映画館で観たい映画ってありますよね。

古くは「アラビアのロレンス」「2001年宇宙の旅」「地獄の黙示録」「未知との遭遇」そして「スターウォーズ」と、大スクリーンで、響き渡る音響の中に身を置いてスクリーンを凝視することで、その映画のスゴさを理解できる映画。

「ブレードランナー」の続編として製作された「ブレードランナー2049」もそんな一本でした。映画が始まってすぐに広がる未来のLAの都市の姿など、小さい画面で観たら、その迫力なんてさっぱりわかりませんね。

先ず、この映画、言葉で書かれたシナリオの世界を、よくもまぁ、ここまで映像化したもんだと驚きました。最先端のCG技術を駆使しながら、意匠デザイナー、セットデザイナー、美術監督、色彩コーディネーター等々多くのプロが作り上げた2049年のLAの姿を堪能してください。

そして、CGは凄いが中身からっぽの大作が多い中、深い物語性をきちんと備えていました。前作「ブレードランナー」は、反乱した人造人間(レプリカント)を追いかける捜査官を描いた単純なストーリーでした。今回も、そんな感じの話ですが、ゆっくりしたリズム(上映時間は2時間半を超えます)で、進行していきます。自身もレプリカントの捜査官Kが、人間に反旗を起こした旧型レプリカントを追い詰めてゆく過程で、自分の頭の中にある記憶を巡って疑問を持ち始めます。私とは何者なのかという問いかけが、とんでもない方向へと向かっていきます。圧倒的な映像美に幻惑さらされながら、私たちもKと共に長い旅をすることになります。

監督は、個人的に今年のベスト3に入る「メッセージ」のドゥニ・ヴィルヌーヴ。「メッセージ」の時も、複雑なストーリーを単純に割り切らずに、不可解な部分を残しながら演出していました。

「ブレードランナー」の下敷きになっている日本のアニメ「甲殻機動隊」は、人間の躰に機械を埋め込んだ人物が主人公です。つまり、生物だった人間が、無生物へと転化してゆく世界を描いています。しかし、「ブレードランナー2049」は、その逆です。人造人間であるはずのレプリカントが子供を生むという、無生物だったはずの存在が生物として存在しうるのかへと向かいます。どちらにしても人間って何?というテーマを内包していることは間違いないですね。

様々な解釈が成り立つ映画です。テクノロジーに満ちた世界を描きながら、雪とか木とか虫が、何らかの意味合いを持って迫ってくる不思議な作品でもあります。もう一回見ておきたい(大画面で)と思いました。

 

 

 

 

 

「獲物を狩るのは面白い。そこにはたしかな興奮と喜びがある。準備を整え、じっと状況を積み重ね、備え、そして訪れた遭遇の瞬間に、すべての感情を封鎖する。精神と肉体は装置となり、絞り込まれるように連動して、破壊の一点に向い集約する。殺生とは相手を殺すことのようで、自分という人間をひととき殺すことだ。」

これは服部文祥の「息子と狩猟に」(新潮社1100円)の一節です。

死体を抱え山に遺棄しにきた詐欺集団の男と、息子を連れて鹿狩りに来ていたハンターが山中で遭遇するというお話です。遺棄の現場を見られた男は、ハンターと息子を殺そうとする、という展開は冒険小説の典型です。そしてその手の小説ならば、山に有利なハンターが、人智を尽くして危機を乗り越えるという風に向かうのですが、これはそうではありません。多分こんなエンディングは誰も考えないでしょう。重い、という言葉が適しているかもしれません。先程引用した文章の最後「自分という人間をひととき殺すことだ」が響いてきます。

この本には、もう一作「K2」という小説が収録されています。こちらは、タイトル通りK2登頂の話ですが、テーマとして浮き上がるのは人肉を食べるということです。カニバリズムというモチーフは、武田 泰淳の「ひかりごけ」など多くの文学に、最近ではメルヴィルの「白鯨」の後日談的なナサニエル・フィルブリックの「白鯨の闘い」にも登場します。「K2」では、登頂に成功した二人のクライマーが、下山途中で遭遇した天候の悪化、雪崩等の自然現象でベースキャンプに帰還できなくなり、偶然見つけた遭難者の死体を食料にするという物語です。ここでは、人の肉を喰らう罪悪とか原罪っぽいテーマが出てきません。圧倒的なリアリティーで、人間の生を描いています。

