「ウルトラマンはもともとM78星雲の宇宙警備員で、身長40メートル、重量三万五千トンという巨大なからだを持っていた。ある時、凶悪怪獣ベムラーを怪獣墓場へ護送する途中、逃げられてしまった。」

そうかウルトラマンはチョンボしていたのか……、初めて知りました。中江克己著「おもちゃ戦後文化史」(奏流社1000円)にある一節です。この本、昭和20年代のブリキ製のジープに始まって、昭和50年代のテレビゲームに至るオモチャの変遷を描いた、いわば子どもの世界からみた戦後史です。自分の生まれた時代から読み始めても面白い一冊です。

次にご紹介するは、ヤングアダルト向け(高校生向け?)のジャンルに入る小説ですが、大人が読んでも面白いのです。作者は那須田淳。1995年よりベルリンに在住。作家アクセル・ハッケと画家ミヒャエル・ゾーヴァの共著『ちいさなちいさな王様』など翻訳でも有名な作家で、ご紹介する「一億百万光年先に住むウサギ」(理路社250円)の表紙もミヒャエル・ゾーヴァのウサギが自転車に乗っている作品が使用されています。森絵都のヤングアダルト向け小説のテイストに近い青春ものですが、ラスト、ドリス・デイのポピュラーソング「ケ・セラ・セラ」のレコードが登場して、ちょいと涙が出てきます。

小さな出版社を立ち上げた人達の獅子奮迅ぶりと、マイペースな生き方を描いた傑作ノンフィクション「ひとり”出版社”という働きかた」(河出書房600円)は、いつも入荷する度に売れた本です。ミシマ社、土曜社、夏葉社、サウダージ・ブックス、タバブックス等々、当店とお付き合いの出版社も掲載されています。この本は、出版社の業界本ではなく、小商いで、背伸びせずに、時代に流されずに、いきてゆくための指南書と思って読んでいただきたい一冊です。

もう一冊、異色のノンフィクション「釜ヶ崎のススメ」(洛北出版1000円)。日雇い労働者の街として有名になったこの街を丸ごとルポルタージュした本で、いかにして私たちは生き抜いてゆくのかを考えさせてくれます。でも、決して難しい本では有りません。

「一般的に『西成・釜ヶ崎』は怖い所らしい。しかし私は釜ヶ崎に来て40年、怖いと思った事がない。ただ、西成警察を除いて。それどころか、こんなに人間らしい街、こんなに暖かい街は他地域に無いと思っている。そんな街に生きる子どもたちはと言えば、実に子どもらしい。」

なんて文章を読んだら、中身を覗きたくなりますよね。

毎年、東京の駄々猫さん恒例の人気「福猫袋」ブックもあります。雪にめげずに、ぜひ本と遊びにきてください。

★「女子の古本市」は19日(日)まで開催です。月曜定休日。最終日は18時まで。

 

レティシア書房、冬恒例の「女子の古本市」が始まりました。

東京、岐阜、大阪、兵庫、滋賀そして京都市内から28店舗が出揃いました。本日より最終日まで、毎度お馴染みの「こんな本を見つけた」をブログで開始します。

さて、最初にご紹介するのは、宮沢賢治の「よだかの星」(リブロポート1000円)です。これ賢治の童話に、玉井司の絵をつけた絵本なんですが、これに、あがた森魚が朗読し、彼自身の作詞による「よだかの王冠」を歌ったCDが付いているところが注目の絵本です。

 

数年前に亡くなったイラストレーター、フジモトマサル(亡くなった後、のきなみ著作が値上がり、今でもネットでは高額のものが沢山あります)が歌人の種村弘と組んだ「にょにょにょの記」(文藝春秋700円)は、種村の日記にフジモトがイラストを付けたもので、ユーモアに富んだ世界。モグラのような、アライグマのような不思議なキャラが魅力的です。種村弘の本では、安西水丸と組んだ「いじわるな天使」(アスペクト400円)も出品されています。イラストレーターを比べながら読んでみるのも面白いかもしれません。安西水丸が村上春樹と組んだ「うさぎおいしいフランス人」(文藝春秋1000円)も出ています。これも最近見かけなくなった一冊かもしれません。

種村の歌集が、一点出ていました。タイトルは「シンジケート」(沖積舎1000円)。

「耳で飛ぶ像がほんとにいるならおそろしいよねそいつのうんこ」

デイズニーのダンボのことを歌った作品ですが、確かに、空からうんこが降って来たら….。

 

如何にも古本屋という風情の写真満載の、東京の盛林堂が出した岡崎武志×古本屋ツアー・イン・ジャパンの「古本屋写真集」(1600円)は、非常にレアな写真が見られます。あの銀閣寺の古書店「善行堂」の名物店主が写っていますが、なんと髪の毛が黒い!若〜い日の店主の横顔が拝めます!

