チリのパブロ・ラライン監督作品「エマ、愛の罠」のヒロイン、エマはとんでもない人物です。さて、応援できるか、反発して劇場を出るか………。

のっけから凄いシーン。街の信号機がメラメラと燃えてしまいます。カメラが引くと、火炎放射器を持った女性が立っています。それがエマです。彼女は、若手ダンサーとして活躍していたのですが、とあることから職を失い、さらに、夫で振付師のガストンとの関係も冷えていきます。

さて、ここからです。エマは相談にのってくれた女性弁護士ラケルを誘惑し、彼女の夫のアニバルとも関係を持ちます。かと思えば、別居中のガストンを挑発し始めます。濃厚なセックスシーンが登場します。挙句に、エマは妊娠して子供を産みます。彼女の家には、ラケル、アニバル、ガストが、所在無げに集まります。父親は誰?もう、わやくちゃです…..。エマの、一見無自覚にも見える行動について映画は何の説明もしません。もちろん原因があるのですが。何度か登場する火炎放射器シーンも唐突です。

ヒロイン、エマを演じるマリアーナ・ディ・ジローラモがカッコいい。ミステリアスで中性的なルックス、大胆な行動力、揺るぎない意志、狙った獲物に一直線に突っ込む獰猛さ、をすべて兼ね備えています。

ラストは、ガソリンスタンドでガソリンを補充しているエマの姿で終わります。おい、おい、まだやるか!

でも、私はこうなのというエマの自信と行動力を見ていると、これもありかと納得してしまいます。その生き方には反社会的とか、反倫理的とかいうレッテルを貼ることもできるのですが、そんなもん、この火炎放射器で焼いてやるわ!というエマの声が聞こえてきそうです。

80年代後半にアメリカ合衆国のヒップホップの影響を受けてプエルトリコ人が生み出した音楽「レゲトン」。そのエネルギッシュなサウンドにのって踊るエマだけでも見て欲しい映画でした。

映画の中で、背中にドラムとシンバルを背負って、リズムを刻みながら踊る大道芸人が登場するのですが、やってみたいな、と思いました。

 

★発売決定!町田尚子さんのおなじみ猫のチャリティーカレンダーを、10月中旬より販売いたします。価格は550円(税込)です。今年のテーマは日本映画です。

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・大きいサイズは1000円(撮影は児玉小枝さん)・卓上サイズは800円(ARKスタッフ撮影)

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今年の短編小説集としてはイチオシの「サキの忘れ物」(新潮社/売切)を発表した津村紀久子が、2016年に出した「枕元の本棚」(実業之日本社/古書950円)を面白く読みました。

第一線級の作家の読書案内って、いかにもという内容が多いのですが、津村が選んだ本はちょっと違います。例えば、ナンシー・リカ・シフ著「世にも奇妙な商業案内」。これは、へぇーこんな職業があるんだ、ということをルポした本です。なんでも小川洋子が自身のエッセイで取上げていたのを読んで購入した本だとか。興味深い仕事としては「ゴルフボール・ダイバー」。これは、ウエットスーツを着込み、池に落ちたゴルフボールを拾い上げて再生会社に売るらしい。

「どの人も、とても自然な顔をしてその職業におさまっている。そこには、幸せそう、などというありきたりの物言いでは説明できない、矜持と満足が漂っているように見える。」

そして、最後をこう締めくくっています。

「昔は、ドモホルンリンクルのコラーゲンの抽出を見張る人、カウンターを持って通行人の人数を数える人などをやりたがったが、今は京都の六角堂で白鳥の世話をしている人になりたい。収入や名誉やありきたりな夢を脇に置くならば、職業とはこんなに豊かで、それはすなわち人間の生活の豊かさを意味しているのだと本書は教えてくれる。」

津村流の文学案内でもなければ、この本を読みなさい的な読書案内でもありません。彼女の人生の中で、折に触れ、心を動かし、生き方に影響を与えてきた本を並べて、彼女が何を考え、行動してきたかを綴っています。