「『ポケットの脳みそ食べよう』 ポケットから脳みそを出した。ポケットの脳みそは照りだした太陽と体温で溶けはじめていた。」

そこに在るものを食って生きてゆくという事実だけです。著者の服部文祥は実際にクライマーでで、最近は装備と食料を切り詰めたサバイバル登山を行っています。


「bootな金物店主 嘆きの100選」(1890円)という面白い本が9月に出ました。著者は、京都山科にある三木屋金物店3代目店主古川勝也さん。11月23日の京都新聞朝刊に紹介記事が掲載されましたが、レティシア書房では、以前から著者が持ち込んで来られていて、既に売れておりました。本日再入荷したので、ご紹介しておきます。

三木屋金物店は、来年100周年を迎えます。しかし、古川さんは、金物屋自体がもはや絶滅危惧種であるということを誰よりも自覚しつつ、お店にある珍しくも可笑しい商品を改めて解説した本を作りました。読んでみると、著者の軽妙で、皮肉たっぷりの文章が笑わしてくれます。

例えば、「ホースリール」の項。

「誰がこんなこざかしいものを考えたのか。使っている人はみんなものすごいストレスを感じているはず。満足度ワースト1の商品アイテムではないか。ホースはロープとおなじようにヨリや向きがあり、もともとあんなものを巻こうとすること自体ムリがあります。確かに見た目は便利そうで体裁もよく、しかもガーデニングという欧州のライフスタイルをいかにも体現していそうなイメージのためか、人々はホースといえば当然のようにこの巻き取り式を買うのです。(中略)通販である水圧で3倍に伸びる魔法ホースなど新製品も出ていますが、文字通り魔法にかけられた絵空事のようで水漏れ、ホース外れなど苦情続出で即不燃物ゴミ捨て場に直行です。結局は地べたにとぐろを巻いて置くのが一番よいという身もフタもないというのが結論なのです。」とこんな具合です。よくもまぁ、こんな商品作ったもんやと頭を傾げるものもあります。

本は「厄よけ火箸」「包丁」「釜くど」「卵焼き・調理」「やかん・鍋」「掃除」「火打クワ・金槌・左官」「鍵」「昔の家の補修」「昔ながらの良き金物」「鋏」「ノコギリ」というジャンルに分かれて紹介されています。面白そうと思われたジャンルをピックアップしてお読みいただき、これはと思うものを発見したら、ぜひお店に。

包丁のところに「境忠義 総霞研青二・三徳包丁八角水牛ツバ165」という長い名前の包丁が載っています。家庭用包丁の最高峰と評価したあとに、こんな文章が続きます。

「それにしても長すぎる品名。口上多く値打ち付け過ぎです。名前の長さにもイヤミがある。私の嫌いな伝統的工芸品に指定されています。しょせん包丁です。」

誰ともわからない職人が作った、ほどほどの価格で購入できるものこそ、日用品の王道だという著者の考えが随所にみられます。

生活スタイルがどんどん変化して、その速さに追いつかない道具達。道具を使いこなす職人さんもいなくなる一方だし、孫子の代まで使えると書かれた道具も修理するところもなくなる。もはや、どこに使う物かもわからないような希少品、と思うとオブジェのような珍しい形の物も、と言う具合に、古い金物屋の倉庫はワンダーランド。これを読むと、量販店にはないものを探しに、専門店に行きたくなります。

ちなみに古川さんは、現代アーティストとして作家活動をしておられて、視点の面白さ、文章の洒脱なのは、その辺りにも関係しているかも。

 

音楽評論家荻原健太の「70年代シティポップクロニクル」(P・ヴァイン/古書1300円)は、70年代前半が、日本のポップスシーンに大きな地殻変動が起こった時期だったということを、アルバムを紹介しながら論じた貴重な一冊です。

はっぴいえんど、南佳孝、吉田美奈子、シュガーベイブ等々、日本のシテイミュージック創成期でした。そして著者は、73年「ひこうき雲」でシーンに登場した荒井由美を、「流麗な旋律、新鮮な転調、鮮やかな歌詞表現などすべてが驚きだった。」と当時を振り返っています。翌74年には、ユーミンは傑作「ミスリム」を発表し、日本のポップス・シーンは飛躍していきます。

さて、この本からは離れますが、70年代後半にデビューし、山下達郎と結婚した竹内まりやは、1987年「リクエスト」を発表しました。このアルバムに収録されている曲の半数は、当時のアイドルシンガーに提供された曲で、それを楽曲提供者がカバーした、いわゆるセルフカバーアルバムです。中森明菜で大ヒットした「駅」も収録されています。先日TVで、こ曲を巡る番組を偶然に目にしました。番組では、竹内のバージョンと中森のバージョンの差異を取り上げていました。

歌の内容は、かつて付き合っていた男性を車中で見かけた女性が、あの時代をメランコリックに思い出すというものです。竹内は、そんな時もあったよね、あの人を真剣に愛してたんだねと思い出しながらも、でも今は、違う人と新しい生活を始めていて、懐かしい心情で歌います。しかし、中森の方は、今でも思い出を引きずって未練たっぷりに歌い上げます。どちらがいいかは、聴かれる方の好みでしょう。

「ラッシュの人並にのまれて 消えてゆく 後ろ姿が やけに哀しく 心に残る 改札口を出る頃には 雨もやみかけた この頃に ありふれた夜がやって来る」

というラストの歌詞を二人の歌手が、それぞれの解釈で歌うと、違う世界が立ち現れて来るのです。このアルバム「リクエスト」(2000円)が発売30周年を記念してリマスターされて、ボーナストラック6曲を付けて再発されました。80年代青春を送ったあなたに、どんな風にあの頃が甦ってくるのか、是非聴いていただきたいと思いました。 

西子智編集の「ライフ 本とわたし」(ミニプレス594円)の販売を始めました。

何人かの執筆者が、巡りあった本と、自分の人生がクロスしてゆく様を綴ったものです。選ばれている本が刺激的です。宮内勝典「ぼくは始祖鳥になりたい」、リチャード・ニクソン著・星野道夫写真の「内なる鳥 ワタリガラスの贈りもの」、山田詠美「ぼくは勉強ができない」等々、オーソリティある方々がいかにも大御所の本をあげた、という本とは一線を画しています。

宮内の本を選んだ浅野卓夫さん(編集者)は、「自分探しはしない。自分ではない誰かから託された声を記録し伝えること。このときの旅の経験が、のちに編集という仕事を選択することにつながった。」と、宮内の本と自分の南米行きが、その後の人生を決定したと書いています。本が、その人の人生に何らかの影響を与えるって素敵なことですね。

「ライフ 本とわたし」に収録されている写真は、疋田千里さん。老人の手と本とペンを捉えた写真の佇まいがこの本を象徴しています。疋田さんの写真集は、当店でも販売しています。

 

南陀楼綾繁さんの「編む人」(ビレッジプレス1728円)は、様々なアプローチで本を作り続けている人達9人へのインタビューをまとめたものです。「入谷コピー文庫」という、わずか15部しか作らない小さな本があります。編集者は堀内恭さん。ご縁があって、毎号送っていただいていますが、内容が濃いので、楽しみにしています。インタビューでは15部しか作らない?!というその辺りのことを話されています。(入谷コピー文庫の小栗康平監督特集では、わたしの拙文も掲載して頂きました。)

画家の牧野伊三夫さんが立ち上げた、美術専門のミニプレス「四月と十月」。1999年から、年二回発行を続けています。牧野さんは、画家、ミニプレスの発行以外にも、マルチな活動をされています。その一つが飛騨にある家具メーカー飛騨産業の広報誌「飛騨」の創刊です。単なる広報誌ではなく、飛騨高山の魅力も伝える無料冊子で、当店にも20冊程入荷しますが、すぐに無くなります。「飛騨」に描かれている牧野さんの絵を楽しみにしておられる方も多いはずです。インタビューの最後で、こう話されています。

「一見何でもないものなんだけど、よく見ると奥深いというようなものの方が好きなんですね。あいまいな何かを見つめた方が、広がりがあって面白くなる。絵を描くときも、仲間たちと本をつくるときも、ぼくはいつの間にかそんなことを考えています。」

牧野さんは絵だけでなく、文章も素敵です。食べることを楽しく描いた「かぼちゃを塩で煮る」(玄冬舎1404円)を是非お読み下さい。

 

原子爆弾が投下された広島を舞台にした小説「夏の花」(晶文社/古書700円)や、幼い日々の記憶が瀬戸内の風景と共に切なく描かれた短篇集「幼年画」(瀬戸内人1944円)等を読んで、ファンになった原民喜。彼は、小説家であり、詩人であり、そして童話も書いていました。

彼の童話と、様々な人達が彼への思いを寄せた別巻「毬」を、セットで函入にした「原民喜童話集」(イニュイック2970円)が発売されました。作り手の愛情が溢れる本は、持った瞬間にわかります。シブい色合いの函、その色を邪魔しない帯と、使用されているフォントの美しさ。童話集の表紙に描かれた小さな原の後ろ姿、そして、童話集の装幀とは真逆に光沢紙の「毬」の表紙は、正面を向いた原の写真が使われ、タイトルの「毬」が赤い小さなフォントで目立たないように配置されています。もう、これだけで本を持つ喜び一杯です。

童話集は、7篇のお話と、全集未収録の詩「ペンギン島の歌」が収録されています。

「誕生日」は、遠足に行った雄二君の様子が描かれた短いお話です。天気のいい日、風に吹かれて山に登り、お弁当を食べて深呼吸を一つ。原が作り出す美しい言葉が、読む者を包み込み、幸せな気分にしてくれます。

コスモスの咲いた夜、月に照らされたコスモスを見て楽しむモグラの母と子を描いた「もぐらとコスモス」。「赤、白、深紅、白、赤、桃色……….コスモスの花は月の光にはっきり浮いて見えます。」という風景を見た子供のもぐらの嬉しそうな表情が、目に浮かびます。こちらも数ぺージで、親子がほんの一瞬地上に出ただけのことを描いたお話なんですが、澄み切った月夜の風景が立ち上がってきます。

別巻で詩人の蜂飼耳さんは、「ひかえめな言葉が、目を素通りさせるところもあるのだけれども、いったんその佇まいに気がつけば、実感のある表現として心の底へ落ちる。そこから受け取ることのできる原民喜の感覚のこまやかさには切実なものがあり、一語一語を再現し読んでいくうちに、胸が詰まる」と書いています。「ひかえめな言葉」が「胸が詰まる」という表現は、この童話集の価値を伝えていると思います。

原は亡くなる前年、「ぼくはヒバリです。ヒバリになっていつか空へ行きます」と呟いたそうです。その言葉を巡って、倉敷の名物古書店「蟲文庫」店主田中美穂さんが、とても素敵な原民喜への思いを言葉にしています。

被曝し、悲惨な現状を見た原だからこそ、「幼年画」や「童話集」の収められたような美しい作品を残せたのかもしれません。机の前に置いて、眺め、触れ、そして函から出して何度も何度も彼の言葉を追いかけたいような、大事にしたい一冊です。

★「幼年画」は二種類の表紙があります。どちらも在庫あります。

秋の深まってきたこの季節にぴったりの作品展「風展2017・いつもひつじと」が始まりました。

澤口弘子さんは北海道で活躍中の羊毛作家。2012年、京都文化博物館で行われた「羊パレット」という全国規模の展覧会に出品されていたご縁で、開店間もない小さな本屋で個展をして下さいました。2014年に続き、レティシア書房では今回で3回目になります。シルクの薄い生地と羊毛を組み合わせた独特のストールは、軽くて暖かで、とてもゴージャス。羽織ってみると、それだけで、特別な時間が流れるような気がします。色鮮やかな赤のストールとベレーを、店の入り口に飾って思わずため息をもらしました。ス・テ・キ!!

