確か、50年代のアメリカ映画「スペンサーの山」だったと記憶しているのですが、街を出て都会に向かう青年に、老人が”Today is just another  day……..Have a nice trip” という台詞が、心に残るエンディングでした。

“Today is just another  day” 一見単調に見える毎日。けれども、少しづつ違っている。今日は今日、明日は明日。いい旅を続けてくださいと言われて青年はバスに乗ります。ジム・ジャームッシュの新作「パターソン」を見ていて、この台詞が甦りました。毎日の新しさ忘れずに、いい人生をとでも言いたげな老人の台詞が、響いてきました。

主人公の住むいかにもアメリカの小さな町の名前は、パターソンで、彼の名前もまた同じパターソン。市バスの運転手です。

毎日同じ時間に起きて、簡単な朝食を済ませ、歩いて会社に出向き、バスを運転して、同じ場所でランチボックスを開いて昼食、午後の仕事をこなして帰宅。夜は妻の作った料理を一緒に楽しみ、愛犬と散歩に行き、途中で馴染みのバーでビールを一杯。そんな生活が毎日、規則正しく続きます。映画は月曜日から次の月曜日までを丹念に淡々と描いていきます。

規則正しい毎日とはいうものの、ほんのちょっとした違いが日々起こります。バスが故障することもあるし、バーでの諍いにも巻き込まれる。ここまで書いて来ると、退屈な映画だと思われるかもしれませんが、ちょっと違うのが、この運転手の趣味です。詩作です。運転の前、ランチの後、または自宅で、ノートに思いついた詩を書き綴ります。まるで、微妙に変化する日々を慈しむように、ひたすら書き続けます。

世界の少しの変化を言葉に翻訳するのが、詩人の役割だとすれば、日々、始発のバスに射し込む朝日の輝きや、空の色、散歩の時の夜風の肌触りや、町の雑踏を歩む人々の姿をパターソンは見つめ、拾っていきます。私たちは、彼と一緒にお付き合いするようにパターソンという町をみつめます。そんなに大きな出来事ではなくても、生きていれば様々な事が起こります。まぁ、こんなもんかなぁ〜。上を目指さない、望まない、飄々と毎日を生きるパターソンの姿を、平凡で退屈だとは思わず、しみじみ幸せそうだな、と感じるのです。

「ストレンジャー・ザン・パラダイス」でセンセーショナルなデビューをした時、あの映画のポスターはクールだっだけれど、監督としての力量は、まだ信用していませんでした。が、小津安二郎ばりの映画リズムで展開する「パターソン」の演出には脱帽しました。

カンヌ映画祭で、パルムドッグ賞を受賞した犬の”マービン”の演技もお見逃し無く。

 

 

 

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真左・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

ご近所の出版社ミシマ社より、吉田篤弘の新刊「京都で考えた」(1620円)が発売されます。

全国発売は10月20日ですが、京都地区先行販売が決まりました。また、ご予約された方には先着でサイン本をお渡しします。先行発売は10月12日(木)です。

吉田は、クラフト・エヴィング商會で出版した数々の書籍を含めて当店でも人気の作家です。クラフト時代の作品では、猫、犬というテーマで文学アンソロジーを作った「犬」、「猫」(中央公論新社各900円/絶版)が、個人的にはベストだと思います。装幀のセンスの良さ、それぞれに登場する犬、猫のキャラの可愛らしさもさることながら、例えば猫編で取り上げられている寺田寅彦の「猫 子猫(大正10年発表」は寺田のエッセイストとして質の高さが伝わってきます。また、犬編で取り上げられている徳川夢声のユーモア溢れる「トム公の居候」など、選ばれた作品がどれも楽しい。

吉田のソロワークは、小説、エッセイと沢山あります。ややシュールな展開をする小説には好き嫌いもあると思いますが、「それからはスープのことばかり考えて暮らした」(暮らしの手帳社950円/絶版)などは、特に起伏のあるストーリー展開ではないのに、何故か心に残る小説です。

