店で仕事中、一人でどうしようもなく眠たくなって、メールチェックも後回しっていう魔の時間があります。そんな時の特効薬として、店内を意味なく歩き回ることと、警官小説を読んで頭の中をリフレッシュすることにしています。

そんな一冊として、呉勝浩「ライオン・ブルー」(角川文庫/古書300円)を読んでしまいました。

「登ってきた坂は江狗里(えぐり)坂という。それが由来かは知らないが太腿を抉られる急勾配で、平日の昼時にもかかわらず道路沿いの商店は半分以上がシャッターを降ろし、残りの店舗も静まりかえっている。商店街と名乗ってはいるけれど、軽自動車とすれ違ったほかは一人の町民とも出くわさなかった。」

そんな裏寂れた故郷の町に戻ってきた交番勤務の澤登が主人公です。「急ですまんかったな。人の都合がつかんで、往生しとったんや」と交番の上司がコテコテの関西弁を使うところから、舞台は大阪の開発から取り残された町。

ご多聞にもれず、地元の大物と結託したヤクザや土建屋が登場してくるので、その悪事を暴いてゆく若き警官の物語だろうと思って読む進めていきました。澤登は地元高校の野球部のピッチャーで甲子園にも出たのですが、町の期待を大きく裏切る結果でした。なんか、イマイチ暗い展開やなぁ〜、と立ち止まった時、とんでもない文章が飛び込んできました。

「おれは、こいつで自殺するために警官になったんですよ」

「こいつ」とは「拳銃」のことです。警官なら拳銃で自分の脳みそを吹き飛ばせる、などという主人公が警官小説は滅多に見ることがありません。さらに、犯人探しのラストで、そっ、それはないだろうという、とんでもない展開へとなだれ込みます。普通、この手の小説は、ラストのどんでん返しで、背負い投げされたようなカタルシスが用意されいるものですが、本作は0。登場する男たちは、この地獄の中でもがき続けるのかと、厭世的な気分でページを閉じることになりました。

「●●さん、また会いましょう」お互い地獄で。ホンマ、皆地獄行きです。」

でも、なんか妙に心に残る作品なんですよね……..。廃れてゆく町の雰囲気と、そこにうごめく男たちのニヒリズムが漂う、稀有な警察小説かもしれませんね。

ということで残念ながら、頭の中はリフレッシュはされませんでした。

 

 

★2/5(水)〜2/16(日) 恒例となりました女性店主による『冬の古本市』を開催します。今年も神戸・大阪・岐阜・東京・御殿場・京都などの女性店主の選書です。ぜひお立ち寄りください

★古本市準備のため2/3(月)〜4 (火)連休いたします。


 

 

「東京から、千葉の房総半島の南・大多喜町に引っ越してきて約2年半が経った。ヨーロッパで古くから『Eau de Vie(オー・ド・ビー)』と呼ばれてきた蒸留酒をこの地でつくるのだ。」

という書き出しで始まる江口宏志の「ぼくは蒸留家になることにした」(晶文社/古書1100円)」は、こういう働き方、生き方があるんだということを教えてくれる一冊です。

書店巡りが好きな人なら、江口宏志という著者の名前で何か思い出されるかもしれません。東京の書店「ユトレヒトUTRCHT」の運営に携わっていた方です。さまざな企画・イベントで新しい本屋として人気のショップです。その人物が、全く畑違いの蒸留家になることを決心したのです。

蒸留は、紀元前3000年頃のエジプトですでに行われていた記録が残るほどの古い技術だそうです。果実やハーブを収穫し、発酵して蒸留機にかけます。発酵液を熱すると液体が蒸気に変化し、これを冷却するとアルコール度数の高い液体が誕生するというのが、大まかな工程です。

なぜ、著者は蒸留家への道を歩むことになったのか。きっかけは、2001年ごろ日本中に広がった「洗練されたライフスタイル」というトレンドでした。上辺だけのライフスタイルが消費されて、流されてゆく現象に違和感を持った著者は、こんな考えに傾いていきます。

