吉野朔実のコミック「本を読む兄、読まぬ兄」(1800円著者サイン入/出品 葉月と友だち文庫)は、本好きにはたまらん一冊です。各章、毎回テーマが決まっています。「他人の本棚」では、主人公の青年が、雑誌などに載っている「他人の本棚」は、結局「他人に見せたい本棚」なのだと、つぶやきます。

「自分が人に見せるなら見栄を張ってミルハウザーとかオースターとか堀江さんとか並べちゃうかな でもそれじゃ芸が無いよな、きれいすぎる」と。で、堀江敏幸の「雪沼とその周辺」、ポール・オースターの「トゥルー・ストーリーズ」、S・ミルハウザーの「マーティン・ドレスラーの夢」が紹介されています。成る程ね〜こんな本を並べておくと、いかにも趣味のいい読書家に見えるのかもしれません。こんな風に、毎回そのテーマに沿った本が並ぶのですが、書評集ではありません。あくまで、ノホホンとした主人公の日々の暮らしの中にある本のお話です。限定本の老舗出版社、京都の湯川書房のことも、マニアックにならずにサラリと紹介しています。

 

心がつらい時、ポジティブな言葉は、ほんとうに人を励ますのでしょうか。その気持ちに寄り添うネガティブな言葉にこそ、反応するのではないでしょうか。「絶望名人カフカの人生論」(800円/出品 夜の遊歩者」は、あまりにもネガティブすぎて笑えてくる貴重な一冊です。カフカは、生前は作家として認められず、サラリーマンでした。しかも、その仕事が嫌で嫌でたまりませんでした。結婚もしたかったのに、生涯独身、身体虚弱、不眠症。家族との関係も最悪。書いた長編小説はすべて途中で行き詰まり、満足したことがなく、もう全部燃やして、と恨み言一杯の遺書を残してこの世を去りました。そういう大作家がこんな言葉を残しています。

「将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」

ここまでくると、いやぁ〜オレはまだここまでじゃないなと笑ってしまいます。誰よりも落ち込み、弱音を吐き続けた作家カフカには、妙に力があります。生きるのに疲れた時、疲労回復にお使いください。

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本日、最初にご紹介するのは、柳原良平「船キチの航跡」(2000円/出品 1003)です。平成元年、海事プレス社が一般向けの雑誌「クルーズ」を創刊しました。柳原は創刊号から、ずっとエッセイを連載。船旅の魅力や、立ち寄る港のこと、船のことなどを語ってきました。もちろんイラストも。釧路港に入港する「おりえんとびいなす」号、横浜港大桟橋に佇む「クィーンエリザベス2」など、旅愁を誘うイラストを楽しみながら、柳原の船旅エッセイを楽しむ贅沢!「揺れている時には甲板で風に吹かれながらホロ酔い気分でいるのが一番である」と、彼は船旅でお酒を大いに楽しみます。横浜港ベイブリッジを通過するクリスタル・ハーモニー号を描いた作品の背後に広がる青空を見ていると、きっと酒も上手いことでしょう。

圧倒的パワーで、いやぁ~カッコいいなぁ〜と感動させてくれる写真集が出ています。アリ・セス・コーエン著「Advanced Style」(1200円/出品 榊翠簾堂)がそれです。登場するのは、60〜100歳代のアメリカNYに生きる女性たちです。「ここに出てくる女性たちは、社会が描く『年をとった女性』というイメージにひるまない。彼女たちは皆、若々しい心とスピリットを持っており、個々のスタイルと創造力で自己表現している」と著者が書いているとおり、世間の常識などどこ吹く風、自分の好きな服を堂々と着て街を闊歩しています。ど派手な色彩の服も、歳を重ねた女性が自信をもって着ると、ゴージャスで美しい。「ファッションはその人を物語るもの」と井川遥が推薦文を書いていますが、着るもの、身につけるものは、その人を丸ごと表現しています。元気の出る一冊です。

