本来なら、古本市の本を紹介する連載ブログをアップする予定でしたが、先日観た映画があまりにも面白かったのでご紹介します。映画のタイトルは「ジョジョ・ラビット」です。

物語は、第二次世界大戦末期のドイツ。10歳のジョジョは、「青少年集団ヒトラーユーゲント」というナチ兵士養成学校の合宿に参加する予定でした。しかし、気の弱い彼は”空想上のお友達”のヒトラーに相談して、彼に頑張れと言われて、やっと合宿に参加します。映画の中で、ジョジョの友達として架空のヒトラーが何度も登場するところが面白いところです。まるで、二人で漫才をやっているような感じで物語を引っ張ります。少年にとって憧れのナチスを象徴するような存在として、彼が度々出てくるのです。

ある日、自宅に戻ったジョジョは、屋根裏でユダヤ人の少女エルザと遭遇して、驚愕し狼狽してしまいます。お母さんは何にも言っていなかったのに?なんで僕の家にユダヤ人が??排除すべきはユダヤ人、と確信していた彼の信念が揺らいでゆく様を、時にユーモアを交え、時ににサスペンスフルに描いていきます。

一丁前にジョジョはナチスを気取っていますが、気が弱く、何もできない子供。靴の紐さえ自分で結べなくて、母親に結んでもらっています。映画には、紐を結ぶシーンが何度も登場します。紐を結べないジョジョを、自分で何も考えることができない、何も行動できない少年の姿の象徴として描いています。しかし、そんなジョジョが、ラストでエルザの紐を結んでやるというシーンで、やっと自分の目で世界を確かめ歩み出す姿を、靴紐を通して表していました。 

物語のベースにあるのは「アンネの日記」だと思います。アンネの方は、追い詰められたユダヤ人の悲惨な人生を描いたものですが、一方、ここでは追い詰めた方のドイツ人の少年が、ナチスの人種差別思想からいかに離脱してゆくのかを描いています。「君は間違っている、ナチスに戻ろう」と説教する”お友達”ヒトラーを、ジョジョは躊躇なく蹴り出してしまいます。少年に幸あれと念じつつ劇場を後にしました

先日、ご紹介した「パラサイト」も傑作ですが、後味の良さでは、こちらが上です。娯楽性の高い映画作りながら、反戦、反レイシズムの思想を盛り込んだすごい作品でした。

 

★女性店主による『冬の古本市』は2/5(水)〜2/16(日)です。月曜日定休。12:00〜20:00

最終日は18:00まで。神戸・大阪・岐阜・東京・御殿場・神奈川・京都などの女性店主の選書です。ぜひお立ち寄りください

勝手ながら2/17(月)〜2/20(木)まで連休させていただきます。

 

 

 

寒い中、古本市の初日から多くのお客様にご来店いただきありがとうございます。

さて本日最初にご紹介するのは、洋書です。かなり前に公開されたフランス映画「赤い風船」(1956年)。少年と風船のお話ですが、映画をご覧になってなくても、この映画を元にいわさきちひろが60年代後半に絵本にして、ベストセラーになったので、それでご存知の方も多いはず。

今回出品されているのは、その英語版”The Red Balloon”(1500円/出品・徒然舎)です。モノクロの映画のシーンがふんだんに組み込まれています。50年代の古き良きフランスの姿を捉え写真集としても貴重な一冊なのですが、さらにページをめくると、この本の持ち主が翻訳をしたのだろう?と思われる原稿用紙に書かれた訳文が入っているのです!少し古風な日本語ですが、なかなか素敵です。この一冊にだけ付いている翻訳文なのです。

古本好きにファンの多い、詩人、天野忠の短文集「耳たぶに吹く風」(編集工房ノア/1500円出品・マヤルカ古書店)を見つけました。「古いノートから」と題された短文集(1976年〜1983年)と自筆年譜の二つに分かれています、軽妙洒脱なユーモアに富んだ文章が収録されています。例えば「フランスの諺に『寺の鼠のように貧しい』というのがあるそうだが、現在の日本では『寺の鼠のように肥えている』という諺が出来そうだ」。こんな感じの文章が楽しい。天野ファンはぜひ!