「漠然と、自然と関わりながら、ものをつくりたいという気持ちが湧いてきた。自然は普遍的であるがゆえ、簡単に消費されることなく長く関わっていけそうな気がする」

「一つランクアップのおしゃれ生活」とか「洗練された都会人の生活提案」みたいな広告文句が飛び跳ねていた雑誌や本の世界に、日々うんざりしていた私には、この著者の気分がわかるような気がします。

「幅広く全体を俯瞰する立ち位置ではなく、ピンポイントで何らかの技術や経験を身につけたい。その技術は競いあうものではなく、風土や自然といった大きな存在と結びついたものであったり、蓄積していくことで自分だけのものになっていくものがいいだろう。その技術は、自然に関わるものがいい。」

書店を辞め、ドイツで修行を始めます。本書は、修行から自分の工場を持つまでの楽しいけれど、悪戦苦闘の日々が書かれています。そして2017年3月、東京を離れて、大多喜町へと引っ越し、「mitosaya」と命名された工場が稼働します。そして、今の自分をこんな風に表現しています。

「『mitosaya』は、ぼくの人生のなかでいちばん大きな挑戦だけれども、いちばん楽しい仕事に取り組んでいるという実感がある。ある気がついたのは、これってもしかして、老後プロジェクトなんかじゃないかということだ。老後を穏やかに、楽しく暮らすために、いまちょっと無理をしてでも頑張って、面白いことを見つける。」

素敵な考え方です。

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やっと読み終えました、メイ・サートン「74歳の日記」(みすず書房/古書2500円)。と言っても、300ページ弱の、日々の出来事を綴った日記文学なので、決して難しいとかそういうものではありません。時間がかかったのは、一回に2ページずつぐらいしか読まなかったからです。74歳の彼女の言葉をゆっくりと心に入れたかった、なんて言うとカッコつけすぎかもしれませんが、そんな調子で読んでいたので年を跨ぎました。

メイ・サートンは1912年生まれのアメリカの小説家、詩人です。大学で文学を教えていましたが、自分の小説の中で同性愛を明らかにしたことで職を追われ、今日では考えられないことですが、本の出版も中止されてしまいました。。その後、パートナーとの別れ、小説『総決算の時』へのへの酷評、さらに乳がんの手術などが重なり、最悪の状態になってしまします。しかし、人里離れた自然の中、一軒家で生活しながら思索を重ねてゆき、詩作に没頭し、エッセイ、小説などを書きます。68年に全米で発表されたエッセイ「夢見つつ深く植えよ」(みすず書房/古書2050円)、73年発表の「独り居の日記」(みすず書房売切れ)は、当時の代表作です。

1985年、73歳の彼女は脳梗塞を起こします。当時、彼女の体調は良くないうえ、愛猫の死なども重なり、詩も書けない状況でした。年が明けて86年の春先、日常のありのままを日記に書いていく決心をします。86年4月から日記はスタートしますが、最初は病状が一向に回復せずに、イラついたり、落ち込んだりする毎日の描写が多く、こちらも辛くなってきます。

しかし、「具合が悪かったあいだ、何か学ぶことがあったとすれば、それはその瞬間瞬間を生きるということかもしれない。眠れない夜、ひと晩じゅうアマガエルの鳴き声に耳を澄ますこと、朝遅く、ひっきりなしにクークー鳴くモリバトの声に目ざめること、そして今この瞬間には、静けさを増すような海のささやきに耳を澄ますこと。その瞬間を、できるかぎり生き生きと生きること。」

そうして彼女は立ち直っていきます。整然とした文章を追いかけることで、元気になってゆく彼女を追走してゆくことになります。

もちろん復活までは、「朝、ベッドメークをして、階下で家事をしただけでへとへとになってしまい、ベッドに横になって泣いた」という日々の繰り返しです。6月の日記には「元気なときがどんな感じだったのか、もう思い出せない。」という文章もあります。

