スペインの詩人、フワン・ラモン・ヒメネス・マンテコンが1900年代初頭に発表した散文詩「プラテーロとぼく」(岩波少年文庫/古書400円)は、限りなく美しい物語です。スペインで発表後、各国で翻訳されて、一匹のロバ、プラテーロと飼主の少年の物語に多くの世代が共感しました

「岩波少年文庫」と言う児童書のジャンルに入っていますが、むしろ、大人が読んだ方が、この世界の美しさと、そこに流れる平和が理解できるのではないかと思います。

「静かな一瞬が不意におとずれたとき、プラテーロが高く鳴く。そのやさしい鳴き声は、昼日中のような明るい神秘さに、すぐにまた立ちかえる鐘の音や、花火や、ラテン語や、モデストの楽隊の音楽と、いっしょに溶け合う。そしてその鳴き声は、空高く舞いながら、甘美なものとなり、余韻を残して、清らかなものになってゆく………。」なんて文章がポンポン登場するので巣から。

本書は、南スペインのアンダルシア地方ポルトガルとの国境の町モゲールで、ロバのプラテーロと過ごした青春の日々を138編の散文詩で構成されています。ナイーブで、闘牛や闘鶏の大嫌いな優しい少年。そして動物や弱い者へ向ける視線は、この上なく暖かい。その一方で、どこか社会に対して虚無的に見ています。ロバ一頭だけが友達だった孤独感も顔を出します。      

「きみのその目はね、プラテーロ、きみには見えないけれど。おだやかに空を見あげているその目はね、美しい二つのバラなのだよ。」

少年は、愛するプラテーロと、毎日少しづ変化してゆく町の様子、自然の香りを感じ取っていきます。やがて少年とプラテーロの別れがやってきます。

プラテーロの死を知った少年のいる場所をこんな風に描いています。

「しいんと静まりかえった馬小屋の中に、小窓から射しこむ日の光 をよぎるたびに燃えながら、三色の美しい蝶が一つ、飛びまわっていた…….。」

この上なく美しい、という言葉しか出てきません。随所に挿入されるラファエル・アンバレス・オツテガのイラストも、この本の世界にぴったりです。

最近、山本容子の版画がジャケの新訳朗読CDも発売されました。今でも、人気があるんですね。

「金沢美術館」「すみだ北斎美術館」など、多くの建築を手がけてきた建築家妹島和世が、大阪芸術大学アートサイエンス学科の新校舎建築に携わった数年間をドキュメントした映画「「建築と時間と妹島和世」を観ました。この建築家に特に興味があったわけではなかったのですが、監督をしたのが写真家のホンマタカシでした。写真家中平卓馬を追いかけたドキュメンタリー映画「きわめてよいふうけい」の撮影を担当したことはありますが、映画監督は初めての作品。ちょっと興味が湧いたので映画館へと向かいました。

建築家の脳内にあった抽象的な概念が、有機的な建物へ、具体的なモノとして仕上がってゆくまでを、現場の定点観測を巧みに入れながら、60分少々で描いていきます。

舞台となったのは、大阪芸術大学アートサイエンス学科の新校舎(2018年11月完成)です。妹島の頭にあったのは、「公園のような建物」でした。周囲の緑豊かな風景という特性を生かし建物を構想していました。直線でデザインされた建物ではなく、緩やかにカーブする曲線を取り入れた建物で、森の中の丘みたいな印象です。

ホンマは、その様子を低速度撮影という手法で、完成まで撮影していきます。コマ撮りアニメのような感じで、徐々に形を表す建物と周囲の風景を捉えています。花が咲くまでを高速で撮った映像を見たことがあると思いますが、まさにアレです。

妹島が、何度も建築模型を作り、現地に足を運んでは修正を加えてゆく様は、一人の建築家の脳内の抽象と具象を行きつ戻りしているようで興味深い。完成した新校舎は、なだらかな曲線で周囲に溶け込み、校舎の中に光が差し込み、穏やかな風が流れ込んできます。この校舎にあるベンチに座り込んでぼっ〜としていたら、いい時間が過ごせそうです。