世界は広い!と思わせた一冊が、中村吉広「チベット語になった『坊ちゃん』」(900円/出品 マヤルカ書房)です。中国、青海省の小さな町にある学校で、偶然にチベットの学生に日本語を教えることになった日本人教師が経験した物語です。チベット語と日本語の文法が似ていることに着目した教師は、なんと夏目漱石の「坊ちゃん」を翻訳の授業で取上げます。その過程で巻き起こる様々な事件を通して、この教師と学生との交流が綴られていきます。

著者は「チベット人に日本語を教えるという行為は、上から施す援助活動などではなく、正に、『教えることは学ぶこと』を実感する体験となって、教える側の日本人に日本と日本語の再考と反省を迫るものとなる」とこの体験を振り返っています。チベット語の事を語りながら、日本語の本質を見つめた本なのです。

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先日、国の押しつけ政策に必死で抗ってこられた、沖縄の翁長知事が亡くなりました。残念です。

さて、沖縄のことを語る本というのは星の数ほど出版されていますが、この地に暮す人々の、様々な表情を白黒写真で捉えた「やさしいオキナワ」(700円/出品 ヒトノホン)は、傑作の一つに入ると思います。撮ったのは垂水建吾。写真に寄り添うような文章を書いたのは、池澤夏樹です。池澤は、「なぜ、沖縄の人々の顔に惹かれるのか。彼らが正しい暮らしをしているからだと思う。」と書きます。正しい暮らし…..この時代に、なんて新鮮な響きでしょうか。どんな運命も受け入れ、或は断固拒否し、差別をせずに、おたがいに手を貸しあう社会を作ってゆく。池澤の言うように「そういう自信があるからこそ、この本に見るとおり、沖縄人の顔はなんともやさしいのだ。」

もう一冊、池澤夏樹の本でお薦めが「世界文学を読みほどく」(500円/本は人生のおやつです)です。サブタイトルに「スタンダールからピンチョンまで」とあり、いわば世界文学の歴史なんですが、読みやすい!それもそのはず、これは2003年9月に行われた京都大学文学部夏期特殊講義の講義録なのです。七日間、午前と午後に分けて、計14回の講義がされました。講義で語られたのは、19世紀と20世紀の欧米の長編小説十編です。アカデミックな文学専門家が書き下ろしたら、少なくとも私はきっと寝てしまうところですが、池澤の話し方が巧みなので、フムフムと作品世界に入っていけます。個人的な事ですが、大学の基礎ゼミでメルヴィルの「白鯨」をやったときは、少しも前に進みませんでした。しかし池澤は、ポストモダンの小説として、明確に説いていきます。初めて、この本を読んだ時、こんなゼミに出ていれば、基礎ゼミも優だったかも、などと思ったものです。

さて、もう一冊は赤坂憲雄著「岡本太郎の見た日本」(1100円/出品 半月舎)です。民俗学者の著者が、岡本太郎の民俗学的仕事として有名な縄文土器へのアプローチ、そして東北、沖縄へと一気に広がった岡本独自の日本文化再発見のプロセスを論じた一冊です。

「戦後のある日、私は、心身がひっくりかえるような発見をしたのだ。偶然、上野の博物館に行った。考古学の資料だけ展示してある一隅に何ともいえない、不思議なモノがあった。ものずごい、こちらに迫ってくる強烈な表情だ。」と縄文土器との出会いを自伝に書いているとおり、岡本はこの土器との出会いから、猛烈な勢いで日本文化とは何かというテーマにのめり込んでいきますが、その様子が書かれています。岡本は、フランス在留時にパリ大学で民俗学を学んでいたのですから、半端ではありません。「太郎はつねにあたらしい」は、この本の最後を飾る言葉ですが、その通りの人物だったことが理解できます。

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結城信一(1916〜1984)という作家は、何かと読んでいます。静謐感のある世界が好きなんです。今回、一冊だけレアな作品集が出品されていました。「小品集 夜明けのランプ」(2500円/出品 古書柳)です。

