していました。当時、このアパートに住んでいた人の話も満載していますが、キラキラと眩しく光り輝いていた時代のアイコンみたいな存在でした。

私は、この時代の原宿を歩いた経験がないので、その雰囲気はわかりません。しかし、情報量が少ないことをハンディと思わず、なんとかカッコいいものを作り出していこうという若者たちの熱意は、京都にもありました。そのことを、本書を読みながら思い出しました。

「『ポパイ』に頻繁に取り上げられたビームスは、一気に若者のファションを開拓し、流行や遊びに敏感な都会的男子『ポパイ』少年御用達ショップとなっていきます。ベージュの分厚いクラフト紙に、オレンジ色で『american life shop BEAMS』と大きくロゴが入った持ち手のない紙袋を、ザクっと腕に抱えて歩くのが『ポパイ少年』の証でした。」

なんて文章に出会うと、藤井大丸コーナーバーゲンに馳せ参じては、VANやらJUNの袋片手に四条通りを闊歩した頃を思い出しました。本好きには、明治24年創業した書店「山陽堂書店」四代目オーナー、遠山秀子さんのお話と、お店の変遷を捉えた写真は必読ですよ。

 

梨木香歩の新作「椿宿の辺りに」(朝日新聞社/古書1200円)は、小説を読む醍醐味、楽しさを十分に味わえる傑作長編小説です。

神話をベースにしながら、不思議な物語が展開していきます。四十肩の痛みに苦しむ主人公山幸彦は、同じような体の痛みに悩まされている従兄妹の海幸比子が薦める鍼灸師を訪ねます。そして、霊能者みたいな特異なキャラの亀子とともに、治療の一環として今まで訪れたことのない先祖の屋敷に行く羽目になってしまいます。

祖父藪彦が繰り返し語ったという海幸彦山幸彦の物語、三人目の宙幸彦の存在、庭のお稲荷さま、天井の大黒様と曽祖父の手記、様々な要素が入り乱れて、家の歴史が解き明かされていきます。オカルト風に展開するとかと思えば、ファンタジー風になったりと、不思議な世界へと誘われていきます。コミカルな描写も盛り沢山で、実家に何か得体のしれないものがいるかもしれないと主人公たちがざわついた時、亀子が「共生共存、これに如くなし」と一喝するところでは、思い切り笑ってしまいました。梨木の小説には「家守綺譚」に代表されるように、気がつくとこの世から、少しずれた世界に、持っていかれるところが魅力です。

私たちの肉体、思い、神話、自然、過去、それら全てがつながっているということを「痛み」という肉体的現象を通して描くというウルトラC的物語です。作者の価値観がストレートに出ている文章があります。

「私は長い間、この痛みに苦しめられている間は、自分は何もできない、この痛みが終わった時点で、自分の本当の人生が始まり、有意義なことができるのだと思っていましたが、実は痛みに耐えている、そのときこそが、人生そのものだったと、思うようになりました。痛みとは生きる手ごたえそのもの、人生そのものに、向かい合っていたのだと。考えてみれば、これ以上に有意義な『仕事』があるでしょうか」

痛むのは生きているからこその現象で、完治を目指すのではなく、それなりに痛みとつき合っていくというのが大切なことなのです。痛みをめぐって、こんな物語が成り立つのですね。一気に読んでしまいました。

 

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1965年、イギリスで始まった人形特撮番組「サンダーバード」が、NHKで放送開始。1時間番組で、様々な災害、事故から人類を救う謎の組織「国際救助隊」を描いた物語でした。「サンダーバード。アー・ゴー」というかっこいいセリフとともに、響き渡るバリー・グレイのシンフォニックな音楽が流れ出すと、夕ご飯も放り出してTVの前に噛り付いたあなたに、必読の1冊が「サンダーバードを作った男 ジェリー・アンダーソン自伝」(洋泉社/古書2800円)です。

多目的機能を持って救助現場に駆けつけるサンダーバードの各機体の格好良さ、細部まで拘ったデザインの模型、リアリティを追求した特撮技術は、当時としては類を見ないクオリティを保ち、あの当時少年だったなら、タミヤ模型を買いまくった記憶があるのではないかと思います。最先端モードを取り入れ、登場人物のコスチュームや、ハイテク技術を備えた車に乗って活躍する女性ペネロープにも人気が集まり、女子たちが人形を買い求めていました。

ドラマを作ったのはジェリー・アンダーソン(1929~2012)。60年代から70年代にかけて特撮ドラマを中心にして活躍したTVプロデユーサーです。

彼の人生が、なんとも面白い。学校をドロップアウト、建築家養成校に行くも、すぐリタイア。なんとか映画の仕事をしたいと思いつつ、やっとつかんだパペット番組。それが当たり、パペット番組制作者として重宝されながら、いやいや、実写映画を作るんだという夢を叶える。が、大失敗。結局パペット番組に戻り大成功、という波乱万丈というか、行き当たりばったりというか……..。

1963年ドイツのマチルド鉱山で起きた、百数十人が生き埋めになった浸水落盤事故が発生します。29人が死亡、残りが救助された事故を知ったジェリーが、ハイテク技術を備えた集団があれば、被害を食い止められると言うテーマで物語を作ります。これが「サンダーバード」の始まりです。そこからスタッフの悪戦苦闘が始まるのですが、本書では133ページから、その時の状況が詳しく書かれています。よくぞ、サンダーバード2号の、ユニークなデザインを作り上げたものです。

CGのない時代、手作りでここまで緊張感あふれるドラマを作ったジェリーとその仲間たちは、20世紀を代表する映像作家だったと思います。(DVD 化、Ble-Ray化されています)

なお、この番組が与えた影響は計り知れなくて、「ウルトラマン」以降のメカデザイン、スーパーロボットものアニメに至るまで、方々で見受けられます。お父さん!子供たちに特撮ものの原点は、これだと自慢してください!

 

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山田英生編著「貧乏まんが」(古書/650円)は面白い企画本です。

「かつて誰もが貧乏だった時代から、『経済成長期』を経て貧乏が見えにくくなった時代、さらに、『バブル経済』崩壊以降の現在につながる格差社会まで、背景に貧乏(貧困)の諸相を織り込んだ作品を選び、戦後庶民の暮らしをうかびあがらせる意図」で編集されたコミックアンソロジーです。つげ義春、つげ忠男、水木しげる、赤塚不二夫、永島信二、谷岡ヤスジ等々17名の作品が並んでいます。

この最後に入っているのが、こうの史代の「長い道」です。貧乏ぐらしを続ける若いふたりを描いた作品で、なけなしのお金を持って銭湯に行った帰りの空の青さが目に染みる作品です。そして、注目したのは、鈴木良雄の「フルーツ宅急便」。ここに登場するのは、貧困の生活環境から、中卒で「非正規」雇用になってしまった若い男女の物語です。楽天的なばら色の未来なんて存在しないのですが、最後にわずかな希望を見せるところに味わいがあります。

 

山川直人の「ハモニカ文庫と詩の漫画」(中古/ 600円)山川直人は、ご存知のように「コーヒーもう一杯」シリーズ等で人気の漫画家です。ちょっとオールドファッションな世界が魅力的です。古びたコーヒーショップ、薄暗い古本屋、静かに音楽が流れる名曲喫茶などなど。山川は、20代後半の漫画家としてデビューしますが、売れ行きは芳しくありませんでした。代表作「「コーヒーもう一杯」の連載が始まったのは40代になってからでした。

萩原魚雷は「『ハモニカ文庫』の羽守町の物語はどこにでもありそうな、ちょっと懐かしい商店街を行き交う人たちの日常を淡々と描いている。主人公らしい主人公はいない。まちが主役の作品と行ってもいいかもしれない。コーヒーの旨い喫茶店、均一台にときどき掘り出し物がある古本屋、ハンバーガーショップ、コロッケが名物の精肉店、最近、あまり見かけなくなった模型屋……。」とこの物語世界を解説し、愛しました。ふと迷い込んだ街角の奥に、こんな古びた商店街がまだあるかもしれませんね。

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九条大宮にオープンした「つるかめ書房」へ行ってきました。古い町家の外観はそのままに、内部を巧みにアレンジして、日本料理を出すレストラン、日本茶カフェ、バーを併設しています。レジが一箇所なので、好きな本を持って、カフェでお茶を飲み、まとめてお会計ができるようになっています。

場所は、九条大宮を下がってすぐのところに見えてくるのですが、看板がありません。条例で、こういう町家に商業的な看板は設置できないのだそうです。(写真左)さて、引き戸をガラガラと開けて、中庭を見ながらどんどん奥に行くと、その先に立派な書庫があります。全ての本が丁寧に、美しく並べられています。ちくま文庫、講談社文芸文庫がずらり、しかも安い!

壁面の書架を見てゆくと、星野道夫、石川直樹、石田千、吉田篤弘、庄野潤三などなど当店と似たラインナップ。趣のある古い書庫に、スッキリと並べられた本の数々。文学、エッセイ、暮らし、アートなどが明確な意志に基づいてセレクトされた棚の前で本を眺めていると、時折、吹いてくる風が舞い込み、リラックスしていつまでも居てしまいます。CDと本を何冊かセレクトして、昼食もいただくことにしました。お昼は2500円の和風ランチのコースのみ。音楽の鳴っていない空間、使い込まれた家具に囲まれての食事は、外の賑わいから離れて落ち着いたひと時でした。

ところで、今週末25日(土)26日(日)の二日間、この書庫の二階で古本市が開催されます。当店も参加します。同時開催で陶器市もされるそうなので、ぜひのぞいてみてください。

フリーペーパー入荷ご案内

●海外文学ファン必需の「BOOKMARK」の最新14号が入荷しました。巻頭エッセイはあさのあつこ。特集は「against」、「ノー」と言うことです。

●「ハンケイ500m」49号は、烏丸六条が特集です。烏丸七条と五条という幹線道路の真ん中にある小さな通りですが、実は私の通っていた小学校がこの近くでした。懐かしい…..。

●「SELFBUILD BOOKLIST」これ、「セルフビルドにまつわる連続トーク3『本から広がるセルフビルドの世界』」と題して、誠光社の堀部篤史さんが講師をした時に、製作されたブックレットです。彼が選んだセルフビルドに纏わる本がセレクトされ、解説も書いています。

 

 

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6月5日(水)より「世界ひとめぐり旅路録」展をされる小幡明さんが、14日(金)19時半より、FMひらかたパーソナリティー久保有美さんと一緒に「小幡明の旅の話アレコレ」と題したトークショーを当店にて開催します。(参加費1000円/要予約)

 

雨上がりの緑の木々が目に美しい本日より、はしづめさやか「緑の時間」展がはじまりました。

 

はしづめさんが、この展覧会に寄せた文章に、小学校の図書館で借りて読んだある本(「広太のイギリス旅行・緑色の休み時間」)の記憶が心にずっと残っていたと書かれています。5月に本屋のギャラリーで個展をすることを決めて、作家の記憶の底に横たわっていた緑の本が蘇ったらしいのです。ずっと前に読んだ本が、時を経て形になって絵に現れるなんて素敵なことです。水彩絵の具の上に色鉛筆で重ねたタッチが優しく、幸せな気持ちになれるような草花の絵がたくさん並びました。はしづめさん自身が、優しい人たちといっぱい出会い、そのご縁を一つ一つ大切にされてきたのだと思います。

絵が納められた額の多くは、木彫をされているお父さんの手作りだということです。個展に向けて、その額と対話しながら絵を描いてきたとお聞きました。そこにも温かな時間を感じます。なお、スウェーディッシュフォークミュージックのCDジャケットのデザインをされた関係で、このCD(2500円)を店内で流しています。お聞きになりたい方はお申し出くださいませ。なんかとってもいい感じに絵と合っています。

今まで作って来られた絵本もいくつか展示されています。小学生の作ったお話に、絵をつけた一点ものなどです。仕掛け絵本もあり、ゆっくりページをめくるのが楽しいです。また、12種類のポストカードは150円で販売しています。普段は編集のお仕事で忙しい毎日だそうですが、小さな自然に向ける優しい眼差しが、小さな本屋に清浄な空気を満たしてくれました。これもご縁。ありがたいことです。(女房)

「緑の時間」はしづめさやか展覧会は、5月21日(火)〜6月2日(日) 12時〜20時 最終日は18時まで月曜日定休 

 

 

 

この「店長日誌」のブログを始めた時には、よもや毎日書くことになるとは思いませんでした。いつの頃からか、更新するために、同時進行で4〜5冊を読んだりしています。書評を頼まれているわけではないので、楽しみながら読んでいるのですが、付箋を付けたり、資料をひっくり返したり、情報を集めたりしていると、ちょいと逃げたくなることがあります。

そんな時に特効薬とも言えるのが、「公安」ものです。警視庁の中でもベールに覆われた部署が暗躍する、しかも現場の刑事たちと対立する物語ならなお結構。と、読まなきゃならん本を横に置いて読んだのが、相馬秀雄「血の轍」(幻冬社文庫/古書300円)でした。500ページ余りの小説ですが、いやぁ〜面白い。ベタな展開満載で、オイオイと突っ込みたくなる場面もありますが、300円でこの面白さは安い。これぞエンタメ小説の王道!