しかし、毎日見つめる海、木々の音、いくらでも作業のある庭仕事、新しい猫との付き合い、そして、彼女の元に集まってくる友人たちのおかげで、正気を取り戻していきます。そのプロセスを、湿っぽくならずに、簡潔な文章で読ませてくれます。後半、元気になった彼女が朗読旅行に出かけるあたりでは、親しい友人に、良かったねと声をかけたくなるような気分になりました。

1987年2月11日の日記。これが、この本の最後になりますが、こんな文章で終わっています。

「私の目の前には、まっさらな空間が広がっているーもう公的な場に出ることはなくなるのだ。それでも、まだやりたいことはたくさんある。再び手に入れた生活、そしてこの先に待っているすべてのことへの歓びが胸を満たす。」

彼女は1995年、83歳でこの世を去りました。

 

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今年の1月13日だったと思いますが、新聞に坪内祐三の死亡記事が載っていました、1958年生まれですから61歳。心不全だったそうです。

雑誌「東京人」の編集者を経て、評論家の道を歩みだし、多くの文芸評論やエッセイを書き残しました。彼の最初の本「ストリートワイズ」(1977年晶文社)を読んだ時の衝撃は、忘れられません。本を愛し、東京の街を愛し、方々をさまよい歩きながら、新しい物の見方を教えてくれた一冊でした。その2年後、「靖国」を発表。一体、靖国神社のある靖国という場所は、建立当初はどのような場所だったのだろうかという疑問に対して、膨大な史料を駆使して解明してゆくスリリングな一冊でした。首相の靖国参拝という政治的イデオロギーばかりが目立つこの神社をリアルな場として語り尽くした傑作でした。

その後、本が出るたびに読みました。とりわけ古書に関するものと、「酒日記」、「三茶日記」、「酒中日記」と続く日記ものは、愛読していました。読んだ中ではこの三冊は日記もののベスト3に入るものと思っています。

彼が「東京人」をやめた頃、「ストリートワイズ」でこんな風に語っています。「文化人類学者の山口昌男さんがのちに『「敗者」の精神史』に結実する明治大正の面白本や雑誌を古書展で探しはじめたころである。(中略)山口さんに誘われて私は毎週末のように古書展に通いはじめた。そして私もまた明治大正の面白本や雑誌、人物にズブズブに引かれていった」

そんな場所で得た古本の世界、知識を簡潔な文章で語ったのが「古本的」(毎日新聞社/古書1250円)です。

「箱入りの、あまりにも素っ気ない装丁の背表紙に『随筆集小鹿物語」とだけある。著者名はない。数週間前に出かけた神田の古書展でのことだ。箱から本を取り出し、まず、値段をチェックした。八百円以上なら、そのまま箱に戻していただろう。(略) で、三百円だった。そして、はじめて目次を開いて、驚いた」

という古本市巡りをする人なら経験したことのあるゾワゾワした感じで、古本の世界へと誘ってくれます。

また、「四百字十一枚」(みすず書房/古書1300円)の「10年前に私は、タヌキの置き物の飾ってある定食屋で岡崎武志と昼食を共にした」という長いタイトルのエッセイでは、書評家岡崎武志との出会いだけでなく、銀閣寺の古書店「善行堂」の山本店主まで登場してきて、面白い古本談義を繰り広げます。

レティシア書房を開店するために、多くの書評家や文芸評論家の本を読みましたが、本の知識だけでなく、本の見方、選び方など多くのことを教えてくれたのは坪内だけでした。まだまだ教えていただきたいことがあったのに、残念です。ご冥福をお祈りします。

 

 

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90歳に手が届きそうなクリント・イーストウッドの新作「リチャード・ジュエル」は、イーストウッドらしい正統派映画作りの一本でした。