「杉林をつつみこんだ深い夜の霧が、かすかな葉ずれの音をまじへながら、ゆるやかに流れつづけている。おもむろに流動するその濃い霧の色まで、まぼろしのやうに見えてくる。広い杉林の山肌を埋めつくした紅葉の重なりが、凍みつく寒気に凝縮してゆく音も聞こえてくる。……..私はパンを焼き、果物の缶詰をあけ、珈琲を飲み、ささやかな遅い夕食を食べたばかりで、黄色いランプの下にいる」

「夜明けのランプ」の書出しですが、澄み切った空気が支配しています。起承転結のある物語が進んでゆくわけではありません。けれど、不思議と心がおちついていきます。

こちらも貴重な本が出ています。クリストファー・ミルン著「クマのプーさんと魔法の森」(4000円初版/出品 はやね堂)です。著者自身が「はじめの方の数章で、私は、ミルン家の家庭生活(プーの本を生み出す原因となり、また逆に、プーの本から触発されることもあった家庭生活)を描こうとしました。」と書いているように、クリストファー・ロビン・ミルン自身の手による彼の幼年期時代の自伝です。プーの裏話や、父への愛憎が書かれています。中程に、幼少期のクリストファーが、ぬいぐるみのプーさんと一緒に、木に登っている写真が挿入されています。こういう二人の日々の小さな冒険がプーさんの愛すべき物語を生み出していったのでしょうね。もちろん、翻訳は石井桃子さんです。

これも絶版になっていました。小沢信男「本の立ち話」(900円/出品 とほん)です。小沢の書評、解説、随想をまとめたものです。小沢の本は「東京骨灰紀行」しか読んでいないのですが、味のある文章が好きです。チャキチャキの江戸っ子の風情もいい感じです。「敗戦から六十年、あのどさくさのさなかから生まれた赤ん坊たちが、今年そろって還暦になる。いやはやおめでとう!当事病気がちの中学生だった私も、無慮七十八歳。こんなに死なずにいるとは嘘のようだ。」とは、武井武雄「戦中氣画表」「戦後気儘画帳」についての書評の出だしです。お堅い書評集とは一味も二味もちがいます。

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日本画家秋野 不矩は、京都市立芸大で教鞭をとっていた1961年、初めてインドに行きます。その後何度も渡印した彼女が、現地で見たインドの人々と、自然をスケッチと文章でまとめたのが「画文集バウルの歌」(800円/出品 古書柳)。簡潔ながら、詩的な文章が心に染み込んできます。そして、各ページに添えらたスケッチが、繊細で、力強く、魅入ってしまいます。第二章「スケッチブック」では、1977年の彼女の現地で描いたスケッチブックがそのまま収録されています。第三章「1982」は、82年9月末からのインド滞在時の日記と、ユーモアたっぷりのスケッチを楽しむことができます。今回の古本市には、秋野 不矩が絵を描いた、「こどものとも」シリーズの一冊「ちいさなたいこ」(300円/出品 トンカ書店)も出ています。

 

京都つながりで言えば、杉本秀太郎の本が二冊出品されています。「京都夢幻記」(500円/出品 らむだ書店)は、よく見かける本ですが、「西窓のあかり」(2000円/出品 らむだ書店)はあまりお目にかからない一冊です。京都における雅びについての考察の中で、夏目漱石の「京に着ける夕」という短編が取り上げられています。下鴨神社境内の、糺の森近くの宿に泊った時のことが描かれています。杉本は、この短編から雅びとは何かを導き出します。杉本の本を集めている方には、手に取っていただきたい一冊です。

海外長編小説では、ぜひにでも読んで欲しいものが出ていました。アンソニー・ドーア作「すべての見えない光」(1000円/出品 ヴィオラ書房)です。戦時下のフランス。目の見えない少女マリー=ロールと若きナチスドイツの兵士ヴェルナーの出会いを描いた作品です。藤井光の翻訳が、この二人の運命の変転を余すところなく描いていきます。藤井の「ドーアの作品に欠かすことのできない、人間に対する細やかまなざしは『すべての見えない光』のひとつひとつのエピソードを忘れがたいものとしている。マリー=ロールとヴェルナーの心の脆さ、強さ、迷い、成長、そして決断を、ドーアの繊細な筆致はていねいに刻みこんでいく」という言葉通り、物語に魅了されます。

