岡山で写真を撮り続けてる松本紀子さんが、写真集「そのかわり、その代わりに」(book+CD2300円)をリリースしました。シンガーソングライターのヤマモトケイジさんの素顔を中心にして、街の風景を捉えたものが写真集になっています。被写体となったヤマモトさんのCDは「青図点描集」というタイトルの4曲入りミニアルバムです。ギター一本の弾き語りで、ゆっくりと心に染み入る声が切ないアルバムです。音がノスタルジックに響いてくるのは、録音場所が高松中学校だからでしょうか。写真集発行を記念して、来年2019年9月10日(火)〜15日(日)まで当店ギャラリーで個展が決まりました。調整中ですが上手くいけば、ヤマモトケイジさんのライブも計画しています。(CDは試聴可能です)

 

詩と絵の作品を何冊か出している古井フラさんが、新しいミニプレスを二つ持ってこられました。新作「さみしい君に」は詩とクロッキーを一緒にしたもので、生き生きした手のクロッキーが数多く収録されています。リズミカルで、詩と合っています。もう一つの「雨」は、灰色の雲に覆われた街に落ちてくる雨粒、その雨粒のなか、静かに佇む街が、詩のように描かれています。(どちらも300円)。こちらもいつか個展をしていただきたいものです。

北海道発の京都情報誌「その界隈」(540円)は、今回もユニークな特集です。編者の最近の夢は「市営バス206号系統に、一日中乗り続けること。」だそうです。この系統は京都市内を、北大路通り〜東山通り〜千本通り〜京都駅と、中心部をほぼ一周しています。一周約2時間、なにも考えずに窓の外を見ながら乗っているのも楽しいかもしれません。鷲田清一著「京都の平熱」は、この206号系統の路線を切り口にしていますので、読みながら乗ってみましょう。

丹後半島奥の間人(何て読むかおわかり?)を旅する記事も面白い!私の父が、ここの保健所に数年間勤務していたので、夏になれば蒸気機関車に乗って海水浴に行った思い出が甦ります。「聖徳太子のお母さんに会いにゆく」と書かれていますが、詳しくは本文をお読み下さい。

250円という低価格ながら、本にまつわる楽しいお話満載の「本と本屋とわたしの話」の最新14号は、神戸元町の名物古書店「トンカ書店」の話から始まります。この書店の魅力は店主。彼女の笑顔と楽しい会話が楽しみで行くのです。「分け隔てのない店主の性格もあり、トンカ書店には本以外の物も沢山集まってくる。年季がかかった牛乳箱やミシンが本棚に溶け込み、子供のおもちゃが至る場所に置かれていて、それらは何だか、生活の匂いが少し残っているようにも思える。」と、この記事を書かれた清水さんの言葉通りの不思議な楽しさに満ちたお店です。

★「奈良・町家の芸術祭はならあと2018」パスポートチケット500円発売しています。

★先週京都新聞読書欄に掲載されていた「たたみかた2号/男らしさ 女らしさ」(アタシ社1836円)在庫あります。

 

 

★釧路ヒッコリーハウスオーナー安藤誠の「ネイチャートーク」が決定しました。

10月27日(土)19時スタートです。参加費は2000円です(要予約)

 

 

 

 

 

 

竹中郁。1904年神戸に生まれ、地元の中学校を経て、関西学院大学英文学を卒業。画家の小磯良平は、中学時代の同級生で生涯の友人でした。若い頃より、北原白秋に傾倒し、彼の主宰する雑誌で詩人としての活動を始めます。モダニズム詩人として作品を発表し、24年から2年間、ヨーロッパ留学もしています。

竹中が少年少女のために唯一残した詩集が、「子ども闘牛士」(理論社/古書900円)です。戦後、子どもの詩雑誌『きりん』の創刊編集に携わり、1950年には、大阪市立児童文化会館で「子ども詩の会」が催されます。竹中は子ども達が作った詩を読み、31年間この会を続け、指導してきました。