建物を作ったというよりは、素敵な景観を生み出したように見えますが、それはこのプロジェクトにとって成功だった、と言えるかもしれません。ホンマ自身は、こういった作品をいくつも製作したいそうですが、機会があれば観てみたいと思いました。

ホンマの著書「たのしい写真 よい子のための写真教室」(平凡社/古書1100円)は、気楽に読める写真論でおすすめです。

 

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写真家で、3人の子の母親でもある繁延あづさの”猪肉生活”のドキュメント「山と獣と肉と皮」(亜紀書房/古書1200円)は、面白い!とにかく面白いとしか言いようのないノンフィクションです。

「おじさんが槍を突き出そうとしたとき、胸がぎゅっと苦しくなる感じがあった。おそらく私は、必死に抵抗する猪を憐れんだのだ。突き刺される瞬間、私まで息苦しかった。それなのに、チラッと肉が見えただけで、”おいしそう”という喜びに近い感情が湧き上がった。なんだか、自分が矛盾しているような気がした。」

出産の撮影を中心にして、家族を撮影してきた著者が、東日本震災以後、東京から長崎へと一家で引越しました。そこで出会ったのが、猪猟のおじさんでした。一見すると派手な服装のヤクザ風のおじさんがご近所に住んでいて、挨拶に行ったら鹿肉をプレゼントされて、そこから彼女は猪猟に、なぜか引きつけられていきます。やがて猟の現場にも同行し、仕留める現場を目撃します。それまで命のあった猪の目を撮った生々しい写真があります。

「”殺したくない”という感情と”おいしい”という感情は、どうやっても一直線にはつながりそうもない。それでも、両方の感情は一続きの糸でつながっているはずだという確信もある。」

おじさんの猪はシンプルです。罠を仕掛け、かかった猪の眉間を鉄パイプで叩き、失神している間に、頸動脈をナイフで断つというやり方です。猟に同行したある日、最後の瞬間を迎える猪をファインダー越しに見ていた彼女は、こんな体験をします。

「そこに映し出されているのは、静かにこちらを見つめる猪の目だった。金縛りに遭ったように固まってしまった。猪が私を見て、私も猪を見ている。不思議な感覚だった。猪が目線をこちらに向けたままいなないた。ヒギュー!自分に対して発せられる咆哮に、目をそらすことができない。」

しかし、解体が進み、肉の具合を精査してゆくうちに、「絶対においしく食べてやる」という気持ちが湧き上がります。「かわいそう」と「おいしい」の境界線で揺れる彼女の心持ちが描かれていきます。

「食べ終えて一頭が完全な思い出になったとき、最後に残ったのは懐かしむ気持ちだ。あれほど”かなしい”と感じたことも、今はどこか愛おしい。猪を見つめて食べるまでがひと続きの体験であるように、気持ちの移り変わりもひと続き。死の悲しみと料理の喜びはたしかにつながっていて、さらに濃やかな感情が絡まり合ってもいて、味わい深い濃厚スープだった。」

と、自分の感情の移り変わりが綴られています。

「人間は、生き物を殺して食べている」という紛れもない事実を真っ向から受け止め、そうして明日も生きていく。私たちが生きることの根源を、猪猟を通して描いています。

「魅力的な人、土地、そして死んでいった獣たちが私に書かせてくれた本。感謝の気持ちでいっぱいです。」という最後の言葉が心に残ります。

先日、新聞に写真家鬼海弘雄の死亡記事が載っていました。

鬼海は山形県生まれ。高校を卒業後、山形県職員となりますが、一年で退職し上京。法政大に入り哲学を専攻します。大学卒業後、トラックの運転手や遠洋マグロ漁船などさまざまな職場で働きながら写真を撮り始めます。

浅草寺を舞台に、無名の人々を数十年間撮ってきました。カメラ片手に朝から日没まで境内に立ち、写真家の感性に何かをを感じさせる人物が通るのを待ち、シャッターを切り続けてきました。その数ざっと1000人。そこから166人をピックアップして「PERSON A」というタイトルで2003年に写真集が発行されました。