 

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今回は、写真集からご紹介します。

おっ、この本が古本市に出たか!と思ったのが本橋成一の「屠場」(2200円出店/居留守文庫)です。これは、一家に一冊常備しておいていただきたいと思う写真集です。屠殺場に送られてくる牛、その牛たちの解体の現場、そこで働く男たちの寡黙な姿を捉えています。私たちが、日頃口にしている肉はこうして運ばれてくるのだ、他者の命を喰らうことで私たちは生きている、ということを忘れないために。

星野道夫の大型写真集「Araska」(4000円/出品 古書柳)もぜひ持っておいて欲しい写真集の一つです。極北の地アラスカに躍動する、動物達の命を真正面から撮り続けた星野らしい写真集です。動物たちだけでなく、この地に生きる人々たちの逞しい顔も捉えています。こういう過酷な大自然の中で生き抜くと、こんな精悍で、素敵な顔になってゆくのですね。

 

個人的に、松田青子の小説「スタッキング可能」にはギブアップしてしまいましたが、彼女の書評集「読めよ、さらば憂いなし」(500円/出品 思いの外)はお薦めです。谷崎の「細雪」について、

「雪子ちゃんの顔のシミは何だろう。『細雪』の三女、三十を過ぎて独身の雪子ちゃんの顔に現れる『例のシミ』のことである。三十を過ぎた人間の顔にシミができるのは当たり前のことだと思うのだが、昭和十年代では、どうやらこのシミが大問題らしい。『細雪』は雪子ちゃんの顔のシミをめぐる物語であると言ってしまいたくもなるくらい、上中下巻にわたり、このシミのことばかり何度も取りざたされる。」

そうだったか??もう一度読んでみようかな。書評集の後半には映画評も収録されていますが、単なる書評、映画評に終らず、元気だして生きていこうというよと前向きな気分にさせる不思議な魅力一杯です。

もう古書で出るのか!と驚いたのが、「須賀敦子の手紙」(1000円/出品 とほん)です。1975年から1997年にかけて友人に送られた55通の手紙を、オリジナルと活字に直したものと同時に掲載した本です。71年、夫と死別し帰国した須賀が、親友に送った手紙には、一人暮らしの孤独、文章を書くことの喜び、不安、そして自分の病のことなどが語られています。書簡を公開するのはどうかな、と本が刊行された時には思ったのですが、一人の女性の生き方がみっちり詰まったいい本です。

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本日より第7回「夏の古本市」がスタートしました。がんばって、本の紹介をしていきます。

ページを開けると、こんな文章が飛び込んできます。

「舞踏会BALLS どんな年令の婦人向きのものでも、伝統的なポール・ドレスとなりますと、世界中のファッション・デザイナーのうちで、専門家として最も名高いのは、文句なしに、ピエール・バルマンです。」

舞踏会なんて、フツーの日本人には縁遠いものです。これ、昭和41年に発行された「エレガンスの事典」(3000円/出品 はやね堂)の中にある文章です。「アクセサリー」に始まり、「ブラウス」、「スーツ」、「シック」などおよそエレガンスに関するすべての言葉を網羅し、解説した事典です。初版発行から11年で18回もの版を重ね、今も古書では高値で取引されています。「男性」という項目では「服装が悪くても、とがめられずにすむのは、富豪と天才だけです。」と書かれていて、身だしなみのよい男性が絶対身に付けてはいけないものが列挙されています。男性諸氏にもぜひ。古風な文章がいいです。

次は、クールな猫たちの写真集。「ニューヨークの猫たち」(600円/出品 にゃん湖堂)です。写真を撮ったのは、テリー・ドゥロイ・グルーバー。発行されたのは昭和57年です。すべて、NYに生きる猫たちが白黒写真で捉えてあります。表紙のボスの貫禄十分な猫から、ぐっと引込まれる作品集です。登場する猫たちがクールなのですが、NYの街並みが背景にくると、さらにクール度がアップしてきます。野球場に住まいするスラッガーという名前の猫が登場しますが、当然ニューヨーク・ヤンキーズのファンなんでしょうね。