物語は極めて現代的な「冤罪」を扱っています。1997年7月、オリンピック公園でのコンサートを警備していたリチャードは、爆弾を見つけ大勢の命を救いました。ところが英雄視される一方で、FBIは、彼を事件の容疑者と断定し、強引な捜査を始めていました。その情報を地元メディアが実名報道して、今度は世紀の犯罪者として世間に晒されることになってしまいます。これ、実話です。

「母親と一緒に住んで、ブタみたいに太っている、ゲイかも?」という差別的なメディアの主観で、主人公のリチャード・ジュエルは、あっという間に、犯罪者に仕立て上げられます。彼は確かに太っているし、独身で年老いた母親と暮らしています。しかし、そのことと犯罪は無関係なはず。状況証拠と、憶測だけで、下手をすれば爆弾犯人として絞首刑に処せられるところまで追い詰められます。この追い込まれ方は、アメリカだけでなく、日本でもどこでもありうる話です。イーストウッドは、冤罪に巻き込まれてゆく様をオーソドックスな手法で描いていきます。話の行く末はさておき、作り方のおかげで安心して観ていられる映画です。

リチャードと知り合いだった弁護士ワトソンが、彼を助けるためにFBIや地元メデイアに反撃を開始するあたりから物語は加速していきます。しかし、弁護士もの映画にありがちな、法廷で弁護士が朗々と主張し、正義を勝ち取るというような感動的な、あるいは観客に涙させるシーンが全くありません。それどころか、FBI捜査官とネンゴロな関係になって記事を書いていた女性記者も、後半ほとんど登場しません。

映画は主人公リチャードの心のあり様の変化へと向かいます。元々彼は、アメリカの正義を信じて警察官になろうとしていました。市民のため、アメリカの正義のため生きるのが彼の理想でした。しかし、事件の渦中の人物になった途端、正義のはずのFBIや警察は牙を剥いて彼を襲ってきました。始めはFBIに協力的だった彼でしたが、弁護士が見せつけてくれた「正義」の現実の中から、立ち上がっていきます。そこが映画のクライマックスですが、イーストウッド映画らしい静かな、派手さはないが力強いシーンで幕を閉じます。

エピローグ的なラストが、実にいいのです。再会したワトソンとリチャード。「相棒、元気かい」みたいな心地よさが漂い、ワトソンを演じたサム・ロックウェルの微笑みが、映画を後味の良いものに200パーセント引き上げていました。

ワトソンの恋人が、こんなセリフを言います。

「この国で有罪だと言われれば、それは無罪だ」

アメリカの、いや日本の現状も踏まえた恐ろしい、しかしリアルな言葉です。

 

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数年前に発行された「詩人なんて呼ばれて」(新潮社/古書1700円)を、入荷しました。これは、文芸ジャーナリストの尾崎真理子が聞き手となった3年越しのロングインタビューと、選ばれた詩20編プラス書き下ろし1編をカップリングした本です。第4章では、かつて結婚していた佐野洋子との生活のことが書かれています。

「僕の考える女性性と佐野さんの考えてた『女』はずいぶん違ってるけど。僕自身、男性的というより女性的で、それで喧嘩にならなかったし、暴力とは無縁だし。自分とは異質な者も受け入れるようとする。それは僕の中の女性性じゃないかなあ。」

と彼女との生活から、谷川は自分の心の中の女性性にまで立ち入っています。谷川ファン必読の本です。

こんなコラボしてたんだ、と思ったのが、「たくさんのふしぎ」等で活躍する絵本作家岡本よしろうと組んだ「生きる」(福音館書店/古書950円)です。

「生きているということ いま生きているということ それはのどがかわくということ」で始まる「生きる」という有名な詩に、岡本が絵を描いたものをまとめた本です。

「生きているということ いま生きているということ それはミニスカート それはプラネタリウム  それはヨハン・シュトラウス それはピカソ それはアルプス」という詩句には、夏休み中の女の子が熱心にクレヨンで絵を書いている様子が描かれています。ページをめくると、庭で水を撒いているおじいさんと少年が、撒いた水から生まれた虹を見つめていて、「すべての美しいものに出会うということ」で結ばれています。