性別も職業もバラバラの人々のポートレイトが並んでいます。たった一枚の写真から、その人生や暮らしの匂いが感じられる作品集でした。初めてこの写真集を見たときは、おっ!凄いものが出たと驚きました。その後も、彼は市井の人々の内面を浮き彫りにするようなモノクロ写真を撮り続けました。

この人は、文章も素敵です。今、店には「誰をも少し好きになる日」(文藝春秋/古書1500円)、「靴底の減り方」(筑摩書房/古書1300円)、「目と風の記憶」(岩波書店/古書1800円)の3冊のフォト&エッセイ集があります。

写真家らしい観察眼で一人の男性を描いた「スティーブ・マックィーンの佇む路地裏」(「靴底の減り方」に収録)。完全に少女趣味溢れる服装で帽子を被っているので判別できないが、年配の男性らしい人を電車内で見つけ、興味を惹かれたエッセイです。(マックィーンは最後にちょっと登場)

「すべてが『少女趣味』で横溢している。それなのに、深く被った毛糸の帽子からはみ出した髪には白髪が混じっていた。リズムを刻む手の甲には幾つかのシミがあり、年配の人だと教えていた。

あまりにも完全な少女趣味に準じているので、まったく顔を見ていないのだが、きっと女の人ではなく年配の男の人に違いないと確信した。」

車内でなければ、きっとカメラを向けていたはずです。「ますます均一化が進む世の中で、謂れのない不当な扱いを受けていなければいいのだが、と人ごとながら思った。」と書いています。

人を見つめるのが大好きで、それを自分の芸術にした写真家だったと思います。10月19日リンパ腫のため死去、75歳でした。

 

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本日からコトコトことばさんの「ただいま、おかえり」展が始まりました。「コトコトことば」とは、なんとも可愛らしい響きですが中井泰佑さんという男性のアーティスト名です。大学生だった2006年から、社会人になった現在まで、心に留まった言葉とイラストをカードに描きつづけています。

言葉を紡ぎ始める時って、たいていは寂しい時だったりしませんか?彼ももしかして親元から独立して、一人暮らしの中で何か思う事があったのではないかしらと、想像します。

「自転車をなくした と思ったけど、スーパーの前に忘れていただけだった。なくしたんじゃなく 忘れていただけ。 全部そうだったら いいのになぁ。」は、2006年始めて書いた言葉だそうですが、(写真上)今回の個展のDMにもなっています。その時の自転車のように失ってきたものを思い出せれば良いのだが、と作品集に書かれています。

一つ一つの作品には優しさと寂しさが漂っています。誰かに思いを届けてみたい。それは見知らぬ誰かというより、目の前の人へ、そして自分の心に落ちるように。

野菜や食べ物をテーマにした言葉は、クスッと笑えたりします。私は「プリン」と「トースト」が気に入りました。作品の中から今の自分にフィットするような言葉を見つけてください。心にほわっと灯が点って、忘れていたものを思い出すかもしれませんよ。中井さんは、昨年結婚されました。一人暮らしから二人の暮らしに変わって、作品もこれから少しずつ変化していくのでしょう。「ただいま、おかえり」のタイトルに込められた幸せを感じます。

なお、この個展に合わせて4つ目の作品集が出来上がりました。(600円)1集〜3集も合わせて販売しております。

京都は朝晩めっきり冷え込んできました。毎朝散歩している京都御所の木々も、日に日に秋色になってきました。立ち止まってゆっくり季節を楽しむ時間を持ちたいなぁ、と思いました。この個展のおかげですね。(女房)

コトコトことば個展『ただいま、おかえり』は、11月1日(日)まで  月火定休 13:00〜19:00

 

 

 

 

私が水越武という名前の写真家を知ったのは、かなり前のことです。世界文化社のシリーズ「ネイチャーブックス」の中で、高田宏著「森物語」(1991年)の写真を撮影していたのが水越との出会いです。森と山を撮影するネイチャーフォトグラファーでした。当店でも「カムイの森」という本を販売したことがあります。

