お正月休みに「ヴィヴィアン・ウェストウッド最強のエレガンス」というドキュメンタリー映画を観ました。

ファッション・デザイナーであり、環境問題活動家であり、パンク誕生の立役者であり、世界的ブランドの創始者であるヴィヴィアンは1941年英国に生まれ、現在78歳。権力に楯突いてきた人生といっても過言ではありません。

1971年ロンドンのアンダーグラウンドから飛び出したロックバンド、セックス・ピストルズをプロデュース。彼らが着ていたヴィヴィアンのデザインしたTシャツは、パンクスタイルを定着させます。体を奇妙に揺らせながら「アナキー・イン・ザ・UK」を歌う彼らは、当時の英国の支配階級を大いにイラつかせました。映画は、過激に突っ走る若き日の彼女の姿を巧みに織り込みながら、現在の彼女を映し出していきます。

スタイルを変えながら新しい感覚のファッションを生み出し続け、ファッションデザイナーとして50年のキャリアをキープし、現在も大企業の傘下に入ることなく、世界数十カ国、100店舗以上を展開する独立ブランドのトップにして現役のデザイナーという立場にいます。頑固でアグレッシブなこんな上司では、正直周囲は大変だよな、と思います。その一方で、年令などおかまいなしに派手な衣装に身を包んで、ヒョイと自転車に乗って駆け抜けていく姿は、とてもチャーミングです。

厳然たる階級社会がベースにあったイギリスの閉塞感を打ち破った、パンクファションの中心にいたパワフルな彼女と出会い、別れていった男たちを絡めながら映画は進んでいきます。

幸せな幼少期を経て、幼い子どもふたりと若いミュージシャンのマルコムと暮らしながら服づくりに励み、やがて、世界的成功をおさめるまでの70年間。様々な現代アートに刺激を受けながら、彼女は自分の世界を作りあげていきます。猪突猛進というのは、この人を指し示すものなのかもしれません。2015年、水圧破砕法によるシェールガス採掘に反対し、当時のキャメロン首相に対して、戦車をくり出し抗議デモを実行しました。そのシーンも映画には登場しますが、老いてますます元気、強烈な女性の半生です。

 

 

★レティシア書房 恒例「女子の古本市」は2/6(水)~2/17(日)です。今回も25店舗程が参加します。お楽しみに!イベントのお知らせ「宮沢賢治 愛のうた 百年の謎解き」

⭐️2019年1月18日(金)19時より、「新叛宮沢賢治 愛のうた」を出された澤口たまみさんとベーシスト石澤由男さんをお迎えしてトーク&ライブを行います。予約受付中(1500円)レティシア書房075−212−1772まで。

 

斎藤美奈子の「日本の同時代小説」(岩浪新書/古書450円)は、眠たくなる様な退屈な文学史本とは全く違い、痛快さに満ち溢れています。

1960年代から2010年代までの文学の大きな流れを、エポックメイキングな作品を中心にして描いています。ケイタイ小説や、ネットの伝言板を元にした小説までもが取上げられているのは、おそらく史上初の試みではないでしょうか。

のっけから、痛快です。「日本の近代小説の主人公は、概してみんな内面に屈折を抱えた『ヘタレな知識人』『ヤワなインテリ』たちでした。外形的に言うと『いつまでグズグズ悩んでんのよ』とドつきたくなるような性向を彼らは持っていた」で始まります。

60年代を「知識人の凋落」、70年代を「記録文学の時代」、80年代を「遊園地化する純文学」、90年代を「女性作家の台頭、2000年代を「戦争と格差社会」、2010年代を「ディストピアを超えて」と言うキーワードで括り、文学が切りこむ、その時代時代の姿に迫っていきます。それもノラリクラリではなく、もう全力疾走で。

世界ではベルリンの壁が崩壊し、日本では昭和から平成になっていった90年代を「女性作家の時代でした。」と位置づけます。その理由はこうです。

「文壇もまた長い間、男性社会でした。(かつて純文学の主流がヘタレな知識人予備軍だったことを思い出してください)。しかし。各種文学賞に女性作家が選考委員として加わり文芸誌の編集者や新聞の文芸担当者にも女性が増えれば、自ずと雰囲気も作品評価も変わります。」

