店内で開催中のnakabanさんの「ことばの生まれる景色」原画展(14日まで)には、暑い中多くの方にご来店いただいております。

誠光社でも「nakabanの旅するブックシェルフ誠光社編〜もうひとつの『ことばの生まれる景色』」(15日まで)が開催中で、どちらも行かれている方が多いようです。どちらの書店にもnakabanさんデザインのスタンプを設置しておりますので、記念に栞に押していってください。

そんな折も折、ミシマ社から出来たばかりの新作絵本「ランベルコーヒー店」(2376円)が届きました。京都の老舗喫茶店「六曜社」のマスター、オクノ修さんが詩を書き、nakabanさんが絵を付けたもので、コーヒー好きな方には持っていただきたい一冊です。

夜が明け、人々が眠りから覚めて、仕事に向かうとき、そこに一杯のコーヒーがある。変わらない毎日の小さな幸せが、短い詩と、絵で描かれています。表紙の絵から淹れたてのコーヒーの香りが、立ち上ります。どこか架空の街、ランベルマイユ。

「ランベルマイユの コーヒー屋さんから 朝の香りがたちこめて 夢みていた 人たちが 今日の仕事を 始めるとき 来る日も来る日も また次の日も おなじ香りの コーヒーいっ杯 夢みていた 人たちに ふかい香りの コーヒーいっ杯」

nakabanさんの温かな眼差しが、まだ暗い夜明けから、やがて明るい朝に人々が動き出す情景を静かに見つめます。静かな幸せ感。「おなじ香りの コーヒーいっ杯」という詩に、きっと何年もこの街で毎朝コーヒーを入れてきた喫茶店のマスターが登場します。美味しそうな香りの立ち込める中、人々の声や新聞をめくる音が聞こえてきそうです。

詩を書いたオクノ修さんさんはシンガーソングライターとしても、音楽好きの間では人気の方です。「ランベルマイユコーヒー店」は、ランベルマイユというオクノさんの心の中の街の、コーヒーの香る朝の風景を歌っています。この作品に絵をつけることに対してnakabanさんは、「ミシマ社の本屋さんショップ」でこう語っています。

「長い人生のうちで一日の始まりがつらい日も多い。でも一杯のコーヒーのその香りに包まれているうちに、いつの間にかそのつらさから救われてしまっている、ということはないだろうか。僕にはある。それに、どこかで同じようにコーヒーをすすっているひとがいると想像すれば、不思議と呼吸は深くゆっくりになる。きっとこの歌は、そのようなことを歌っている。オクノさんは謙遜するに決まっているけれど、世界中のかけがえのない朝に贈る、これはとても大切な歌なのだ。 絵本版の「ランベルマイユコーヒー店」はそのようなことを思いながら制作しました。 だれかの朝からだれかの朝への贈り物になったら嬉しいです。 」

「だれかの朝への贈り物」という言葉がグッときます。

 

★明日13日は、ライブイベントのため、18時にて閉店いたします。ご了承ください。レティシア書房店主

 

左京区浄土寺にある「ホホホ座」は、皆さんよくご存知の書店。この店を切り盛りする二人、山下賢二さんと松本伸哉さんの本「ホホホ座の反省文」(ミシマ社1944円)は、最初、なんや二人の愚痴本かいなぁ〜、なめんとんなぁ〜、などと思いつつ読み始めたところ・・・・・。

読み進めてゆくと、実に面白い。

「『わざわざ言いたいためだけに、遠回りをする』ことは、意識的にやっているわけではないのですが、なぜか、ホホホ座では多い気がします。日頃、無駄話ばかりしているからでしょうか。面白い表現は、合理性から離れたところから生まれる。そんな気もしています。」とか、「あらゆる物事は、自然発生的に始まることが、一番長続きし、強い。と僕は考えています」という山下さんの文章に出会うと、そうだよな、と納得します。

ホホホ座開店への道、そして京都市左京区という特殊な環境下で、どのようにしてホホホ座を育ててゆくか、二人の考えが明らかにされていきます。ホホホ座が開店したビルの二階で、元々古本屋「コトバヨネット」を営んでいた松本さんは、2000年前後から書店業界でのナチュラルな暮らし・生活を目指す流行に対して、こうぼやきます。

「ひたひたと忍び寄る『暮らし・生活系』の足音に、お店の存続をかけて歩調を合わせながらも、時として、その道に、バラバラと画鋲をまき散らしたくなることもあります。それは、常に人生の脇道に追いやられていた、サブカル者としての怨念と、燃えカスのようなプライドがもたらす、屈折した感情なのかもしれません」

「バラバラと画鋲をまき散らしたくなる」というご意見、私も同感です。その手の本一色に染まってゆくことへの苛立ちは、今もあります。

これは素晴らしいと思った山下さんの考え方を見つけました。子供が買って欲しいとねだった本を、親が難しいからもう少し大きくなってからと拒む、よく見かける光景に対して彼はこう書いています。

「その本に『大きくなってから』出会うチャンスは、決して多くはありません。そもそも、本は可能性を開拓するためにあるので、今この時点で、理解できるかどうかは、たいして重要ではないのです。

可能性しかない子どもが、直感で『面白そう』と思った本は、なるべく買ってあげるべきだと、僕は考えています。」

ぼやき本かと思っていたら、深く考えさせる。あるいは、こんな新しい仕事のやり方ってあるんだと驚かせてもらえる刺激に満ちた本でした。二人の中年男の今後に嫌が応にも期待度アップ。

ところで、版元のミシマ社が作ったポップが素晴らしい出来!

「もはや夢も希望もなく それでも毎日店あけてます。」

そして帯の文章

「『ていねいな暮らし』『セレクトショップ』『夢を持とう』…..そういうものに疲れてしまったすべての人へ。」

お見事!座布団一枚です。

 

 

トーク&ライブのお知らせ  

7月13日(土)18時30分より 『澤口たまみ(語り)石澤由男(ベース)ライブ』

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが再びやってきます。澤口たまみがさんが岩手のイントネーションで賢治作品を朗読。ベーシスト石澤由男が伴奏を添えます。 朗読作品は、岩手の自然を見つめ、野原や林からおはなしを貰ってきたという「鹿おどりのはじまり」他を予定。

●18時受付開始  18時30分より (2000円)ご予約ください。

 

 

京都に本拠地を置くアート系出版社、青幻舎の傑作を集めてみました。

人の踊る姿って、なんでこんなに楽しいの!と思わせてくれるのが奥山由の写真集「ポカリスエット」(2484円)です。

2017年に話題となったポカリスエットの春・夏キャンペーン広告に参加した300人の高校生。その彼らの踊る姿をさまざまな角度から捉えた写真集です。ダンスレッスンに打ち込む姿に肉迫し、シャッターを押します。そこに現れる踊ることへの無条件な喜びが満ち溢れています。登場する高校生たちの数人が、側にでもいたら、ちょっとうっとおしいな!などと、もしかしたらおじさんは思ってしまうかもしれませんが、髪をなびかせ、手を大空に突き上げ、足を振り上げる姿は素敵です。踊ることに命を燃やしている無垢の魂がここにはあります。波打ち際で踊っている姿は、羨ましいほどかっこいい!

彼らも、最初は戸惑い不安に思い、踊れるかなぁ〜と思っていたかもしれません。でも、レッスンを重ねるうちに、俺ってできるじゃん、私っていいかも……..と感じだしたのでしょう。その胸の高まりや、興奮が伝わってくるのです。本の帯に「自分は、きっと想像以上だ」と書かれていますが、その実感100%の写真集です。今の所、今年観た写真集で、最も気に入りました。

さて、もう一点、写真集をご紹介します。

マーリア・シュヴァルボヴァーの「Swimming Pool」(4104円)です。スロヴァキアで活躍するマーリアは、自国の公共の水泳施設の空間に惹きつけられていきます。撮影された水泳施設の殆どが、スロヴァキアの社会主義の時代に建造されています。その無機質で、幾何学的な構造が放つ美しさと、人形のように配置された水着姿の人間が作り出すクールな作品が、ズラリと並んでいます。泳ぐことを楽しんでいるという雰囲気は全くなく、シーンとしていて冷たく、体温が全く感じられません。独特の色使いの建造物に佇む人間の姿は、まるで夢の中のような不思議さです。眩しいはずの青空さえ、クールです。だからと言って、観る者が寒々しくなることはなく、どこかでこんな風景見たよなぁ〜という懐かしさに誘い込みます。水の中に入りたいと思わせる不思議な写真集です。誰もいない、プールの魅惑。

今回10点程アートブックを入荷しました。追加でさらに揃えていきます。その中には、ぜひブログで紹介したいものも沢山あります。乞うご期待!!

トーク&ライブのお知らせ  

7月13日(土)18時30分より 『澤口たまみ(語り)石澤由男(ベース)ライブ』

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが再びやってきます。澤口たまみがさんが岩手のイントネーションで賢治作品を朗読。ベーシスト石澤由男が伴奏を添えます。 朗読作品は、岩手の自然を見つめ、野原や林からおはなしを貰ってきたという「鹿おどりのはじまり」他を予定。

●18時受付開始  18時30分より (2000円)ご予約ください。

 

村上春樹と柴田元幸の対談を収録した「本当の翻訳の話をしよう」(SWITCH LIBRARY/古書1300円)を一気に読みました。もともと雑誌「MONKEY」に掲載された対談を単行本にしているものなので、柴田ファンは雑誌ですでにお持ちかもしれません。でも、まとめて読むとこの二人が愛してやまない作家、主にアメリカ文学の作家たちのことがよく分かり、二人の創作や翻訳に様々な影響を与えていることが理解できます。

大のジャズ好きの村上が、ジャズの進化発展とアメリカ文学の発展を、上手い具合に述べていました。40年代ダンス音楽だったジャズに、50年代に黒人がビバップという革新的なジャズスタイルを創造し、それを白人が洗練化させていった歴史を踏まえて、「50年代はクリエイティビティと洗練化が上手く歩調を合わせていた時代で、その頃に出されたジャズのレコードはあまりハズレがない。60年代になるとまたクリエイティビティな動きが起こってくるわけだけど、そのぶんハズレが多くなるんです。小説も50年代はハズレがない時代な気がします。」

柴田がその意見に同調すると、村上は続けます。「小説もメイラー、カポーティー、サリンジャー、マッカラーズと、50年代は質のいいものがまとまって出てきている。60年代はそれがはじけてばらけてきます。」

こういった興味深い話がぎっしり詰まった一冊です。私は、先ずはアメリカ映画があってその原作を読みだしました。どちらかというと海外小説に興味のない方にもこの本を読んでいただいて、興味ある作家が出てくれば、一度トライしてみてもらいたいと思います。後半には、二人が同じ文章を翻訳して、どこがどう違うのかトークする場面が出てきます。翻訳の奥深さを知っていただけるはずです。

最も面白かったのは、村上が小説に置ける礼儀正しさを重視しているというところ(P174)でした。柴田が、「礼儀正しさというのは登場人物の振る舞いのことですか。」と問い返すと、村上は「上手く言えないんだけど、文章を書く姿勢というか心持ちというか。」と答えます。

さらに柴田が「ヴォネガットがディーセンシー(decency=まっとうさ)という言葉を使いますが、それとも違いますか」と迫ると、村上は「似ているかもしれない。」と前置きして、彼の論を展開していきます。立ち読みでも、ぜひご一読を。

 

トーク&ライブのお知らせ  

7月13日(土)18時30分より 『澤口たまみ(語り)石澤由男(ベース)ライブ』

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが再びやってきます。澤口たまみがさんが岩手のイントネーションで賢治作品を朗読。ベーシスト石澤由男が伴奏を添えます。 朗読作品は、岩手の自然を見つめ、野原や林からおはなしを貰ってきたという「鹿おどりのはじまり」他を予定。

●18時受付開始  18時30分より (2000円)ご予約ください。

 

 

 

手差ユニッツによるコミック「素晴らしき七番地」と、コミックの各章のタイトルに合わせた音楽を演奏するザ・ロスト・クラブのCDがカップリングされたミニプレスを、入荷しました。(ミニプレス1080円)

コミックの方は、何ということのない日常をすくい上げた脱力系。日常生活のありふれた一瞬を浮き上がらせる中に、これは上手い!と思わせる作品をいくつか見つけました。

Tシャツを着た青年が電車に乗ります。するとどこからか飛んできたトンボが、すっと青年のシャツに止まります。その様子を見ていた年配の女性が隣の乗客に「トンボですよ。じっとして 羽が好きとおってキレイです。」語りかけられた人が「それは、もう秋の話題だね」と答えると、トンボは青年のシャツを離れて飛んでいきます。6コマのたったそれだけのものなのですが、女性が語りかけた隣の人は、視覚障害者なのです。挽夏の昼過ぎの空気感と、秋の予感を切り取ったセンス、優しさが漂います。

 

あるいは、花火大会に行こうと思っていたカップルが、電車延着で間に合いそうにない状況になります。花火の音が聞こえてくる中、せっかくもらった花火大会の「指定席」が無駄になると電車を降りて、ふと見上げるとホームの向こうに打ち上げ花火が上がっているのが見えて、「自由席!」と二人は笑い合います。ほのぼの…..。

このコミックについている音楽も素敵でした。80年代の英国アコーステイックサウンドの切なさや、日本のシティーミュージック創成期の品の良さを、自分たちのモノにした音楽です。全7曲。自宅や車内でエンドレスに流しても邪魔になりません。

もう一冊、ほのぼのと笑わせてくれるのが、鶴谷香央理の「メタモルフォーゼの縁側1巻」(角川書店500円)です。75歳のおばあちゃんが立ち寄った書店で、手にした一冊の本。なんと、それはボーイズラブの漫画だったのです。このおばあちゃんと、書店で働くボーイズラブ大好きの女子高校生との交流を暖かく見つめていきます。一人暮らしのおばあちゃんと、周りのキャピキャピした環境に馴染めない高校生が、ボーイズラブの漫画を接点にして、新しい毎日を生きてゆくというのが物語の骨格になっています。マニアックな世界に閉ざされていたボーイズラブを、こんな風に何の衒いもなく出してきたセンスの良さに驚かされました。(現在3巻まで単行本化されています)

 

 

 

トーク&ライブのお知らせ  

7月13日(土)18時30分より 『澤口たまみ(語り)石澤由男(ベース)ライブ』

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが再びやってきます。澤口たまみがさんが岩手のイントネーションで賢治作品を朗読。ベーシスト石澤由男が伴奏を添えます。 朗読作品は、岩手の自然を見つめ、野原や林からおはなしを貰ってきたという「鹿おどりのはじまり」他を予定。

●18時受付開始  18時30分より (2000円)ご予約ください。

 

「何度かハンドルを左右に切り、24号線に入った。このまま北上すれば、JR京都駅に出る。そこから更に北へ向かい、河原町を御池通まで進むと、その西側が河原町署だった。更にその西側は本能寺だ。」

京都の方なら地図が頭に浮かんだことと思います。今の中央信用金庫の御池支店のあるあたり。もちろん、これはフィクションですので河原町署はありません。

読まなければならぬ本が山ほどあるのに、また警察小説に手を出してしまいました。

「『千本興業』は、京都市下京区の西に事務所を置く暴力団である」なんて、一文が目に入ってしまい、手に取ったのが池田久輝の「沈黙の誓い」(ハルキ文庫/中古200円)です。舞台は京都ですが、いかにも名所旧蹟を散りばめたものではなく、特に何もない場所が多く登場します。主人公の安城友市は、「自宅マンションは京都御所の南、高倉夷川にある。」って、うちの店のすぐ近所にお住まいみたいです。ちなみに著者は京都府生まれ、同志社大学法学部卒業なので地の利があります。

 

7年前に雨で増水した桂川で、刑事だった安城の兄が命を落とします。事件性がなかったので、事故死として処理されたのですが、不審な匂いを感じ取った友市は、兄の死の原因を究明すべく刑事となり、河原町署に配属されます。そこに、不審な手紙が送られてきます。そして、事件が動き出します……。

刑事あるいは探偵小説って、だいたい主人公の行動を追って展開します。しかし、この小説はちょっと変わっています。弟の友市が、今担当している事件と、7年前の兄の行動が交互に出てきます。主人公友市の行動が、章が変わるとパタッと切れてしまうのです。著者は作家であると同時に脚本家でもあるので、映画的センスでこうしたのかもしれません。そしてラストで、兄の死と今の事件がクロスして、隠されていた真実が友市の前にさらけ出されます。闇を抱えた老刑事橋詰など、フランス映画に出てきそうな登場人物のキャラも巧みに描かれています。

「お前のシャツ、何で濡れてるんや」「さっきの雨に打たれました。ですが兄は………もっと濡れていた。桂川に流されて。橋詰さん、教えて下さい。兄がどうしてそうなったのか」

腕のいい映画監督が撮ったら素敵なシーンになりそうです。ただし配役が大事。京都弁の喋れない役者の2時間ドラマにだけはしないで下さい。

 

トーク&ライブのお知らせ  

7月13日(土)18時30分より 『澤口たまみ(語り)石澤由男(ベース)ライブ』

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが再びやってきます。澤口たまみがさんが岩手のイントネーションで賢治作品を朗読。ベーシスト石澤由男が伴奏を添えます。 朗読作品は、岩手の自然を見つめ、野原や林からおはなしを貰ってきたという「鹿おどりのはじまり」他を予定。

●18時受付開始  18時30分より (2000円)ご予約ください。

東都新聞記者吉岡(シム・ウンギョン)は、日本人の父と韓国人の母も持ち、アメリカで育ち、日本の新聞社で働いています。ある日彼女に、大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届きます。その真相を探るべく調査を始めます。

もう一人の主人公は、内閣情報調査室に外務省から出向で勤務する官僚・杉原(松坂桃李)です。国民のために仕事をしたいという思いとは裏腹に、現政権に不都合な人物に関して、デマや作られた情報をネットに流すというのが、今の仕事です。窓のない部屋でスーツ姿の官僚たちが、パソコンに向かって偽の情報を流している姿は不気味です。
自分の職務に疑問を持っていた杉原は、尊敬する昔の上司・神崎から久々に食事に誘われます。しかしその数日後、神崎はビルの屋上から身を投げてしまいます。原因を調べてゆくうちに、神崎が関係していた大学新設計画に秘められた闇を知り、同じ闇を追っていた吉岡と交わったために、彼はとんでもない決断を迫られていきます。
映画は、この二人を軸にして、この国を覆い尽くそうとしている権力の暴走を描いていきます。内閣情報調査室の杉原の上司は、政権の長期安定を目指し、それに反対する勢力を潰してゆくことが国のための仕事だと言い切ります。しかし、マスコミを含めた情報操作で、私たちは真実から目隠しをされているのだということが、今だからこそよくわかります。
最終的に杉原は、真実の公表か、保身かで究極の選択を迫られます。これ、問題の大きさは別にして、組織の中で働いた人なら苦悶する杉原の表情に納得すると思います。
ここで重要なのは、ヒロインを演じたシム・ウンギョンの、どこまでも透き通った視線です。あなたたちは、このままでいいのかという問いかけが、我々に迫ってきます。国家に対して抗うには、個人はあまりにも非力です。でも、彼女の視線は、それでもそのままでいいのですか!と訴えてきます。
このような政治的なテーマの映画を、一般の人が楽しめる映画として上映しようと考えて、制作したスタッフに敬服します。とにかく、まず面白い。そして心の奥にズドンと突きつけられるものがあります。

 

トーク&ライブのお知らせ  

7月13日(土)18時30分より 『澤口たまみ(語り)石澤由男(ベース)ライブ』

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが再びやってきます。澤口たまみがさんが岩手のイントネーションで賢治作品を朗読。ベーシスト石澤由男が伴奏を添えます。 朗読作品は、岩手の自然を見つめ、野原や林からおはなしを貰ってきたという「鹿おどりのはじまり」他を予定。

●18時受付開始  18時30分より (2000円)ご予約ください。

 

 

 

以前ブログで紹介した「長いお別れ」に続いて、中島京子の「夢見る帝国図書館」(文藝春秋/古書1350円)のご紹介です。長編小説を読んだ満足感100%の出来上がりでした。安心して読める作家の一人ではないかと思います。

小説家を目指すライターの”私”が、「短い白い髪をして、奇天烈な装いをしていた。」貴和子さんと出会ったところから、物語が始まります。貴和子さんは本が好きで、図書館が大好きな老女です。”私”は誘われるままに、「路地の奥のそこだけが江戸時代を背負っているみたいに古かった」小さな部屋に行き、四畳半の狭い部屋に樋口一葉全集があるのを目撃します。そして、彼女が小説を書いて欲しいと頼んでくるのですが、それはとても奇妙な設定の物語なのです。こんな会話が続きます。

「上野図書館が主人公みたいなイメージなの」「図書館が主人公?」「そう、図書館が語る、みたいな」「図書館の一人称っていうこと? 我輩は図書館である、みたいな?」

そこから、樋口一葉に恋ゴゴロを持ち、宮沢賢治と唯一の友の友情を見守り、関東大震災を耐え抜き、戦時中隣接する動物園の猛獣処分で殺されてゆく動物たちの嘆きに悲しみ、敗戦後に「帝国」図書館の役目を終えるまでの”図書館の人生 “が脈々と語られていくのです。図書館の眼差しが、時に優しく時に切ないところに涙してしまいます。

同時に”私”は、貴和子さんの戦前戦後の苦難の歴史と人生を知り、彼女が纏っている謎を解明してゆく物語が進行していきます。ひとりの女性の人生と、時代に翻弄されながらも本を守り続けた図書館の姿が、後半見事にシンクロしていく、巧みな構成です。

日本国憲法草案のため、アメリカから派遣された女性ベアテは、この図書館で資料を集めながら考えます。

「わたしが憲法草案を書くなら、と、ベアテは考えた。この国の女は男とまったく平等だと書く。神様がわたしのようなちっぽけな人間に、こんな大きな仕事をさせようとしているなら、間違えちゃいけない。わたしはこのチャンスを、彼女たちのために使わなきゃいけない」と、本をしっかり抱きかかえて、立ち去ります。その姿を図書館は優しく見つめていました。

晩年の喜和子さんが家を捨て、自ら選んだ道で幸せな日々を送られたことに”私”も、読者もホッとします。小説の完成を待たずに喜和子さんはこの世を去ります。最後の散骨シーンと、帝国の看板を下ろして役目を終えた図書館の姿がクロスして、大きな歴史を描いた物語は終わりを告げます。

「真理がわれらを自由にする」という最後の言葉は、心の底からジーンときて鮮やかな終わり方でした。

 

♫トーク&ライブのお知らせ  

7月13日(土)18時30分より 『澤口たまみ(語り)石澤由男(ベース)ライブ』

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが再び
やってきます。澤口たまみがさんが岩手のイントネーションで賢治作品を朗読。
ベーシスト石澤由男が伴奏を添えま

す。 朗読作品は、岩手の自然を見つめ、野原や林からおはなしを貰ってきたという「鹿おどりのはじまり」他を予定。

●18時受付開始  18時30分より (2000円)ご予約ください。

 

 

東京の書店「Title」店主辻山良雄さんの「ことばの生まれる風景」(ナナロク社/2484円)は、とっても素敵な本です。辻山さんの文章は、本への愛情に満ち溢れています。そこで紹介されていた作家の多くは、うちの店長のリスペクトしている方々で、レティシア書房店長日誌に思いをこめて紹介しました。そのブログをコピーして辻山さんに送ったそうです。そうしたら、なんと辻山さんからご連絡をいただき、「nakaban(なかばん)さんの原画展を全国で巡回していますが、そちらでされますか」というご提案をいただきました。願ってもない話に我々は飛びつきました。

そうして実現したnakabanさんの原画展が、本日より始まりました。

ナナロク社の担当川口さんとメールのやり取りを重ね、「ことばの生まれる風景」の中の全ての原画を見てみたいという欲望を抑えて、選んだ12点の絵画。本の印刷もレイアウトも素晴らしいのですが、改めて原画の持つ力強さに、なんというか心打たれました。重ねられた色の深さ、筆の運び、ことばの中から一枚の風景を描くという力技。

店の扉の近く一番初めには、星野道夫「旅をする木」を飾りました。これは、星野道夫が大大好きな店長のたっての希望です。古本屋の本棚の前で手に取ったアラスカの写真集に見入る青年の姿。その周りにはアラスカの大自然が広がり、彼の未来が見えています。夏目漱石「門」は、都会の車窓の景色。原画で見るとより暗がりの深さが際立ちます。深沢七郎「楢山節考」の雪景色は寒さが滲みます(私はこの絵が大好きです)。エンデ「モモ」は、より身近に感じたくて柱に掛けました。夜、一人で建物の中に座り静けさに耳を傾けるモモを満天の星が見守っています。どの作品もいつまでも見ていたい。願わくはずーっとここに居て欲しい。

初日に辻山さんが来てくださって、一緒にゆっくり展示を見て「京都だから『方丈記』を入れても良かったですね」と言われ、迷った末にやめたことをちょっと後悔しました。

展示前の日曜日には、nakabanさんも立ち寄ってくださいました。実はnakabanさんの原画展(やはり辻山さんとのコラボです)は「誠光社」さんでも、昨日から同時開催中なのです。日曜日はそちらの搬入だったのだそうです。それにしてもnakabanさんの原画展を私たちの本屋で出来るとは思ってもいなかったので、とてもとても嬉しいです。さらに「ことばの生まれる風景」の著者お二人ともにお会いできて、幸せでした。店長日誌を辻山さんにお送りして本当に良かった。発信してみるもんですね。(女房)

●nakabanさんオリジナルスタンプを、しおりに押してお持ち帰りいただけます。このスタンプは、原画展をされた各書店のイメージに合わせてnakabanさんが作ってくださいました。ちなみにレティシア書房のデザインは女性の横顔。いいでしょ!

 

♫トーク&ライブのお知らせ  

7月13日(土)18時30分より 『澤口たまみ(語り)石澤由男(ベース)ライブ』

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが再びやってきます。澤口たまみがさんが岩手のイントネーションで賢治作品を朗読。ベーシスト石澤由男が伴奏を添えます。 朗読作品は、岩手の自然を見つめ、野原や林からおはなしを貰ってきたという「鹿おどりのはじまり」他を予定。

●18時受付開始  18時30分より (2000円)ご予約ください。

                     075−212−1772(レティシア書房)

 

 

これだけ、小川洋子の小説が揃ったのは珍しいかもしれません。元々の在庫と一緒に数えてみたら19冊。大型新刊書店よりも充実しています。私自身小川洋子が大好きなので、その半分ぐらいを既に読んでいます。

出産を控えた姉に毒入りジャムを食べさせる妹の、心理と生理の揺らぎを描いて芥川賞を受賞した「妊娠カレンダー」(文春文庫/古書300円)、老人の背中、足の裏を舐め回す少女のエロスを描く「ホテル・アイリス」(幻冬舎文庫/古書300円)など、この作家の持っている冷たい狂気のようなものが満ちた、初期作品を読んでもらいたいと思います。現実と悪夢の境目で揺れ動く不思議な世界を描いた短編集「まぶた」(新潮社/古書300円)もいいです。

と言いながら、やはり推薦するのは、ブログでも紹介した「いつも彼らはどこかに」(新潮文庫/古書300円)と「ことり」(朝日新聞社文庫/古書300円)。優しく切なく、そして温もりのある豊かな物語世界がここにはあります。

そして、この本も文庫になっていたんですね。赤坂真理の「東京プリズン」(河出書房/古書500円)です。アメリカの高校に留学したマリが、ひょんなことからディベートで「天皇の戦争責任」について弁明することになることから、日本の戦後をめぐる物語へと発展してゆく骨太の物語。帯の通り、「16歳の少女がたった一人で挑んだ現代の『東京裁判』を描く」物語です。

ちょっと珍しいのが、武井武雄の童話集「お噺の卵」(講談社文庫/古書800円)です。日本ではあまり見かけないナンセンス童話「お噺の卵」「ペスト博士の夢」「ラムラム王」の3作品すべてを収録した文庫です。著者による繊細なイラストも収録されているのでお楽しみ下さい。

昭和の文士を撮影してきた写真家、林忠彦が撮影した作家を集めた写真文集「文士の時代」(中公文庫/古書950円)は、日本文学好きなら、持っておいて欲しい一冊です。彼の作品ではバーカウンターの椅子に腰掛けている太宰治が有名ですが、織田作之助 、坂口安吾、谷崎潤一郎、三島由紀夫など大御所がズラリと登場します。この時代の作家にとって、タバコは欠かせないアイテムだったみたいで、くわえタバコ姿もきまっています。若き日の五木寛之は、流石に洒落てます。和服姿の文人も多く、やっぱかっこいいのは、吉行淳之介でした。面白いなぁ〜と思ったのは、深沢七郎です。和服でギターを爪弾いているのです。日劇ミュージックホールのギター奏者だったということを初めて知りました。全105人の作家たちの素顔を見ているだけでも楽しい一冊です。

★まことに勝手ながら7月1日(月)〜2日(火)連休いたします。よろしくお願いいたします。(レティシア書房)

♫トーク&ライブのお知らせ  

7月13日(土)18時30分より 『澤口たまみ(語り)石澤由男(ベース)ライブ』

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが再びやってきます。澤口たまみがさんが岩手のイントネーションで賢治作品を朗読。ベーシスト石澤由男が伴奏を添えます。 朗読作品は、岩手の自然を見つめ、野原や林からおはなしを貰ってきたという「鹿おどりのはじまり」他を予定。

●18時受付開始  18時30分より (2000円)ご予約ください。

                     075−212−1772(レティシア書房)