仕事を辞めた青年が、新しい町に来て、白い十字架が見える家を見つけ、「朝、起きると、まずカーテンをあけ、窓の向こうの白い十字架を眺めて煙草を一本吸う。この十字架も雲と光の加減で、日々、表情が変わってゆく。」という日々を見つめた小説で、初期の村上春樹っぽいニュアンスもありますが、登場するサンドイッチや、ポタージュといった小道具の使い方が絶妙です。

装幀には拘った本作りをしていますが、最近の作品「ブランケット・ブルームの星形乗車券」(幻冬舎1728円)は凝りに凝っています。本の上半分がイラストになっていて文章は下半分に集約されています。絵本のような、小説のような不思議な世界が展開します。

 

吉田篤弘の新刊「京都で考えた」ご予約お待ちしております。 

 

 

 

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

 

 

 

 

大きさはハガキ大くらいの小さな絵なのですが(写真上)新鮮なタケノコの、土の薫りが漂う絵にどっしりした額がよく似合っています。

白崎和雄さんの、ネイルカラーで描くミニガラス絵展は、昨年に続き2回目の開催となりました。

学生時代は油絵を専攻されていたのですが、小さなガラス絵の魅力にはまって3年。キラキラとみずみずしい小さな宝石のような作品が並びました。ガラス絵は裏から描いていくので、出来上がった時に一番上にある色を最初に置くのです。しかも、ネイルカラー(マニュキア)は、速乾性なのでスピーディーに描かなければなりません。慣れるまでは難しそうですが、きっとこの速さが魅力なのでしょう。約30年のサラリーマン生活を経て、再び絵に取り組まれ、花、果物、野菜、瓶、置物など、ご自身の身の回りの愛着のあるものたちを、眺めて絵を描く豊かな時間を感じます。

絵を入れた額が、またとても個性的です。インターネットで探して、手に入れた額に触発されて描くことが多いとか。だから、まず気に入った額と出会う事が、ガラス絵の出来映えを左右するというくらい大切なのだそうです。そして、絵と額がピッタリ合ったときの喜びが、次のエネルギーになるのでしょう。

半分に切ったトマト、ガラス絵の透明感と合って美味しそうですね。(写真左上)割れたランプシェードのガラスの形が面白くて描いたという「割れたシェード」も、額のデザインとピッタリです。小さな額絵は場所を選ばないので、部屋や、廊下、洗面所のちょっとしたスペースにも掛けられて、プレゼントにもお薦めです。作品は全て販売しております。(税込み9800円)

絶対的に好きなものをみつけて、好きな絵を作っていく幸せが、観ている者をまた幸せな気持ちにしてもらえるのだと思います。(女房)

ネイルカラーで描いたミニガラス絵展 9月26日(火)〜10月8日(日)まで

 なお、愛知県立芸術大学卒4人による「第6回湫画会展 西野理・曽根孝子・田中孝・白崎和雄 洋画展」がギャラリーヒルゲートで開催中です。(10月1日まで)

 

 

最近TVのCMで気になるのは、やたらと部屋の、或は衣服の匂い消し商品のCMが増えていることです。最低限のエチケットは必要ですが、匂いを徹底的に敵視して、完璧に消そうとする意図があります。そんなに、科学薬品を部屋に充満させて大丈夫かと思いたくなります。「抗菌グッズ」もそう。人間は様々な菌と共生しているのに?と疑問でした。

匂い消しや抗菌機能をさらに、さらに高めるのに日々邁進しているみたいです。それは、一商品に留まらず、すべての生産活動に当てはまります。

山口ミルコは「似合わない服」(ミシマ社1620円)で、こう述べています。

「私たちは速く生産し、速くお金に換えることをしばしば周囲から求められる。誰が私たちを急がせているのだろう?社長や上司といった誰ではないはずだ。もっと大きなもの。目にみえない、大きな何か」と。