見ているだけで楽しいベレー帽もマフラーも、無地のセーターと組み合わせるだけでおしゃれ。今回は、いつものベレー帽に加えて、カジュアルな手編みの毛糸の帽子もたくさんあります。「寒い北海道でも、この軽いウールのベストをコートの下に着たらあったかいよ。」と、江別市在住の澤口さんお墨付きのベストも、4点出来上がりました。鏡を用意していますので、ゆっくりお試し下さい。

澤口さんの羊毛作品は、とても美しいので身につけると負けてしまうのではないかしら、と一見思うのですが、まとった人によって、表情が面白く変化して、その人らしくなるから不思議です。長年培ってきたセンスと技術は、さすがベテラン作家さんだと思います。

前回同様、手紡ぎの糸と原毛も届きました。どれも一点ものですので、手づくり作品の材料にぜひ活用して下さい。(女房)

 

 

澤口弘子「風2017・いつもひつじと」展は11月21日(火)〜12月3日(日)まで

12時〜20時 月曜定休日

 

 

 

 

 

 

11月11日のブログ、「ちょっと面白いかも?」でご紹介した本が好評だったので、調子にのって第2弾です。

風や水で動く野外の立体作品で有名な彫刻家、新宮晋が絵本を描いていました。タイトルは「くもSPIDER」(900円)。「ある夏の夕方」でという言葉で始まり、夜の間、一匹の蜘蛛が巣を張ってゆく様を美しい点描で描いた絵本。巣の張り方は、本物そっくりなのですが、星が背景に描き込んであるので、まるで宇宙に浮かんでいるみたいで夢のような美しさです。風で動く作品の作家だけに、今にも巣がふわりと動きそうです。

次に紹介するは、河野多恵子の「半所有者」(700円)です。確か、ブログでも紹介した池澤夏樹個人編集の「日本文学全集」」の「近現代作家3」に収録されていて、そちらで読みました。ぞっとする物語ですが、面白いです。そして本の装幀が素敵です。アンカット版(ペーパーナイフで各ページを切り取るスタイル)ではないのですが、それ風のスタイルで各ページの端に、表紙に描かれている蝶がデザイン化されて描かれているという凝ったものです。中野慎治の挿画も美しい。

「色ざんげ」や「おはん」などを書いた宇野千代の「私の文学回想記」(500円)は、今なら女性誌に乗りそうな彼女の恋愛話満載で、ふふふ、と読んでしまいました。「私と東郷青児との結婚生活くらい、矛盾に満ち、また摩訶不思議なものはなかったと思ひます」で始まる結婚生活記録は、文学者らしく、品位を落とすことなく描いています。「東郷との無茶苦茶な生活も、面白かった、と言はない訳には行きません。昼間は呼吸も出来ないほど借金取りに責め立てられても、夜はその苦痛の痕跡もなく、レコードをかけて客と踊ったりしました。」なんて生活、一般人には想像できません。

現在放映中のNHKの朝ドラ「わろてんか」は、大阪のお笑いを描いていて面白く見ています。笹野高史が気楽亭文鳥役で「時うどん」を演じていましたが、さすがでした。せっかくだから、大阪の芸能のお勉強でもという”奇特”な方に、香川登枝緒の「私説おおさか芸能史」(800円)はお薦めです。香川は「スチャラカ社員」「てなもんや三度笠」等の大ヒットTVドラマの脚本家でした。TV創成期から、この業界で活躍していた人物だけあって、興味のあるエピソード満載の一冊です。漫才、落語に留まらず、歌舞伎、文楽、松竹新喜劇まで上方芸能の話が、ソフトな語り口で書かれています。ちなみに、「わろてんか」でヒロインが演じる女性は、吉本興行を創業から引っ張っぱってきた吉本せいがモデルです。もちろん、この本でも取り上げてあります。

 

11月12日のブログで疋田千里さんの”traveling with Spices”という写真集を紹介しました。そこに掲載されていたインドのタラブックス。この出版社の発行したハンドメイド本をまとめた「世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦」(ブルーシープ2400円)が発売されました。

インド南部のチェンナイを拠点に活動するタラブックスは、40人程の社員で、芸術や教育の本を高品質で送り出しています。

出版社の活動として、2000年初頭から、インド各地の部族に伝承されている民族芸術を取り上げて本にしており、その中で、インド中央部に暮らすゴンド族のアーティストと組んだ作品群は注目を浴びました。手漉きの紙に、絵や文字をシルクスクリーンで印刷して、すべて手製本で仕上げられた本は、多彩な魅力に溢れています。