「いま」を生きるということが子供達の何気ない素ぶりや、彼らが生きている街の様子を描いた作品と巧みにシンクロしながら進んでいきます。詩には平和という文字は一言も登場しませんが、二人の共同作業から立ち上ってくるのは、平和な今を生きる、ということです。

もう一点、「詩ってなんだろう」(筑摩書房/古書1100円)をご紹介します。

「長いあいだ詩にかかわってきた経験を通じて、自分なりのおおざっぱな詩の見取り図を書けるのではないかと思いました。ですからこれはいわゆるアンソロジーとはちょっと違います。私は自分の考え方の道筋にそって詩を集め、選び、配列し、詩とは何かを考えるおおもとのところを捉えたいと願ったのです。」と、あとがきにあるように、谷川が選んだ詩にコメントを加えた、いわば詩を楽しむための第一歩的な本です。

「詩は、もじがうまれるまえからあった。」では、「ホホホホ ヘヘヘ ヘイヤ ヘイヤ」で始まるナバホ族の「よるのうた」や、「あはれ あなおもしろし あなたのし あなさやけ をけ」という古事記の一文が取り上げられていて、

「おまじないやいのりだったり、はたらくときのこえをそろえてうたううただったり、おどるときのはやしことばだったり、おうさまのものがたりだったりもした。」と結んでいます。

詩という世界の、大きな広がりが理解できると思います。

 

 

 

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2月5日から始まる恒例の「冬の古本市」のプレ企画です。

先ずは、京都市内の印刷屋さんの作った豆本。の豆本は以前から店頭で販売していましたが、場所の関係で、いつも十数点しか設置できませんでした。今回は今まで作ってこられた全点、60作品を出していただきました。

芥川龍之介「遺書」、正岡子規「子規随筆」、夏目漱石「夢十夜よりー第三夜」、泉鏡花「胡桃」、ボードレール「パリの憂鬱」、リルケ「老人」等々の古今東西の文学作品が、趣向を凝らした装丁で、豆本化されています。形は様々ですが、全て手の中にすっぽりと治るサイズです。カフカの「道理の前で」は、昔懐かしいマッチ箱の中に入っていて可愛い装丁です。一点ずつしか並べておりませんが、すべて販売しております。熟練の職人の手仕事で出来上がった豆本をぜひ、ぜひ手に取ってご覧ください。(価格は1800円〜)

ミニプレスでは、豆本に匹敵する手作りでファンの多い小幡明さんの”Papel Soluna”(ぱぺる・そるな・330円)。昨年のレティシア書房の個展にも多くの方にお越しいただきました。世界中の国々を回って、その土地の文化を、楽しいイラストで綴ったミニ新聞風の小さなミニプレスです。約30点ほど出ていますが、達者で自由な筆遣いが生き生きとした旅に連れて行ってくれます。携帯で写真を撮って、FaceBook等ですぐに発信するのが当たり前の時代に、わざわざ紙に描き、作品にするというアナログ精神に乾杯です。

もう一つは、古本です。本好きの方が亡くなられて、その蔵書の一部を販売することになりました。元々、某TV局の管理職だった方なので、その方の元へ多くの作家が本を送っていたみたいです。鴨居羊子のデッサン画が散りばめられた安岡章太郎「ガラスの靴」(牧羊社10000円鴨居のサイン、自画像デッサン入り1000部限定)、井伏鱒二「厄除け詩集」(牧羊社3000円)、加藤一雄「無名の南宋画」(三彩者4000円)、同じく「蘆刈」(人文書院3000円)、藤田嗣治「猫と女とモンパルナス」(ノーベル書房4000円)など、あまり見かけない本も登場します。

豆本、ミニプレス、古書と本好きにはこたえられないものがズラリと並びます。眺めて、手に取って楽しんでいただければと思います。

 