著者の山口は、20数年間出版社勤務を続け、様々な本を出版してきました。癌を発病し、苦しい長い闘病生活を経験し、癌の告知と前後して、会社を辞めて文筆活動を始めました。

彼女は癌になった感覚をこんな風に書いています。

「一心不乱に、勝手な編み物がすすめられている。何者かによって。ものすごい速さで。私の意志はそっちのけで。そして異常な細胞が美しい編目で編まれて『どう?とてもステキでしょう』と誇らげにヒトの体にまとわりつく」

この本は、よくある癌闘病記ではありません。病になって、世の中の大きな流れから一歩身を引いた時、見えてきた事をざっくばらんに語った本です。生態系も、人間関係も、ぶっ壊しながら猛進する資本主義というものは、人類全体にとっての似合わない服なんじゃないか?著者は癌という病を得て、「Change」が一番大切だと気づきます。自分が変われば、世界は変わると。

「病むということは、その人にとって何かが間違っているというシグナルなのである」と著者は言います。ならば、病んだ社会というのは、何かが間違っているというシグナルという事です。

アウトドアカルチャー「パタゴニア」創始者、イヴォン・シュイナードは映画「180°SOUTH」(DVD2500円)で「世界中のほとんどの問題は方向転換すれば解決する。欠陥のあるシステムを維持する必要はない」と語っています。

間違っているならば、方向転換すればいいだけの話なんですが……..。

 

絵本作家、酒井駒子の絵と散文が楽しめる「森のノート」(筑摩書房1800円)が入荷しました。元々、筑摩書房が発行している小誌「ちくま」に2014年から2年間連載していた「引き出しの森」に加筆したものです。

「ちくま」は書店店頭で無料配布しているものですが、発行部数が少ないのかあまり見かけることはありませんでした。どうしても欲しかったので版元に連絡して2年間分送ってもらいました。今でも、書架から出しては、少しづつ読んで、眺めています。

淡いタッチで、少年少女の孤独な心の奥まで見せてしまうような彼女の画風は、今更説明する必要はないと思います。作品に付随している短い文章に注目です。

「演習か何かだろうと思う。飛んでくる軍用機をあんなに近くで見るのは初めてだった。カラマツの森とカーキ色の機体とのコントラストが不穏で何度も頭の中で思いだす。機体にはフロント以外、窓が一切無かった。ぬるんとした生き物みたいだった。」

軍用機の不気味さを「ぬるんとした生き物」として、殺戮の恐怖を表現しています。で、この文に描かれている絵は、白いワンピースを着た少女が、小さな鳥と戯れている様を描いた作品です。もしも、この軍用機が爆弾を落として、少女を吹き飛ばしてしまうことを想像すると、ぞっとしてきます。

絵が単に文章の挿絵になっていないところも、この本の面白いところです。例えば、バレーのコスチュームを纏った少女が、仔グマと踊っている作品の後に続く文章は、「道の途中」というタイトルで、郊外の古い建物に入った時の印象と、散歩途中の橋で見つけた小さな子ども用手袋のエッセイ。「小さなミトン。欲しいような気がしたが、通りすぎる。子狐の、細い棒のような手に、はめてみたい」と、クマさんの手を取って踊る少女の切なさがシンクロしているように感じました。上手い本作りですね。

酒井は、多くの本の表紙の絵を描いていますが、岩瀬成子の「マルの背中」(講談社1200円)の表紙絵も素敵です。母親と二人暮らしの少女が、ある日”幸運の猫”を貰いうけます。真白な猫とそれを見つめる少女を描いています。大人が考える以上に、過酷な世界で生きている子どもの世界を象徴的に描き出した作品ですが、個人的にはここに登場する駄菓子屋のおっちゃんを描いて欲しかったです。

 

 

 

 

 

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

 

 

 