さらに、90年代初頭には、文学界ではもう書くべき対象がないという雰囲気が漂っていましたが、様々な壁と偏見の前で動けなかった女性たちが、その閉塞感を破り、まだまだ書かれていなかった材料に挑戦していったのです。90年代前半は、笙野頼子、多和田葉子、松浦理英子がリード、後半に入ると、エンタメ系では高村薫、宮部みゆき、桐野夏生が、純文学系では、川上弘美、小川洋子、角田光代が、青春小説系では、江國香織、姫野カオルコ、藤野千代が、児童文学系からは、梨木香歩、森絵都、湯本香樹実が、そしてファンタジー系からは、恩田陸が登場します。この人たち、今も第一線にいて新刊を出しているのは、みなさんご存知の通りです。蛇足ながら、女性作家に混じってがんばった渡辺淳一の「失楽園」は「美食三昧、性交三昧。バブル時代を懐かしむかのような小説」と評価されています。 

村上春樹の「1973年のピンボール」の登場が1980年。この時代に出た本は、私が読書に熱中した時とシンクロしているので、あぁ、そうだった、こういう本あったなぁと、その頃を振り返りながら読んでいきました。2000年時代は、私事でいえば新刊書店の店長として大きな店舗を任されていた頃ですが、ケイタイ小説が登場し、インターネットに押され、本の売上げが急速に低下していきました。そして、2010年代。震災小説、介護小説、新しいプロレタリア文学と、未来の見えない時代を象徴するような作品が登場してきます。

ここまで、よくぞ描ききった! 斎藤美奈子の本はかなり読んできましたが、これは彼女の仕事としてはベスト1になるのではないかと思います。読書欲モリモリになってきます。

 

★レティシア書房 恒例「女子の古本市」は2/6(水)~2/17(日)です。今回も25店舗程が参加します。お楽しみに!

イベントのお知らせ「宮沢賢治 愛のうた 百年の謎解き」

2019年1月18日(金)19時より、「新叛宮沢賢治 愛のうた」を出された澤口たまみさんとベーシスト石澤由男さんをお迎えしてトーク&ライブを行います。予約受付中(1500円)レティシア書房075−212−1772(ただし、来年1月7日まで休業いたしますので、電話はつながりません。よろしくお願いします。)


 

歌舞伎囃子方の田中佐太郎「鼓に生きる」(淡交社/古書1900円)を読みました。表紙には、白髪の女性が鋭い視線で前を向いて、鼓をまさに鳴らそうとしている瞬間が撮影されています。この女性こそが、田中佐太郎さんです。えっ?女性なのに”佐太郎”?と思う方もおられるはずです。

彼女は、江戸時代から続く歌舞伎囃子方の田中傳左衛門家の、兄と四人姉妹の三女として、昭和23年に生まれました。生家の芸事が鼓だったので、お茶やお花を習うような軽い感覚でお稽古を始めます。ところが、兄が学問の道に進むことを決心し、他の姉妹たちがお稽古から疎遠になり、人一倍稽古熱心だった彼女に、白羽の矢が立ちます。しかし、歌舞伎の世界は女人禁制。そう簡単に、女性が舞台には上がれません。

田中家が担当する歌舞伎囃子は「鳴物」と呼ばれて、小鼓、大鼓など様々な打楽器を演奏します。舞台に上がり演奏する「出囃子」から、舞台下手の「黒御簾」と呼ばれる小さな部屋で舞台を盛上げる効果音を担当する「下座音楽」まで、広範囲に渡っています。その伝統ある田中家の未来が、一人の少女に託されようとしていました。限界に挑戦する様な厳しい稽古が始まり、実力を付けていきます。

それでも、女性であるという事がこの仕事には最大の障害でした。そんな時です。六代目中村歌右衛門の舞台で、囃子方の一人が急病になり、その代役として、彼女が小鼓を打つことになります。その結果、歌右衛門から「このままお嬢さんに(歌舞伎の黒御簾)をさせたらいかがですか」という、お墨付きの言葉をもらいます。最高の女形として歌舞伎界に君臨していた歌右衛門の後押しで、彼女は表舞台へと出て行きます。男性 だけの世界に初めて女性が入るのは、並大抵のことではありません。父傳左衛門は、「私語は絶対に慎むこと。きものは地味な色を着ること。笑顔は無用。たとえ役がないときでも黒御簾にいて、目と耳と空気で舞台の全てを覚えること」と、十六歳の少女にとって、極めて窮屈な心得を言いつけます。彼女はその心得を今も守っています。