もちろん、岡崎さんもお若い姿で写っておられます。

なお、壁面には女子の古本市向けに、松田敏代デッサン作品「彼女」も展示してありますので、ご覧下さい。

 

★「女子の古本市」は19日(日)まで開催です。月曜定休日。最終日は18時まで。

 

 

 

 

 

今、話題の新刊本屋さん「Title」の店主、辻山良雄さんの「本屋はじめました」(苦楽堂1728円)を興味深く読みました。

この方、神戸出身で、早稲田大学を卒業後、西武系列の書店「リブロ」に入社。当時の「リブロ」は、最も知的で、新しいアートにも積極的に取り組んでいる、書店員憧れのお店でした。池袋本店にお邪魔した時は、心臓が止まりそうなぐらいの興奮に襲われた事を思いだします。

多分、書店員なら、こんな職場で思い切り本と格闘してみたいと思ったはずです。しかし、その後の新刊本屋さんの業績不振に、この書店も巻き込まれていき、辻山さんも職場を去らざるを得なくなります。閉店の寂しさと、新しい日が始まる期待の入り交じった複雑な感情は、私も経験したことがあります。

退社後、著者は自分の店を持つべく動き出します。これから新しいことを始めようという方には熟読して欲しいものです。開店までの道程の中で、一カ所、ああ、同じ思いだなぁと強く感じいった部分があります。それは、著者のお母様が亡くなられた時のことです。遺してもらったまとまったお金を前にして、こんな考えが過ります。

「自分はこの年でもう本を売る仕事しかできないかもしれないけれど、そのお金を使って他の人に喜んでもらうには、来る人がその人自身に戻れるような落ち着いた場所、さまざまな人が行き交い新しい知識や考え方を持って帰ることのできるような本屋を、小さくてもよいのでこの世の中に一つつくるしかないのではないかとも、同時にぼんやり思っていました。」

私自身、母の最期を看取ったあと、遺してもらったものを前にして、私のお金じゃない、店のためのお金なんだろうなと、やはり「ぼんやり」思ったものです。

店の物件を探し、レイアウトを決め、本を搬入してゆく様を描いた開店までの日々は、本好きの方なら誰でもワクワクする気分になってきます。開店の朝、ほんとにお客は来るんだろうか?という不安は、みんな同じですね。

この本は最後に「Titleが閉店する日」で終わっています。著者は、別の誰かがこの店を続けるという考えはないということの上で、この店を見た、どこかの誰かが、その人なりに考えて、その人らしい店を始めた時に、Titleが続いてゆくと書かれています。

なるほど、もし、自分の店を気にいってくれた誰かが、私ならこうすると新しい本屋を立ち上げてくれたら、これ程嬉しいことはないでしょう。

本の最後に、著者と誠光堂の堀部店長との「東西本屋店主対談」が掲載されています。こちらも面白い!

★2月8日(水)〜19日(日)レティシア書房恒例「女子の古本市」を開催いたします。

東京、岐阜、神戸、大阪、滋賀、京都から20数店の女性店主がセレクトしたステキな本が、所狭しと並びます。ご来店お待ちしています。

 

書評家の岡崎武志さんの新刊「気がついたらいつも本ばかり読んでいた」(原書房)を読んでいたら、こんな記述にぶつかりました。

「蓮實重彦を代表とする映画の高踏的ファンのあいだで、フランシス・レイが好き、というのは、文学好きのあいだで、相田みつおが好き、というぐらい勇気がいる。しかし、好きという気持ちはどうしようもない。」

岡崎さんは、映画「男と女」のサントラを担当したフランシス・レイのことを賞賛しているのですが、ロマンティシズムとリリシズム一杯の、あの音楽を誉めるのは、気が引けるのかもしれません。私は大好きです、このサントラは。

これほど冬にピッタリの音楽はないと思います。もしかしたら夏にかけたら、うざい!と再生を止めてしまうかもしれません。ところが晩秋から冬にかけて聴くと、これほど季節に寄り添った音楽は、ないでしょうね。映画界に革命をもたらした「男と女」は、その後多くのTVコマーシャルでパクられる程有名でしたが、映画を知らなくても、雪の降った日にエンドレスで流しておけば、見慣れた街の風景が全く違ってみえてくるかも。