作家というのは、こんな思考をするのかと感心した一節。

「あたまを雲の上にだし」で始まる「富士の山」の後半の歌詞「四方の山を見下ろして」に違和感を持ち、

「富士山は、別に他の山を見下ろしているわけではない、ただそこにあるだけだろう、と思えてならなかったのです。そんなふうな擬人化は、富士山の無理やりな矮小化に思え、山を、自然を冒涜しているように感じていたのでした。」

と、語るのは、当店でも人気作家の梨木香歩です。師岡カリーマ・エルサムニーという文筆家と彼女の往復書簡集「私たちの星で」(岩波書店1100円)に登場します。師岡は、日本人の父とエジプト人の母の間に生まれたイスラム系日本人です。彼女が世界で感じたイスラムのことに、梨木が対応するスタイルの書簡集です。

二人は世界情勢やら、人種差別のことを語っているのではなく、日常の些細な事、日々の暮らしの中から浮き上がってきた事などを、ぜひ聴いてくださいみたいな、嬉しそうな感覚で話し合います。もちろん、妙なナショナリズムが徘徊する、今のこの国へは厳しい視線をお持ちですが、肩は全く凝りません。

書簡を読みながら、梨木が異文化に対する態度を書いていた「春になったら苺を摘みに」にあった文章「理解はできないが受け入れる。ということを、観念上だけのものにしない、ということ」を思いだしました。

この書簡の中でも、「違う文化を拒絶せず黙って受け入れた経験を、たくさん持てば持つほど、ひとの『寛容』はどんどん鍛え抜かれていき、そのことがきっと、私たちを『同じ』家族にする、という観測は、あまりにもナイーブな楽観主義でしょうか」と書いています。

20通の書簡を読んで、多くの異なった文化で構成されている世界を見る目に柔軟さが増せばいいと思いました。

さて、件の「富士の山」をどうせ、擬人化するなら、こうだと変えてきました。

「あたまを雲の 上に出し 四方の山を 見守りて かみなりさまは 下で鳴る 富士は日本晴れの山」

彼女、大声でこれを歌っていたみたいです。なるほど、こっちの方がスケール大きいですね。

 

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オープンして60年を迎えた、霧ヶ峰高原沢渡の山小屋クヌルプ・ヒュッテ。ヒュッテを仕切る松浦寿幸さんは1926年生まれ。一緒に山小屋を守る妻の小夜子さんは1937年生まれで、どちらも現役です。先の大戦を経験した後、この山小屋を開いた経緯、そこに集う多くの人々、そして高原の日々をを語ったのが「山の家 クヌルプ」(Ecrit2160円)です。

版元のEcrit(エクリ)は、クートラスの画集等アート系の優れた本を連発している出版社です。それが、山小屋の本を出すのは?? 読んでゆくと、文章を書き編集した版元のメンバーが、この山小屋に、夫婦で、子どもを連れて、何度も訪れたことが解りました。だから、本の隅々にまでクヌルプへの愛情が溢れています。

先ずは、松浦夫婦の出生、多感な少年少女時代の話から始まります。そして、忌まわしい戦争。戦争の荒廃で、心身共に疲労困憊していた寿幸さんを癒したのは、各地の高原であり、山々でした。

「風景だった。己に『生きよ』と言っているのは目前の山の風景だった。世界が新しく見えたわけではない。風景という言葉とともに、寿幸はこの日が戦後の精算と再作業のはじまりだった」

ヘルマン・ヘッセを愛読した寿幸さん、「指輪物語」が10数年間マイブームだった小夜子さん、という文学愛好家のもとには、様々な人達が寄り、別れていきます。

「山でも町でもない境界で、高揚し、一気に終息した学園闘争に疲れきって身体を休めたい学生と、どう見ても自殺願望としか考えられない女性が同じ食卓に着く。ランプの灯はとても小さい。薪の炎も近くへ人を招くけれども、ランプは仄かな光の中に人を囲い入れる。」

何物にも変えられない心の安らぎが、ここには確実にあったのでしょう。編者自身、山小屋の裏山で雲を見つめる楽しさをこう書いています。

「標高と眺望。空に広がる雲の様は、しばしば完璧に構成された絵画のように出現する。そして動くのだ。崩れるのではない。完璧さを保ちながら動き続ける。だから、きっと見飽きることがないのだろう。」