石垣りん著「ユーモアの鎖国」の中の「事務員として働きつづけて」について、津村は「戦後も今も職場での女の人の立場はほとんど変わっていないように思われる。男女が同じ権利を持つ職場は、たぶん今もほんの一握りだ。でも石垣さんは『私は会社にとり入る心、会社が必要とする学問、栄達への努力をしないで働くことが可能でした』と、会社に魂まで売り渡さなくてもすむ働く女の人の自由も提示してくれる。制限されたり、月給が低かったり、立場が弱いこととも裏腹のこの自由は、わたしが会社員をやってきた中で強く感じたことだった。」と書いています。

作家の拠り所とする思想を背中から支えた本を集めた優れた読書案内です。

 

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奈良県東吉野村、人口1700人の村にできた人文系私設図書館「ルチャ・リブロ」を主宰する青木真兵さん海青子さんの夫婦が綴った、1年間の日記と書き下ろしのエッセイを組み合わせた「山學ノオト」(H.A.B/新刊1980円)を入荷しました。

「ルチャ・リブロ」の活動を海青子さんは、こんな風に表現しています。

「ルチャ・リブロはその活動を『社会実験』と称していますが、真ん中にあるのは、あくまでこんな生産性のない日々です。『実験をするぞ!すごい成果を得るぞ』と息巻いて山村に飛び込んだ訳ではなく、山村に住み着いて暮らす内、いつの間にか『実験』が始まっていたような印象です。自分としては、ただ生産性のない日々を生活しているだけなのです」

「生産性のない日々」っていい言葉だと思います。全てを生産性の名の下に数値化し、生産性を上げることに血道をあげて、人間を区分けしてしまうような社会への憤りです。

日記には、日々の活動や村での付き合い、そして彼らを支持する多くの仲間との交流の記録に混じって、二人の、この国の社会のあり方への疑問が提示されています。

「なぜ世間では『不登校ではダメ』なのか。なぜ『学校に行かないこと』がダメなのか。よく考えてみると、『学校に行かない』というアクションと、『ダメ』という価値判断が結びつく必然性などないではないか。」と書かれているのは、「不登校でも大丈夫」の著者、末富晶さんから手紙をもらった日の日記。

総務省が、人口減少が進む地域を指して「過疎」と言うのは、マイナスイメージが付きまとうので、代わりの言葉にすることを検討するという報道について、真平さんは「馬鹿じゃねぇかと思う。確かに言葉でイメージは決まってしまうけれど、人口減少が進んでいないのに、『過疎』と呼ばれ、風評被害に合っているわけではない。現に人口減少は進んでいるのだ。こんな風に、過疎地域の問題に正面から取り組んでいるように見えない中で名前だけ変えることは、臭いものに蓋をするだけのことと思う。」

全くその通り。

なぜ、夫婦が田舎に引っ越して、私設図書館を設立して、ここで生きていこうと決心したのかは、「彼岸の図書館」(夕書房/新刊2200円)に詳しく書かれています。当ブログでも詳細に紹介しました。人が生きるための土台となるべきは、書物だと語られた一冊でした。こちらの本もぜひご一読いただきたいと思います。

日記でおもわず笑ったのが、これです

「久しぶりに片道約一時間かけて福原イオンモールへ。本屋さんに行ったら、橋本徹氏の『トランプに学べ』やホリエモン氏の本が一番目につくところに平済み。すぐ帰りたくなる。」

わかります、その気持ち!

 

私は、熱心な江國の読者というわけではありません。読んだものといえば、「日のあたる白い壁」(白泉社/古書800円)、「絵本を抱えて部屋のすみへ」(白泉社/古書800円)だけです。しかも、前者は美術案内、後者は絵本紹介で、文学者の本筋に当たる作品ではありませんでした。彼女の散文を集めた「物語のなかとそと」(朝日新聞社/古書950円)が、江國文学の最初の体験です。

とても面白かった。単純な表現ですが、そう思いました。彼女が使っている消しゴムが、ある日、生き物のようにゾロゾロと動き出して、家を出てゆく様子を描いた「書くこと」。