女だからという理由でバカにされない様に、厳しい芸能の世界で第一線の実力を保つための姿が描かれて行きます。かなり以前ですが、NHKのドキュメンタリー番組で、彼女を特集した番組を観ました。鼓を打つ凛とした姿が、とても印象的でした。しなやかで力強い音は、厳しい修錬の中から生まれてきたのだと、本書を読んで理解で来ました。

能楽師で太鼓方の亀井忠雄と結婚し、三人の男の子を育てました、長男は亀井広忠として能楽の世界に進み、次男は歌舞伎囃子方として研鑽を積み、十三世田中傳左衛門を襲名、三男は七代目田中傳次郎を襲名して、やはり歌舞伎囃子方として、それぞれ第一線で活躍しています。家のことも子育ても、一切引き受け人任せにしない「昭和の母」らしい生き方も語られていきます。

長男の広忠は、この本の中で母親をこう表現しています。

「姿も、立ち振る舞いも、考え方も、すべて凛として、周囲に流されることなく自分というものを貫いて生きてきた人です。」

今や、古びてしまったような言葉「修行」という二文字が鮮やかに蘇ってきます。新春に読むに相応しい一冊です。

★レティシア書房 恒例「女子の古本市」は2/6(水)~2/17(日)です。今回も25店舗程が参加します。お楽しみに!

 

 

京都は割合暖かなお正月でしたが、皆様いかがお過ごしでしたか?本年もよろしくお願いします。

さて、2019年最初のギャラリーは草木勝さんの写真展で幕開けしました。

コマーシャルフォトスタジオ勤務を経て、1980年に草木写真事務所を開業。日本写真協会、京都写真協会に所属するプロの写真家です。

今回のテーマは「水の形」(SHAPE OF WATER)。鮮かな色合いの作品の数々は、すべて川の中に置かれた空き缶を撮したものです。なるほど大きく引き伸ばされた写真をよく見ると、ビールの銘柄まで分かるものもあります。しかし、なにか解らない物体がうごめいている様にも見えたり、ガラスの塊が輝いているようにも見えたり、光りが踊っている美しい画面に思わず見入ってしまします。

空き缶が川の流れによって、形を変えていくように見えるのをそのままとらえていて、あえて後から加工を施さないのは、作品の全てを自分の支配下に置かない、自然に委ねたいという作家のこだわりです。写真作品をどこまで作って行くのか、葛藤の中で、次々と新しい表現に挑戦しているようです。草木さんとは随分前からの知合いなのですが、こうして彼の作品を改めて架けることができてとても嬉しく思っています。

本屋の壁に飾られたダイナミックな写真は、もっと引きのある大きなギャラリーの方が生きるのかなと心配しましたが、この小さな空間だからかえっていいのではないか、と草木さんには言ってもらえました。というわけで、いつになくシャープな展示となって新鮮な気分です。新年第一弾の写真展にお立ち寄り下さいませ。(女房)

 

★「水の形」草木勝写真展は、1月8日(火)〜20日(日)12時〜20時(最終日は18時まで)月曜日定休

 期間中、草木勝フォトブック「水の形・時間の形」(700円・税込)も販売しております。

 

 

 

 

 

 

 

Tagged with:
 

2018年、下半期の読書と映画を振り返ります。

面白い小説が沢山ありました。雪深い町に都会から逃げてきた女性がひっそりと暮らす、木村紅美「夜の隅のアトリエ」は、哀しさが印象に残る作品です。ラブホテルのオヤジとか、古びた家でひっそりと散髪屋を営む青年など、魅力的なキャラが登場します。地味な仕上がりになるかもしれませんが、映画にしてほしいものです。

河川敷に集まるホームレスを主人公にした、木村祐介「野良ビトたちの燃え上がる肖像」は、少し先の日本を舞台にして格差、貧困、差別を描いています。悲劇が待ち受けているのですが、暗澹たる気持ちで本を閉じることのないエンディングが用意されています。作家星野智幸が「路上文学の傑作」と評価していますが、その通りです。