「子ども闘牛士」は、確かに少年少女向けに書かれていますが、大人が読んでも想像力を大きく刺激されます。

「みんな一日の仕事がすんだ お太陽さまも家に帰った さて 夜になると 風さえ軽いステッキをついて 散歩に出かけにやってくる」(「夕暮」より)

誰にもすっと心の中に入ってきて、まだ詩というものに少し触れただけの子供たちに、詩ってこんなに楽しいものなんだ、世界をこんな風に描けるんだと教えてくれます。

「魔法ビンの中に どうしたことか 一匹の黒い蠅 ちっちゃな蠅 ぐるりの貝殻光沢に際立って 大きくみえる だれがとじこめたか いつのことか このおれがしたあやまちなら重罪か 微罪か ふたたび 蓋をする しずかに 丁寧に こんどは埋葬の気持ちで 儀式のように両手は冷えて」

「埋葬」という詩では、矛盾する心を冷ややかに描いています。まだ大人の常識やら社会規範にがんじがらめにされていない少年少女たちに、詩を通して言葉の持つ力を見せていたのかもしれません。

「平和はいいなあ どこにでも微笑がおちている どこにでもさざめきが散っている 山羊の乳房はぴんと張るし 麦の倉庫はぷんぷん外までにおうし 水力発電機はハチのようにうなるし 平和はいいなあ 平和は眼の底までしみこんでくる 平和はのどのおくまで飛びこんでくる ねむり足りたあとのごきげん たっぷり食べたあとのごきげん 十二分にやりとげたあとのごきげん 平和はいいなあ」

この「平和」という作品は、戦争をくぐり抜けた人間だからこそ、伝えられる言葉だと思います。こういう詩をこどもたちに贈りたかったのです。

竹中自身が描く挿画が、数多く収録されています。表紙を飾る絵もご本人です。あとがきのページにある「若き日の竹中郁」は、小磯良平の手によるものです。

★釧路ヒッコリーハウスオーナー安藤誠の「ネイチャートーク」が決定しました。10月27日(土)19時スタートです。参加費は2000円です(要予約)

 

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白崎和雄さんの「ネイルカラーで描いたミニガラス絵展」が本日から始まりました。2016年から、今年で3回目の素敵な個展です。

絵画の宝石とも呼ばれて、濡れたような絵肌が魅力的な「ガラス絵」。ガラスに直接描いていくのですが、白崎さんはネイルカラーを使っています。そう、爪を彩るあのマニュキアです。透明のガラスに裏から描いていくので、出来上がった時に一番上にある色を最初に置きますが、マニュキアは速乾性があるので、スピードを求められます。油絵を描いて来られた腕が、切り取った5〜6センチの小さなガラスに凝縮されています。

この速乾性にはまって、対象をササッととらえるので、白崎さんのガラス絵には新鮮さがあるような気がします。サクランボ(写真右)のガラス絵ならではの瑞々しさをぜひご覧下さい。まだ青い松ぼっくり(写真左)は、ある朝思い立って奈良に行った時に拾ったもので、その緑の美しさを素早く描き取ってあります。翌日には緑色は消えて茶色くなったとか。

絵の題材は、いずれも身近にあるものばかり。自宅の庭で咲く薔薇は大好きな花で、必ず毎年描かれます。今年、思わず見入ってしまったのは「生卵」(写真上)です。ツルンとした卵が、小さな額の中で輝いています。卵と重厚な趣きの額がとても似合っています。

白崎さんのガラス絵は、まず絵を縁取る額を手に入れて、それに合わせて描かれます。良い額は、絵を引き立てるだけでなく、発想の素にもなるのですね。例えばペロペロキャンディ(写真左)が、こんな額に収まるとまるで抽象絵画のよう。取り合わせの妙が、最大の魅力だと思います。並べているガラス絵はすべて販売しております。(9800円)

お彼岸が過ぎて、過ごしやすくなってきました。ギャラリー巡りなど、ぶらぶら街歩きにピッタリの季節です。宝石の様なガラス絵に会いにお越し下さいませ。(女房)

 

 

白崎和雄「ネイルカラーで描いたミニガラス絵展」は9月25日(火)〜10月7日(日)まで 12時〜20時(最終日は18時まで)月曜日定休

なお「第7回湫画展」(白崎和雄ほか)が9月25日〜30日まで、ギャラリーヒルゲートで開催中です。

 

毎年人気の「ARKカレンダー2019」 入荷しました!! 

