話題の映画「ラ・ラ・ランド」観てきました。

アカデミー賞最優秀作品賞発表の場で、間違って受賞!と発表されるという前代未聞の珍事もありましたが、これは文句なく良く出来た、人を幸せにしてくれて、ルンルン気分で劇場を後にできる映画でした。

弱冠32歳のディミアン・チャゼル監督の、オリジナルストーリーのミュージカル映画。彼が愛したミュージカル映画へのオマージュを散りばめてあるのですが、特にフランスのジャック・ドミーの傑作「ロシュフォールの恋人たち」への愛着がバンバン伝わってきます。高速道路の上で、踊り出す群衆をスピーディーなカメラワークで見せるオープニングからして、もうロシュフォールの世界ですね。粋で、洒落ていて、音楽がチャーミングで、あっ、もうこの映画言うことなしみたいな気分で、ゆったりとシートに腰を落ち着けて、安心して観ていました。

50年代、アメリカのミュージカル黄金時代を支えたMGM映画の数多くの作品から、踊り、歌の名場面をピックアップした映画「ザッツ・エンタテイメント」は、私の大の気に入りで、非常時に持ち出すDVDの一本です。でも、当時のミュージカル映画って、本編を観ると、けっこう退屈なんですね。終始笑顔だらけの登場人物ばっかりの場面や、WASPのお金持ちのハッピー・アメリカン・ライフにはウンザリしてきます。(トランプ翁の理想的アメリカンってこんな感じ?)社会問題を持ち込んだ「ウエストサイドストーリー」さえも、私には大げさすぎでした。

しかし、チャゼル監督は、その辺り、バッチリ心得ています。展開がスピーディーです。ダンシングシーンもダラダラやらない。主演の二人の恋愛模様もベタベタやらない。だから、ミュージカルなんて退屈と思っている方も大丈夫です。そして、ラスト10分間が洒落てます。この二人は、やっぱハッピーエンドだよなと思っていたら、そこから始まる、ビター・スィートな人生のIfの物語。もし、あの時、ああだったら…….。でも悲しい涙のエンディングにしないところが監督の腕ですね。ヒロインを演じるエマ・ストーンの微笑みが、なんとも素敵です。

監督の前作「セッション」は、ジャズドラマーを目ざす青年の姿を直球一本勝負で描いたために、賛否両論でしたが、今回は変化球も巧みに投げながら、酔わせてくれます。ほれ、幸せな2時間やったやろ、と言いたげな監督の顔が浮かんできます。

★ところで、レティシア書房はおかげさまで丸5年を迎える事ができました。2012年3月6日、雨あがりの暖かな日、あの日の思いを忘れずに6年目に突入いたします。今後ともよろしくお願いいたします。(店長&女房)

天を仰ぎ、身をよじり、不幸を嘆いている…..。うつむく者、叫ぶ者、その声は誰の耳にも届かない。

まるで中世の異端派弾圧の宗教裁判の被告達の様な人物たち。

 

これ、すべて本日より開催の中西敦浩さんの石粉粘土で作られた人形たちです。彼らが見つめているのものは何なのか中西さんの個展は今回が2回目ですが、より物語性に富んだ作品が揃いました。

映画「スターウォーズ」の皇帝軍を支える司祭達の様な男たちもいます。何やら集まって善からぬ相談をしている雰囲気。後には磷付にされて痩せて肋骨が浮き出た人物が並んでいます。

或は、両手に鳥の羽を付けた人物たち。その中の一人は、腰をおとして、足を広げ、羽を大きく広げています。飛翔する意志があるのかどうか仮面の下に隠れてうかがいしれません。

人物の身体は空っぽ。マントが左右に割れるとそこは「無」。顔とマントと、そのマントの先から出ている手先が、彼らを構成しています。奇怪なスタイルなのですが、流れるような動きに、この2年間の蓄積を見せて頂く事ができました。いくら心で思っても、作品を手から一つずつ生み出す作業には、時間が必要です。前回よりさらにリアルに立上がった人物に、物語を自分の中で紡ぎながら、美しい形を作り続けられた時の重なりを感じました。