夜の間に別の姿を見せる木の物語「夜の木」は、現在8か国語に翻訳されていて、タラブックスの代表作と言えます。日本語版も発行されましたが、現在絶版で、古書価格は決して安くはありません。

今回の「世界を変える美しい本」には、代表作「夜の木」を始めとして、タラブックスが挑戦した様々な本作りが、写真と解説で紹介されています。本の電子化が加速する出版業界にあって、紙の本に徹底的に拘り、センス溢れるクリエイターとの共同作業で、大げさではなく「世界」を「変える」に相応しい美しい本を作り続けています。

イタリアのボローニャで行われているボローニャ・チルドレン・ブックフェアに2008年「夜の木」が出品されました。商業出版される児童書の世界的見本市に、無名の民族作家の、しかも一冊一冊手製本されたものでありながら、手頃な値段で購入できることに、集まった世界中の編集者が驚愕しました。「世界を変える美しい本」の巻末には1994年から2015年までに発行された書籍のリストがカラー写真で紹介されたブックリストが収録してあります。ゆっくり、時間をかけて本を作ってゆくというタラブックスの姿勢が見えてきます。

この美しさと内容で2400円は安い!紙の本を作る人達の 愛情に満ちた一冊です。現在、東京の板橋区立美術館で開催中のタラブックス展のDMも届いていますので、お持ち帰り下さい。

 

ミュージカル映画との出逢い…….。「サウンド・オブ・ミュージック」「マイ・フェアレディ」「ウエストサイド物語」等が最初の体験でした。どれも名作と呼ばれていても、私には全然面白くありませんでした。突然朗々とした声で歌い出されると、もう、堪忍してぇなぁ〜という気分でした。

しかし、50年代前後のアメリカMGMミュージカルの名場面を集めた「ザッツ・エンターテイメント」を観るに及んで、踊って歌うってこんなに人を幸せにするんだ!!と、打って変わって病み付きになってしまいました。

そして、フランス映画「ロシュフォールの恋人たち」が決定打となりました。何度DVDで見直した事でしょう。すれ違いのメロドラマを、こんなに粋に、ロマンチックに、洒落た感覚で映画にした監督ジャック・ドゥミ=音楽ミシェル・ルグランのコンビに脱帽しっぱなしです。

「ロシュフォールの恋人たち」公開50年を記念して、丸ごと一冊この映画を中心にしてドゥミ作品、ルグランの音楽のことを解説した本「シネマ・アシャンテ」(立東舎1800円)が出版されています。映画評論家山田宏一によるドゥミ監督、ルグランへのインタビューが満載です。なんと350点にも及ぶ図版が掲載されていて、本編を知らなくても、ウキウキ楽しい気分になります。

なにより、主演したカトリーヌ・ドヌーブとフランソワーズ・ドルレアック(ドヌーブの姉)が美しい。フランスのべっぴんさん姉妹です。ドヌーブはジャック・ドゥミ=ミシェル・ルグランコンビによる「シェルブールの雨傘」に主演していますが、「ロシュフォールの恋人たち」が最高です。

本の後半には、映画のポスター、レコード、チラシ等が数多く収録されています。公開された国が違えば、ポスターのデザインは結構違っていて面白い。とにかく、楽しい一冊です。

店にはリマスター完全盤「ロシュフォールの恋人たち」(2CD2600円)もあります。ルグランの華やかな音楽が楽しめます。

また、ドゥミ作品のロケ地を訪ね歩く「パリから向かうフランス映画の港町」(リヴル・アンシャンテ 1400円)というガイドもあります。

(※「パリから向かうフランス映画の港町」売切れました。)

 

★お知らせ  

京都シネマで「ジャック・ドゥミ×ミシェル・ルグラン特集シネマ・アンシャンテ」と題して、「ロシュフォールの恋人たち」が11月25日(土)、30日(木)は12:25から、12月3日(日)、6日(水)は10:00からそれぞれ上映されます。ぜひ!