お知らせ

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山田洋次監督「男はつらいよ お帰り、寅さん」を観ました。若い頃、私は寅さんシリーズが大嫌いでした。ロードショー公開されていた時、何本かは映画館で観ましたが、全く受け付けませんでした。日本的情緒たっぷりの登場人物たち、湿り気のあるユーモアセンス、そして何より渥美清演じる寅さんの行動が陳腐すぎて、何でこんな映画観るんだ!と怒りまくって映画館を出た記憶があります。

しかし、年を取るというのは恐ろしいというか、素敵というか。何年か前にBS放送で全作品を放映していた時、何気なく観たら、なんと完全に引き込まれてしまったのです。寅さんて粋だなぁー、カッコイイと思ってしまい、全作観たその上に、再放映されるごとに観るという熱心なファンになってしまいました。(もともと寅さんファンの女房は呆れ顔)

渥美清亡き後、再度寅さんをスクリーンに戻そうとして企画された本作品、最初はかなり??でした。かつてのマドンナが大挙登場して、同窓会みたいなお祭り映画になってしまうのでは、という懸念がありました。

いやぁ〜、流石に山田洋次監督は凄い!脱帽です。むやみと寅さんの映像を出さずに、きちんと一本の映画にしているのです。抑制が効いています。あくまでもさくらの息子満男を主人公にした物語として仕立てていました。小説家になった満男が、かつて結婚の約束までした初恋の人・イズミ(後藤久美子)と偶然出会うことから物語は始まります。彼女との過去を思い返すとき、そこに寅さんの姿が一瞬蘇ります。ストイックな演出が冴え渡ります。

私が感心したシーンがあります。イズミがお母さんと一緒に、老人ホームにいる父親に会いに行った帰りに、過去の母と娘の関係を巡って言い合いになり、母親が車を飛び出します。その背後に夕闇迫る空が広がります。暗闇とほんの少しの夕焼け。親子の行く末を象徴している風景のようでした。

そしてわずかな出番でしたが、やっぱり寅さんを演じた渥美清はかっこいい存在でした。こんな着こなしは、台詞回しや所作も含めて誰も出来ません。

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神田日勝は、1937年東京に生まれました。4歳の時、日本は太平洋戦争に突入します。そして、45年3月東京大空襲、この年の8月戦災者集団帰農計画に基づく拓北農兵隊に応募して、北海道へと入植します。ここから、一農業従事者としての苦難の道が始まります。趣味として絵を描いていたものの、青年期の彼は農業こそ自分の生きる道だと思っていました。が、19歳の時に描いた「痩馬」という作品が注目を浴び、画家への道が開いていきます。

私が彼の作品を知ったのは、TVの「日曜美術館」でした。その時に見た馬の作品は力強さに満ちていて、記憶に残りました。

北海道新聞社発行の「神田日勝 北辺のリアリスト」(古書1100円)を入荷しましたのでご紹介します。彼が生涯描き続けた馬が何点か収録されています。道産子らしい太い足と優しそうな目の馬の作品と共に、1965年に発表した「死馬」という、個人的に傑作だと思っている作品も収録されています。体を丸めて永遠の眠りについた一頭の馬。人間の過酷な労働の手助けをしてきたのでしょうか、足元には太い鎖が見えます。共に生きた馬への哀悼が感じられる作品です。

一方で、厳しい自然に抗うように生きる人たちの姿を静謐に描いた「飯場の風景」のような作品も見逃せません。そんな彼が、魅入られたように色をふんだんに使い鮮やかに描いた「画室」(1966年)なんて作品のポップな感覚は、重く沈み込む馬の作品群とは全く正反対です。

 

 