あらゆる感情を読み取れそうで、読み取れない不思議な世界を、ぜひ堪能して下さい。

今回、新しい形として、木枠の中に人物を配した作品があります。これを、本棚に置くと、本と作品がブレンドして、独特の世界を作り出します。(5000円)早速、レティシア書房の棚にも飾ってみました。こちらもご覧ください。

尚、作品はすべて販売しております。(5000円〜12000円)

中西敦浩作品展は3月19日(日)まで。最終日は18時迄。月曜定休。

 

 

 

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大和郡山の古書店「とほん」さんが「ブックレットホン」(648円)を創刊しました。店長の砂川さんとは、開店される前に何度かお目にかかっているのですが、まだお店には伺っていません。素敵なお店だという噂はあちこちから聞えてきています。

さて、創刊号の特集は「奈良と本」。

先ずは「本と一緒」。これは奈良で本に巡り会える場所の案内です。吉野郡の杉木立に囲まれた場所にある私設図書館「LuchaLibro」。大学講師と図書館司書のご夫婦が始められた図書館です。爽やかな風が吹き込みそうな山里の一軒家で、館長は猫の「かぼす」氏、主任は犬の「おくら」氏とか。猫語、犬語の勉強もお忘れなく。

ギャラリー「日+月+星」さんで、不定期に開催されている「夕暮図書室」は「夕暮の図書室のような落ち着いた本のある空間を」を目的としたイベントです。「とほん」さんが本を提供して、一緒に珈琲店や、CDショップ等が参加して、楽しい一時を演出されているみたいです。写真で見ると、寝転んで読書したりできそう。天文学者石田五郎の文庫が、吊り下げた箱にセットされている写真がありましたが、「とほん」さんのセンスの良さが見えてきます。

次の特集は、「文人と奈良」。奈良と言えば「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」の正岡子規が有名ですが、「夫婦善哉」の織田作之助が、正倉院展について書き残しています。これ、真っ向からこの展覧会に噛み付いています。私小説こそ小説という当時の風潮に馴染まず、「未来に向かう人間の可能性を描く可能性の文学」を提唱していた織田が、当時、奈良住まいしていた私小説の神様、志賀直哉に反撥していたのが原因だったかもしれません。

最後の特集は、今活躍中の作家が描いた奈良を訪ね歩く企画です。もう、これは万城目学の「鹿男あをによし」が代表でしょう。TVドラマされましたが、面白かった記憶があります。奈良在住の森見登美彦のファンタジー小説「ペンギンハイウェイ」が奈良の新興住宅地をモデルにしてるとは知りませんでした。マジメな小学生が通学途中でペンギンの群れに出会うというお話。

私の好きな作家津島記久子著「ポースケ」が、奈良のカフェ「コハルカフェ」を舞台にしていて、「とほん」店主がそのカフェを訪問した時のことも書かれています。

特集以外では、個性的なお店の店主が薦める本の紹介が面白い。薦める本のテーマは「記念日」です。その中でH.A.Bookstoreの松井さんが高浜寛の「イエローバックス」を取り上げていますが、やるなぁ〜。私もこの本大好きで、店に置いてます(600円)。

そして、最後を飾るのは、「休日は本屋さんへ」というコーナーで、阪急水無瀬駅前の「長谷川書店」が紹介されています。この書店は、新刊書店の面白さ抜群です。本の森に迷い込んだ錯覚に陥る、本好きには、”あぶない”お店です。つい、買ってしまうんです。無茶苦茶に並んでいるのか、店長の美意識に基づいて並んでいるのか、いやはや、こんな店が有るとは。

次号は5月末発売とか。楽しみにしています。もちろん、当店でも続いてお取り扱いしていきます!

★「ブックレットホン」(648円)創刊号発売中

 

「ゆっくりと読まなければならない」本というものがあります。難しい理論や、抽象的概念を論じたものではなく、言葉はフツーなんだけれども、ゆっくり、噛みしめなければ何も残らない本。今、再読している石牟礼道子の「椿の海の記」なんかまさにそんな一冊です。(また、ブログでご紹介します)

中央公論社で「婦人公論」の編集長を勤め、2010年から新潮社の「考える人」の編集長を務める河野通和の「言葉はかくして生き残った」(ミシマ社2592円)も、やはりゆっくりと読むべき本です。基本的には書評集なのですが、取り上げた本への著者の思いや、或は作家が使った言葉への敬意が散りばめられたエッセイと言った方が的確です。