第一線で活躍している辻原登「枯葉の中の青い空」、岩崎保子「世間知らず」、上村亮平「みずうみのほうへ」、山本昌代「手紙」、滝口悠生「死んでいない者」など、表現や内容に優れた作品に数多く出会いましたが、藤野千夜「編集ども集まれ」の面白さは格別でした。80年代の漫画業界に生きる主人公を描いています。二つの物語が同時進行しながら、一つに収縮してゆく流れが見事だと思いました。

尊敬する書店主が書いた2冊は刺激的でした。誠光社店主、堀部篤史「90年代のこと」、Title店主、辻山良雄「言葉の生まれる景色」は、それぞれ個性的な世界観が、見事に文章の中に息づいていました。彼らの存在は、同業者としてとても心強いです。

なお、2019年7月上旬に、「言葉の生まれる景色」の絵を担当したnakabanさんの原画展を行う予定です。ご期待下さい。

映画は、上半期に続いて、野尻克乙「鈴木家のウソ」、サミュエル・マオズ「踊る運命」、ジアド・ドゥエィリ「判決ふたつの希望」、そしてオフィル・ラウル・グレィツァ「彼が愛したケーキ職人」等々、忘れられない作品に巡り会いました。「彼が愛したケーキ職人」のラスト、ヒロインの微笑みは、映画がくれた最高のプレゼントでした。

さて、今年の営業は本日で終了いたします。2018年もレティシア書房のギャラリーコーナーを飾って頂いた皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。

町田尚子さんの「ネコヅメのよる」原画展から始まり、季刊「コトノネ」さん、高原啓吾さん、長野県ゴロンドリーナ工房さん、ミシマ社さん、原田京子さん、沖縄からほんまわかさん、東京甘夏書店さん、梅田香織さん、村上浩子主宰「えほん作家養成教室展」、「災害で消えた小さな命展」、ハセガワアキコさん、いまがわゆいさん、すずきみさきさん、ARK写真展、白崎和雄さん、高井八重子さん・長野利喜子さん・大屋好子さん、高山正道さん、さわらぎさわさん、やまなかさおりさん、神保明子さん、ZUS加藤ますみさん。ステキな作品展を本当にありがとうございました。2月と8月の「古本市」にご参加頂いた皆様にも心よりお礼申し上げます。こうして振り返ってみると、本の関係の展覧会をたくさん開催出来ました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。良いお年をお迎え下さいませ。(店長&女房)

★イベントのお知らせ「宮沢賢治 愛のうた 百年の謎解き」

2019年1月18日(金)19時より、「新叛宮沢賢治 愛のうた」を出された澤口たまみさんとベーシスト石澤由男さんをお迎えしてトーク&ライブを行います。予約受付中(1500円)レティシア書房075−212−1772(ただし、来年1月7日まで休業いたしますので、電話はつながりません。よろしくお願いします。)

 

今年も沢山のいい本、いい映画に出会うことができました。

上半期、ノンフィクション系の刺激的な本に出会いました。将棋に人生を賭ける棋士たちの日常と、彼らの心情を追いかけた北野新太「等身の棋士」(ミシマ社)は、久々に読みごたえのある”勝負師”ドキュメントでした。沢木耕太郎ファンは必読です。

川崎の今を伝える、磯部涼「ルポ川崎」には驚かされました。一時は、環境も治安も悪く、住むに決していい町ではなかった当時、この街を愛するラッパー達が立ち上がり、様々な活動をして、住み心地のいい場所に変えてゆく姿を追いかけた一冊。

本を巡る本では、内田洋子「モンテレッジオ小さな村の旅する本屋の物語」。イタリアに強い作家だけに、イタリアの本を巡る歴史、紀行が巧く書き込まれていて、一緒に旅するような気分になりました。もう一冊、沖縄で古書店「ウララ」を始めた宇田智子の「市場のことば、本の声」は、彼女の店を訪れる様々な背景を持った人々が、時にユーモアたっぷりに、時にペーソスを交えて語られます。前作「那覇の市場で古本屋」もお薦めです。

小説では、奇妙なイメージで独特の世界を作り出す小山田浩子の「庭」が、ダントツの面白さでした。この小説を買われたお客様が一気に読み、そのお母様もハマったと聞きました。ほかには、釧路在住の桜木紫乃の短編集「水平線」が、北の大地に生きる男と女の人生の哀感が滲み出る傑作でした。今はない青函連絡船に乗って読みたくなる一冊です。