大/1080円 小/864円

売上げはARKに寄付いたします。よろしくお願いします。(写真展は23日まででしたが、カレンダーは在庫が無くなるまで販売します)

カレンダーの犬や猫たちついては、撮影者の児玉さんのブログにも書かれています。

 

 

 

 

 

上村亮平が、すばる文学賞を受賞した「みずうみのほうへ」(集英社/古書650円)は、いわゆる純文学純度の高い作品です。帯に江國香織が「完成度が高く、作品世界に手ざわりがある。」と書いています。

「ぼく」の七歳の誕生日、父と一緒に乗った船上で父が忽然と消えます。「ぼく」が、たった一人船に残されるところから物語はスタートします。この小説は、登場人物に名前がありません。唯一名前で登場するのはサイモンですが、彼は、船の甲板で父と遊んだゲームに出てきた男の名前です。伯父に引き取られた「ぼく」は大人になり、ゲームに出てきたサイモンと同じ名前の男に出会います。

ぼくが大きくなるにつれて、同級生の女子やら、憧れの女性が登場してきますが、すべて彼女、もしくは女の子という表現です。だから、どれがどの女性なのか判別できず、さらに時制が、過去と現在を行きつ戻りつするので、迷路の中で立ち往生してしまいそうでした。もちろん、舞台設定に具体的地名がありません。おそらく東ヨーロッパの港町とか、アイスホッケーを見に行くシーンが登場するのでカナダのどこか、或は北海道の漁港……..。とにかく具体的な名称は、消されています。こういう小説って、ちょっとなぁ〜と思われる方もおられるかもしれません。でも、こんな文章を読んでみて下さい。

「空には白い月がでていた。くっきりと夜を切り抜いたような月だ。染み出した冷たい光が空をのみこんでいる。灰色のあばたもよく見える。月が夜気を放射しているのを見ていると喉の奥を寒気が滑り落ちた。空気が薄くなり、時間もすうっと潮のようにひいてゆく。」

静寂に満ちて、冷たさと鋭さが見え隠れする文体で進行します。ダラダラ読んでいると、足下をすくわれてしまいそうです。最後まで登場するサイモンという男の、不気味さと優しさに戸惑いながらも、私はこの本から離れられませんでした。どこへ連れていかれるんだろう、その不安が楽しみな一冊でした。

「月は完全に満ち、ひとつの世界が閉じた音をぼくは聞く。ベンチにうずくまったまま、じっとしている。次から次へと、魚の亡骸が、にぶい地鳴りのような音をたてながら目の前に積もっていく。腕を親指ほどの肉片が芋虫のように這っている」などというおぞましい文章も、そこだけ突出しているわけではなく、この不思議な物語の一部を構成しているのです。月が妖しく光り、ぼくの前に度々現れる湖の静かさが強く残る物語です。

著者は1978年大阪生まれで、関西大学を卒業。神戸在住。是非、関西弁で不可思議な物語を紡いで欲しいものです。

 

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この夏、NHKで放映された地方発単発ドラマ「ワンダーウォール」。そのシナリオと澤寛による写真を組み合わせた、ドラマのタイトルそのままの「ワンダーウォール」(2700円)が発売されました。

シナリオを書いたのは、映画「ジョゼと虎と魚たち」やNHK朝の連ドラ「カーネーション」でお馴染みの渡辺あやです。撮影は11日間。そのわずか2ヶ月前に集められたキャストと、滋賀県の廃校に作ったセットで制作されました。渡辺は「そんな作り物の青春が、本物をはるかにしのぐ忘れがたさでまだ胸を去らない」と胸の内を語っています。