小さな山小屋の本ですが、豊かな気分にさせてくれることは間違いありません。

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 


 

 

 

 

 

 

 

「都市と野生の思考」(インターナショナル新書400円)は、京都大学総長の山極寿一と、京都市立芸術大学学長の鷲田清一との対談集です。

二人の知識人が、様々なテーマで縦横無尽に語り合います。大学の存在意義、老いと成熟を学ぶ場としての京都、これからの家族の在り方、アートの起源、自由の根源、ファッションに隠された意味、食の変化がもたらすもの、教養とは何か、AI 時代の身体性まで語り尽くします。優れた知識人の話が、読者の知的好奇心を膨らますというのは、こういう本のことですね。私は1章づつ、電車の中で読みました。

ところで、東京生まれで生粋の京都人ではない山極先生は、京都をこう語っています。

「京都ではいまだに、衣食住にかかわるしきたりがきちんと保たれている。これが根っこを共有する意義でしょう。これは表に現れないからこそ大切なものだった。そんな根っこを日本の多くの地域は失ったんですね。」

へえ、そうなの?と思わないこともないんですが……..。

山極寿一は、ご存知のように霊長類の研究者として、研究発表、執筆など様々な活動をされています。その中の一冊「ゴリラの森に暮す」(NTT出版/絶版1400円)はお薦め。アフリカのザイールで野生のゴリラを追い求めてジャングルを駆け巡った日々を中心に書かれた本ですが、文章が平易で、専門用語が少ないので誰でもスルリと読めます。第一章の「原生林の世界」だけでもお読み下さい。ジャングルで道に迷い野宿をしたその夜、すぐ側に何頭ものゴリラたちが集まっていた時のことなど、小説みたいに面白く読めます。

山極寿一が原生林を歩きはじめたのは、数十年前。日本でサルを観察するために、各地で餌付けが始まり、成果は大いにあったみたいです(京都なら嵐山のサルが有名)。しかし、その一方、これで本当に野生に生きるサルの生態が解るのだろうか、と、人間からエサをもらうために道路沿いにズラ〜ッと並んで待ち続ける彼らを見て、疑問に思い始めます。それで日本各地を巡り、最後に屋久島に行き着きました。

屋久島に棲息するサルたちの生態を追って、彼らの社会を描いたのが「サルと歩いた屋久島」(山と渓谷社1200円)です。当時、大学院生だった著者は、各地で餌付けされて、やけに人間に親しいサルたちに違和感を抱いていました。ところが、屋久島のサルたちは、まるで人間なんて存在しないかのように振る舞っていました。そんな野生のサルに引込まれてゆく姿が描かれたネイチャーエッセイです。

笑い顔が素敵な著者の研究の原点を読むような二冊のサル本です。

 

 

 

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

 

 

「文麗仮名というのは、近代文学向けの書体です。夏目漱石の『こころ』を読んでつくってほしいと言われ、やってみたものです。文勇仮名はプロレタリア文学、流麗仮名は女流文学向け、そして蒼穹仮名はカタカナが主役になれるちょっと変わった書体で、外国文字の翻訳のためにつくりました。」

これは書体設計士の鳥海修さんが、詩人谷川俊太郎宅を訪れた時に、自己紹介代わりに自分の代表作を紹介されたものです。この二人が向き合ったのは、谷川さんの詩のために、鳥海さんが文字をつくるという企画のためでした。二人の対談は文字への愛情が溢れています。谷川が若き日に読んで、書体が気になった野上弥生子「小さき生きもの」を持ち出せば、鳥海が、それは大日本印刷が持っている秀英という文体ですね、と応えるというふうに。

本の文字への深い想いをまとめた「Book Arts and Crafts」の取り扱いを初めました。1号と2号が発売中で、谷川の本を作る特集は2号です(1080円)。発行元は「本づくり協会」。様々な本作りへの啓蒙活動を通じて、文字への、或は紙への理解を深めていくことを目的としています。