映画音楽というのは、もちろん映画に属しているのですが、「男と女」は完全に独立した力の持った音楽でありながら、映画の世界を深く語るだけのサウンドを持つ希有なアルバムです。店にはレコード2000円、CD1400円を置いています。どちらも、オリジナルの映画ポスターをジャケットに使用しています。

このサントラで歌っている歌手であり、出演者でもあったピエール・バルーが昨年82歳で亡くなりました。歌手であり、俳優であり、レコードレーベル「サラヴァ」の創設者であるという、多面的な活動をしていました。彼のデヴュー作品、フランシスとコラボしたアルバム「VIVRE」(1800円)も、これまた冬に聴くべき音楽だと思っています。梅雨時分に聴くと、ドロドロと心が溶けてしまいそうなので御注意ください。

モノクロームな光景とアンニュイな雰囲気、そして孤独感。フランシスのアコーディオンがそっと寄り添うところがニクイですね。ピエールはこんな風に冬を歌っています

「冬のある日、光を浴びて君が目覚めた とまどう冬 冬の太陽 君が見つめている僕だけの心が目覚めた 鳥は僕の夏に向かって鳴いた」

★2月8日(水)〜19日(日)レティシア書房恒例「女子の古本市」を開催いたします。

東京、岐阜、神戸、大阪、滋賀、京都から20数店の女性店主がセレクトしたステキな本が、所狭しと並びます。ご来店お待ちしています。

 

 

 

 

先日、京都で行われた「京都文学フリマ」に出店されていた「クルミド出版」さんの本が入荷しました。

「京都文学フリマ」当日、寺井暁子著「草原からの手紙」(2160円)という15cm×12.5cmの小さな本が目に止まりました。著者が2014年アフリカへ旅立った時の体験を、手紙風に綴ったエッセイです。(表紙にがご丁寧に消印が押してあります)

搭乗機が乗り遅れた乗客を待ったり、ナイロビの入国審査でトラブったりと初日から数時間の遅れ。でも、待っていてくれた仲間の、旅にはそんな日もある、今日がその日と思えばいい、という言葉にほっとして、「全身を黒い服で包み、片手に赤ちゃんを抱え、もう一方の手で小さな女の子の手を引いてタラップを登ってきたムスリムのお母さんが飛行機に乗れて本当に良かった。」と前向きな気持ちで旅をスタートさせます。ステキな写真を交えながら、旅が続きます。アフリカの人々や、大地が、彼女に何をもたらしたかが、飾らない文章で語られていきます。

寺井さんは、クルミド出版から、もう一冊「10年後、ともに会いに」(2700円)という、やはり旅の記録を綴った本を出しています。ヨーロッパ、北米を経てイスラエル、パレスチナ、そしてエジプトへと向かいながら、世界を見つめた大作です。本のサイズ、判形は岩波書店「愛蔵版・モモ」を参考にした落ち着いた感じで、手触りもステキな外観です。

ほかに、小谷ふみ著、エッセイ&詩「やがて森になる」(2160円)も入荷しました。クルミド出版は、版形、フォント、紙質にも拘りがあって、最後のページにどんな紙を使ったか、使用したフォントは何で、どこの印刷所を使ったのかまで詳細なデータが掲載されています。そこに、この本の版形が決まったのは「喫茶店で『珈琲、ケーキと一冊の本』の組み合わせに」に合う大きさになったと書かれています。掌に乗る文庫サイズで、赤い紬の優しい手触りのクロス貼りです。

拘りで言えば、その最たるものは古川誠著「りんどう珈琲」(2冊組3240円)でしょう。これは、拙い文章で紹介するよりも実際に手に取ってご覧ください。全ページ500を超える大作ですが、それ故に分冊で2冊組になり美しい函に入っています。手元に置いて、ちょっとずつページを捲りたくなる魅力のある本作りです。

「そういえばさぁ。」(300円)という雑誌も到着しています。出版社のある西国分寺界隈をテーマにした小冊子です。

クルミド出版は西国分寺駅前クルミをテーマにしたこどものための喫茶店「クルミドコーヒーからはじまった出版社で、ポリシーは、

「丁寧に時間と手間をかけてつくったものは必ず受け取ってくださった方の心に届く」

です。丁寧な作りで出来上がった本ばかりですので、ゆっくりとご覧いただければありがたいと思います。

★2月8日(水)〜19日(日)レティシア書房恒例「女子の古本市」を開催いたします。

東京、岐阜、神戸、大阪、滋賀、京都から20数店の女性店主がセレクトしたステキな本が、所狭しと並びます。ご来店お待ちしています。

 