彼が、日本アルプスに住むライチョウを撮影した「日本アルプスのライチョウ」(新潮社/古書5000円)を入荷しました。この写真集に入っている一枚、厳冬期の早朝、地吹雪が舞い上がる尾根に佇む一匹の雷鳥を捉えた作品に強く心惹かれました。どんな言葉を使っても、私にはこの作品の素晴らしさを表現できないでしょう。初めてこの写真集を書店で見た時、暫くの間、動くことができなかったくらい。(きっと書店員は不審に思っていたことでしょう)

「冬将軍がやってくる12月上旬、北穂の山頂に建つ小さな山小屋で、私はただ一人、連日荒れ狂う風雪に耐えていた。」

その過酷な環境の中、写真家は撮影に出向きます。

「それにしても彼らはなんと美しく、魅力的な鳥だろう。自分も自由に山を歩き、飛ぶことができたらどんなに素晴らしいことかと、私はライチョウに畏敬の念とともに。強い憧れを抱いた。」

その思いが、この写真集には隅々にまであふれています。氷点下30度まで下がる雪に覆われた山の斜面を滑空するライチョウの姿の美しさ!と同時に、写真家は、彼らが生き抜く日本アルプスの厳しい姿を捉えます。人を寄せ付けない姿、幻想的な風景。

水越は1953年、初めて木曽御嶽山でライチョウを見ます。それから数十年、アルプスを歩きまわり、その姿を追い求めます。近年、中央アルプスのライチョウは絶滅したものと思われていたのですが、2018年、乗鞍で発見され、さらに北アルプスから飛来したメス一羽が発見されています。このメスについて、水越はこう書いています。

「彼女が中央アルプスを目指して飛び立った時の勇気とその生命力に本当に胸が熱くなる。」

最後に、梨木香歩は本書についてこう書いています。

「最近利権絡みの政治の実態が次々暴かれ、胃が重くなる思いだが目を逸らすわけにはいかない。政治に対する逃げの態度そのものが、こういう腐敗を招いたのだとわかってしまったから。この写真集を拝見し、文章を拝読し、今の時代に渇望されているものが何であるかわかった気がした。それはひたむきに純粋な、生きる姿勢のようなもの。時代を超えて揺るがない、気骨のようなもの。ライチョウに、そして八十二歳になられ、今も山へ向かう水越さんの存在に、救われる思いがした。」

大学時代、ジャズ喫茶に入り浸っていました。京都、大阪はもとより、東京まで行ったりしました。大学の方は、映画館かジャズ喫茶に行かない”ひま”な時に出かける場所でした。当時のジャズ喫茶は、誰も皆、それぞれに腕を組んでひたすら大音響で流れてくるジャズに向かい合っていました。私語厳禁。店によっては、めくる時に音がするので新聞を読むのも禁止でした。

その頃から、岩手県一関市にあるジャズ喫茶「ベイシー」は有名でした。実際に行った人に聞いてみると、あそこは世界が違う!という言葉が返ってきたことを覚えています。

「ベイシー」と、ここを切り盛りする亭主菅原正二に焦点を当てたドキュメント「JAZZ KISSA BASIE  Swiftyの譚詩」(京都アップリンクで上映中)を見てきました。マニアックな音響論議やレコード話に終始するような映画なら嫌だなぁ〜と思っていたのですが、これが全く違うのです。

真摯に音楽に向き合ってきた男と、彼を支持する多くのミュージシャンたちが、音楽とは、あるいは音とは何かを語っていました。

矢野顕子はコメントでこう書いています。「自分の道を懸命に歩むもの同士は魅き合う。ジャズであり、オーディオであり。でもやはり人間なのだ、坂田明が言うように。音は人なり。」

この店の持っているレコードと、それを鳴らす音響システムはもちろん目を見張るものです。でもモノじゃないんですね。ここに集まってくる人なんです。自分たちの音楽を模索し続けるミュージシャン、新しい試みを迎え入れる店の常連たちが共に作り上げた音楽共同体がここにはあります。

それを見守る菅原正二。「ジャズ喫茶がしぶとく生き残っているのは、ジャズという音楽がしぶといからだよね」と映画で語っていましたが、そうだと思います。70年代から80年代、本場アメリカではジャズが下火になり、多くのミュージシャンが日本やヨーロッパに出稼ぎに出ていました。しかし、その後盛り返し今や多くの愛好家が育っています。