「消しゴムたちは、玄関のドアの前にかたまって立っていました。試合前の運動選手みたいに、その場飛び跳ねたり屈伸したりしているものもあります。

私はふいに、喪失感に襲われました。行ってしまうのだ。私がこのドアをあけたら、彼らは行ってしまう。そして二度と戻ってはこない。」

ファンタジーのような小品ながら、切ない感情が湧き上がってきました。自分の愛用していたものが消えてゆく、そんな誰もが持ったことのある寂しい気分を捉えています。

本書では、彼女が日頃思っていたことやかつて感じたこと、大好きな読書について語ったことなど、多くのその時々の思いが描かれています。そして、一人の文学者について心に沁みこむ文章を載せています。

それは瀬戸内寂聴。20歳で初めて出会った時に、こう言われます。「物を書くにはストリップする度胸が必要なのよ」。その言葉にぞくりとしながらも深く考えずに時は流れます。94歳になった瀬戸内が「小説だけは家を飛び出して以来一日も忘れず、ひたすら片思いの切なさを背負いつづけて、それでもその背にしがみついて生きてきた。」という文章を目にして、「打ちのめされた。なんて遠い道のりだろう」と、自分の仕事の果てしなさを告白しています。

江國のエッセイを読んでいると、街の情景描写がリアルで美しいと感じます。少し長いですが、「近所の花ー夏」を紹介します。

「まだあかるい、まだあかるいと思っているうちに、すこしずつ空気がひんやりと薄青くなり、その青さは肌まで染めてしまいそうで、にわかに心細くなる。夕食の仕度をする匂いや、お風呂をわかすあたたかげな湯気の匂いが、どこからか風にのって漂ってくる。そして、そのくらいの時間から、植物が静かに生気を放ち始める。子供の目の高さに咲く、濃いピンクのおしろい花の茂みや、垣根ごしに見えるほど背の高いタチアオイ、夕闇にぽっかり出現し、この世のものではないかのような、つめたい黄色の花びらをふるわせる月見草。どれもあちこちに咲く、ありふれた、近所の花だった。」

彼女のファンになりそうです。

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今年のノーベル物理学賞は、ブラックホールの研究者に決まりました。ブラックホールの中心にある特異点の解明が研究課題だとか新聞で読みました。特異点の存在については、クリストファー・ノーラン監督の傑作SF「インターステラー」に登場するのです。登場人物たちが、宇宙船の中で科学的、物理的問答を行うのですが、なんだか、ようわからんかった…….。

ノーラン監督って、厄介な監督です。一度見ただけでは「??…..」みたいな映画を作り、しかもそれが?のままでも想像以上に面白いので、映画館に通い、挙句にDVD を買って、何度も見るという羽目になります。「インターステラー」しかり、「ダンケルク」しかり、「インセプション」しかり。

そして、今公開中の「TENETテネット」も、最高に面白いのに、最高にわからん映画です。

オーケストラの指揮者が、コンサートホールで今まさに指揮棒を振り下ろした瞬間、会場をつんざく爆破音と咆哮するマシンガン。流れるようなカメラワークに、私たちは付いていきながら、どうなってんの?と不安が募るばかり。巧みな映像の処理と展開にワクワクドキドキ。映画ならではの楽しさです。

さて、主人公のCIA隊員は、「時間逆行装置」の存在を知り、恐ろしい陰謀があることを突き止めます。時間逆行装置には時間が順行する「赤の部屋」と、時間が逆行する「青の部屋」があります。それぞれの色の部屋では、それぞれの方向に時間が進む、または戻るのです。 時間を逆行させる装置には様々な独自のルールがあります。主人公は時間を行きつ戻りつして、陰謀をつきとめてゆくのですが、え?それどう意味?どう理解するの?という鑑賞者の気持ちなんぞ無視して、どんどん進んでいきます。それでも観入ってしまうのは、トリッキーな場面展開や、切れ味鋭いアクションシーンのオンパレードによるものです。

時間が逆行している世界では何もかもが逆行しています。カーチェイスシーンでは、みんな後ろ向きに走っているのです。これはすごい映画を体験している!と、ゾクゾクしてきます。もうノーランの魔術に巻き込まれてしまっているのです。

徹底的にデジタルに背を向けて、アナログフィルムのこだわるノーラン監督の演出だからこそ、画面に厚みがあります。そこが他の凡庸な監督と違うところです。「時間」という極めて難解なテーマを、あえて映像化しようと挑戦した監督に大拍手です。多分また、DVD買うな……..。

 

 

 

 

アニタ・ローベルは、1934年ポーランド、クラクフに生まれ。ユダヤ人の絵本作家です。ナチスのポーランド侵攻で10歳の時に拘束され、強制収用所に送られます。なんとか生き延びて、戦後、スウェーデンの診療所で心身に受けた傷の回復に努めます。そして両親と再会。1952年にアメリカへ移住し、ブルックリンでデザインを学び、テキスタイルデザイナーとして活動を開始します。その後、「ふくろうくん」や「ふたりはともだち」でお馴染みの絵本作家アーノルド・ローベルと結婚し、絵本の仕事を始めました。

彼女の絵本「ニニのゆめのたび」(評論社/古書1150円)を入荷しました。都会に住むご主人の家で気楽に暮らしていた猫のニニが、ある日、無理やりカバンに入れられ、どこかへ連れて行かれます。その道中、カバンの中で眠りに落ちたニニは、夢を見ました。気球に乗ったり、ヨットで大海原に出かけたり、インドで象にまたがったり。そうして、やがて着いた新しい場所は、今までの都会と違い、自然の中に建っている家でした。草の香り、虫の鳴き声。新しいともだちの白い犬とも仲良くなりました。

絵が上手い。都会の様子、田舎の風景、特に家の前に広がる森林のシーンの描写、猫の表情など素晴らしい。(猫好きはたまらん!)風のそよぎ、花が咲き虫たちが飛び跳ねている風景。それは、戦争で極めて辛い体験をしたアニタが、最も希望していた平和の風景なのかもしれません。思春期をナチスの暴力でズタズタにされた彼女の、求めていた世界がここにはあるのかもしれません。裏表紙の、白い犬とニニが寄り添って夕日を眺めている絵を見ていると幸せな気分になってきます。いい絵本です。

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哲学者宮野真生子と,人類学者磯野真穂の対話集「急に具合が悪くなる」(晶文社/古書1450円)は手強い一冊でした。

癌の転移が見つかった宮野真生子は、ある会を通じて磯野真穂と往復書簡を始めます。その間にも宮野の病は進行してゆきます。だからといって、この書簡集が、患者の心を癒すような文章で埋め尽くされている類いの本ということはありません。それどころか、かなりアグレッシブな内容を含んでいます。

「たしかに未来の死は確実ですが、しかし、なぜ、その未来の死から今を考えないといけないのでしょうか。それはまるで未来のために今を使うみたいじゃないですか。いつ死んでも悔いのないように、という言葉は美しいですが、私はこの言葉にいくばくかの欺瞞を感じてしまいます。」

という宮野のストレートパンチから応酬が開始です。一方は哲学者、片や一方は文化人類学者です。緻密に構成された文章は、ふむふむとあっさり納得できるところと、その言葉が、どんな意味合いで発信されているのかが理解できないところが、交互に登場してくるので行きつ戻りつ読むということになります。

さらに、「代替医療をめぐる問題は、エビデンス第一主義ではなく、希望と信頼の位相で話すべきである」などという医療についての考察も入ってくるので、立ち止まることしばしばでした。

難しそうと思われるかもしれませんが、いや、実際に難しい部分もありますが、力強く生きる意味を引き出す一冊です。

「宮野にしか紡げない言葉を記し、それが世界にどう届いたかを見届けるまで、絶対に死ぬんじゃねーぞ。」と声をかけられた宮野は、了解、と約束します。

「これからもっと病状は悪くなるかもしれないけれど。それは単純に『死なない』ことの約束じゃない。磯野さんが希望し、私も見たいと望む未来に対する賭けであり、そこに向かって冒険の道をくじけずに歩んで行くということの覚悟であり、なによりも、そんな言葉を投げかけてくれた磯野さんと私の関係への信頼なのです。」