 

 

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女性店主の古書店を巡る本で、今でも入荷すると売れる、岡崎武志「女子の古本屋」という古本屋さんのガイドブックがあります。本を扱って暮すそんな女性たちを、新しい視点で見つめた「本の時間を届けます」(洋泉社1000円)が入荷しました。

ここで、選ばれているポイントは、1.女性店主、主宰者の個人の力を大切にしている、2.スタートして10年に満たない、3.地域に根ざしている、の3点です。次週から、当店で始まる「女子の古本市」に参加していただく岐阜の徒然舎さん、滋賀県彦根の半月舎さん、京都のcroixille/クロアゼィユさんも取りあげられています。

croixille/クロアゼィユさんは、2015年のクリスマスに、京都大学近くの古い洋館アパートの一室にオープンしました。え?こんな場所で成り立つの?と思ってしまうロケーションですが、オーナーの中村早美さんは、「いまここにいる環境で、自分なりのやり方で、できることからはじめた」と語っておられます。この書店を特徴づけるのは月一回の読書会です。会で参加者との親交を深め。さらに市内の古書店とも繋がりを持ってネットワークを広げてゆく、というのは、croixille/クロアゼィユさんだけでなく、当店も含めて皆さん同じ気持ちだと思います。

この本では、古書店だけでなく、出版社を立ち上げた女性も紹介しています。大手出版社で猛烈編集者だった女性が、地元の北千住(東京)のアパートの一室に「センジュ出版」を立ち上げました。「弱肉強食」をモットーに、「明日死んでもかまわない」と思うぐらいの覚悟で編集者業に邁進していた彼女が、今や「共存共栄」を座右の銘にして、自分の時間を大事にしながら、本を世に送り出そうとしています。彼女の人生のこの大きな転向を促すきっかけは、小さなことから。そこが、面白いところです。(詳しくは本書で)

一方、図書館をオープンさせた女性もいるんです。瀬戸内海の男木島に大阪から移住した額賀さんがその人です。移住を決心した時、島には学校がありませんでした。先ずは、学校の再開からスタートします。多くの署名が集まり、役所を説得し、男木小中学校の再開が決まります。そして、皆が集まれる場所として図書館の開設へと進んでいきます。島にあった廃家を、持ち主とねばり強く交渉し、クラウドファンディングで資金を集め、みごと「男木島図書館」としてオープンさせました。彼女曰く

「先ずは継続ですよね。とにかく10年は続けてみる。そのぐらいはやってみないとわからないこともあると思うんです。」

多分、ここに登場する女性たちは、長く続けることで見えてくるものがあることを知っているのではないでしょうか。どこまでも自然体で気負わず、今の暮らしを守りながら大好きな本と生きるなんて、これ以上の幸せはないでしょうね。

★2月8日(水)〜19日(日)レティシア書房恒例「女子の古本市」を開催いたします。

東京、岐阜、神戸、大阪、滋賀、京都から20数店の女性店主がセレクトしたステキな本が、所狭しと並びます。ご来店お待ちしています。


 

 

エストニア&フィンランド合作「こころに剣士を」を観ました。舞台は、第二次世界大戦後のエストニアです。エストニアは、ドイツ側として参戦。終戦後、ソビエト連邦の支配下に置かれ、時のスターリン政権は、ドイツ側で戦ったエストニア人狩りをやっていました。

エストニアの田舎町ハープサルに赴任してきた新人の体育教師は、実はソビエトの秘密警察に追われていて、姓名を偽っています。この田舎町で、なんとか生き延びようとしました。彼は教師でありながら、かつてはフェンシングの名選手でした。もう剣は持つまいと決心していたのですが、ひょんな事から子供たちに教えるはめになります。一方、この学校の校長は、彼の出生に疑問を持ち、調べ始めます。映画は大げさな描写は極力避けながら、警察に怯える教師と、次第にフェンシングに目覚める子供たちを淡々と描いていきます。フェンシングが、こんなに大きく取り扱われている作品って滅多にありません。

上達した子供たちは、レニングラードで行われる試合に出たいという思いが強くなります、しかし彼の立場に立てば、そんな大都会に行ったら、逮捕されるのは間違いありません。出場に尻込みする教師、剣を交えてみたい生徒達、迫り来る警察。