もの静かに語るオーナーの言葉には、この店を守り続けてきた矜持、ジャズを愛する思いがあふれています。だからこそ、ここで新人時代映画の撮影をした女優鈴木京香など、ジャズとは違う分野の人もオーナーの人柄に惹かれて多く登場するのです。

ラスト近く、サングラスをしていたオーナーがそれを外して、愛用のカメラを向けるところがあります。ちょっと助平たらしい顔が、チャーミングで魅力的。店のスタッフは、ほぼ女性でした。

日本独自のジャズ文化については、マイク・モラスキーが「ジャズ喫茶論』(筑摩書房/古書2100円)、「戦後日本のジャズ文化」(青土社/古書1950円)で、詳しく論じています。興味のある方はお読みください。

 

 

 

 

 

 

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梨木香歩のエッセイ「炉辺の風おと」(毎日新聞社/古書1300円)は、毎日新聞日曜版「日曜くらぶ」に2018年から連載されているエッセイを一冊にしたものです。楽しみにしていた映画評のそばにあったので、ついでに読んでいました。今回、一冊になって読み直して、彼女の文章の豊かな魅力を再認識しました。

梨木が八ヶ岳山麓に小さな山小屋を持ち、ここに通いながら見た八ヶ岳の自然、特に植物や訪れる野鳥のことがエッセイの中心になっています。読む時にはパソコンや図鑑を置いて、その都度チェックして読み進めていました。

「渡り鳥がきちんとその季節にやってきてくれて、ひさしぶりに声を聞いたり姿を見たりすると、何か、人間の小さな思惑を超えた大きな流れの存在が確実にあることが感じられる。」

鴨川まで犬の散歩に行くと、冬に渡ってくる鳥を見ることができます。その時、同じようなことを感じたことがあります。

豊かで様々な表情を見せる自然の姿に、驚き、喜び、共に生きていることを深く感謝する一方で、海岸にうちあげられたプラスチック製品の残骸の写真に心を痛ませる。これは、「この時代に生きる人間の多くが、皆、何らかの形で『加担してきた』ことの結果だ。」と断じ、「『長く使われることを考えて作られていない』ものが、大量に作られるようになった。」この時代、そしてこれからをどのようにして生きてゆくのかを彼女は静かに考え続けます。

「長く使われるもの」には「言葉」も含まれると思います。自分で獲得し、それを駆使してきた言葉にも、その人らしさが宿ります。他者に何かを伝えようとしたり、自分の内面に深く降りてゆくときの大切なツールです。廃刊に追い込まれた雑誌「新潮45」について、言葉そのものが乱れ、安易に軽々しく使われたと批判しています。そして、こう言います。

「一つの言葉と真摯に向き合う。そうでなければ伝えたいことは何も伝わらない。」

ブログを書いている私にも突き刺さります。

「生活の道具でも、言葉でも、そして住まいでも、長く使われるものには、愛情を注ぐための目に見えない受け皿が備わっているように思う。使い手は、日々の生活のなかでその受け皿を見つけ、また作り出してもいく。」

それが本来の暮らしというものかもしれません。八ヶ岳の自然は、いつも穏やかなわけではありません。冬は違う顔を見せます。でもそんな厳しい季節でも、「孤独であることは、一人を満たし、豊かであること。そしてその豊かさは、寂しさに裏付けされていなければ。それでこその豊穣、冬ごもりの醍醐味。」と考えます。彼女が見つけた自然の変わりゆく姿を読みながら、自分の生を見つめていくことになります。

あっ!やはりこの本を手に取っていたんだと嬉しくなったのは、写真家水越武の「日本アルプスのライチョウ」(新潮社)のこと。北海道在住の写真家の最新作で、鳥を撮った写真集ではベスト1の力作です。この本については、近々ご紹介いたします。

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木版画で、北海道の厳しい自然の中を生き抜く動物たちを描いてきた手島圭三郎。その作品すべてを収録し、さらに手島の絵本が出来るまでの過程を追いかけた記録と、手島が自作の絵本と北国の自然について書き記したものを収録した「手島圭三郎全仕事」(絵本塾出版/新刊2970円)を入荷しました。