1960年代後半からほぼ15年間放送され続けたラジオ深夜番組「パック・イン・ミュージック」。聞いていた方は多かったはずですね。昭和が生んだラジオ深夜放送革命とまで言われた「パック・イン・ミュージック」の製作関係スタッフ、パーソナリティー、そして投稿者たちへの綿密な取材、調査をベースに書き上げられた伊藤友治+TBSラジオ編著「パック・イン・ミュージック」(DU BOOKS/600円出品・ママ猫の古本屋)は、貴重な一冊です。ユーミンも吉田拓郎も、ここで聞いた!と思い出した方もおられると思います。ラジオ深夜放送は、混沌としていた昭和時代に生まれて多くの若者に指示されて育ってきた社会現象です。この番組が終了した時、なんと「パック・イン・ミュージック終了絶対反対」という横断幕を掲げたデモまであったのです。たかが深夜放送、されど深夜放送です。全500ページにも及ぶ大著ですが、あの時代の熱っぽさを垣間見せてくれる一冊です。しかし、安すぎる……….。

個人的には、高石ともやの「自衛隊に入ろう」「受験生ブルース」そしてフォーク・クルセイダーズの名曲を聴いたことが、高校時代の深夜放送の思い出となっています。

 

 

★女性店主による『冬の古本市』は2/5(水)〜2/16(日)です。月曜日定休。12:00〜20:00

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いよいよ始まりました、冬の古本市! 今回出品されている本は、例年になく面白いものが集まっています。絵本、児童書も通年の2倍!、と思えばUFO 、怪奇現象関係が数十冊、そして、店で置きたい本が沢山あります。

まぁ、そんな中からのご紹介です。

これは、レア!と手が出そうになったのが、佐伯俊男の「最初期画集」(青林工藝舎3000部限定・サイン入り12000円/出品・花森書店)です。佐伯は画家として、イラストレーターとして活躍した作家で九州出身の大阪育ち。60年代末に上京し、寺山修司や澁澤龍彦に後押しされて、70年に雑誌「平凡パンチ」でデビューします。 エロス、ユーモア、ホラーを織り交ぜた独特の作品が人気になります。72年には、ジョンレノンとオノヨーコのアルバム『サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ』にイラストレーションが起用されました。そんな彼の初期作品を集めたのがこれです。

 

ガラリと変わりますが、宮本成美写真集「まだ名付けられていないものへ または、すでに忘れられた名前のために」(現代書館1800円/出品・1003)は、写真家が水俣病患者支援に関与し始めた1970年代から90年代後半までの写真が収めれています。水俣病患者の悲惨な状態の写真ではなく、むしろ生きる希望を持った人々の姿、そして彼らを支え続けた仲間たちの姿が捉えられています。多くの人々の人生を奪った水俣病は環境問題の原点です。その上に立って、今の生活があることを忘れないためにも、持っておきたい写真集です。

 

 

安西水丸の、ちょっとレアな作品を見つけました。それは、「日々」(COWBOOKS500円/出品・甘夏書店)という小さな本です。2011年COW BOOKS主催で開かれたリトルプレスフェアにあわせ製作された、安西水丸による画文集の復刻版です。嵐山光三郎によるあとがきによると、うちあわせや会話の合間にすらっ描き上げたようなライブ感あふれた一冊です。ページを開いて安西さんとの会話を楽しんでください。しかも安い!

アンソロジーものとして、知的刺激に満ちた一冊が、「龍の物語」(新宿書房900円/出品・クロアゼイユ)です。島田雅彦「龍人誕生」玉木正之「龍腕伝」草森紳一「龍の棲み家」パトリシア・A. マキリップ(井辻朱美訳)「ホアブレスの龍」などなど龍をめぐる12の物語がぎっしりと詰まっています。中には、香港の映画スター、ブルース・リーを論じたものもあります。ブルース・リーの本名は李小龍。「李小龍、なんというしゃれた名前であろうか。この名前は神話的なひびきを伴っている。神話的なスターには神話的な名前が似合う。龍は神格化された動物であるが、李小龍は人格化された龍である」と厲河が論じていきます。挿入されている図録も、なかなか神秘的なものです。