映画は、辛く悲しいアメリカの今を描いたマーティン・マクドナー作品「スリー・ビルボード」が心に残ります。繁栄から取り残されたような過疎の町で繰り広げられる復讐のドラマなのですが、登場人物のやることなすこと、ほとんどが上手くいかず、袋小路に落ち込み、抜けきれない状況を描いていきます。ラストもちぐはぐなことになってしまうのですが、人間ってこんなものだという無常感が沁みますが、なんか救われた感じがあるのも事実です。

救い、という意味では、マウゴシュカ・シュモフスカ「君はひとりじゃない」、グレタ・カーヴィグ「レディ・バード」のエンディングに漂う、ほんの僅かな希望、まだ明日も生きていける希望が忘れられません。リアルで過酷な人生に灯された希望を、ウソっぽくならずに描くのは至難の技です。明日は下半期を書きます。

★年内は12月30日(日)まで営業いたします。年始は1月8日(火)より通常営業いたします。

★イベントのお知らせ「宮沢賢治 愛のうた 百年の謎解き」

2019年1月18日(金)19時より、「新叛宮沢賢治 愛のうた」を出された澤口たまみさんとベーシスト石澤由男さんをお迎えしてトーク&ライブを行います。予約受付中(1500円)レティシア書房075−212−1772


 

 

 

 

梨木香歩の本は、ほぼ読んでいたと思っていたのですが、「ピスタチオ」(700円/古書)は未読でした。何かわからないけれども、それに導かれてアフリカに向かった女性ライター(ペンネームは棚という)の物語です。アフリカの伝統的医術を体得した呪術医に会うのが目的の旅、と書くと何だかおどろどろしそうな話みたいですが、そんなことはありません。

「ピスタチオ」は約300ページ程の小説なのですが、前半100ページほどが、主人公が飼っている老犬マースが病気になり、手術を受ける話です。私事ですが、今年老犬を見送ったばかりで、ちょっとこれにはまいりました。(でも、死にませんので愛犬家の方はご安心ください)

「小さい頃から気象の変化には興味があった上に、空の広いケニアに滞在して、大気の状況に自分の体がダイレクトに反応することに、文字通り他人事ではない興味を覚えたのだった。」

その記憶が、再び彼女をアフリカへと向かわせます。ケニアの奥地にあるウガンダに、呪術医のことを調査した人物がいると知った彼女は、病状の落ち着いたマースを日本に残して旅立ちます。しかし、片山というその男と、ガイドまでもが原因不明の死に方をしているのです……..。

ここから舞台はアフリカに移動します。緑、水、精霊…こうしたキーワードが物語の中心になり、それらが緩やかに回転を始めます。その輪は大きくなったり小さくなったりしながら、主人公を、見えない大きな何かに導いていきます。この作家の上手いのは、ファンタジックな世界どっぷりに描くことなく、リアルに主人公の旅を見つめているところです。 思わぬ出来事に遭遇するのですが、なぜ彼女だったのか、ということに明確な回答を用意していません。霊的なるものの存在だけでは語りきっていない、しかし100%の不思議さが残る物語でした。最後に主人公が書き上げた「ピスタチー死者の眠りのために」は、物語全体を総括すると同時に、見事に梨木の世界でした。さて、タイトルになった「ピスタチオ」の意味は? 最後で、あぁ〜そうだったのかと思って、ページを閉じることになります。
棚は「ピスタチオ ピスタチオ いい一生を生きた 安心してお休み」という言葉を最後に書いて、
「書き上げて、気づけば夜が明けようとしていた。棚は、いつものように散歩に出かけようとマースに声をかけた。月は白く高く上がっていた。風は優しく、木々の梢から、棚の耳元までやってきて、何か囁いて消えた。」
余韻溢れる幕切れです。

★年内は12月30日(日)まで営業いたします。年始は1月8日(火)より通常営業いたします。

★イベントのお知らせ「宮沢賢治 愛のうた 百年の謎解き」

2019年1月18日(金)19時より、「新叛宮沢賢治 愛のうた」を出された澤口たまみさんとベーシスト石澤由男さんをお迎えしてトーク&ライブを行います。予約受付中(1500円)レティシア書房075−212−1772

 