「こんな古本屋があった」で取り上げられているのは、関口良雄の「昔日の客」(夏葉社2376円)です。1977年、59歳で亡くなった「山王書房」店主、関口良雄が古書組合の組合報に書いた文章をまとめたものですが、書物への愛情と、古書店主としての矜持が迫ってくる名著です。河野は、この古書店のことを沢木耕太郎の「バーボン・ストリート」で知ったこと、そして店主と、42歳で急逝した作家、野呂邦暢の交流を紹介しています。これがいいんですね。店主としてかく有りたいと思わせるハートウォーミングなエピソードです。

そして、店主のご子息が、父親の仕事をこう語っていたことを紹介しています。

「古本屋という職業は、一冊の本に込められた作家、詩人の魂を扱う仕事なんだって。ですから、私が敬愛する作家の本質は、たとえ何年も売れなかろうが、棚にいつまでも置いておきたいと思うんですよ。」

こういった文章が37章収められています。ささっと読むにはあまりにも惜しい。私は店を開ける前に一章ずつ読んでいます。

「安部公房と堤清二」で描かれる堤清二像も、文学に携わる者の姿勢が明確に出ていました。とある文学賞授賞式会場で、あまりにも露骨で安易な身内受けスピーチを発言した者と、そのスピーチをヨイショした主宰者の態度に堤は、同席していた河野に自分の怒りを伝えます。それを受けて、堤の、そしておそらくは自分自身の、文学への思いも含めてこう書きます。

「あらゆる人間的行為の基底をなすのは文学ではないか、それを軽んじる者、侮る者、汚す者を許すわけにはいかない」

日頃は控え目に、私は文学をする者として初心者ですからと、安易な文学論を口にしなかった堤の怒りに「文学に寄せる思いの強さとともに、堤さんの魂そのものの底なしの暗闇に畏れを感じたのでした」

真摯に文学に、言葉に、向き合った河野通和の一貫した生き方を知る絶好の本だと思います。

著者が編集長を務める「考える人」は4月4日発売号で廃刊になるらしいです…….。残念!

”La casa sull’altura”(イタリア語版2500円)という洋書の絵本。文章はNino De Vita 、イラストはSimone Massi。”casa”は日本語に直すと「家」ですが、”sull’altura”は私にはわかりません。イタリア語の読める方ぜひ、翻訳してください。

物語もわからんのに、何が良いの?

ハイ、それは絵です。

大草原の中にポツンとある家。突如登場する悲しそうな目つきの大きな、黒い犬。蜘蛛の巣がいっぱいのなので空き家なんでしょう。その家に向かう少年、その関係は??。家の中に横たわる少年を見つめる犬。その絵のバックは真っ黒に塗りつぶされています。観るものに様々な感情を呼び起こす絵です。背景は真っ黒なために、私には、震えるような少年の孤独が伝わってきました。

 

 

絵本後半に少年が手にミミズクを載せているページが登場します。この少年の家族は?友だ

ちは??(何しろ言葉がわからないから想像がふくらむばかり)そして突然家を飛び出した後少年の姿は物語から消えます。家の前に所在なげに立つ犬、屋根に止まる鳥。そして、まるで映画の如く、倒れた椅子やハシゴのカット、一気にカメラが屋外に飛び出し、半分壊れた家を捉えて、終りです。

文章が理解出来ない分、どのようにも捉えることができるので、100人いれば、そこに100の物語が出来上がりそうです。まだ字が読めない子どもが、勝手に物語を紡ぐように。

私は、怒ったような目つきで正面を見つめる少年の顔を描いたページにくぎ付けになりました。この少年の怒りは何なのか?いや、本当に怒りなのか??

絵に力があるとはこういう事なのだと思わせた一冊です。このイラストを書いたSimone Massiをグーグルの画像検索してみると、ステキな作品がズラリと登場しました。

 

 

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トラピスチヌ修道院は、函館市郊外にあるトラピスト会系の女子修道院「天使の聖母トラピスチヌ修道院」の通称で、通称天使園とも呼ばれる日本最初の女子修道院です。

この修道院は周囲を高い堀で囲っていて、家族であっても立ち入りは許されません。中では、厳しい戒律を守りながら、隠遁修道生活が営まれています。

この修道院の設立100年を迎えるに当たって記念の写真集を発行することになりました。それが、野呂希一の写真集「天使の聖母 トラピスチヌ修道院」(菁菁社1400円)です。修道院の写真集?と思われるかもしれませんが、素敵な写真集です。

農作業をする修道女達の背後に広がる夏の青空、緑色の畑の眩しさ、稲作業を包み込むような冬の陽射し、修道院の中に射し込む柔らかい光、朝の祈りの後、廊下を静かに進む修道女達の清らかさ、等々心休まる作品が次々と登場します。図書室や、個室で一心に読書に励む彼女たちの後ろ姿には、「学ぶ」という事のプリミティブな姿が捉えられている気がします。

写真家が修道院の内部撮影をすることになったきっかけは、あるシスターが、野呂希一の作品集「WOODS」に共感し、自分たちの考えが「WOODS」の視点と共通するということでした。そして、「生命の織物」というコピーを野呂さんに渡されたことで、お互いを理解できたのです。

それは、1854年、アメリカの先住民達の土地を時の大統領が買い上げたいという申し出に対して、ネイティブアメリカンの首長が大統領に送った手紙でした。

「我々の住む土地も空気も聖なるもの。それらは人間の所有物ではなく、人間も大地の一部で、大地は自分自身、あらゆるものはつながっていて、人間が生命の織物を織ったものではなく、織物の中の一本の糸にすぎないのに、それをどうして売買などできようか」

というもので、「環境問題の旧約聖書」と呼ばれています。

この修道院では、自然のうちに生かされていることを最も大事に考えています。だからなのでしょうか、この写真集は、野外で自然とともに生き、働く姿が数多く収められています。所有しないことの美しさ、働くことの喜び、移り行く自然の姿が崇高に、見事に捉えられています。

蛇足ながらここで作っているクッキーが美味しくてお土産として人気とか。函館で買えるのかなあ?

何の美術展かは忘れましたが、恩地考四郎の版画が飾ってありました。その時点では、名前すら知りませんでしたが、前衛的で、強烈なインパクトがあったので、彼の名前は頭の中にインプットされました。

明治24年東京に生まれた恩地 孝四郎は、創作版画(複製を目的とせず、版画独特の手法を創作表現の方法として活かした版画)の先駆者であり、また日本の抽象絵画のイノベーターとして評価されている人物です。しかし、美術界の評価よりも、装幀家としての仕事が気になっていました。

それは、萩原朔太郎が大正6年に出した詩集「月に吠える」の装幀が彼だったからです。装幀家としての活動を知りたいなと思っていた時、池内紀著「恩地孝四郎一つの伝記」(4800円)に巡り会いました。本書は、筑摩書房が発行している小冊子「ちくま」に連載されていた「恩地孝四郎のこと」を加筆、訂正し、大幅な書き下ろしを加えた300ページに渡る大著で、図版65点に年表も加えた愛蔵版の評伝です。

「月に吠える」は恩地の装幀家として実質的な初仕事でした。友人、萩原のために素敵な装幀を施した詩集を送り出します。この詩集の装幀に関して、池内は面白い事実を指摘しています。

「正確にいうと恩地孝四郎装幀の『月に吠える』は二つある。初版刊行後五年してアルスより第二版を出すにあたり、大きく改められた。初版がより強く友人の作品と思いをつたえるためであったとすると、再販はおのずからちがっていた。こちらは何よりも、装幀者の意向をこめて手を加えた。」(右の写真は初版の方です)

恩地自身は版画家としてより装幀家として見られることを嫌っており、これは生活のためだと割り切っていたようですが、その一方、1952年に出版した「本の美術」で「本は文明の旗だ。その旗は当然美しくあらねばならない」と書いています。本であるならば、美しくあらねばならないという装幀家の矜持を語っているところをみると、真剣に取り組んでいたのだと思います。

詩人、北原白秋の弟、北原鉄雄が大量部数の粗悪な出版物(なんか、今の出版状況みたいです)に異議を唱えて立ち上げた出版社アルス。より美しい本を少数部数で発行するこの出版社の本の装幀を、恩地は手掛けました。北原白秋「白秋小唄集」、室尾犀星「性に目覚める頃」、三木露風「象徴詩集」などがその一例です。