補欠になっていた女の子が最後に登場して活躍するという設定は、「がんばれベア−ズ」以来のスポーツもののパターンですが、しかし試合終了後、警察に連行される教師を見送るその女の子の、現実を見つめたきびしい視線には、大人が始めた戦争に子どもを巻き込むな!と言う強い意志が込められています。

ハープサルの町には、親のいない子どもたちが沢山います。みんな、父親を戦争に駆り出されて戻ってきていません。また、インテリジェンス溢れる祖父と生活していた生徒は、スターリン政権 の思想弾圧で逮捕されていきます。戦争に巻き込まれた子どもたちは、その悲惨な現実の前でどうしようもありません。

たとえ、どんな大義名分があろうとも、戦争の犠牲になるのは子どもたちです。その重たい事実をベースにして彼らが、一本の剣にすべてを託して、未来を切り開く姿を描いた作品として、心に残る映画でした。

 

★2月8日(水)〜19日(日)レティシア書房恒例「女子の古本市」を開催いたします。

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呑海(どんかい)龍哉写真展、本日より開催です。(2月5日まで)

呑海さんは、自称「お散歩フォトグラファー」。昨年、京都のあちこちの日常風景を撮った自身の写真集「京都夢物語」を持って来店されたのですが、せっかくなのでオリジナルの写真展を企画しました。

某関西私鉄電車の、ホームにズラリと並んだ舞子さんを撮影した宣伝がありますが、同じテイストの上りエスカレーターに並んでいる舞妓さんを捉えた作品がユーモラス。タイトルは「ひよっこ舞妓」。そして、愛くるしい女の子が、自宅の魚屋さんでお店番をしている「いらっしゃいませ」(写真左)。懐かしいような、微笑ましい一瞬が切り取られています。

写真集「京都夢物語」(1944円)の表紙を飾る、唐草模様のスカーフを巻いた子いぬを捉えた「室町の若旦那」(写真右下)は、入口の最初に飾られました。なんとも愛くるしい。

以前、この写真集のことを紹介したブログで、京都大学の合唱団の部室の前で、チェロを弾く楽団員を捉えた大学の静かな情景をとらえた作品を取り上げました。こちらも、部室の前に広がる日だまりがなんとも優しい雰囲気を伝えています。練習している彼女の演奏が、聞こえてくるような素直な風景です。

映画のワンカットみたいな「それぞれの人生」(写真左)はどこかのお寺の山門に腰掛けた二人のご老人が談笑しているとことを背後から撮った作品です。山門の前に広がる木々の若さと人の老いとの対比、時間の流れを感じる構図です。

「いらっしゃいませ」もそうですが、少女のちょっとした表情を捉えた叙情性に、作家の個性があるように思います。虚無僧を見上げる興味津々な少女の姿「何してるの」、疎水べりを手紙を読みながら歩く女の子の軽やかな姿を撮った「パリからの手紙」(写真右下)、傘をさした少女を真正面から捉えた「雨あめ降れふれ」など。

京都の観光案内や、美しい風景写真集では出会う事のない、ゆっくり散歩して見つけた京都の町を観に、ぜひ足をお運びください。なお、作品は全て販売しています。

呑海龍哉写真展は、2月5日(日)まで

 

★2月8日(水)〜19日(日)レティシア書房恒例「女子の古本市」を開催いたします。

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昨日のブログは吉田健一と娘、暁子との「父娘もの」でした。続いて、本日は、娘の朱女(しゅめ)が、父である日本画家、沢 宏靱(さわ こうじん)との生活を描いた「飯場と月」(ヒャクジツコウ舎1350円 新刊)を紹介します。

明治38年生まれの日本画家、沢 宏靱は、戦後「世界性に立脚する日本絵画の創造を期す」と宣言し、秋野不矩、上村松篁らと「創造美術」を結成しました。

昭和46年、住み慣れた京都市内から、比叡山山腹に移り住みます。朱女さんは、この時代の父と家族のこと、そして家の周りに広がる風景を叙情的に描いていきます。彼女はプロの文筆家ではありませんが、その情景がありありと浮かんでくるような文章です。「孤高の画家」と称され、自分の画業追求のために画室に籠った父親を見つめる優しい眼差しが、読む者を穏やかな気持ちにしてくれます。