本の内容だけでなく、製本、装幀、文字等々をトータルにひっくるめてモノとしての本に魅かれる”愛本家”には、ぜひ読んでいただきたいミニプレスです。なお、この協会には、以前ご紹介したクルミド出版社代表の影山知明さんが理事として参加されています。徹底的にモノとしての本作りに拘ったクルミド社の本に接したことのある方には、この本の質感が分かって頂ける思います。

もう一冊、新刊で井原奈津子著「美しい日本のくせ字」(パイインターナショナル1944円)という、文字に関する本も入りました。様々なくせ字を分析してあるのですが、文章が面白い!

松田聖子のファンである著者が、子供心にもデビュー当時の聖子の「丸文字」をダサい!と思い、「デフォルメが大きすぎる。左右非対称で均整が取れていない、曲線はゆがんでいる……..」と欠点をあげつらい、その後変遷する聖子の文字を巡ってああだ、こうだと推測し、「聖子さんはずっと輝き続け、私たちは魅了されるのだろう」と、やはり聖子は素晴らしいんだという結論まで楽しそうに綴られています。

70年代女子の丸文字から、90年代女子の長体ヘタウマ文字まで、よくここまでくせ字を集めたものです。これは?と思うくせ字に出会った時に、コレクター魂で例え落ちているメモでもゲットした努力の賜物なのでしょうね。著者は、習字の指導、毛筆ロゴの制作を行いながら、「くせ字愛好家」としてくせ字講習会も実施されています。

因みに、鳥海修さんも井原奈津子さんも出身は多摩美大です。

税務署の事業届けでは、古本屋で申請しています。ミニプレスやら、新刊、あるいは比較的新しい作家を、このブログでは取り上げていますが、いかにも古本屋さんらしい本も読みますし、販売もしてます。ただ、私は完本(初版/帯付き/函)至上主義ではないので、まぁ、あんまり積極的でないのも事実です。

昭和15年に発行された獅子文六の「牡丹亭雑記」(白水社/重版500円)は、この作家の飄々としたユーモア精神満載のエッセイ集で、気分が良くなってくる一冊です。

「乾いて、ヒンヤリと、セーヌの河波を運んでくる風ー。『あア、いい気持ちだなア』と、思ふ途端に、河岸のプラタースの葉越しに、パッと、花火の光と音に驚いたりする。」

これ、パリ祭を現地で楽しんだ時の文章ですが、初夏の風が肌に当たる気持ちよさが伝わります。

大正11年、”東京市”神田町の金星堂から出た佐藤春夫「芸術家の喜び」(初版1000円)は、真面目な芸術論で、眠たくなったりするのですが、「室尾犀星『幼年時代』は上品な静かな情緒が私を同感させた。それにはどこか、小川未明君や秋田雨雀君や葛西善蔵君などのそれぞれの一部分と一脈の共通した『詩』の心境がある」という文章を見つけた時、極貧を描く葛西の小説の良さを理解する手助けになりました。

最近、見直したのが昭和17年に発行された堀辰雄の「幼年時代」(青磁社/函入りー穴空いてます/初版300円)です。堀辰雄の、一般的イメージと言えば、「風たちぬ」に代表される清純で、ロマンティシズム溢れる世界ではないでしょうか。この文庫サイズの函入り本「幼年時代」を読んでいると、リアルな文体で、感傷的にならずに、少年の目で見た世界を見事に描き出しています。「さういふ夏が終って、雨の多い季節になった」で、始まる「洪水」は、台風並みの風と強い雨で、彼の家の側の河川が氾濫し、避難する話で、少年ながら冷静にその時の状況を見つめています。過ぎて行った時代へのセンチメンタリズムを巧みに織り込みます。あ〜堀辰雄ね……、などと知ったような顔をしてはいけないと思いました。

 

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします)