赤坂憲雄著「ナウシカ考」(岩波書店1500円)は、読むのに苦労した一冊でした。マンガ版「風の谷のナウシカ」の深遠な世界を学究的考察で読み解いてゆくもので、同時進行で持っていた漫画を再、再読しました。かなり時間がかかりましたが、いやぁ〜最後まで読んでよかった!と、自分に向かって拍手してしまいました。

ご承知のように「風の谷のナウシカ」は、マンガ版と映画版では、全く違うものです。全7巻のマンガ版の最初の3巻をコンパクトに、ナウシカの物語としてまとめ上げたのが映画版です。それに反してマンガ版は、民族の興亡史とも言える長い長い物語です。映画を見てからこちらを読んだ時、その読みにくさに戸惑いました。単純に正義と悪の二項対立で進む世界ではなく、複雑な民族抗争が絡んできます。

「ナウシカはたんなる受け身のヒロインではない。それはすでに、二千年の時のかなたにあっても、積極的に、みずからの運命を切り開いてゆくヒロインだったのである。」

と著者は言います。そんな彼女の進む道は、血まみれの悲惨で残酷な世界でした。異界の人々との出会いと別れを重ねていきながら、彼女の魂は彷徨い、傷ついていきます。著者は、ナウシカの変遷とそこに込められた宮崎の思想を丁寧に読み解いていきます。世界を覆う闇とは何か、終末とは何か、破滅とは何を意味するのか、といった「風の谷のナウシカ」思想の根本部分を理解するために用意された数々の著書を引用しながら、進んでいきます。全部が全部、ちゃんと理解できたかといえば、否です。でも、原作が持つ世界の深さと、宮崎の思想の原点を知ることができる一冊に違いありません。

「わたしね、世界の秘密を知るために、永い旅をしてきたの」というナウシカのセリフが最終巻にあります。

そのセリフを、著者は「ナウシカの旅が、黙示録的な終末世界を舞台とした、まさしく黙示録的な旅であったことを、まっすぐに示していたのではなかったか」と受け止めています。

本書を書きあげるために、25年にもわたって「風の谷のナウシカ」に付き合ってきたと告白していますが、それだけの重みがあります。マンガ版「風の谷のナウシカ」まだ未読の方は、これを機会に、本書を手元においてぜひお読みください。

蛇足ながら、読み終わって付けていた付箋を外すと、机の上が付箋の山になってしまいました。

「『言葉』が暴走する時代の処世術」(集英社新書/古書600円)などと題した対談集が面白くないわけがない!と断言できる一冊です。他人に自分の言葉がわかってもらえないことに悩むアナタには、必読の新書ですぞ。

ソーシャルネットワーク等のネット上のコミュニケーションは便利な反面、危険が伴います。山極先生は「対面して話すときに必ずついてまわるはずの、言葉に託された状況とか、感情とかが削ぎ落とされてしまう。あくまでもテキストデータとして伝わってきた情報だから、ただそれを読むだけだと、どうしても読み手が勝手に意味を付け加えてしまう。」と指摘します。

太田光は、頭の回転が早く思考も明晰。本書でも巧みな話術を駆使して様々な側面から言葉について、疑問を山極先生にぶつけると、それに先生が対応してゆくスリリングな展開が最後まで続くので、あっというまに読めました。

第3章「ケンカの目的は和解にある」で、太田が「昨今の言葉の応酬は、何でも勝ち負けに持って行こうとしている。いわゆるディベートですね。」という、対話とディベートの差異についてからスタートします。人間はいつから相手を徹底的にやっつけるようになったのか、という疑問に対する先生の答えはこうです。

「言葉のせいだと思うんです。比喩というテクニックを人間は考え出してしまった。比喩とは、相手をまるで人間ではないかのように見立てる言葉でもあるわけです。」

「このゴキブリ野郎」とか「豚のように薄汚れた奴」とか、人間を動物や昆虫の一種みたいにカテゴライズして、徹底的に攻撃してしまう。

太田は「人間は言葉で考える生き物だから、比喩なんてものを考え出したために、人間を人間とも思わなくなったと。俺も、言葉を使って商売する身だから、言葉の恐ろしさのことはいつも考えています。」

この辺りの太田の対応は、言葉の力を自覚している彼ならではないかと思います。

言葉以外で何かをつたえる手段として、日本には型があると先生は提起します。曰く「茶道、華道など『道』というでしょう。そこには作法があり、型がある。この場合の型とは、言葉を使わずに何かを伝える仕組みなんです。」という発言に対して、太田が演劇をやっていた頃を振り返り、役作りに感情が大切だという考えが間違っていたことを述べていきます。

名優の演技論書を読んでみると、「大切なのは『感情』なんかじゃなくて『型』なんだと、しつこいぐらいに書いている。要するにお前の感情なんて、お前だけのものなんだから、そんなちっぽけなものを優先させるなと、そんなことをしたら、芝居全体が壊れてしまうというんです。」

太田は、能や狂言や文楽などを引き合いにして、おめんをかぶったり、人形に演技させることで、役者から表情を奪っているのは、お前の表情など不要ということなのだと結論付け、「型に則ってきちんと動けば、感情は自然にそこに入り込むものだ」と言います。それに対して「深い話だね。確かに、型の本質を言い得ているように思います」と、先生。

そんな「深い話」が、そこここに散らばっていて、二人の対話を聞きながら、なるほどなぁ〜と合槌を何度も打ってしまいました。

蛇足ながら、お二人ともiphoneは持ってらっしゃらない。私と一緒です。

 

 

 

 

 

 

 

いじめで登校拒否、受験勉強嫌いで高校中退、親の小言が気に入らなくて家出、なんとか大学に入るも今度は大学院を三浪、その後、大学の教員公募に30回以上不合格、挙句に離婚して父子家庭12年間。さて、この絵に描いたような人生は一体誰でしょう?

多くの著書で知られている思想家であり、武道家の内田樹先生の経歴です。そんな人生を送ってきた彼の半世紀を振り返った「そのうちなんとかなるだろう」(マガジンハウス/古書1200円)を読み終えました。

「やりたいことは諦めない。やりたくないことは我慢しない。たどり着く場所は、結局同じだから」という本の帯の言葉は、名言だと思います。冒頭に書いたような人生を送ってきた著者が、でも前向きに生きれば云々というようなお説教じみた本ではありません。

「『いるべきところに、いるべきときにいて、なすべきことをなす』ということが武道の目指すところです。」と武道家でもある著者は言います。そして、「流れに任せて、ご縁をたどって生きていたら、気がついたら『いるべきところ』にいて、適切な機会に過たず『なすべきこと』を果たしている。」

なかなか、自分で判断できることではないけれども、そういう理想的な生き方を提示してきます。こんなことも書いています

「決断とか選択ということはできるだけしないほうがいいと思います。右の道に行くか、左の道に行くか選択に悩むというのは、すでにそれまでにたくさんの選択ミスを犯してきたことの帰結です。」

この文章だけでは、うーん、わからんと言う方もおられるかもしれませんが、身体的気持ちの良さを基準において、様々な場面を歩むと、それが一本道になっている。だから、身体が嫌がるような選択はしない。身体の声に耳を澄ますということです。

何事もAかBか、あるいは善か悪かに決めることを要請する昨今、内田先生は違う視線をもっています。曰く、「複雑な話を単純な二項対立に縮減せず、複雑なものは複雑なまま取り扱って『なんとかする』」と。良いか、悪いかどっちかに決めるのは、「子供の言い分」であり、「複雑なものは複雑なまま扱うのが大人の作法だ」と先生は思っています。その考え方には大賛成です。

「この本はできたら若い方に読んでいただいて、『こんなに適当に生きていてもなんとかなるんだ」と安心してほしいと思います。」とは後書きの言葉ですが、若い人だけでなく、多くの方に読んでほしいものです。

関西では、お商売をしている人の挨拶言葉に「おきばりやす」と言う表現があります。あんまり力まず、いいあんばいに、ぼちぼちと、と言うような意味合いが含まれていると私は思っています。多分、内田先生の生き方も、そんなことを教えてくれているのでしょう。

★勝手ながら、17日(月)〜20日(木)休業いたします。よろしくお願いいたします。

 

 

こういうのを労作と呼ぶのでしょう。田村紀雄「日本のリトルマガジン」(出版ニュース社1400円/出品・徒然舎)。「日本のリトルマガジン」というタイトルですが、当店で取り扱っているようなリトルマガジンの批評ではなく、「思想の科学」「山脈」「市民」といった戦後スタートの雑誌261点を取り上げて、論評したものです。著者は、小雑誌や小新聞、ミニコミなど小さな出版物を30年間も研究してきた社会学者です。リトルマガジンを「なんらかの新しい理論、文化、芸術、芸能、文学、信仰、形式などを問う実験的刊行物」と定義しています。京都からは「月刊京都」、神戸からは創刊以来映画コラムを書いていた淀川長治が参加していた「神戸っ子」、詩人の片桐ユズルや作家の足立巻一らが寄稿していた「オール関西」等が紹介されています。巻末には、1945年から1990年までのリトルマガジン発行の詳しい年表が付いています。出版ジャーナリズムを学ぶ人なら、持っていて損はしません。

青木正美著「古書肆・弘文荘訪問記ー反町茂雄の晩年ー」(日本古書通信社2200円/出品・1003)は、戦後の古書業界を生き抜いた反町茂雄の晩年を描いた、珍しい本です。1927年、神田神保町の古書店「一誠堂」の住込み店員となり、豊富な読書歴から同店で実力を発揮し、また外国語にも素養ががあったために洋書の発掘に邁進します。数年後、自らの古書店「弘文荘」を開業します。店頭販売はなく、目録による通販専門で、国宝クラスの古典籍を取り扱い、その目録は内外から評価されてきました。敗戦の8月15日、周囲の古書店が壊滅状態だったにも関わらず、翌16日には営業を再開した強者でした。本書は反町氏の晩年10年間を近くで見ていた青木書店店主が、日記形式で書いたスタイルになっています。反町の言動などを評価しない業界人も多かったみたいで、そういった実態も記載されています

ちなみに弘文荘の経営理念はかくのごとしでした

1.借金はすまい 2.人は雇うまい 3.安い本・平凡な本は扱うまい

3以外は同感です。

最後にご紹介するは、伊勢英子「カザルスへの旅」(理論社500円/出品・石英書房)。札幌出身の絵本作家伊勢英子が、第1章ではチェロの巨匠パブロ・カザルス、第3章で宮沢賢治の故郷を旅して、心にわきあがった感情を綴ったエッセイです。パブロ・カザルスに魅せられて、ピレネー山中のプラド、カタルニアのベンドレルへと彼の足跡をたどる旅を描いた文章がとても素敵です。また、第2章「パリひとり時代」では、著者の若き日の姿が綴られています。思索に満ちた随想です。

随所に描かれる暖かみのある伊勢さんの挿絵も魅力です。特に181ページのチェロ弾く手を何枚も描いたデッサンが好きです。
冬の古本市に出された本のご紹介は今回で最終回です。寒い中、ご来店いただいたお客様、出店いただいた女性店主の皆様、ありがとうございました。あ!明日までやっていますのでもう1日よろしくお願いいたします!

 

★「冬の古本市」は16日(日)18時までです。勝手ながら、17日(月)〜20日(木)休業いたします

 

 

絵本の解説本や、書評本は沢山出版されていますが、本日ご紹介する寺村摩耶子「絵本をたべる」(青土社1200円/出品・ハニカムブックス)も、そのジャンルの一冊です。芸術系雑誌「ユリイカ」を出している青土社から、絵本の解説本が出ていることは知りませんでした。2010年11月発行の「ユリイカ」で特集された「100万匹のねことともにー絵本のなかの猫たち」が本書の原型になっているとのことです。かと言って、ねこの絵本の紹介本ではありません。「夜」「感覚」「森」「動物たち」「変身」「祝祭」「ねむる」という”ユリイカ”らしいタイトルに分けて、絵本が紹介されています。「感覚」の項目では、どんな本が選ばれているのかと見てみると、雨、風、雪、夕日などの子供にとって身近で不思議な自然現象を捉えた作品が紹介されています。書影も載っていますので、絵本探しに役立ててください。

ノルウェイーの児童文学の傑作トールモー・ハウゲン「夜の鳥」(河出書房新社700円/出品・マヤルカ書房はオススメの一冊です。ハウゲンは73年に最初の小説を発表、75年に出した本作は高い評価を受け24カ国語に翻訳され、いまだに読み継がれているロングセラーです。

アパートに潜む悍ましい秘密や家庭の不安におびえる少年ヨアキムの繊細な心理を抒情的で印象深い文章で描いています。ノルウェーの風土はきびしく、人々の暮らしも、そんなに裕福ではありません。そんな大人たちの日々の厳しい生活が、子どもたちの世界にも密接に反映されていきます。明るい未来なんてどこにあるのかという世界なのですが、それでもヨアキムは一日一日を生きていかなければなりません。

「ぼくは自分の生徒たちが怖いんだ」とヨアキムの父親は、しばらく先生の仕事を休むことになります。そしてときどき、夜中にふらりと、いなくなってしまいます。探しても見当たらない。父親はどこへ……..。そんな時、あの鳥が、ヨアキムの夜を覆います。北欧の美しい自然を背景に、心の病に悩む父親に小さな胸を痛める少年の不安を、ファンタジーとリアリズムを融合させた手法で描いていきます。表紙の絵は酒井駒子です。

 

 

「飛ぶ教室」等で、我が国でも人気の児童文学作家、E・ケストナーの「家庭薬局」(かど書房1000円/出品・半月舎)は、ケストナー作品では異色であり、かつ重要な作品です。ご承知のように、ナチス政権誕生後チェコで出版された本書は、その他の自由主義的作家の作品と共に、好ましからぬ著作とされました。独特の着想、風刺、諧謔、パロディーが渾然一体となった詩が集められています。しかし、ケストナーが一番訴えたかった反軍拡、反戦、平和主義的メッセージは割愛されました。そこで本書では、巻頭に「平和が脅かされてきたら」という本にはないものを付け加えています。険悪な政治的情勢と暗く退廃的な世相の渦巻く中で、ケストナーが本当に望んだものが、ここにはあります。

 

★女性店主による『冬の古本市』2/16(日)まで。12:00〜20:00  (最終日は18:00)

神戸・大阪・岐阜・東京・御殿場・神奈川・京都などから女性店主の選書が集まっています。ぜひお立ち寄りください.

勝手ながら2/17(月)〜2/20(木)まで連休させていただきます。

 

 

 

 

本日ご紹介するのは、お買い得コミックです。伊図透「銃座のウルナ」(エンターブレイン全8巻2300円/出品・ヴィオラブックス)です。主人公は、太陽の光が届かないような風雪の島リズルで狙撃手として戦場に立ち向かうウルナという女性です。魑魅魍魎正体不明の敵と戦う彼女の原動力はどこから来るのだろうか。宮崎駿の漫画版の主人公ナウシカを思い出してしまいます。蛮族による繰り返される残虐な行為にひるむことなく、撃退するウルナに待ち受ける過酷な運命。スケールの大きな物語、躍動する画面に釘付けになるコミックです。美しい故郷を捨てて、戦線に参加するウルナの愛国心って何?という物語の奥にあるテーマも見逃せません。

日本文学愛好者に人気の高い、小山清の傑作「落穂拾ひ」のオリジナル初版が出ています(筑摩書房 昭和28年発行5000円/出品・本と雑貨「福」)。小山は明治44年生まれの小説家で、太宰治の門人でした。昭和28年発表の本作で、私小説作家としての地位を確立しました。「小山君の小説は、どれを読んでも心暖まるものばかりだ。」と語ったのは亀井勝一郎でしたが、貧しい階級の生活を愛情深く描いた短編を送り出しました。本書にも七つの短編が収録されています。

「僕はいま武蔵野の片隅に住んでいる。僕の一日なんておよそ所在ないものである。本を読んだり散歩をしたりしているうちに、ひが暮れてしまふ。」だから、どうなんだ!と初めて「落穂拾ひ」を読んだ時、全然面白くなくて投げ出したものですが、数年前読み返した時、この作家が見つめる庶民への眼差しに心地よさを感じました。

歴史書を一点ご紹介、と言ってもこれは、キッチンの歴史です。ビー・ウィルソンの「キッチンの歴史」(河出書房新社2000円/出品・榊翠簾堂)です。サブタイトルに「料理道具が変えた人類の食文化」とあるように、古代ギリシャや中世の料理道具の変遷を辿りながら、現代的な最新の料理道具まで紹介していきます。歴史的事実の羅列に終始することなく、時にはユーモアを交えた文章で読者を食文化についての考察へと導いてゆきます。長い料理道具の歴史を論じた最後に登場するのが、著者の母親が作ってくれたオムレツの話です

「台所は素敵なことが起こる場所だと初めて私に教えてくれたのは母なのだから。」というのが最後の一文です。

 

 

★女性店主による『冬の古本市』2/16(日)まで。12:00〜20:00  (最終日は18:00)

神戸・大阪・岐阜・東京・御殿場・神奈川・京都などから女性店主の選書が集まっています。ぜひお立ち寄りください.

勝手ながら2/17(月)〜2/20(木)まで連休させていただきます。

 

今も人気の高い画家の金子國義。1960年代後半「O嬢の物語」の翻訳者である澁澤龍彦の依頼で挿絵を手がけ、翌年「花咲く乙女たち」で画壇デビュー。世紀末的デカダンの雰囲気が漂よう女性像を描きました。加藤和彦のアルバムジャケットや、多くの本の装丁でお馴染みで、古書でも高い値段が付いています。今回、一冊だけ金子の本が出ていました。「青空」(美術出版社2500円/出品・星月夜)は、油彩、水彩、ドローイングなどを収録した画集です。冒頭には「青空の部屋」と題した篠山紀信による写真も収録されています。金子國義自身による文章もあり、貴重な一冊です。

 

一冊だけだと思っていたら、金子がらみの本を見つけました。高橋睦郎「詩人の食卓」(平凡社1500円/ 出品・徒然舎)です。詩人、高橋睦郎のエッセイ集。7月から翌年6月まで…「海 – 生命の呼び声」「市 – 世界を糶る」「土 – 偶然の恵み」「森 – 自然の両義性」「水 – 自然を買う」「火 – 美しい日日」「厨 – 暗い 明るい」「店 – 食べると食べさせると」「茶 – 生の極み」「薬 – 病気に親しんで」「器 – 腹も身の内」「旅 – 歌と肉片」というテーマで綴られた文章は、古今東西の文化や出来事に想いが馳せられ、選び抜かれた言葉 … さすが詩を書く人のエッセイだなという感じを受けます。金子國義の挿絵は、先の「青空」に収録されている作品などが、モノクロで入っていて、それが際立ってしゃれています。

 

 

翻訳家の青山南の著書「ホテル・カリフォルニア以後」(晶文社1430円/出品・バヒュッテ)は、70年代アメリカ文学の内容のある解説書です。様々な混乱を起こしたベトナム戦争が終結し、アメリカ文学が新しい方向性を模索し始めた70年代を、著者はリアルタイムでレポートしていきます。ティム・オブライエン、レイモンド・カーヴァー、ジョン・アーヴィングなどわが国でも人気の作家が紹介されています。日本では、最近ほとんど名前の上がらないフィリップ・ロスにも言及されています。

ロスの原作を元にした映画「さよならコロンバス」に感激して、原作を読んだものの、その良さが全然理解できなかった大学時代を思い出しました。その後、「素晴らしいアメリカ野球」(在庫あり)も読んだのですが、”毒の強さ”にまいりました。

 

★女性店主による『冬の古本市』は2/5(水)〜2/16(日)です。月曜日定休。12:00〜20:00

最終日は18:00まで。神戸・大阪・岐阜・東京・御殿場・神奈川・京都などから女性店主の選書が集まっています。ぜひお立ち寄りください.