ぶつかり合う言葉を通して、私たちに生きることと死ぬことを考えさせるのは、この二人の強靭な精神力によるものであることは間違いないです。

十回にも及ぶ書簡のやり取りの後、宮野さんは2019年7月22日に亡くなられました。

 

 

ARK(アニマルレフュージ関西)の2021年度カレンダーを入荷しました。

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毎年カレンダー発売に合わせて写真展を開催してきたのですが、春の段階で、どうなるかわからないとキャンセルの連絡が入ったのでカレンダーが完成して嬉しいです。売り上げは全てARKに寄付します。ぜひ店頭で手に取ってください。

京都シネマにて上映中の「はちどり」は、オススメの一本です。監督はキム・ボラ。1981年生まれですから、39歳。この若さで、こんなにも静謐で、深く心に染み入る映画を作るなんて驚きです。母国の大学を卒業後、アメリカのコロンビア大学で映画を学び、その時制作した「リコーダーのテスト」が多くの映画賞をとりました。その作品で9歳だった主人公の少女ウニの、その後の物語が「はちどり」です。中学生のウニを演じるパク・ジフに監督が出会ったのが、映画の成功への第一歩でした。

思春期の少女の心の不安や孤独、やるせなさを、繊細に描き出した作品です。1994年のソウル、家族と集合団地で暮らすウニは14歳。両親は小さな店を切り盛りして、子供たちをいい学校、いい大学へ行かせたいと頑張っています。家父長制を象徴するような父親、その父を見て育った長男、反抗的な長女、そして仕事と家事で手一杯の母。そんな家庭環境の中で、ウニは学校とも馴染めずに、他校の男子とデートしたり、ウニを慕う女子中学生と仲良くなったりという、居場所のない毎日をなんとなく過ごしています。思春期の少女の姿を、監督は静かに時間をかけて寄り添い、町の雑踏や小鳥の鳴き声、空を渡る風の音など、ウニの周りにある音を巧みに拾いあげていきます。ウニを見つめる優しさがあふれています。

 

ひとりぼっちだったウニの前に、塾で漢文を教えるヨンジという女性教師が現れます。彼女との付き合いを通じてウニは、少しづつ、少しづつ、心を解放していきます。ラストシーンのウニの表情は、笑っているのでもなければ、下を向いているのでもない。複雑な感情を隠し、どう生きていくのかもわからないけれど、一歩踏み出そうとしているウニを演じたパク・ジフの顔を、忘れることができません。

「はちどり」というタイトルについて、世界で最も小さい鳥のひとつでありながら、その羽を1秒に80 回も羽ばたかせ、 蜜を求めて長く飛び続けるこの鳥は、希望、愛、生命力の象徴とされていて、その姿が主人公のウニと似ていると思った、と監督は語っています。ラストは未来へ飛び立つ前のウニの表情なのです。

 

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昨日より始まりました福井さとこ銅版画展は、仁木英之の小説「マギオ・ムジーク」の挿絵の原画展。では、どんな小説かなと思って読んでみました。

おぉ〜正統派ファンタジー小説!小学6年の翔馬が、ある日突然、異次元の世界へと迷い込み、そこで悩みながらも成長してゆくという王道の物語です。こういう物語にはお約束の、大きな龍や虎も登場します。けれども、翔馬と龍やモンスターの大バトルは、メインイベントではありません。

翔馬が迷い込んだ世界は、音楽に該当するムジークという魔法が絶大な力を持っています、都市を破壊するほどの力もあれば、世界を美しくする力も備えています。こちらの世界でピアノを弾いていた翔馬は、自分の持っているムジークの力強さに驚きながら、この力を巡って対立する二つの勢力の中で、自分が何をすべきなのかを探し求めていきます。