手島は北海道紋別出身の木版画絵本作家です。父親が鉄道員で転勤が多く、彼も転校を余儀なくされました。オホーツク海沿いの農漁村を転々として育ちましたが、その時、彼が見ていたオホーツク海の荒々しい風景や、そこに生きる動物たちの生態が、作家としての原点となっていきます。北大卒業後、中学校で教壇に立ち、その後に木版画家として独立しました。

81年日本版画協会展に出展したシマフクロウの版画が出版社の編集者の目にとまり、絵本作家としてデビュー。シマフクロウ、キタキツネ、ヒグマなど北海道の動物を題材とした作品を発表し、アイヌ文化研究の第一人者藤村久和と組んでアイヌに伝わる叙事詩ユカラを絵本化しました

「しまふくろうのみずうみ」で日本絵本大賞、「きたきつねのゆめ」でイタリア・ボローニヤ国際児童図書館グラフィック賞、「おおはくちょうのそら」で、ニューヨークタイムズ選世界のベストテンに選ばれています。

私が初めて手島の本を手にしたのは、82年に発表された「しまふくろうのみずうみ」でした。翼を広げた、しまふくろうのダイナミックな姿に圧倒されました。その次に出会ったのは85年に発売された「きたきつねのゆめ」でした。飛び跳ね、疾走するきたきつねの姿に目を奪われた記憶があリます。

残念ながら、これらの本は古本で値段が上がっていて、なかなか店で揃えることができない状況でした。また、見つけても本の状態が良くなくて、販売には向かないものがありました。この全仕事集は、印刷も良く、手島の版画作家としての技量を充分味わうことができます。このボリュームで、2970円はお買い得だと思います。絵本好きだけでなく、大自然を愛する人、ネイチャーフォトを趣味にしている人にもご覧いただきたい一冊です。

 

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奈良県郡山市にある書店「とほん」へ休みを利用して行ってきました。ちょうど、詩集「静けさを水に、かきまわす」原画展が開催されていたので見ることができました。この詩集は、古井フラさんが詩を書き、パートナーのnaoさんが表紙の絵を書いています。今回は、naoさんの原画が中心です。

京都から約1時間、近鉄郡山駅前の商店街を抜けたところに「とほん」はあります。店主の砂川さんがセレクトした新刊書を中心にして、雑貨の販売もしています。郡山名物の金魚も泳いでいる居心地のいい本屋さん。その一隅がギャラリーになっていて、原画が飾ってありました。淡い色合いの表紙の花の絵が、魅力的です。

古井フラさんの詩画集と当店の付き合いは、一番最初に持ってこられた「FRAGILE」(1620円)から始まりました。詩とクロッキーとマンガを一緒にした「中庭」(330円)、「痙攣」(330円)、散文集「ひからびて頭のないヘビにたとえる」(800円)、そして最新作「素描画誌」(660円)まで取り扱っています。フラさんの素描は孤独、寂寥感が漂ってきます。

ところで、とほんさんで、まず普通は買わない本を勧められました。NHKテキスト「趣味どきっ/こんな一冊に出会いたい 本の道しるべ」です。現在毎週火曜日午前中に、再放送されていますが、テーマは本です。様々なジャンルで活躍する人が、本との思い出、馴染みの本屋の紹介、書斎拝見といった角度から、その人にとって書物がどんな存在かを掘り下げてゆく番組のテキストです。第一回放送は平松洋子で、彼女の読書歴が分かる内容でした。放送を見られなくても、このテキストがあれば大丈夫。中身の濃い番組テキストです。一度、新刊本屋さんを覗いてみてください。

「とほん」から京都に戻り、駅地下のポルタで開催中の古本市に寄り道。面白い本を何点か見つけることができました。

 

 

 

 

 

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ARK(アニマルレフュージ関西)の2021年度カレンダーを入荷しました。

・大きいサイズは1000円(撮影は児玉小枝さん)・卓上サイズは800円(ARKスタッフ撮影)

売り上げは全てARKに寄付します。ぜひ店頭で手に取ってください。