「野良ビトに缶を与えないでください」

こんな町内会の看板をみたら、あなたはどう感じますか? 野良ビトとは、ビン、缶の回収日にアルミ缶を自転車一杯に回収している人のことです。

木村友祐の小説「野良ビトたちの燃え上がる肖像」(新潮社/950円)は、東京と神奈川の県境の河川敷に暮すホームレスの人々を描いた小説です。日本にもし路上文学というジャンルがあるならば、そのベスト10には確実に入る傑作です。

小説の時代設定は、少し未来になっています。

「巨額の賄賂疑惑をもみ消して予定通り二年後に開催されることになった東京スポーツ祭典に向けた街の再開発と美化運動、さらにテロリストを警戒した厳重な警備体制のあおりで、東京側から神奈川側へどんどん野宿者が移動してきている」

何やらオリンピックにしゃかりきになっている顔ぶれが浮かんできそうな状況です。野良猫ムスビと、ここで長年暮す柳さんと、ひょんな事から路上生活者になってしまった若者木下君が、主人公です。空き缶集めを生業とする柳さんたちは、町の住人ともトラブルを起こさず平和に暮らしていました。しかし、大企業優遇の政策で、中小企業は破綻し、町の雰囲気が殺気立ってきます。

「あんたたちは人間じゃない。野良猫と同じ、野良ビトだ」と、野良猫に餌を与えないように、野良ビトに缶は与えないという決定が町内でされます。さらに、海外からスポーツの祭典目指して来る人の視線から、汚いホームレスを隠すために国は大規模なホームレス駆除を開始します。

貧困、格差、差別が見えにくいニッポンの現状が、さらけ出されていきます。しかし、これはノンフィクションではなく、あくまで小説です。だから、極めて読みやすい。かつて、ジーン・ハックマンとアル・パチーノがホームレスを演じた映画「スケアクロウ」のように、柳さんと木下君の物語が進行します。

ホームレス生活のディテールには、作者の共感が満ちています。しかし権力を、冨を、持つ者たちのあくなき欲望は、彼らを徐々に追い込んでいきます。小説の三分の二ほど読んだ時、あぁ〜辛いラストが待ち構えているんだろうな、とドキドキしたのですが、作者はウルトラCとまでは言いませんが、見事な仕掛けで読者をソフトランディングさせます。

「景気が悪いことを言うと罪になる『不景気煽動罪』ってのをつくろうとしてんですよ。景気を口実にして、政権批判できないように。その陰で戦争しやすいように着々と法律整えてんだから、もうやりたい放題です。この国は”景気”っていう神輿をみんなでかついで、ワッショイワッショイ破滅に向かってんですよ。」とは木下君のセリフですが、ほら、空疎な事しか言えない、どこかの誰かを思い出しますね。

昨日紹介した川本三郎は、「『それでも』なおの文学」の中ではこう書いています。

「作者は、この小説に解決を与えていない。ただ、近い将来に起こり得るかもしれない危機を先取りする。そして追いつめられたホームレスたちを、最後、幻想の彼方へと逃がしてゆく。それしか彼らを救う方法がないというかのように。」

そこが辛く、しかし読者が、かすかな希望を持てる唯一の着地点なのかもしれません。

 

川本三郎の「『それでもなお』の文学」(春秋社/古書1400円)は、著者の世界観や、人生観が色濃く反映されていて、深く心に響いてきます。

「戦争に反対するわけではない。無論、軍国主義の風潮に便乗するわけでもない。『鬼畜米英』『ぜいたくは敵だ』と国を挙げて戦争に熱狂している時に、安吾は『だらしなさ』によってその熱狂の外にいる」

これは、戦後すぐに発表された坂口安吾の「ぐうたら戦記」を通して、作家が戦争とどう向き合ったかを書いたものです。さらに「続堕落論」から「堕落とは死よりも生を選ぶことをよしとする考えであることを明らかにしている。戦前、日本浪漫派が死を賛美したのに対し、安吾はたとえぶざまであっても生のほうこそ肯定する。」これは、そのまま川本の思想を語っています。

また、丸谷才一が戦争末期、徴兵制で無理矢理兵隊にさせられた体験から、「戦前の日本を支配した生真面目な文化を乗り越えようとした。そこで見出したのが、和歌や『源氏物語』に象徴されるたおやかな王朝文化だった。それは、個人の自由などないがしろにする軍国主義の対極にあるものだった。武張った、硬直した、死を賛美する武士道に対し、生を愛し、死を慈しむ雅びの文化だった。」と論じ、戦争を切り捨てます。