絵画展の図録が、沢山入ってきました。ネットでは高値で売っているものもありますが、重たい、大きいというハンディを鑑み、割と安く出しています。

2011年京都で開催された「ワシント・ナショナル・ギャラリー展」(古書1300円)は、印象派がズラリと並び、西洋美術の教科書みたいな一冊です。ルノワール、モネ、ゴッホなどの作品が、左ページには全体像、右ページには作品の一部を拡大したものが載っています。ルノワールやセザンヌのデッサンなど、美術館で近づいて観たときのように、筆致がよくわかります。(きっと実際の展覧会は混雑していて一つ一つ近づいてじっくり見られなかったに違いない)ドガやカサットなど、年を取ったおかげで今になって改めていいな〜と眺めてしまいます。

2001年、東京と愛知県岡崎で開催された「カラヴァッジョ光と影の巨匠」(3000円)は、解像度の高い印刷技術で、この画家の世界を捉えています。「メランゴロをむく少年」では、白いシャツの間から見える少年の肌をクローズアップしていますが、艶かしい光沢を放っています。全編カラヴァッジョの強い光と陰を堪能しました。

フェルメールも2冊あります。「恋文」を収録した「レンブラント、フェルメールとその時代」(700円)と、「手紙を書く女」「手紙を書く女と召使い」「手紙を読む青衣の女」を収録した「フェルメールからのラブレター」(600円)は、来年大阪の展覧会に行く前には目を通しておきたいものです。

日本の画家の図録では、2007年、横浜と島根で開催された「有元利夫展 光と色・想い出を運ぶ人」(900円)があります。堂々とした女性像を中心に据えた独特の画風で知られた画家ですが、この図録には、素描、版画、立体等の作品も入っています。音楽が好きで、様々な楽器を演奏した有元が、ビバルディの「四季」をモチーフに作った版画は、ビバルディの楽曲への深い理解と賛美が根底にあります。夭折した画家の豊かな表現をみることができます。

竹内栖鳳、伊藤若冲、長谷川等伯、藤田嗣治、河鍋暁斎、海北友松、藤田嗣治、等々日本画壇を代表する画家たちの図録もありますが、実は私が最も気に入った図録は、2006年高島屋グランドホールで開催された「没後50年 モーリス・ユトリロ展」(800円)。あまり興味もなかったユトリロでしたが、今回パラパラと捲っているといい気分になりました。ちょっと散歩にでも行きたくなるような感覚。雪のつもった家々が見える町、春風が吹き抜ける目抜き通り、青空が眩しい田舎の乾いた道…….。どの街角も歩いてみたくなる魅力一杯です。

まだまだありますので、お気に入りの一冊を探してください。

 

★年内は12月30日(日)まで営業いたします。年始は1月8日(火)より通常営業いたします。

★イベントのお知らせ「宮沢賢治 愛のうた 百年の謎解き」

2019年1月18日(金)19時より、「新叛宮沢賢治 愛のうた」を出された澤口たまみさんとベーシスト石澤由男さんをお迎えしてトーク&ライブを行います。予約受付中(1500円)レティシア書房075−212−1772

ユダヤ人精神科医ヴィクトール・エーミール・フランクルが、ナチスによって強制収容所に送られた体験を綴った「夜と霧」という本のことは、ご存知の方も多いとおもいます。一筋の希望もなく、待っているのは悲惨な死のみという環境下で、その不条理を受け入れ、運命にどういう態度を取るのかを決める精神の自由を説いた本書は、日本では1956年に発売され、現在まで読み継がれています。

朝日新聞記者を経て、現在編集委員を務める河原理子が、自らの人生に大きな影響を与えた「夜と霧」を辿って、現地へ赴き様々な人に会い、河原自身が、この本とどう向き合ってきたのかをまとめたのが「「フランクル『夜と霧』への旅」(平凡社/古書1300円)です。

大学時代、一度「夜と霧」を手に取りましたが、巻末に収録された収容所で実際に行われてきた非人道的行為を証明する写真の数々に圧倒されて、途中で本を閉じた記憶があります。そして、これはそういう特別な場所でのナチの悲惨極まる行為を告発したものだと、今まで思ってきました。しかし河原は、「そう、これは、希望の書、だったのだ。明るい未来の希望、というよりは、心にしみいる希望の書。」と結論付けています。その後に、「そのことが腑に落ちるまでに、私は時間がかかった。」とも書いていますが……。