 

★女性店主による『冬の古本市』は2/5(水)〜2/16(日)です。月曜日定休。12:00〜20:00

最終日は18:00まで。神戸・大阪・岐阜・東京・御殿場・神奈川・京都などの女性店主の選書です。ぜひお立ち寄りください

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毎年2月恒例の「女子の古本市」改め「女性店主による一箱古本市」が次週2月5日(水)より始まります。今年も27店舗参加していただくことになり、今、各地から続々と本が入荷中です。その中から、ご案内していきます。

今日は、本に関する本を数点ご紹介します。

先月亡くなった坪内祐三の著書を、少し前にブログで紹介しましたが、二冊見つけました。明治時代を生き抜いた文豪達の青春を、膨大な資料をもとに描きこんだ「慶応三年生まれ七人の旋毛曲り」(新潮文庫450円/出品・古書ますく堂)は、日本近代文学を読むときには、目を通しておきたい一冊です。もう一冊、個人的に好きだった「私の体を通り抜けていった雑誌たち」(新潮文庫250円/出品・古書ますく堂)には、印象に残る文章があります。それは、雑誌「ブルータス」創刊時、作家の田中康夫がこの雑誌を批判しましたが、そのことについて。

「田中康夫の眼には、当時の『ブルータス』が、団塊世代(全共闘世代)の転向雑誌に見えたのである。つまり、1960年代末から70年代初めにかけて、社会に対して異を唱えラディカルにあばれてきたはずの彼らが、1980年代に入って、30歳を過ぎ、社会が安定し、その中でそれなりの身分を得たら、その『おいしい生活』を堪能する消費者になってしまったことを。そしてそのくせ、かつて社会派(ラディカル)の名残りをイレズミのように時どきチラつかせることを、田中は批判した。」

やや、強引な解釈ですが、田中康夫という人物をどう捉えていいのかわからなかった私は、この文章で納得した記憶があります。

本に関するエッセイとしては、かなりニューウェイブ風の仕上がりの一冊が、小林聡美「読まされ図書室』(宝島社400円/出品・榊翠簾堂)です。職業はてんでばらばらの老若男女から推薦された本を、小林が読んでゆくという企画です。井上陽水、吉本ばなな、皆川明、酒井順子等々、個性的なメンバーが繰り出してくる本を小林が料理してゆきます。写真家の高橋ヨーコが推挙したのは、なんと「オバケのQ太郎」だったり。小林のセンスの良さが一杯の面白い一冊です。

 

こんな雑誌あったんですね、知りませんでした。「本の探検マガジンBOOKMAN」(トパーズプレス/各150円)です。20号(1987年)から、26号(1989年)まで揃っています。今でいうなら、「本の雑誌」みたいなものだと思います。

資料として貴重なのは、21号の「東京古本屋帝国ベスト店」と「関東古本屋帝国ベスト店」ですね。この当時、取材された店舗の写真がずらりと並んでいます。添えてあるコメントも面白いものが沢山あります。80年代後半の書籍界が俯瞰できる、まとめて買っておくべき雑誌です。

★期間中、出品されている本を日々、紹介していきます。面白そうと思われたら、ご予約いただければお取り置きしておきます。なんせ期間中のみの販売ですから。

★古本市準備のため2/3(月)〜4 (火)連休いたします。


 

 

先日、格差を描いた映画「パラサイト」のことを書きました。今、格差の問題は韓国だけでなく、中国、アメリカ、日本でも大きな問題です。 EUを離脱した英国も、それは一緒です。

「二軒先に警察のブラックリストに載っている幼児愛好者は住んどるわ、斜め前の家の息子はドラッグ・ディーラーやわ」という貧困階級の危ない人たちが住むブライトン。そこで暮らすフレディみかこさんが見つめたイギリス社会をまとめた「花の命はノー・フューチャー」(ちくま文庫/古書400円)は、ルポルタージュなのに、笑わせ、涙させて、怒らせてくれる一冊です。

当ブログで彼女の「ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー」(売切)を紹介しました。あの本に溢れていた著者の逞しさとどんなことも笑いに変えてしまう力強さは健在です。実はこちらの本が先に発売されていて、長らく絶版になっていたけれど、「ぼくはイエロー〜」人気で再発され、未収録原稿を多数加えられた文庫ということになります。

LGBT、移民問題、広がってゆく貧困社会、荒れる青少年達とドラッグ等々、地べたから見据えたイギリスの今を、共にこの地で生きる一人の女性の思いを、パンク精神と笑いで吹っ飛ばした内容なので、あっという間に、ドハハハと笑いながら、いや実は笑っている場合ではないのかもしれませんが、読み切ってしまいました。そして、彼女の人生哲学に納得します。未来がないから生きる甲斐がないという言説に対してこう言い切ります。

「生きる甲斐がなくても生きているからこそ、人間ってのは偉いんじゃないだろうか。最後には各人が自業自得の十字架にかかって惨死するだけの人生。それを知っていながら、そこに一日一日近づくのを知っていながら、それでも酒を飲んだり、エルヴィスで腰を振ったりしながら生きようとするからこそ、人間の生には意味がある。」

彼女の中には、上品で貴族趣味的なイギリス的風土は全くありません、醜く蠢く負の部分をさらけ出しているのですが、逆にその負の部分が輝く出すところが曲者ですね。

「大人が一番物事を知らないのに。知ったかぶりのたれかぶり。いつまでもたれかぶり続けろ、あなた様のようなおワイン階級の腐れ塗り壁中年は。貧乏人を蔑視するな。外国人を軽視するな。たわけるのもいい加減になさらないと自爆してやるぞ。」

とブルジョワ階級への暴言、下品な言葉の数々。私、こういうの大好きです。

その一方で悟りを開いた僧侶のように、「厭世とはポジティヴィテイの始まりである。だいたい、すぐ激情したり主人公になったりする人たちってのは、自分の人生の責任の一端は他人、またはなんらかの外部からの力にある、と信じているからドラマになるのであって、結局全ては自分のバカから発したことであるとわかれば、人生というもののアホらしさが突如として浮き彫りとなり、後は冷静になるしか無くなるもんな」と語っています。

なかなかに、奥の深い読み物です…….。

★2/5(水)〜2/16(日) 恒例となりました女性店主による『冬の古本市』を開催します。今年も神戸・大阪・岐阜・東京・御殿場・京都などの女性店主の選書です。ぜひお立ち寄りください

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本年度の林芙美子文学賞を受賞した小暮夕紀子の「タイガー理髪店心中」(朝日新聞出版/古書1200円)には、唸りました。人間の奥の奥に潜む様々な情念を見せつけられました。

主人公は、のどかな田舎町で理髪店を経営する老夫婦です。「駅からだとナビを設定してもらうほどの距離でもなく、かといって目立つものはなんにもない、言いようもなく地味に徹した住宅街だった。」という場所に、タイガー理髪店はあります。80歳を過ぎた寅雄と寧子の老夫婦が、町内のお馴染みさんだけを相手に理髪業を営んでいます。

特別に何も起こらない、ゆっくりした時間が流れる毎日です。しかし、妻に老いが忍び寄ってきます。極端な物忘れ、そして徘徊。実は夫婦には息子がいたのですが、14歳の時不慮の事故で失くしていました。その事実が、妻の心の奥で重石になっていました。夜中に息子が死んだ場所へと飛び出す妻の顔には、夫が見たこともないような殺気と空虚な表情が漂っていました。そして、嵐の夜、飛び出した妻を追って出かけた夫は、倒れている妻を発見します。意識がありません。激しい雨に濡れてゆく身体。このままでは死ぬ。その時、夫の心に去来した気持ちを著者はこんな言葉で表現しています。

「これでお互いの老々介護は終わるのだな、寅雄はぼんやりした頭でそんなことを思った。楽になる。そうだ楽になる。」

でも、著者はそんな楽をさせません。ラスト、ゾッとするシーンで物語は幕を閉じていきます。

この本には、もう一作「残暑のゆくえ」が入っていて、これもいい作品で、こちらで賞が取れたのではないかと思ったぐらいです。

今は、定食屋の女将になっている日出代は、母と一緒に戦火の満州から引き揚げてきた少女時代の暗い歴史があります。夫の須賀夫も、大陸から引き揚げてきた人物ですが、何も語らず、でも妻へのやさしさだけは残しています。物語後半で、満州時代の日出代と母の間にあったこと、そしてやはり大陸で軍務についていた夫がやったことを彼女は知ることになります。ここで語られていることは、おそらく事実に基づいたことでしょう。悲しいというような言葉では表現できない悲惨で重苦しい戦場の出来事です。

けれど、この小説が優れているのは、その事実を知った後の日出代が立ち直ってゆくところです。

「ほらやっぱり、自分のことは自分でこしらえるしかないでしょ」

そんな言葉を口にして、いつもの女将の生活へと戻っていきます。その逞しさ。

「もう……….戦争には、行きとうない。」そんなセリフをふと口に出す須賀夫と共に、残りの人生を生きてゆく彼女の姿が印象的な小説でした。戦争で受けたキズがどれほど深いかを、そこから立ち直ってゆく人の重みを描いた優れた小説です。

この作家、全く知りませんでしたが、これからフォローしていきたいと思います。

 

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話題の韓国映画「パラサイト・半地下の家族」を観ました。映画館に滅多に行かない人も騙されたと思ってお出かけください!呆気にとられること間違いなしです。

韓国社会の格差をテーマにしているのですが、それをウルトラC級の映画テクニックで大エンタメに仕上げました。

事業に失敗ばかりしているキム一家。しがない内職で食いつなぐ一家は、半地下にある部屋で、夫婦と娘と息子の四人で生活しています。ある日、息子のギウが IT企業の社長の娘の家庭教師に雇われます。まぁ、その邸宅の立派なこと、登場する社長夫人も漫画に出てきそうなハイソな奥様です。家庭教師を始めたギウは、様々な仕掛けをして、父キム、母チュンスク、姉ギジョンを、次々にこの家庭に送り込みます。「高台の豪邸」一家と、「半地下家族」一家が交差してゆく過程でさらけ出される驚くべき真実!この格差には、さらに底があったのです。半地下だと思っていたら、あ〜ははは〜画面に釘付けになりながら、卑屈な笑いをしている自分に驚きます。

残念ながら、これ以上本作の内容については語ることはできません。しかし、観た後必ず誰かと話したくなる力を持っています。私の大好きな映画監督の阪本順治が「感動を越えて、ひざから落ちた。これはもう映画の範疇に収まらない」というコメントを出していますが、いや本当に、転げ落ちそうになりました。

半地下の住人たちを襲う大雨の凄まじさ、それはまるで黒澤明の「七人の侍」のラストのようなすごい雨、しかしその一方で高台の一族は、嵐などどこ吹く風で翌日には自宅に友人を呼んで優雅なランチパーティーを行なっています。

そこで繰り広げられる惨劇から、映画は一気にラストへ突入し、我々観客をはるか彼方へ放り投げてしまいます。生半可な感情や思いなんぞ、捻り潰し捨てて、恐るべきエンディングを迎えます。最後までエンタメ映画を作りながら、今の時代を切り取ったボン・ジュノ監督のしてやったりという高笑いが聞こえてきそうです。

映画監督の西川美和が「どんなに斜に構えている人でも、どんなに映画を見慣れていない人でも、五分で目を離せなくなるように作られています。」とコメントしていますが、映画という表現メディアは、ここまで出来るんだということを思い知らされました。

とにかく、観てください!それしか言いようのない稀有な映画でした。

 

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店で仕事中、一人でどうしようもなく眠たくなって、メールチェックも後回しっていう魔の時間があります。そんな時の特効薬として、店内を意味なく歩き回ることと、警官小説を読んで頭の中をリフレッシュすることにしています。

そんな一冊として、呉勝浩「ライオン・ブルー」(角川文庫/古書300円)を読んでしまいました。

「登ってきた坂は江狗里(えぐり)坂という。それが由来かは知らないが太腿を抉られる急勾配で、平日の昼時にもかかわらず道路沿いの商店は半分以上がシャッターを降ろし、残りの店舗も静まりかえっている。商店街と名乗ってはいるけれど、軽自動車とすれ違ったほかは一人の町民とも出くわさなかった。」

そんな裏寂れた故郷の町に戻ってきた交番勤務の澤登が主人公です。「急ですまんかったな。人の都合がつかんで、往生しとったんや」と交番の上司がコテコテの関西弁を使うところから、舞台は大阪の開発から取り残された町。

ご多聞にもれず、地元の大物と結託したヤクザや土建屋が登場してくるので、その悪事を暴いてゆく若き警官の物語だろうと思って読む進めていきました。澤登は地元高校の野球部のピッチャーで甲子園にも出たのですが、町の期待を大きく裏切る結果でした。なんか、イマイチ暗い展開やなぁ〜、と立ち止まった時、とんでもない文章が飛び込んできました。

「おれは、こいつで自殺するために警官になったんですよ」

「こいつ」とは「拳銃」のことです。警官なら拳銃で自分の脳みそを吹き飛ばせる、などという主人公が警官小説は滅多に見ることがありません。さらに、犯人探しのラストで、そっ、それはないだろうという、とんでもない展開へとなだれ込みます。普通、この手の小説は、ラストのどんでん返しで、背負い投げされたようなカタルシスが用意されいるものですが、本作は0。登場する男たちは、この地獄の中でもがき続けるのかと、厭世的な気分でページを閉じることになりました。

「●●さん、また会いましょう」お互い地獄で。ホンマ、皆地獄行きです。」

でも、なんか妙に心に残る作品なんですよね……..。廃れてゆく町の雰囲気と、そこにうごめく男たちのニヒリズムが漂う、稀有な警察小説かもしれませんね。

ということで残念ながら、頭の中はリフレッシュはされませんでした。

 

 

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「東京から、千葉の房総半島の南・大多喜町に引っ越してきて約2年半が経った。ヨーロッパで古くから『Eau de Vie(オー・ド・ビー)』と呼ばれてきた蒸留酒をこの地でつくるのだ。」

という書き出しで始まる江口宏志の「ぼくは蒸留家になることにした」(晶文社/古書1100円)」は、こういう働き方、生き方があるんだということを教えてくれる一冊です。

書店巡りが好きな人なら、江口宏志という著者の名前で何か思い出されるかもしれません。東京の書店「ユトレヒトUTRCHT」の運営に携わっていた方です。さまざな企画・イベントで新しい本屋として人気のショップです。その人物が、全く畑違いの蒸留家になることを決心したのです。

蒸留は、紀元前3000年頃のエジプトですでに行われていた記録が残るほどの古い技術だそうです。果実やハーブを収穫し、発酵して蒸留機にかけます。発酵液を熱すると液体が蒸気に変化し、これを冷却するとアルコール度数の高い液体が誕生するというのが、大まかな工程です。

なぜ、著者は蒸留家への道を歩むことになったのか。きっかけは、2001年ごろ日本中に広がった「洗練されたライフスタイル」というトレンドでした。上辺だけのライフスタイルが消費されて、流されてゆく現象に違和感を持った著者は、こんな考えに傾いていきます。

「漠然と、自然と関わりながら、ものをつくりたいという気持ちが湧いてきた。自然は普遍的であるがゆえ、簡単に消費されることなく長く関わっていけそうな気がする」

「一つランクアップのおしゃれ生活」とか「洗練された都会人の生活提案」みたいな広告文句が飛び跳ねていた雑誌や本の世界に、日々うんざりしていた私には、この著者の気分がわかるような気がします。

「幅広く全体を俯瞰する立ち位置ではなく、ピンポイントで何らかの技術や経験を身につけたい。その技術は競いあうものではなく、風土や自然といった大きな存在と結びついたものであったり、蓄積していくことで自分だけのものになっていくものがいいだろう。その技術は、自然に関わるものがいい。」