元刑事が殺されて、捜査一課が動き出す。そこへ、なぜか最初から公安が絡んできて、解決を妨害していきます。普通の刑事小説ならば、犯人捜しのストレートな物語が展開するのですが、これは妨害する公安と、それを掻い潜って犯人逮捕に向かう刑事という設定がユニークでした。撃ち合いなし、心理戦のみの刑事ドラマ。

公安が実行する追跡、盗聴、監視を事細かく描写していきます。小型カメラで撮影された監視対象の映像描写で幕が上がります。こんな具合です。

「スピーカーからは水道の音が聞こえる、カメラが女の後ろ姿を捉えたあと、今度は斜め横のアングルから洗面台と鏡の中が映る。サングラスを外した女が口紅を塗り直す。モニター越しだが、かすかに瞳が潤んでいるように見えた」

感情のないカメラが捉えた映像を冷徹な公安が見つめている、という情景です。ところで、公安なんて私たちの生活とは全く無関係と思われますが、果たしてそうなのか、お上に反抗的な輩は、片っぱしから監視しているのではないかという疑問が残ります。膨大な予算をつぎ込んで、最新のハイテク技術で国民を監視していたら、このブログでも、時々国家元首を「アベちゃん」などと書いていますから、ひょっとして私も監視対象かも……..。

 

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団地マニアを自称する三人の男たち。写真家大山顕、脚本家佐藤大、編集者・ライターの速水健朗。職業は様々ですが、団地への愛は深い。この三人のユニットを団地団と呼び、映画、アニメ、マンガなどに登場する団地について語り合ったのが「団地団」(キネマ旬報社/古書1600円)です。「類書なき、超脱線系、団地エンタメ」という言葉通り、大いに笑えます。メンバーが、方々の団地を訪ねた写真(大山顕撮影)が、カラーページで掲載されています。

鼎談は、大友克洋の「童夢」からスタートします。これ、未読の方ぜひお読みください。見事に団地が舞台となっているコミックです。(現在、絶版で古書も値段は上がっていますが)

ワハハと笑ってしまったのは「第3章 団地妻はいかに生まれしか」です。団地映画の転換点が、1971年公開の日活ロマンポルノ第1作「団地妻、昼下がりの情事」です。ここで鋭い指摘があります。メンバーの大山が、ヒロインのセリフを引用して、こう発言します。

「私だってずっと我慢してたのよ!毎日毎日こんなコンクリートの箱の中で同じことの繰り返し。好きなものを食べず、欲しいものも買えない窮屈な収入。息が詰まりそう」

大山「このセリフに込められているような、団地が窮屈だという意義申し立てのようなものって、60年代の団地映画にはなかった感覚だと思うよ。」

60年代は団地に住み、TV、冷蔵庫、電気洗濯機に囲まれて生活するのがステイタスだったのが、70年代は、そういう生活を否定する風潮が登場したというのです。

感心しつつ、笑ったのはマンションポエムという小特集です。マンションポエムとは、マンションの広告コピーのこと。電車や折り込みに登場するコピーが実に興味深い。まるで世界征服みたいなのが「TOKYO が KIBA を向く」、住宅が意志を持っているような「住まいはどこまで人に尽くせるか」「私は、誰にも似ていない」、部屋の一部をポエムに転化したような「帰宅のシーンを気高く演出するエントランス」等々、コピーライターの頑張り満開です。

その極みは、実は阪急不動産が手がける「ジオタワー宝塚」です。「宝塚に、世界を」。各部屋がアテネ風、パリ風、モナコ風とバリエーション豊かな部屋作りのマンションで、CMには宝塚歌劇団員が登場する念の入れようです。

いやはや、オタクの鼎談ってやはり面白い。今やマンションが日常の風景になりましたが、団地が日本を代表する住宅だった時代があったことを教えてくれる好著でした。

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