「旋律は奏でる者のこ……心だ。もし、めちゃくちゃな音しか出ないとしたら、それはお前の心が乱れているだけに過ぎない」

と言われるのですが、自らの力を制御できない。

「音がとまらない。翔馬はこわくなって楽器を放り投げようとした。だが、触手が数本のびて翔馬の体に絡みつく。その一本が腕のところから皮膚の中へ入ろうと口を開けたのを見て、翔馬は悲鳴を上げた。」

そういう世界で、翔馬は仲間を作り、より良き世界のために、そしてなんとか元の世界へ戻るために行動を開始します。ムジークのことを深く知るために、ムジーク使いを養成する学校に入ります。

「願いをかなえるために学ぶ。それは君の世界でも変わらないはずだ」

という先生の言葉は、学ぶことの本質を言い当てた言葉ですね。音楽をムジークという魔術に置き換えて物語は進んでいきます。そして、音楽の力をこんな風に表現しています。

「音楽は人を傷つけたり悲しませたりするかもしれないけれど、こうして何かをこわすために、だれかをひざまずかせるためにあるんじゃない。悲しみの向こうへ行くためのものだ」

確か坂本龍一だったと記憶しているのですが、音楽は人を救わない、けれども人に寄り添うことができると言っていました。寄り添って悲しみの向こうに連れて行ってくれる、なんて素晴らしいことでしょうか!

音楽とずうーっと付き合ってきた私には、とても心に染みる物語でした。

なお限定ですが、現在店内で販売している本は、仁木英之さんと福井さとこさんのサインが入っています。お早めに!

 

ARK(アニマルレフュージ関西)の2021年度カレンダーを入荷しました。

・大きいサイズは1000円(撮影は児玉小枝さん)

・卓上サイズは800円(ARKスタッフ撮影)

今年はコロナの影響で撮影ができるか懸念していました。毎年カレンダー発売に合わせて写真展を開催してきたのですが、春の段階で、どうなるかわからないとキャンセルの連絡が入ったので販売できて嬉しいです。売り上げは全てARKに寄付しますので、ぜひ店頭で手に取ってください。

本日より、福井さとこさんの銅版画展が始まりました。福井さんは京都の嵯峨美術大学を卒業後、2014年よりスロバキアのプラチスラパ芸術大学に留学して、ドゥシャン・カーライ氏に師事して版画と絵本を学びました。当店では2019年1月の個展以来ですが、毎日新聞連載などでも活躍されています。

今回は、仁木英之のファンタジー小説「マギオ・ムジーク」に付けられた挿絵の原画を中心に、毎日新聞で今年1月に1ヶ月間連載された「チェコの森のカティ」の原画を並べました。「マギオ・ムジーク」は、音楽(ムジーク)が絶大な力を持つ恐ろしくも美しい世界に、少年翔馬が迷い込み、戦いに巻き込まれていくファンタジーですが、今年7月に発行されて、すぐに東京で作品展をされる予定が、コロナ感染拡大の影響を受け中止になり、レティシア書房がお披露目の場となりました。

福井さん独特の鮮やかな色使いを封印して、白と黒だけで不思議な音楽の世界を描いた作品は、それゆえに、形の面白さに引き込まれます。音が聞こえてくるような流動的な線、スピード感は、彼女が手描きのアニメーション制作をしていた経験が生きているのだと思いました。私は、音楽の力を信じて翔馬と少女がグランドピアノを弾く絵(写真左上)が好きです。他人の小説に絵を描くのは、ただでさえ難しいと想像しますが、このファンタジーは設定も登場人物もなかなか手強いので、新しい挑戦だったに違いありません。(小説の内容については、明日のブログで店長が紹介する予定ですので、興味のある方はぜひ。)

一方、「チェコの森のカティ」は福井さん自身が文と絵を担当した童話です。原画はシルクスクリーンで制作された美しい色彩の絵です。(原画シートは税抜き9000円〜12000円で販売)もちろん「マギオ・ムジーク」(JULA出版局/1760円)は福井さんのサイン入り(限定)で販売しております。(女房)

「マギオ・ムジーク」福井さとこ銅版画展は、9月30日(水)〜10月11日(日)

月・火定休 13:00〜19:00