書店を辞め、ドイツで修行を始めます。本書は、修行から自分の工場を持つまでの楽しいけれど、悪戦苦闘の日々が書かれています。そして2017年3月、東京を離れて、大多喜町へと引っ越し、「mitosaya」と命名された工場が稼働します。そして、今の自分をこんな風に表現しています。

「『mitosaya』は、ぼくの人生のなかでいちばん大きな挑戦だけれども、いちばん楽しい仕事に取り組んでいるという実感がある。ある気がついたのは、これってもしかして、老後プロジェクトなんかじゃないかということだ。老後を穏やかに、楽しく暮らすために、いまちょっと無理をしてでも頑張って、面白いことを見つける。」

素敵な考え方です。

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やっと読み終えました、メイ・サートン「74歳の日記」(みすず書房/古書2500円)。と言っても、300ページ弱の、日々の出来事を綴った日記文学なので、決して難しいとかそういうものではありません。時間がかかったのは、一回に2ページずつぐらいしか読まなかったからです。74歳の彼女の言葉をゆっくりと心に入れたかった、なんて言うとカッコつけすぎかもしれませんが、そんな調子で読んでいたので年を跨ぎました。

メイ・サートンは1912年生まれのアメリカの小説家、詩人です。大学で文学を教えていましたが、自分の小説の中で同性愛を明らかにしたことで職を追われ、今日では考えられないことですが、本の出版も中止されてしまいました。。その後、パートナーとの別れ、小説『総決算の時』へのへの酷評、さらに乳がんの手術などが重なり、最悪の状態になってしまします。しかし、人里離れた自然の中、一軒家で生活しながら思索を重ねてゆき、詩作に没頭し、エッセイ、小説などを書きます。68年に全米で発表されたエッセイ「夢見つつ深く植えよ」(みすず書房/古書2050円)、73年発表の「独り居の日記」(みすず書房売切れ)は、当時の代表作です。

1985年、73歳の彼女は脳梗塞を起こします。当時、彼女の体調は良くないうえ、愛猫の死なども重なり、詩も書けない状況でした。年が明けて86年の春先、日常のありのままを日記に書いていく決心をします。86年4月から日記はスタートしますが、最初は病状が一向に回復せずに、イラついたり、落ち込んだりする毎日の描写が多く、こちらも辛くなってきます。

しかし、「具合が悪かったあいだ、何か学ぶことがあったとすれば、それはその瞬間瞬間を生きるということかもしれない。眠れない夜、ひと晩じゅうアマガエルの鳴き声に耳を澄ますこと、朝遅く、ひっきりなしにクークー鳴くモリバトの声に目ざめること、そして今この瞬間には、静けさを増すような海のささやきに耳を澄ますこと。その瞬間を、できるかぎり生き生きと生きること。」

そうして彼女は立ち直っていきます。整然とした文章を追いかけることで、元気になってゆく彼女を追走してゆくことになります。

もちろん復活までは、「朝、ベッドメークをして、階下で家事をしただけでへとへとになってしまい、ベッドに横になって泣いた」という日々の繰り返しです。6月の日記には「元気なときがどんな感じだったのか、もう思い出せない。」という文章もあります。

しかし、毎日見つめる海、木々の音、いくらでも作業のある庭仕事、新しい猫との付き合い、そして、彼女の元に集まってくる友人たちのおかげで、正気を取り戻していきます。そのプロセスを、湿っぽくならずに、簡潔な文章で読ませてくれます。後半、元気になった彼女が朗読旅行に出かけるあたりでは、親しい友人に、良かったねと声をかけたくなるような気分になりました。

1987年2月11日の日記。これが、この本の最後になりますが、こんな文章で終わっています。

「私の目の前には、まっさらな空間が広がっているーもう公的な場に出ることはなくなるのだ。それでも、まだやりたいことはたくさんある。再び手に入れた生活、そしてこの先に待っているすべてのことへの歓びが胸を満たす。」

彼女は1995年、83歳でこの世を去りました。

 

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