タイトルにある「飯場」は、彼女が引っ越した時、まだ家が建ってなくて、住んでいた飯場同然のプレハブ小屋のこと。本来なら、えっ?こんな場所に住むの!?なんですが、子どもであった天真爛漫な彼女は、「だけど、あたしには毎日が夢のようだった。あたしは生涯一幸せだった。だって楽しいんである。毎日が、キャンプだよ。家族全員で」と嬉々として暮らします。

そして、あの頃を振り返って「遊びに遊んで、ひとかけらの心残りもない。あの絶大な幸福感は、いまも私のなかに満ちわたっている。たぶん、生涯の涯まで。」家族の愛情の中で、羨ましくなるくらい伸び伸びとした少女時代。

昨今は夏といえば、「酷暑」「猛暑」とネガティブなイメージですが、私たち世代(彼女は10歳ほど年下ですが)、夏は子どもにとって天国でした。

その嬉しさはこうです。「きりりと冷たい高原の朝のラジオ体操 ヘブンだったプール! 着替えのパンツを忘れてスースーするお尻の帰り道 日没を待ちかねて山々から降り注ぐ蜩の声 漆黒の空から舞い降りる星々の光り」

思いだします、幼かった夏の日々を……。

この家には、TVがなかったそうです。で、食事時間は様々な話に花が咲きます。その中で、前の戦争のことが話題になります。戦争中、日本軍が何をしてきたかを彼女は父から聞かされました。亡くなったお兄さんが「親爺が毎日さもいやそうにゲートル巻いて工場にいくんや」と言っていたと、戦争嫌いの姿も描かれています。このお兄さんも生涯反戦を貫いたという気骨のある一家でした。

ところで、彼女は小さい時「しめちゃん」と呼ばれていて、へんな名前!と父に訴えると、いやいや、狂言師の茂山さんも「七五三」と書いて「しめさん」と読むんやとのお答え。茂山さん(後の千作さん)は父親のあそび友だち。「沢宏靱を偲ぶ会」で狂言を演じてくれた関係です。その茂山さんも、平成14年5月、この世を去りました。今頃は天国で、やあやあとお酒をくみ交わしているかもしれません。

私がこの本で最も好きなフレーズはこれ。

「むかし、元日の朝の空気は『お正月の匂い』がした。幾つくらいまでだが、毎とし。」

最近はそんな匂いもなくなりましが…….。

ところで、朱女さんは水彩画、銅版画の制作をする作家で、一昨年、当レティシア書房ギャラリーで個展を開催(左写真)、今年は10月11日より第二回目の個展をお願いしています。またここでご案内します。

 

英文学者、吉田健一は、どうも苦手な作家の一人でした。「舌鼓ところどころ」(中公文庫250円)等の食文化に関するエッセイは読みましたが、本格的文学論になるともうお手上げでした。

しかし、娘の吉田暁子さんが書いた「父吉田健一」(河出書房新社1400円)は、等身大の吉田が描かれていて面白く読むことができました。

彼女が生まれたのは終戦の年。当時、吉田一家は鎌倉に住んでいました。その鎌倉時代に、彼女は父親の書いたものを初めて手に取っています。こんな記述があります。

「自分の著作を署名入でりで贈ってくれるのは、父が子どもの本を訳さなくなってから一時途絶えたが、私が大学を出て、父が今代表作と言われているものを次々と書くようになると再開された。」

そうか、吉田健一は、娘に本を贈る際に署名するんだ。暁子さんが、大学を出て翻訳家としての道を歩み始めたので、「父が私を一人前と認めてくれたということがある。」と回想しています。

今回、初めて知ったのですが、彼は大の犬好きでした。吉田家には三代にわたって犬がいました。その三代目「彦七」、通称彦ちゃんは13歳と半分の長寿を吉田家で全うしました。本の後半で、父親と犬の関係について書かれています。

戦時中、彼は疎開した人々に置き去りにされた犬がいれば連れて帰り、一晩世話をして、翌日、出かける時にどこかで別れを告げていたみたいです。

「犬を最後に見つめる父は、パリの空港での、それと知らずに父と私の今生の別れとなってしまった時の『それじゃあ』と父がいった時の、優しい、悲しい、大きな眼をしていたのだろうと思った。」

という思いを暁子さんは、書いています。

偉大な父を持った、娘の慈愛にみちた回想録としてお薦めしたい一冊です。なお、表紙の写真は、吉田健一書によるお皿です。

★2月8日(水)〜19日(日)レティシア書房恒例「女子の古本市」を開催いたします。

東京、岐阜、神戸、大阪、滋賀、京都から20数店の女性店主がセレクトしたステキな本が、所狭しと並びます。ご来店お待ちしています。