 

当店で、いまも根強い人気のある山本容子の本も何点か出品されていますが、「はなうた巡礼」(700円/出品Traveling Book Store)は、あまりお見かけしません。これは作家自身の少女時代を回想した絵本です。縄とび、まりつき、石けりなど夢中になった遊び、そして身体に染み込んだ当時の歌。「雨降りお月」、「月の砂漠」、「待ちぼうけ」等々が彼女の絵とともに甦ります。本に登場する歌の歌詞はすべて、巻末に収録されていますので、歌えます。

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来週8月8日(水)からスタートする「レティシア書房夏の古本市」に出品される本のご紹介Vol.3です。

先ず、これは買い!安い!!という豪華五冊セットの本です。晶文社が出している「植草甚一倶楽部」全5巻がなんと1800円!!です(出品 徒然舎)。「芸術誌」「収集誌」「読書誌」「散歩誌」「映画誌」のジャンルに分けられていて、それぞれに植草の文章が収録されています。単品では当店にもありましたが、全巻セットで販売、しかもハードカバーで1800円(1冊当たり360円)。

「読書術」の中に「中間小説の面白さはスピードから生まれてくる」というエッセイがあります。「中間小説の面白さは、それを読んでいくスピードから生まれてくるのだ。あんまりゆっくり読んでいると、すぐにつまらなくなるものだし、それで、面白かったら、それは傑作のなかにはいってくる。」という指摘に、成る程な〜、と納得した記憶があります。「芸術誌」では、お決まりの西洋芸術の紹介ではなく、フリージャズ、ロックに始まり、新しいムーブメントに敏感だった植草らしいエッセイが並んでいます。

当店でも人気の翻訳家柴田元幸が、東京大学出版界から出した「アメリカン・ナルシス」(1000円/出品 徒然舎)は、柴田が大学教師になってから書いた論文を集めたアメリカ文学論です。第一部は19世紀アメリカ文学を論じたもので、メルヴィルの「白鯨」からスタートです。第二章ではアメリカ論を中心にまとめ、第三部では、彼の翻訳でお馴染みのポール・オースター、スティーブン・ミルハウザー等が登場してきます。端正なアメリカ文学論で、柴田ファンにはマストアイテムだと思います。なお、この本は第27回サントリー学芸賞受賞を受けています。

もう一点。私の大好きな香月泰男の図録「香月泰男小品展』(1000円/出品 徒然舎)は、1994年3月に画廊で開催された時の図録です。戦中戦後のシベリア抑留時代の極めて緊張度の高い「シベリアシリーズ」とは異なり、日常のありふれた空間を切り取った作品は静かで、子どもと触れ合う母親を描いた作品群には、平和の貴重な時間が描かれています。

 

 

 

★レティシア書房恒例「夏の古本市」は、8月8日(水)〜19日(日)開催です。なお、準備のため6日(月)7日(火)は連休いたします。

 

 

来週8月8日(水)から始まる古本市に出る本の紹介第2弾です。

これは面白そう!と表紙だけで、読みたくなったのが「謎のマンガ家・酒井七馬伝」(700円/出品 本は人生のおやつです)です。手塚治虫の単行本デヴュー作は「新宝島」ですが、その後、この作品は多くの漫画家に賞賛され、追い越そうと多くの作家が努力してきました。しかし、「新宝島」には共作者がいました。現在、手塚全集に収録されているのは、手塚がリメイクしたもので、どこにも共作者の名前はありません。まるで封印されたようなその共作者の名前が、酒井七馬なのです。

「新宝島」の作画を大学生だった手塚が担当し、原作構成を関西マンガ界のベテランだった酒井が担当しました。出版社に、無名の手塚を売り込んだのも彼でした。しかし、その後二人の間に確執が生じ、マンガ界の頂点目指して脚光を浴びる手塚に対して、酒井は全く売れず、紙芝居業界に転じ、あげくはコーラを食料にして、寒さに震えながら餓死同然にこの世を去ったという伝説だけが残りました。でも、それは真実なのか?それを探ってゆくのがこのノンフィクションです。我が国のマンガ黎明期の歴史もよく解る力作です。