収容所に入れられることは、死を待つことに他ならない状況です。実際にフランクルは、妻を収容所で亡くしています。ガス室送りか、毒殺か、銃殺か……。どこに希望などがあるのでしょうか?著者はフランクルの他の書物も精読し、彼の残された家族や、収容所の生き残りの人達に会い、話を聞き、「希望」を見つけてゆくのです。

フランクルは、その人生を通して、憎悪という感情を排除してきました。演説でこう話しています。

「考えてみてください。いったい、私は誰を憎んだらいいのでしょうか。私が知っているのは犠牲者です。加害者は知りません。少なくとも個人的に知っているわけではありません。私は、集団に属するために誰かを有罪とすることに反対します」

彼は収容所から解放された時から、人間には、品格のある人たちと、そうでない人たちの二種類だけが存在すると繰り返し主張してきました。彼の全集の中に、演説原稿が残されています。

「強制収容所のなかでも、ときにはちゃんとした親衛隊員に出会うことがありましたし、またならず者の囚人もいたのです。ちゃんとした人たちが当時少数だったこと、またいつもそうだったこと、これからも少数派にとどまることを、私たちは受け入れるしかありません。事態が危険になるのは、政治体制が国民のなかからならず者を選んで上に行かせてしまうことです。」そして、こう結んでいます。

「だからあえて言う。どこの国だって、別のホロコーストを引き起こす可能性があるのです。」

今、この警告はより大きな真実味を帯びて聞こえてきます。

 

★年内は12月30日(日)まで営業いたします。年始は1月8日(火)より通常営業いたします。

★イベントのお知らせ「宮沢賢治 愛のうた 百年の謎解き」

2019年1月18日(金)19時より、「新叛宮沢賢治 愛のうた」を出された澤口たまみさんとベーシスト石澤由男さんをお迎えしてトーク&ライブを行います。予約受付中(1500円)レティシア書房075−212−1772


 

 

串田孫一が1981に出した画文集「山と行為」(同時代社/古書800円)は、串田のセンス溢れる絵が楽しめます。本は、「山に生きる」「山と行為」「山の暦」「山での思考」の四章に分かれていて、ほとんどの章に、串田の絵画が掲載されています。しかも、左ページに絵画、右ページに文章というパターンで統一されています。

第一章「山に生きる」は、山で出くわす動物達が平易な文章で語られています。

「熊に出会うといつも困ってしまうのだが、果たしてこの熊は人間に敵意を抱いているのだろうかと考える。人間には敵意を抱いているとして、私にはどうなのだろうか。 秋に山の木の実をさがして歩いているのなら、手伝ってもいいと思う。そういう契約を交わせたら、私は裏切るようなことはしない。」という「熊」の文章の横に、ちょっと下向き加減の熊が、深い森の緑の中に描かれています。

第二章「山と行為」では、英字新聞を人の形に切り抜いて、コラージュした作品が並びます。面白い文章がありました。タイトルは「踊ることについて」です。こう書かれています。

「山の中での踊りは自分だけの踊りである。仲間と共に、登頂に成功した日の夕暮にれ、天幕の傍で輪になって踊りたまえとすすめているのではない。 独りで、自然に、悦びを表さずにはいられないようになった時に、その人は山に棲める資格の一つが身についたことになる。 山には天狗の踊り場がある。君の踊りは深い森の中がいいだろう」その横には、ホイホイと踊っているコラージュ。森の中で、独り踊るってどんな感じでしょう。

山登りをする人でなくとも、澄んだ美しい文章とモダンなコラージュ絵が十分に楽しい一冊です。

この本以外の串田の本を10冊程入荷しています。興味のある方、ぜひ見に来て下さい。私は、熱心な串田のファンではありませんが、彼の本が沢山あると、澄み切った気分になってきます。

★年内は12月30日(日)まで営業いたします。

 年始は1月8日(火)より通常営業いたします。

★イベントのお知らせ「宮沢賢治 愛のうた 百年の謎解き」

2019年1月18日(金)19時より、「新叛宮沢賢治 愛のうた」を出された澤口たまみさんとベーシスト石澤由男さんをお迎えしてトーク&ライブを行います。ご予約受付中(1500円)