この本は、近現代文学史の中の、安吾、林芙美子、永井龍男等、いわば大御所的存在の作家から始まるのですが、もう歴史になった文学者だけを論じるのではなく、今を生きる作家達を大事に扱っているところがポイントです。釧路を舞台にした作品を発表し続ける桜木紫乃、老いてゆく父親と介護を扱った「長いお別れ」を書いた中島京子、そして「光の犬」(私の今年ベスト1)の松家仁之等の、当ブログでも馴染みの小説家が取上げられています。

ちなみに「光の犬」に登場する添島一家を「普通の一家の主として、昭和から平成にかけての暮らしを淡々と描いてゆく。大仰な感情移入はしないし、ここに小市民の暮らしがあると言いたてることもない。ひとは家族のなかで生まれ、家族のなかで死ぬ。生と死のあいだに人生がある。その当り前のことを描いてゆく。」と分析しています。

無名の小市民、つまりどの家族にもある出産、入学、結婚、離婚、病気、そして死といった出来事を通して、家族を丸ごと描いたと著者は言います。

文学が、生きることの原風景を様々な表現方法で描くものであるならば、その見本市みたいな一冊です。

ところで、本書で紹介されている木村友祐の「野良ビトたちの燃え上がる肖像」は、私も読んでいましたが、反東京オリンピックの濃厚な路上文学として見事な出来具合でした。いやぁ〜、この本を選ぶか!ということで、明日はこの小説を紹介します。

 

 

札幌に、「くすみ書房」という名前の本屋がありました。

2015年、内外のファンに惜しまれつつ、約70年間の書店の歴史の幕を下ろしました。二年後の春、店主久住邦晴氏は病に倒れ、復活することを強く希望されていましが、その年の夏の終わりに他界されました。享年66歳でした。

ミシマ社から出た「奇蹟の本屋をつくりたい」(1620円)は、その闘病時に書き残した原稿をもとに構成されています。本が売れない時代に、なんとか本を売ろうと奮闘努力した書店の記録です。

1999年、様々な外的要因でくすみ書房は経営のピンチに陥ります。営業努力しても一向に売上げは回復せず、支払いは滞り、督促の電話が鳴り続けます。そして、どん底の2002年、高校に入学されたばかりの邦晴氏の息子さんが白血病で亡くなりました。葬儀の香典をかき集めて、本の支払いに回したその日、閉店することを決意します。しかし、邦晴氏はそこで、「くすみ書房さんは、きっと息子さんを亡くして力を落とし店を閉めたんだろう。しょうがないね」と言われるだろう、閉店を息子のせいにするわけにはいかない、と思い直します。

そこから、邦晴氏は新しい本屋の姿を模索してチャレンジを開始します。

業界、マスコミが注目したのが「なぜだ、売れない文庫フェア」と称する文庫の企画展でした。POSデータではじき出された文庫売上げ順位の下位には、名作が並んでいます。でも、売行き不良でどの本屋にも置いていない。良書が消滅する危機感と、売上げデータ最優先の画一的品揃えのナショナルチェーンへの抵抗の意味も含めて、このフェアを敢行します。これが当たりました。マスコミを味方につけた戦略も功を奏して、店の売上げも復活してゆきます。さらに、当時まだ珍しかった店内での朗読会を始めます。

出版社や取次ぎのお仕着せで、独創性のないフェアに背を向けて、「本屋のオヤジのおせっかい『中学生はこれを読め』」といった書店独自の企画で勝負をしていきます。順調に回復していったのも束の間、またもた大型書店の出店で売上は下降。思いきって、本屋を始めた場所を捨て、新しい土地に移転を決意します。

しかし、今度は邦晴氏の妻が病に倒れます。何度かの手術の後、2011年、57歳で妻は天国に旅立ってしまいます。そんな失意の中にあっても、「高校生はこれを読め」展を企画し、実行します。だが、本屋を取り巻く状況は厳しさを増すばかりです。移転した店も2015年6月閉鎖。再建を目指そうとした矢先、病が発覚。肺がんでした。

闘病中、彼は本書の執筆に全精力を傾けます。最後にこんな事を伝えます。

「お金がなくても作れる本屋 だから借金の無い経営 きちんと休みのとれる本屋 知的好奇心の満たされる本屋 文化を発信できる本屋 置きたい本だけを置いている本屋 何者にも束縛されない本屋を目指します」

この言葉を書店業に携わる人間は、真摯に受け止めるべきだと思います。「奇蹟の本屋をつくりたい」は、不幸にも病に倒れた本屋の一代記と同時に、人が一生かかって、一つの事を成し遂げる長い道程を支える希望を語った本です。多くの読者に読んでもらいたいお薦めの一冊です。

なお、店内にはこの本の出版記念として、各地で活躍する書店主さんが書いた本を並べています。夢の実現に悪戦苦闘したステキな人達です。

 

2012年12月、出町柳商店街を特集した「気になる京都1号」が発売されました。

当初、こちらの感覚ではそんなには売れないかもなぁ〜、とちょっと思ったりしてました。が、そんな杞憂など吹き飛ばす売行きで、15年には三条商店街を特集した2号を出版、翌16年にはパン屋さん特集の3号が出ました。どの号も未だ売れ続け、ミニプレス平台の一等席を占拠し続けています。

そして最新号はカフェのモーニング特集です。

「近所のおじちゃんは今日もあの席に座っている。トーストを食べ終えて、週刊誌を読みながら珈琲を飲んでいる。そんな喫茶店の『モーニング』風景。」

この本を一人で編集した太貫まひろさんは、市内のカフェを週末の楽しみに回りました。掲載されているどの店のモーニングも、実に美味しそうです。

レティシア書房のご近所さん「COFFEEポケット」は、通る度に気になっていました。雑穀パンを使用したサンドウィッチは、すぐにでも噛りつきたくなります。また、あっという間に無くなる「Cafe廻廊」のモーニング。太貫さんは「ほどなく運ばれてきたトーストは、宝石のように美しかった。」と表現されています。だいたいトーストと珈琲という献立ですが、それぞれ個性的です。

太貫さんは、さらに足を伸ばし、モーニング発祥の地と言われる愛知県一宮市に出向きます。一宮商工会議所が中心となって作成したモーニングマップを手にして、向かったお店は「グリーンカフェ」。ドリンク代のみで、モーニングサービスが6種類も用意されているのだとか。彼女が選んだのはサラダセット。「ホットコーヒーだけの値段で何が出てきたかと言えば、サラダ、コーンスープ、ゆでたまご、ポテトサラダ、オレンジ、クロワッサン!ここまでサービスして頂けるとは・・・。さすが発祥の地、これはまごうかたなき『文化』である。」と大満足だったみたいです。

約101件のモーニング情報が掲載された「おさんぽMAP」も付いていますので、この地図を参考にしながらモーニング巡りはいかがでしょうか。

ところで、この号の最終ページに紹介されている喫茶店は、店の名前、場所はシークレットになっています。フットボールが好きな店主が、このスポーツに因んだ名前を付けたとか。美味しそうなサンドウィッチが目を引きます。さて、どこの店なのでしょうか?

「気になる京都」1〜3号は864円、4号は950円です。

 

いまがわゆいさんは、岡山県在住のイラストレーター。

昼間は書店員、夜は絵を描く仕事という二足の草鞋をはいています。ミニプレスを手づくりしているので、三足かな。

2年前大阪のイベント出店の際に京都へ寄り、「ドーナツの穴」というミニプレスを持ちこんで来られました。例によって、店長即決で店に置く事になりましたが、可愛い女の子のイラストエッセイは完売。その後「ドーナツの穴2」「おきらく書店員のまいにち」「本づくりワークショップ」「おえかきどうぐのはなし」など次々ヒット作を出されてきました。固定ファンも多く、その丁寧な仕事でさらに広く読者層を開拓中です。初めての方もこの機会にぜひ手に取ってみてください。ただいまのところ、京都で、いまがわさんの本を販売しているのはうちだけだと思います。

今回、いまがわさんの地元以外で初めての原画展には、遠くからもファンがご来店。初日、展示した直後から本やお菓子の話で大いに盛り上がっていました。驚いたのは、原画と印刷されたものが同サイズだったこと。ものすごく細かい字と絵が原寸サイズ。ご本人曰く「私、大きな絵が描けないんです。」修正液の跡の一つもなく、切り貼りもない原画は気持ちよく、好きな仕事をコツコツ仕上げている姿を想像して、なんだかこちらが嬉しくなりました。今まで出版されたミニプレスのバックナンバーを揃え、トートバッグ、缶バッチ、ポストカード、ブックマーク、コインケースなど雑貨もいっぱい並べてもらいました。レティシア書房は、いつになくお花畑のような可愛い雰囲気にあふれています。ちなみに、個展のためのフリーペーパーには、京都初個展のいきさつが楽しく書かれています。

でも可愛いだけでなく、例えば「おきらく書店員のまいにち」は、本屋さんの裏側や書店員の素顔を、本への愛情をたっぷりこめて描いていて読み応えあります。好きなものがあるって、幸せなことだな〜ってこの展覧会をみていて改めて思いました。好きな事を続けるパワーが眩しい!こちらも夏バテしてる場合じゃありませんね。(女房)

★「いまがわゆいのイラストエッセイ展」は8月28日(火)〜9月2日(日)まで

その後作品を入れ替えて「いまがわゆい・すずきみさき2人展 おかしなうさぎ展」は9月4日(火)〜9日(日)まで

 

 

 

5歳になる雑種犬を、動物保護団体ARK(アニマルレフュージ関西)から連れて帰ってきたのは、今から12年前のこと。「マロンの散歩道」と題して、この犬の事は時々ブログでも書いて来ました。今日は最終回。そうです、昨日の朝、彼女は安らかに旅立ちました。17歳。よく頑張りました。

この夏の初め頃から、後ろ足が弱ってきてはいました。しかし、なにしろ散歩が大好きで、朝早く、近くにある京都御所まで行くと、顔なじみのワンコ達に挨拶したり、おやつを下さるFさんを目がけて一目散に走るのが日課でした。このところは、もはや速く駆けることはできませんでしたが、それでもおやつ目当てにタッタと顔を上げて。そんなマロンが1ヶ月程前から、帰り道はもう歩けなくて、連れ合いがバギーを押して迎えに来て、乗って帰るようになりました。(バギーも、有り難い事にワンコ友だちのご紹介で借りることができました。)亡くなる1日前だけ寝込んで、夜はちょっと苦しげな声で鳴いていましたが、獣医さんから頂いた痛み止めを飲んで、我々が撫でてやると眠り、次の日の朝、大きな息を3回したと思ったらそのまま逝きました。

我が家に来た時は、連れ合いは新刊書店の店長でした。いろんな事があって会社を辞めようと決心した時も、犬との散歩中だったそう。レティシア書房を開店した当時、天気の良い日は店の前に出て、愛想を振りまくわけでもなく昼寝を楽しんでましたが、多くのお客様に可愛がってもらっていました。しんどい時も嬉しい時も、いつも傍にいてくれました。

ギャラリーで個展をされていた写真家さんに、犬猫カレンダーのモデル犬として使ってもらったことも良い思い出になりました。カレンダー買い占めて、配りまくりましたっけ。

「マロンが待っているから」と言って、夕方帰宅を急ぐこともなくなります。手に入れた少しの開放感は、しかし、「お帰り。散歩待っていたよ。」とまっすぐこちらをみてくれる瞳や、抱きしめた時の匂いや体温の喪失感には敵いません。「生きて行く限り、何かを失い続ける」と、朝ドラのセリフにありました。別れは確かに哀しいですが、優しい犬との出会いは一生の宝と思うことにします。マロンを可愛がって下さったお客様に、この場を借りてお礼申し上げます。皆様、厳しい夏もあと少し。乗り切ってまいりましょう。(女房)

 

 

ARKの写真展は9月12日(水)〜23日(日)当ギャラリーで開催 します。

 

 

 

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2017年度ベルリン映画祭金熊賞を受賞したイルディコー・エニェディ監督作品「心と体と」(京都シネマにて上映中)は不思議な、でも奥深い映画でした。この映画の描写に三つの優れた点があります。

1. 野性の鹿の撮影が見事。

2.屠殺現場のリアルな毎日が描かれている。

3.人間は浴槽で手首を切って自殺をはかっても、そう簡単には死ねない。

はぁ〜?どんな映画なんや、それは?と頭を傾げたくなるでしょうが、実は、究極の“Boy meets Girl”映画です。

ブダペスト郊外の食肉処理場。代理職員として働くマーリアはコミュニケーションが苦手で職場になじめない女性です。彼女の上司のエンドレは何かと彼女を気にかけるのですが、上手くコミュニケーションが取れません。しかし、ひょんな事からマーリアとエンドレが同じ夢を共有していたことが明らかになります。。その夢はなんと、二人は野性の鹿として出会い、共に行動していたのです。

映画は、無味乾燥とした日常の合間に、その夢に出て来る鹿のショットを挟みこみながら進行していきます。奇妙な一致に驚き、二人は、夢の話をきっかけに急接近していきます。マーリアは戸惑いながらもエンドレに強く惹かれていきますが、彼からのアプローチにうまく応えられず二人はすれ違ってしまう。夢の中では仲の良い鹿のカップルなのですが、現実世界ではなかなか、一筋縄には進みません。

男と女が惹かれ合ってゆくプロセスを、静謐な室内風景と、躍動感溢れた鹿の動きに象徴させながら描き出しています。こんな二人の恋模様の結末がどうなるのか….。ラストショットはお見事!でした。

★当店ロングセラー「気になる京都」第4巻販売開始しました。今回の特集はカフェのモーニング特集です。(950円)

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レティシア書房の夏の古本市も、後数時間で終了です。ご来店いただいたお客様、出品していただいた方々、本当にありがとうございました。最終日、最後の本のご紹介です。

インドの人々が、ガンジス河に骨を流し、その同じ河で平気で沐浴するのが、日本人には理解しがたい部分があります。しかし、古代から、この河には不思議な神話が存在していました。それを絵本化したのが「天からおりてきた河」(1000円/出品 居留守文庫)です。ネイティブアメリカンの文化を絵本にした「父は空 母は大地」の作者、寮美千子が文章を書き、イラストレーターの山田博之が絵を担当しました。とんでもないスケールの物語が展開するのですが、なるほど、この河はインドの人々にとっては特別の存在なのですね。

 

昨今のコーヒーブームで、色々な本が出版されています。しかし、「缶コーヒー」のみを対象にした山崎幹夫「缶コーヒー風景論」(1000円/出品 榊翠簾堂)は珍しいかもしれません。1969年の発売以降、各メーカーが手を変え品を変え生き残りの営業バトルを繰り広げてきた、缶コーヒー業界の変遷を20年にわたって集めた缶コーヒーの空き缶をもとに検証したユニークな本です。缶コーヒーのパッケージの移り変わりから、自動販売機だらけの現代社会の日常まで見据えています。でも、この表紙はなんだかね……..。

 

最近、「本屋な日々青春編」(トランスビュー1944円)という力作を刊行した石橋毅史が、数年前に発表した「『本屋』は死なない」(500円出品/ ヒトノホン)は、新刊書店業界の厳しい環境の中で、真っ当な書店を持続させようとしている全国の書店員、店主たちへのインタビューを通じて、本屋の未来を探ったルポルタージュです。新刊書店にいた私には、この業界の明るくない未来は熟知していますが、それでもなお、それに抗おうとする書店員たちの言葉は重くつき刺さってきます。この業界のため、お前は何かやったのかと。レティシア書房で、新刊業界で出来なかったことをやっているつもりですが……..。

古本、新刊本とその流通形態は違えども、本好きならば、この業界でがんばっている人達の姿を見ておいて損はないと思います。

★夏休みのお知らせ  8月20日(月)〜24日(金)休業いたします。

★ 「気になる京都」4号ついに発売!8月28日から販売開始いたします。4号の特集は「カフェのモーニング」です。

 

 

 

古本市も明日までになりました。連日猛暑にも関わらず、多くのお客様にお越しいただきありがとうございます。まだまだ、いい本が眠っていますよ!

安西水丸「メランコリーララバイ」(1500円/出品 とほん)。著者が亡くなってから大半が絶版になって、価格が上がったまま下がる気配のない安西の、60年代の青春の光と影を描いた自伝的小説です。この価格はお買い得!

アラン・シリトーの原作を映画化した「長距離ランナーの孤独』を観た後、新宿の老舗ジャズ喫茶DIGに入る主人公。「店内は暗く、くすんだ壁はコーヒー色に近い。壁にパネル貼りされているジャズ・プレイヤーの写真も煙草の脂にくすんでいる」という場面など、著者の青春時代の体験だったのでしょう。個人的には「朝陽のさし込む部屋で、ぼくはベン・シャーンを開いていた。草原に寝そべる失業者や、レンガの壁に向かってハンドボールに興じる男たちがいる。ベン・シャーンの描く風景はどこかもの哀しい」というフレーズにグッときた覚えがあります。

 

 

「雨の動物園」等でお馴染みの船崎克彦が文章と絵を描いた「いぬねこはかせ」(900円/出品 徒然舎)は、京都市内にあったサンリード社から出た絵本です。もちろん絶版。奇妙な味わいがあります。具合の悪くなった飼い犬イザを病院に連れていった少年は、病院に置いて来たイザを取りにいきます。すると、驚いたことにイザは、顔だけは犬で白衣を着た医者になっていて、ここから奇妙な物語が始まります。シュールな展開ですが、なんとも言いがたい魅力にあふれた一冊です。

 

20世紀のアメリカ美術界を代表する画家ジョージア・オキーフが、晩年を過ごした二つの、自然で虚飾の一切ない家を撮影した写真集「オキーフの家」(2500円/出品 葉月と友だち文庫)。写真集の依頼を断り続けたオキーフでしたが、ニューメキシコにある二つの家の撮影をマイロン・ウッドに許可します。ウッドは数年かけて膨大な写真を撮ります。厳選された写真には、物質的栄華を拒み、シンプルに生きたオキーフの魂が宿っています。写真と共に、クリスティン・テイラー・ハッチンのエッセイが添えられています。彼女は、身体が衰えてきた

最晩年のオキーフと共に暮らし、身の回りの世話をした女性で、絵描きでもあります。翻訳を担当した江國香織は、ハッチンの文章を「独特のとっつきにくさに怯まず読み進むうちに、はっとするほど美しい瞬間があちこちに立ち現れる」と書いています。がっつりした文章も、お楽しみください。

 

★古書市は19日(日)まで。月曜定休。最終日は18時で閉店します。

★夏休みのお知らせ  8月20日(月)〜24日(金)休業いたします。

いよいよ、真夏の古本市も残り三日ですが、まだまだ面白い本があります。

今回は、文庫のご紹介です。

「ちくま文庫解説傑作集2」(400円/出品 ヒトノホン)は、タイトル通りちくま文庫についている解説で傑作とされているものを、ちくま文庫編集部が集めたものです。今村夏子「こちらあみ子」に町田康、高橋輝「誤植読本」」に堀江敏幸、高田渡「バーボン・ストリート。ブルース」にスズキコージ、鴨居羊子「わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい」に近代ナリコ、と、一癖も二癖もある人物が書いています。

その中でも、音楽家大槻ケンジが、やはり音楽家だった早川義夫が自分の経営していた本屋の顛末記を綴った「ぼくは本屋のおやじさん」に書いた解説は、特に面白いと思いました。「どんな仕事も楽じゃありません、でもね、どんな仕事にも良さがあるんです。だから、がんばりましょうよと教えてくれる本」だと書いて、最後をこう締めています。「二十四歳の時、僕がバンドをやめなかった理由の一つに、早川義夫著『ぼくは本屋のおやじさん』を読んで、『こりゃ大変だぁ、バンドの方がいいかも』と思ったから、ということがあったことを記しておきたい。」

ちくま文庫で何か面白い本をお探しなら、先ずこの解説本を読まれるのが近道です。

1943年29歳の若さでこの世を去った児童文学者、新美南吉の最晩年の作品「牛をつないだ椿の森」(400円/出品 とほん)の角川文庫本は、「ごんぎつね」「てぶくろを買いに」など代表作14編を収録しています。代表作「ごんぎつね」では、初版本に使用されていた谷中安規の版画が収録されています。このブログを書くために新美の事を調べていたら、彼は早くから宮沢賢治の作品を読み、高く評価していたそうです。賢治没後の昭和9年に開かれた「宮沢賢治友の会」にも出席していることもわかりました。まだ彼が学生だったころに、賢治は死亡しているので、二人が会ってはいないのが残念です。

一時、恐ろしい高値を付けていたサンリオ文庫から一冊出ています。ロジェ・カイヨワ「妖精物語からSFへ」(1000円/出品 はやね堂)です。シュルレアリズム運動から独自の思考を構築し、神秘的な存在への明晰な解析を行ってきたカイヨワは、SFの起源を、中世の妖精物語に求めます。そこから、怪奇小説を経由して、近代のSFヘとつながる系譜を論じていきます。解説を荒俣宏が書いています。こちらから読まれて、本編に進んでもいいと思います。

 

 

 

 

★古書市は19日(日)まで。月曜定休。なお最終日は18時で閉店します。

★夏休みのお知らせ  8月20日(月)〜24日(金)休業いたします。