池内は、「孝四郎と一出版社との幸運な出会いが、わが国の装本の歴史に優雅な一章をつくりだした。」と書いています。残念ながらアルス社の本は、そう簡単にお目にかかりませんが、どこかの美術館で「恩地孝四郎装本展」が開催されることを期待します。

ちなみにご紹介した「恩地孝四郎一つの伝記」は、本好きには支持される、渋い本を出版する幻戯書房から出版されました。定価6264円と高価な本ですが、その内容の濃さは価格を超えていると思います。中身も綺麗で、あんまり古書では出ない本かもしれませんね。

虐げられた人達の世界を描いて、いつも背筋をシャキッとさせてくれる映画監督、イギリスのケン・ローチ。69年発表の「ケス」以降、できるかぎり観るようにしています。労働者階級の人々や、誰かさんの大嫌いな移民達の人生を描く映画を、数多く発表して高い評価を得ています。アル中男の出口のない人生を見つめた「マイネーム・イズ・ジョー」とか、ウイスキーテイスティングの才能をもつ貧しい青年が新しい生き方を見つける「天使の分け前」はお薦めです。間もなく新作「私はダニエル・ブレイク」が公開されるので、その前作「ジミー、野を駆ける伝説」を観てみました。

時代は、1932年のアイルランド。国を分断した内戦終結から10年。もと活動家で、アメリカに暮らしていた青年ジミーが生まれ故郷に戻ってきます。彼が、故郷で差別と弾圧を体験したあげくに、国外に退去され、NYで死去するまでを描いています。映画制作に確乎たる信念を持つローチ監督が正攻法で描いたドラマに、こちらものめり込んでいきます。

ローチの映画はたいてい、僅かの希望を残して終わります。この映画もしかり。国外退去で連行されるジミーを見つめる若者達のワンカットです。自由を弾圧するこの時代にハッピーエンドはあり得ません。しかし、青年達に僅かの希望を託しています。この世界の悲惨さを映像化するだけでなく、そこにあるかないかの希望を見つけようと苦闘する作家の姿こそ魅力的です。

明るい明日なんてほぼ絶望的なのに、そこに一筋の希望を、説得力のある描写力で示すのは、宮崎駿も同じです。「もののけ姫」ラストはその最たるものですね。原発事故を思わせる大破壊の後に、森に戻って来た妖精はたった一人。さて、豊かな森は元に戻るのか、もう戻らないのではないか…….。しかし、それでは我々の明日はどうなる?作家の混迷と悩みが導き出したのが、たった一人の妖精の帰還。ここに託すしかない、という宮崎の決意を読み取りました。

映画ではなく、漫画版の「風の谷のナウシカ」(徳間書店全7巻2500円)を読んでいると、権力闘争の凄まじさと惨たらしさ、永遠に続く地獄のような世界の中で、ナウシカという少女にすべてを託した宮崎の思いが伝わってきます。映画も傑作ですが、まだ原作を読んでいない方はこちらもぜひ。

 

 

つばたしゅういち(1925−2015)。建築事務所勤務を経て、「自由時間評論家」として評論活動を行う。つばた英子(1928−)キッチンガーデーナーとして活躍。ご夫婦の年齢、合わせて171歳。彼らの日々の暮らしを、「永井荷風 ひとり暮らしの贅沢」等を出版した水野恵美子が聞き手となり、一冊の本にまとめたのが「ときをためる暮らし」(自然食通信社1500円)です。今、みんなが憧れるシンプルライフ、スローライフの実践書的な本なのですが、お説教くさくない。このご夫婦のナチュラルな感性と、きき語りというスタイルの持っている柔らかさが多分に関係しているように思います。

しゅういちさんは「僕らは『だんだん美しくなる人生』をめざしてやってきたんですよ」と仰る。それは、大量のサプリメントを飲んだり、エイジレス美容というなんだかわからん事にうつつを抜かすことではありません。小難しいことは全く語られていませんが、お金はなくても、素敵なじーじ、ばーばになってしまったよねという体験談を、暖炉にあたりながら聴いている感じの本です。