舞台は廃寮の危機にある大学の寮。老朽化した寮を取り壊して新しい建物に作り替えたい大学側と、反対する学生の青春の日々を描いています。ここまで書けば、京都の方ならお分かりでしょう。京都大学にある古い吉田寮が、取り壊しに危機にひんしていることを。ドラマでは、京都大学とか明言していませんが、事情を知っていれば、これは吉田寮の話だと気づきます。

残念ながら、私はこのドラマを見逃しました。が、この脚本を通読してみると、小説のように面白いのです。登場人物は数名の学生と大学の事務所に派遣された女性です。

「人々が大切に守り続けてきた場所というのは、その共同体の命が根ざすところであり、それを奪われるということは、その共同体が癒しようのない傷を負い、二度と取り戻せないものを失くし、やがて死に絶えてゆくしかないということなのだ」と渡辺は語ります。

脚本のラストは、反対運動の先頭を走っていた三船という学生の「世界から消えようとしていた。」というナレーションです。

事務所に派遣された女性、香に「こんなボロくて汚い寮を、これだけ歴代の寮生たちが残そうと努力し続けてきたっていうことは、案外ここには人間の幸福にとってすごく必要ななにかがあるんじゃないかって気がするんです。寮の人達にとってだけじゃなくて、もっと世の中の、大勢の人にとっても必要な・・・・わかんないですけど」というセリフがあります。

経済至上主義でのみ物事を判断する社会の風潮への警句です。

神戸女学院で教授をしていた内田樹が、ブォーリズ設計の古い校舎が取り壊されようとした時に、「ここには他の場所と違う空気が流れている」と、感じることができなかった銀行系コンサルタント相手に、校舎を守ったことをこの本に書いています。これは、ぜひお読みください。

内田の「日本中どこでも大学が『知』からどんどん遠ざかっているように感じます」という言葉がとても気になります。

 

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辻原登を読み始めたのは、ちくま文庫から出ている彼の読書体験を綴った「熊野でプルーストを読む」(古書500円)の後書きを読んだからです。ここで、映画好きの著者は、編集者から古いアメリカ映画で「男の旅立ち」という西部劇を知ってますか、ときかれます。知らなかった著者は早速ビデオを求めて鑑賞します。

「胸がひりつくように痛くなると同時に、強烈な浄化のある映画だ。」

私が予備校通いをしていた頃のこと。大学もどうでもいいやと、だれ気味の時にフラリと入った映画館で上映していた映画が「男の旅立ち」でした。カウボーイに憧れる少年が自分のアイデンティティーを探し出す地味な作品でしたが、辻原と同じような感想を持ったことを思い出しました。これは、彼の小説を読まねば…..

「枯葉の中の青い炎」(新潮社/900円)は、いい意味で奇妙な後味を残す短篇集です。一ヶ月だけ愛人と同棲したいという夫の望みを承諾して、淡々と自分の生活を続ける妻の行動を描いた「ちょっと歪んだわたしのブローチ」。昭和54年、大阪市内の銀行で起きた三菱銀行猟銃強盗人質事件を題材にした「日付のある物語」。中学時代、野球王と言われた少年のその後を描く「野球王」。戦前、戦後のプロ野球界で活躍した白系ロシア人、スタルヒンのピンチを救う為に、南洋の呪術を使った男を描く「枯葉の中の青い話」等々、舞台も時代もてんでばらばらな作品が並んでいます。

どの物語も、読む者をどこに連れてゆくのか皆目わからない不思議さがあります。「野球王」などは、主人公はなかなか登場しません。「ナバコフの短編で好きなものをひとつといわれれば『マドモワゼルO』を挙げるだろう。」という文章で始まり、ナバコフ家にあった家庭用エレベーターの話へ飛んでいき、はてはO・ヘンリーが登場してきます。しかし、物語は、野球に天才的能力を持ちながら、不幸な生き方しかできなかった男への哀切を込めて終ります。

「枯葉の中の青い話」はファンタジーと言えばそうなのですが、スタルヒンの実人生をノンフィクション風に追いかけながら彼に深く関わる南洋育ちの相沢という男との交流が描き出されます。野球ものノンフィクションの味わいが濃厚な物語は、ラスト、急転直下ファンタジーに変身します。

これもまた小説の面白さか、作者に引っ張られて遠くへやってきて、そこに一人取り残された気分とでも言えばいいのでしょうか? 次はどこへ連れて行ってくれるのやら、楽しみです。

 

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大阪にあるBOOKLOREから、「耳の人」(1620円)、「言の森」(1575円)など数冊の詩集を出している詩人、西尾勝彦が編集「旅人と詩人の雑誌 八月の水」の最新5号(BOOKLORE/1296円)が入荷しました。

この雑誌が作られたのは、東北大震災と、その後の世間の混乱が切っ掛けでした。これからどんな時代になってゆくのかという不安を越えて、こんな時代になってほしいという思いを雑誌という形にしたものです。

創刊の言葉にこうあります。「『旅人』と『詩人』が見直される時代になってほしい、と思ったのです。目先の利益ではなく、はるか遠くをみつめる『旅人』と『詩人』の存在が、今後、重みを持つはずだと思ったのです。彼らのまなざしの強さ、そして優しさによって、少しでも時代がおだやかになればと希望しています。」

その思いで5号まで発行されてきました。詩を中心にしたミニプレスはあまり動きが良くないのですが、例外的にこの雑誌はほぼ完売します。飾らない文章とシンプルな本作りがいいのだと思います。「ホホホ座」の山下店長が、毎回素敵な詩を発表されていて、今回も三作掲載されています。「おおみそか」という短い詩の後半が、いい雰囲気です。

「師走気分の人も、関係ないという人も 子どもだったおおみそかをよぎらせ 寒さを顔にたくさん受けて 冷たいほほの街

よいお年を ノーサイドの言葉で 皆 家路を歩く」

今年5月レティシア書房で紅型染めの個展をしてくださった、絵本作家ほんまわかさんも、毎号寄稿されています。絵本の仕事のこと、そして沖縄の市場のことを書いています。住まなくてはわからない沖縄の面白さが伝わって来ます。

紀行エッセイでは、大西正人の「ターナー島」が本好きにはお薦め。伊予鉄高浜線の最終駅、高浜に降り立った著者と妻は、そこでターナー島を見つけます。ターナー島とは漱石の「坊ちゃん」に登場する島です。そこから小説「坊ちゃん」の世界に入るのですが、松山を舞台にしたこの小説、「実際作中に出て来る地名などは、そのほとんどが実在しない。」と著者は指摘します。松山が舞台とは言っても、これは漱石が作った架空の松山なのです。それは、知りませんでした。

さらに、著者が再読して驚いたのが「『マドンナ』が実はほとんど登場しないという点である。登場する場面も少なければ。一言の声すら発しない。まちがいなくキーパーソンの一人でありながら、当人はほとんど現れないのだ」という事なのです。

そうだったか?とお思いの方、「坊ちゃん」を再読しては如何でしょうか。

なお、「八月の水」は2号〜4号まで各1冊づつ在庫がございます。

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と、書くといかにも難しいテーマです。しかし、そこを巧みに映像化して、彼らの国から遥か彼方に住む日本人にも、内容を理解させてくれたレバノン映画「判決、ふたつの希望」(ジアド・ドゥエイリ監督作品)はお薦めです。

レバノンで自動車修理工をしているトニーは、ささいな事で住宅補修の現場監督ヤーセルと喧嘩を起こし、罵り合うちに民族差別用語を口にし、ヤーセルに殴られます。謝れ、謝らん、とお互いエスカレートし、裁判沙汰になっていきます。

トニーはレバノン人で、愛国的キリスト教徒。一方のヤーセルは戦火を避けてレバノンに逃れた難民です。最初は二人の喧嘩を仲裁する裁判が、やがて政治色を帯び、裁判所に詰めかけたレバノン人とパレスチナ難民が対立する騒ぎにまで進展してしまいます。怒りっぽく、猪突猛進なトニーに対して、なんとか戦争から逃れてこの国で細々と暮らしているヤーセルには、悲しさが付きまといます。だから、暴力を加えたヤーセルにシンパシーが湧くようになります。しかし、後半トニーの秘密に迫るあたりから、映画は、どちらが加害者でどちらが被害者なんだ、と観客に迫ります。法廷シーンが中心となりますが、サスペンスの重ね方が見事で、画面から目を離せません。

トランプのアメリカ第一主義にしろ、ヨーロッパ各地で起こる難民排斥の動きにしろ、我が国のヘイト・スピーチにしろ、「俺たちが正義だ、お前達は悪だ」と一方的に決めつけ、排除しようとする動きに、おい、ちょっと待て、ほんまにそうか?と問いかけてきます。

ラストは100%めでたしで終るわけではありません。しかし、ほんの僅かな希望を残します。現実はあまりにも苛烈だ、しかし映画には希望を残しておきたい、という監督の思いが伝わりました。感動的です、あの微笑みは。

ところで、裁判が政治的になって収拾がつかなくなった時、レバノンの大統領が登場し、二人に和解するよう説得します。その時、トニーが言うセリフが凄い!「お前は公僕だろ。オレの権利を回復しろ!!」(写真右。左側から大統領、トニー、ヤーセル)

一般人が国の最高権力者に向かって、公僕やったら、人民のために仕事せんかい!と詰め寄るんですからね。安倍さんにも、トランプさんにも是非見て頂きたいものです。

 

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私のアメリカでの小さな体験ですが、とあるカフェに入って、カウンターでランチを金髪のウェイトレスに注文したところ、「私、今休憩中。だから注文受けられへん」と、カウンター内で珈琲を飲み始めたのです。こんなこと、日本でやったら、客が烈火の如く怒り始めます。しかし、その時私は、ふ〜ん、そうなんだ、アメリカってこういう国なんだ、って思いました。

「千の扉」(中央公論新社/古書1000円)で、古い団地を描いた柴崎友香が、世界各地から作家や詩人が集まるIWP(International Writing Program)に参加して、作家の視点から見つめたアメリカの姿を捉えたのが「公園に行かないか?火曜日に」(新潮社/古書1300円)です。本の帯には「不得意な英語で話し合い、街を歩き、アメリカ大統領選挙を目撃した三ヶ月を描く小説集」と書かれていますが、彼女が感じたアメリカと、そこの集まる世界の人々を描く紀行文です。

ホテルに宿泊した夜、奇妙な物音で彼女は目覚めます。それはけたたましく鳴る非常ベルでした。しかし、アナウンスもなにもなく、皆勝手に避難しています。ベルが鳴り止んだ後、ホテルのスタッフに聞いても、さぁ?という答えのみ。こんな対応あり得ないと参加していた作家は嘆きますが、著者は「うん、アメリカやな、とわたしは思った。ここはアメリカ」この感情はきっと、私が注文を拒否されたカフェで感じたものとほぼ一緒です。

様々な会合に出席し、対話をし、またアメリカの街を歩きながら、作家らしく言葉について深く考えていきます。

「英語を頭の中で日本語にして理解するとき(だんだん英語のまま受け取って返すことができるようになっていったが最初の頃はとくに置き換えて考えていた)、それはなんとなく大阪弁になっていた。会話だから、というのも大きかったと思う。そして、日本語が話せない毎日の中で、自分が話したいと思うのは、話したいと体の奥から湧き出てくるのも、いつも、大阪の言葉だった。」

大阪生まれの著者は、だからこの本の方々で、アメリカの人達との会話を大阪弁で書いています。

彼女が参加したワークショップで取上げられていた言語は、英語、フランス語、スペイン語といったメジャー言語です。しかし、世界中から集まってきた作家の中には、マイナーな言語を駆使して活動をしている人も多数います。その一方で、アメリカは、世界中のマイノリティ文学を英語に翻訳し、そのスタイルや表現技法を自分たちの文学に取り込んでいます。英語に、アメリカに取り込まれている現状を知ります。小説家が見つめた英語とアメリカの風土を描いた一冊です。

 

 

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宮城県出身の小説家、木村紅美の「夜の隅のアトリエ」(文藝春秋/古書1150円)を読みました。2006年「風化する女」で文学界新人賞を受賞し、08年「月食の日」で芥川賞候補になり、本作で野間文芸新人賞候補に選ばれて、順調に小説家としての道を歩んでいます。彼女の小説はこれが初めてですが、ハマりました。

東京で美容師をしていた主人公、田辺真理子が「自分の素性もわからなくしたい。仕事も名前も変えて、つきあいのあるすべての人のまえから、突然、予告なしに消える」ことを実行し、年の暮れに東京から半日かけある町に辿り着きます。そこは、「猛吹雪に支配されていた。薄黒色の空から、意思を持っていそうな雪が、たえまなく、降る、というよりも渦を巻きながら、巨大なバケツをひっくり返されたみたいに襲いかかってくる」ような、まるで世界から孤立したような所です。

この町で、彼女は殆ど客のいない散髪屋の二階に下宿し、誘われるままに場末のラブホテルの受付を始めます。生きる希望とか、人生の展望などまるでなく、惰眠を貪る生活を続ける真理子。作家は、ひたすら雪に閉じ込められる町を精緻な描写で描いていきます。退屈?いや、全然。息をひそめて暮らす彼女の生活に安らぎさえ感じてくるのです。そんな生活でも、それなりに人間関係が生まれます。それを切っ掛けに彼女が生きる希望を見出す、などというやわな展開にはなりませんので、ご安心を…….。

デッサン教室でヌードモデルのバイトをした縁で、ラブホテルの主人のヌードモデルを始めます。ここで、二人に歪んだ性関係が生まれるような展開にしないところが巧みです。病気で臥せているホテルの主人の妻、老朽化する建物の改装資金もない、そんな場末のホテルにも容赦なく雪は降りかかります。小説の主人公は、雪かもしれません。

誰も見向きもしない町で生きる真理子を見つめて終るのかと思いきや、こんな展開になります

「いまいるここで、東京を離れいくつめの町になるやら、いつからか正確に把握していない。短くてひと月ほどから長くて一年半ごとに、北から南まで、観光地でなくこれといった特徴のない町、産業が衰え過疎化の進んだ町ばかりに引き寄せられ、移り住んでいる。候補地はいたるところにある。五、六年を過ぎた。」

彼女には、「いままでもこれからも、知らない町へと流れ去ってゆくことだけがたしかだ。追われているようなこの暮らしは安住より生きている心地を得られる。」のです。

寂寞たる光景の過疎の町にあって、その寂しさ、孤独を友にするように生きてゆく自由。

「朝が訪れるまえに、自然とそのままに目ざめなくなる日がくることを夢見る。上手くいくだろうか。くちびるがほころぶ。帰る場所はどこにもない」

この簡潔なラスト。私たちが、見知らぬ町に立ち寄った時、そこに真理子が人知れず生きていると思うような幕切です。

 

★町田尚子さんのCharity Calendar2019入荷しました。

540円(右)

(売上の一部は動物愛護活動の一貫として寄付されます)昨年も早々に完売しました。お早めにどうぞ!

 

ARKカレンダー2019も入荷しました!! (下)

大/1080円 小/864円

こちらも毎年人気です。売上げはARKに寄付いたします。よろしくお願いします。

カレンダーついては、撮影者の児玉さんのブログにも上がっています。