池澤夏樹の娘、池澤春菜の書評集「乙女の読書道」(500円/出品 本は人生のおやつです)も、読んでおきたい一冊です。声優、歌手、ガンプラ女子など多彩な顔を持つ春菜は、SF小説にも深い造詣があります。海外のSFを中心にして、多くの書評が載っているのですが、ファンタジー、耽美小説、幻想文学と広い範囲をカバーしています。書評の間に、「向こう岸の父と祖父」という、自分の家族を語った文章もあります。「私の父は作家、池澤夏樹。 私の祖父は作家、福永武彦、私の祖母は詩人、原條あき子。」という書出しで始まります。著名な作家に囲まれて育った、彼女の思いが綴られています。巻末には父娘による「父と娘の読書道」も入っています。

昨日紹介した夏葉社の新刊「庄野潤三の本 山の上の家」の主人公、庄野潤三の作品もあります。「紺野機業場」(500円/出品OLD BOOK DANDELION)です。雑誌に掲載された長編小説を単行本化したもので、発行されたのは1969年。「ふとしたことから私は、北陸地方の海ばたの、さびしい河口の町で小さな織物工場を経営している紺野友次という人と知り合った。それからもう四年になる。」という風に始まる物語は、紺野という人物を通して、この地方の織物文化、歴史等が語られていきます。古本市では庄野の作品はよく見るのですが、これは初めて見ました。レアなの?

 

 

★レティシア書房恒例「夏の古本市」は、8月8日(水)〜19日(日)開催です。なお、準備のため6日(月)7日(火)は連休いたします。

次週8月8日(水)から、第7回レティシア書房「夏の古本市」が店内で始まります。

今回も25店程が参加してくださいます。どんどんと荷物が入ってきていますので、今日から、すこしずつご紹介していきます。

「ここが家だ/ベン・シャーンの第五福竜丸」で日本絵本賞を受賞したアーサー・ビナードが、ボブ・ディランの名曲”forever young”を翻訳し、イラストレーターのポール・ロジャーズが絵を書いた「はじまりの日」(1200円/出品UNITE)は、とても素敵な絵本です。ディランの歌詞って、かなり複雑で難解です。歌のサビの部分で繰り返し登場する”forever young”を、ビナードは「毎日が きみの はじまりの日 きょうも あしたも あたらしい きみの はいまりの日」と、前に向かって歩く人生の応援歌として訳しています。

和田誠の「CATS IN WADALAND」(950円/出品UNITE)もお薦めです。1975年、角川文庫のルイス・キャロル「不思議の国のアリス」の挿絵として描かれた、有名なチシャ猫から始まり、和田が書籍や雑誌に描いた猫作品を集めたものです。発表されたものばかりではなく、エッチングの習作も収録されています。岩手県の「森の音楽会」という団体の「セロ弾きのゴーシュ」をイメージしたマーク、などというレアな作品もあります。タバコを吸う猫を描いた作品は、日本専売公社のポスターのためのイラスト。タバコの灰が、地上に出て来たモグラの口元に落ちているところが面白い。

もう一つ、絵本の紹介を。萩尾望都が文章を書き、こみねゆらが絵を書いた「トリッポンのこねこ」(教育画劇/950円)です。萩尾望都が、絵を書かずに文章だけに専念しているって珍しい本ではないでしょうか。

漫画家の井上雄彦がガウディと組んだ(?)二冊組「特別展ガウディ×井上雄彦/シンクロする創造の源泉」は、同タイトルの作品展の図録です。一冊は、ガウディの業績を豊富な写真と共に論じたもので、もう一冊が、井上雄彦がガウディの生涯を描いたもの。井上の繊細で、しかもダイナミックな画力を堪能できます。ガウディに触発され刺激を受けて、井上が描いたアート作品です。(左の作品は井上の描いたガウディの様々な表情です)

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