「本当の豊かさというのは、自分の手足を動かす暮らしにあると思いますよ。」

と言いながら、出来る事は全部やっている、微笑ましい後ろ姿が見えて来そうです。

そして、もう一冊、このご夫婦の本が出ています。「ふたりからひとり」(自然食通信社1500円)です。本の表紙は、英子さん一人が食卓に坐っている写真です。「ときをためる暮らし」から、四年あまりの日々が過ぎ、夫のしゅういちさんが天国へと旅立ちました。一人になっても、淡々と、以前からの暮らしを続ける英子さんの日常を、語っています。

6月2日。その日も普通通りの暮しが始まります。しかし、食欲がないと部屋にこもったしゅういちさんは、そのまま息を引き取ります。

「書きものをして、外が好きだから、何かしら外の仕事をつくっては動き回る。寝込むこともなく、逝けてよかったけど。『最後はスマートに逝きたいね』と言っていたから。」

と英子さんは振り返ります。そこから始まる英子さんの一人暮らし。しかし、しゅういちさんの居た頃と同じペースで、暮しは淀みなく続いていきます。スマートに旅立つことも、老いてなお自分流に豊かに過ごすことも、これはそう簡単な問題ではありません。でも、自分の立ち位置さえしっかりしていれば大丈夫、そんなご夫婦の声が聞えてきそうです。

しゅういちさんの素敵な言葉をひとつだけご紹介しておきます。

「長い時間をためたひとつのストーリーを届けられば……..。それが年寄りの仕事かなと思っているんです。僕たちの生き方を。ひとり、ひとり、暮らしていくうえでの何かの知恵のような、次の世代に何かを伝えるためのそういうストーリーをと。」

 

 

 

写真家のかくたみほさんの新刊「MOIMOIそばにいる」(求龍堂2484円)が入荷しました。彼女には、当店のギャラリーで、二度個展をしていただきました。

2006年、初めてフィンランドを訪れたかくたさんは、この国の魅力にハマり、その後十数回も渡航を重ねます。

「自然の恵みを活用して循環できている中に、生きる人と動物の知恵があり美しいのです。日本のように自然信仰がベースにある考え方は居心地良くて、みんなが仕事より暮すことに重きのある生活を送っていることにも惹かれました。」と、書かれています。

当店での写真展で在廊中に、我が家の愛犬マロンを撮影していただきました。ちょうど2015年度のカレンダーの仕事で、犬をたくさん撮影していらした時で、なんとマロンは、表紙になりました。(その時の飼主のバカ喜びぶりは以前ブログに書きました。)

犬の写真には定評のある彼女なので、この写真集でも、フィンランドの優しい自然の中で、のんびり暮す犬たちが撮影されています。犬ぞりで冬の大地を駆け抜ける作品は、おそろしく寒いだろうけど、たまらなく魅力的な夜明けが撮影されています。

「犬ゾリで凍った湖の上を走る。am10:00明るくなり始めた美しい空。太陽が低いのでピンクとブルーのファンタジーな色が数時間続くのが日本の空とは違う。私が冬に魅せられた色だ。」疾走する犬ゾリの前方にうっすらとピンク色で輝く地平線が美しい。

犬ぞり最後尾を走る、しっかり者の犬が、ちゃんと付いて来てる?と振り返ってチェックする様を捉えたユーモアたっぷりの作品などを見ていると、かくたさんと、この犬の間に伝わるものが感じられます。

サンタクロースが住んでいるとされているラップランド。スウェーデン、ノルウェイ、フィンランド、ロシアの4カ国にまたがっている広大な場所は、原住民のサーミ人が暮らしています。かくたさんは、ここを訪れて、トナカイと暮す人達もファインダーに収めています。湖に佇むトナカイを見ていると、サンタさんが住んでいても不思議ではないと思いました。

サーミの華やかな民族衣装に身を固めた人物が、飼っているトナカイと一緒に収まっている写真が最後を飾っています。暖炉にあたりながら、魅力的な神話を語ってもらえそうです。

彼女の前作「キラリキラリ」(パイインターナショナル)も置いていますので、こちらもぜひご覧下さい。

◉写真集発売記念の個展が神戸であります。5月12日〜31日 神戸・iiba ギャラリー