しかし、1970年の夏、神田は32歳の短い生涯を終えました。死の少し前、彼はこんな言葉を残しています。

「結局、どう云う作品が生まれるのかは、どういう生き方をするかにかかっている」

生きることと描くことが同次元にある、リアリストならではの力が作品の隅々にまで行き届いているからこそ、私たちは感動するのだと思いました。

余談ですが、昨年末個展をしていただいた北海道在住のあかしのぶこさんにもらった、お土産のクッキーは、神田日勝の絶筆である「半分欠けた馬」のデザインでした。北海道の人々に愛されているんですね。

 

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50代、60代前半のおっちゃん達、御同輩のみなさん、貴方がニキビだらけの中学生の頃です。みんなひし美ゆり子に萌えたはずですよね。知らない?それは人生最大の損失かも……..。

ひし美ゆり子?誰だったかなぁ〜と思い出せないオヤジ殿には、この台詞であぁ〜あの人かと思い出すでしょう。

「アンヌ、僕は人間じゃない。M78星雲から来たウルトラセブンだ」

そうです。円谷プロが制作した30分TV番組「ウルトラセブン」(1967年放送開始)の名シーンです。自分がウルトラセブンであることを告白したウルトラ警備隊のモロボシダンとそれをじっと聞く女性隊員アンヌ。背景の廃墟が急にロマンチックな海辺風に切り替わり、シューマン作曲ピアノ協奏曲イ短調作品54が流れ出すという、とんでもないラストシーンに貴方も、私も涙しました。

そのアンヌ隊員を演じたのがひし美ゆり子で、彼女の女優人生とTVに押されて映画界が急速に元気を失ってゆく時代を描いた樋口尚文の「万華鏡の女」(ちくま文庫/古書600円)を入荷しました。この本、単行本はかなり高値で取引されていて、文庫本化大歓迎です。筑摩書房にも、ファンがいたのかも…….。

当時の少年達は、この別れのシーンに涙する一方で、アンヌ隊員のボデイコンシャスな制服に萌えたはずです。著者は「あの隊員服のアンヌは凄くトランジスタグラマーで、われわれ子どもの視聴者はドキドキした」と語っています。元々、この役は他の女優が演じる予定でしたが、急遽、ひし美がやることになったのです。しかし、隊員服のサイズが、予定の女優のサイズだったために、ピチピチになってしまったという逸話が出てきますが、おかげで我々は彼女の一挙一動に釘付けになったわけです。

当時の「ウルトラセブン」には優秀な脚本家、気鋭の演出家が揃っていて、先住民の問題、核兵器開発のこと、侵略される側の悲惨、過去の悲しい戦争のことが、それとなく描きこまれていました。誰だか忘れましたが、「ウルトラセブンで反戦を学んだ」と言っていた学者がいました。そのあたりのことも彼女の口から語られていきます。

このインタビュー集が優れているのは、彼女が女優として生きた、映画からTVへと変わってゆく時代が見事に再現されていることです。斜陽になった映画界は日活がロマンポルノに、東映が実録映画へとシフトし、エログロ路線を走り始めます。そして彼女もまた、そんな世界に飛び込んでいきます。傑作として名高い「紅色元禄㊙︎物語」は、この時代の彼女の主演作でした。若き日の井原西鶴に色を教えるという滅茶苦茶な設定でしたが、映画作品としてよく出来ていて、えらく感動したのを覚えています。その後、実録映画「新仁義なき戦い 組長の首」にも登場していました。

この時代の東映エログロ路線・実録映画は、ほぼ観ていたので、ひし美ゆり子は、私にとってはずっと現役女優でした。当時人気のあった五月みどりの「かまきり夫人」シリーズのソフトポルノよりも、根性の据わった役柄を体当たりで演じていて、小気味よかったものです。

映画・TV界のトップ女優の一代記ではありませんが、子供向け特撮番組から、TVドラマ、そしてエロ映画を経て、この業界の浮き沈みを見てきた人間の生の声が聞ける貴重な文庫だと思います。

大学の時、ファイルに挟んでいたアンヌ隊員のブロマイドを見たガールフレンドに、「ばっかじゃない」と笑われたことも、この本を読んでいて思い出しました……….。

 

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