勝手ながら2/17(月)〜2/20(木)まで連休させていただきます。

 

 

 

 

洋書ですが、ベン・シャーンの画集が出ています。1906年移民としてアメリカに渡ってきたベン・シャーンは、 NYブルックリンで石版画職人として生計を立て、肉体労働者や失業者など当時のアメリカ社会の底辺にいる人々と接し、彼らに共感を持つようになっていました。やがて、社会の現実を描くリアリズム画家として戦争、貧困、差別、失業などをテーマにした絵画を描き始めました。悲惨な境遇の中で、しぶとく生きる人たちを力強いタッチで描いていて、個人的に大好きな画家です。

“Ben Shahn by james.T.Soby”(3000円/出品・花森書林)にも、多くの作品が収録されています。1939年に描かれた"Handball"は、ジャズのアルバムジャケットにもなった人気の一枚です。

リチャード・フラナガンの大作「奥のほそ道」(白水社900円/出品・Viola書房)は、映画「戦場に架ける橋」でも知られている泰麺鉄道建設に従事した一人のオーストリア兵が主人公です。第二次世界大戦の最中、日本軍はビルマ、タイ間を結ぶ鉄道建設に多くの捕虜を投入していました。捕虜の扱いを決めた国際条約を無視した軍部は、捕虜たちを容赦のない突貫工事に従事させ、多くの人間が惨死していきました。著者の父親アーサーは、その地獄から奇跡的に生還した一人でした。父親の実体験を元に、過酷な日々の中に浮き上がる生命の重みを400ページの長編にまとめあげたのが本書です。戦場の悲惨な日々をただ描いたのではなく、多くの登場人物の視線の交差を通して、変遷する世界の多様性を描いたという評価ゆえに傑作になったのでしょう。

日本美術を鑑賞する上で欠かせないテキストが赤瀬川原平の「日本美術観察隊」(講談社二冊セット3000円/出品・旅猫雑貨店)です。「この本では日本の美術作品を観察している。美術というものは本来鑑賞するものだけど、古典的な日本美術になると、素直に鑑賞しにくいものがあり、まずは観察するということになる。」と赤瀬川は、本書のスタンスを書いています。親しみにくいと思われる古典的美術を取り上げて、赤瀬川らしい観察で作品を解体していきます。山本芳翠の「浦島図」(二巻に掲載)を見て、「変な絵である。はじめて見て、うわっ、と思った。何だこの絵は。」という第一印象は私も一緒です。そんな一般人的感性で展開してゆくところが面白いところです。

「この本は、日本美術への近づき方のテキストだと思っている。近づいてしまえば、日本美術をどうつかまえるかは、各人の興味と力量にかかわってくることだろう。」

ぜひ、それぞれの近づき方を学んでください。

★女性店主による『冬の古本市』は2/5(水)〜2/16(日)です。月曜日定休。12:00〜20:00

最終日は18:00まで。神戸・大阪・岐阜・東京・御殿場・神奈川・京都などから女性店主の選書が集まっています。ぜひお立ち寄りください.

勝手ながら2/17(月)〜2/20(木)まで連休させていただきます。

 

 

 

97年に国内版が出た時にかなり方々で取り上げられて、人気の高かった美しい絵本が出ています。フレデリック・クレマンの「アリスの不思議なお店」(紀伊国屋書店2000円/出品・明楽堂)です。フレデリック・クレマンが、自分の娘の誕生日のためにつくったプレゼントを書籍化したとの事ですが、素晴らしい発想とセンスです。オブジェ、イラスト、コラージュ、が渾然一体となって読者を不思議な世界へと誘ってくれます。眺めているだけで嬉しくなってしまうような本です。外箱も洒落ています。

戦前から活躍し映画評論家の大御所、飯島正の「試写会の椅子」(時事通信社・上下2巻セット/出品・半月舎2000円)は、貴重な書物です。上巻「旺んなる青春1895-1952」、下巻「様々な出発1953-1972」とサブタイトルが入っています。「ぼくは1902年の生まれである。映画は1895年の生まれである。その差はわずかに7年である。」と書かれている通り、映画創世記から映画館に通っていた人です。植草甚一が「フランス映画はもちろんのこと、イタリア、スペイン、メキシコ、ハンガリーあたりの文学のおもしろさを原書や英訳で読む機会を与えてくれた。この本にはそういう思い出がいっぱいで」と著者との交流を語っています。映画青年には必読。

丸山太郎のことは、私も今回出品された「松本そだち」(秋櫻舎3000円/出品・甘夏書房)を手に取るまで知りませんでした。

柳宗悦の民芸運動に影響され、自らその運動に身を投じた人物です。昭和11年に駒場の日本民芸館を訪ね、雑器の美しさに触れたことがきっかけに民芸運動に開眼します。以来、柳宗悦を師と仰ぎ、松本の民芸運動の中心的存在としてすぐれた民芸品を蒐集。昭和37年に松本民芸館を開きました。本書は、「吾が家の歳時記」と「ちきりや閑話」の二つに分かれていて、前者では、著者の育った松本の町暮らしが静謐な文章で描かれています。後者は、見識を積んだ美意識で様々のことを語っています。文章が優しい。著者の品性が出ているのでしょう。

「松本民芸館は、私の生命をかけて作った館である。ただ入館料をもらうからということで、簡単にすまされない私の意地がある。私の見る眼と、観者の見る眼と合致した時の喜びは最高といってもよい。」と、自らが建てた民芸館について語っています。本の後半には、著者の初期木版画作品がたっぷり掲載されています。

 

 

 

★女性店主による『冬の古本市』は2/5(水)〜2/16(日)です。月曜日定休。12:00〜20:00

最終日は18:00まで。神戸・大阪・岐阜・東京・御殿場・神奈川・京都などから女性店主の選書が集まっています。ぜひお立ち寄りください

勝手ながら2/17(月)〜2/20(木)まで連休させていただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐野洋子の私家版的な本ですが、「女の一生・1」(トムズボックス3000円/出品・徒然舎)は、セックスをして、人が生まれるという事を、かなりストレートな言葉と佐野らしいタッチのイラストでまとめた本で、限定998部という少量出版物です。佐野自身が「人類の始めから、この世に出現するには、男と女がみんなあれをしたのである。何くわぬ顔とは人類全ての顔だと思うのである。」と書き残しています。エロスと生の息遣いに満ちた小さな本です。これって、多分大手出版社からは出せなかったのでしょうね…….。

美術家の永井宏は、亡くなった後も若い世代に人気のある作家です。今回出品されている「雲ができるまで」(リブロポート1100円/出品・ba hutte)は、90年代初頭に永井が葉山にオープンさせた「サンライト・ギャラリー」を支援してくれた人たちに捧げられた本です。彼の活動を手助けした人たちが登場します。それにしても永井の文章っていいですね。こう、爽やかな風が体を吹き抜けるとでも言えばいいのでしょうか。ふと振り返った一瞬の光景を捕まえるのが、上手い。吉田篤弘のようなシニカルさはないけれども、好きになったら離れられない作家です。

 

あぁ〜、この本もこんなに安く出たか……。「村上春樹翻訳全仕事」(中央公論新社600円/出品・雨の実)。これの何が凄いって、村上が翻訳した全てのオリジナル海外版と翻訳版の書影と、その本への村上のコメントを収録しています。絵本作家オールズバーグの全作品を一堂に見ることもできます。さらに、「翻訳について語るときに僕たちの語ること」と題した柴田元幸とのロング対談が掲載されているのです。マッカラーズの「結婚式のメンバー」を翻訳したときに、「『心は孤独な狩人』がやはり最高作だと思うし、いつか翻訳したなと思っている」と書いてますが、彼の翻訳を読んでみたいと心待ちにしているのは、私だけではないと思います。

 

 

★女性店主による『冬の古本市』は2/5(水)〜2/16(日)です。月曜日定休。12:00〜20:00

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