キッチンミノルさんの写真集「メオトパンドラ」(FOIL2160円)が入荷しました。

キッチンミノルさんは、先週までレティシア書房で『神保町』展をされていた得地さんのお連れ合いです。ちょうど『神保町』展と同時期に誠光社さんで写真展をされていました。

「メオトパンドラ」は、数十組の共働き夫婦の日常を捉えた写真と、桑原滝弥の詩が一緒になった写真集です。え?フツーの夫婦の写真ばっかの本って面白いの?

これが面白いんです。

谷川俊太郎が帯にこう書いています。「シャッターの一瞬と、詩の一節が、女と男のパンドラの函の蓋をほんの少しずらして見せる。ここから彼らふたりの物語とともに、わたしのわたしと、あなたのわたしの、いのちといのちの物語が生まれる。」

 

「ある日人生捨てて運命拾いました」という詩句の横に、マンションの通路に立つ若いご夫婦のポートレイトから、写真集は始まります。そして、部屋にいるご夫婦の前に立って、こちらを見つめる愛娘の写真と「わたしもいつかそうなるの」という詩句で本は幕を閉じます。数多くのご夫婦が登場しますが、まるで一組の夫婦の生きる時間を集約したような錯覚を覚えます。

「出会った夫婦の関係はそれぞれが独特で、唯一無二の存在なのだった。きっとそれは夫婦として、一人の人間として試行錯誤し作り上げたものだからだろう。その結果、夫婦関係には独特の味が滲み出ているのだった。」

とはキッチンさんの言葉ですが、その「独特の味」の味が画面にほのかに表れているのが、この写真集の最大の持ち味でしょう。

何回も眺めているうちに、何故か戦後の小津映画を思いだしました。何気ない日常生活を、執拗なまでに細かく描き続けた小津映画を、同じ松竹出身の吉田喜重監督は、「何気ない日常が、今日も、明日も続くことが平和であり、小津映画は、その平和を邪魔しない、されないことを描く反戦映画だ」と言い切りました。「メオトパンドラ」に登場する夫婦達にも、多くの事が起こります。それは生きていれば当然です。けれども、明日も、明後日も同じ空気を吸い、同じごはんを食べて生きてゆく、その日常の平和を願わない夫婦はありません。

「暮らしの中に死んで生まれて」という詩句が、本の中に入っていました。そういう暮らしを邪魔するものが戦争です。「私達は平和に生きる。」そんなメッセージが聞えてきそうな写真集です。

 

★2月8日(水)〜19日(日)レティシア書房恒例「女子の古本市」を開催いたします。

東京、岐阜、神戸、大阪、滋賀、京都から20数店の女性店主がセレクトしたステキな本が、所狭しと並びます。ご来店お待ちしています。


 

 

 

まるで物語の中から出て来た様な少年少女や、動物たちが、本屋にお目見えしました。mariko fukuraさんの『Journey』(ジャーニー、旅)というタイトルの展覧会が、今日から始まりました。

本が大好きなmariko さん、京都で初めての個展をレティシア書房で開いていただきました。本をテーマに描かれた絵も並んでいます。大きな本を前に、なにやら楽しそうな男の子は、お話の旅に出かけようとしているのかもしれません。そして、お話の波に漂いながら眠っている女の子は、どんな夢をみているのでしょう。お盆に本をのせて運んでいるお針子さんも、夢と現実を行き来しているように歩いています。

ステキなシャツを着てお出掛けしようとしているワニも、花のメロディーを奏でているウサギも、みんなそれぞれの人生(?)の一コマ。ここから新しいお話が紡ぎ出されていく感じ。

mariko さんの描かれる『Journey』は、旅の風景画ではなく、みんな物語の旅の途上ってことなのでしょう。色鉛筆、水彩、コラージュ、染色を使って描いた絵は、カラフルなのに、しっくりと落ち着いていて、自然な色合いが好きだと言う作家が、こだわり抜いて作り上げた画面には、奥行きがあります。

そして、物語の中から出て来た様な少年少女、動物たちは、絵の中で、思い思いに生きることを謳歌しています。「描くことも歩くことも。眠ることも、みな旅のようなもの」というmariko さんの絵本ができたらぜひレティシアに置かせて下さい。主人公が、歩き出す旅のお供をしたいものです。

今回、mariko さんデザインの雑貨もたくさん並んでいます。カード、布製バッグ、紙テープ、はんこ、レターセットなどなど。中でも個展のために、親しくしているお菓子屋さん「niwa-coya」に作ってもらったという特製クッキー(600円・450円)は、ぜひ。(女房)

 

 mariko fukura『Journey』展は、1月29日(日)まで  月曜定休日

 

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アイドルだと思っていた原田知世は、今や立派な女優さんになりました。彼女が、オールドファッションな曲を、オリジナル言語でカバーしたアルバム「カコ」(廃盤2200円)が入荷しました。

ジャケットに、まるで彼女の幼少の時かと思わせる写真が使われていますが、これ植田正治のお嬢さんの和子さんを撮った作品なのです。和子さんの愛称”カコ”をアルバムタイトルにしています。アルバムが発表されたのは1994年。自分の写真を使用しないで植田の作品を使った彼女のセンスに、アイドルから脱皮していく気持ちを感じました。

さらに、CDのインナースリーブの写真は植田正治が撮影しているのです。まさか、こんなところで植田の作品で出会うとは驚きです。彼は出身地の鳥取県境港市を拠点にして、いわゆる「植田調」の写真を撮り続けました。とりわけ、鳥取砂丘に人物を並べたポートレイトは、独特の、不思議な世界が立ち現れていました。彼の全貌を知りたくて鳥取にある「植田正治写真美術館」まで行き、素敵な時間を過ごしたことを思いだします。

さて、原田知世は、プロデュースに「ムーンライダーズ」の鈴木慶一を迎えて、62年、スキータ・ディビスのヒット曲「この世の果てまで」(あぁ〜あの曲と思いだす、あの曲です)、64年、イタリアの歌手ミーナが歌った「砂に消えた涙」、ご存ジョニ・ミッチェルの名曲「青春の光と影」等7曲を歌っています。裏ジャケのスタッフの名前のところに、”Language Master”というクレジットで三人の名前が入っています。英語、イタリア語、フランス語の歌詞をきっちり歌うために、発音をしっかり学び、発声したという気合いの表れです。これも、アイドル脱皮第一歩だったのかもしれません。

植田の撮った彼女のポートレイトは、きっと被写体と相性がいいのか不思議な浮遊感を醸し出しています。

 

ところで、京都は朝から雪。犬の散歩コース御所も雪景色でした。犬たちはもう大喜び。写真は「楽しいなぁ〜」会話する我が家のマロン(15歳)と後輩犬のラッキー(7歳)です。

 

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私が初めて読んだ長田弘の本は、「深呼吸の必要」です。他には、みすず書房から出版された「一日の終りの詩集」(絶版2300円)や「死者の贈り物」(絶版1500円)が心に残り、今でもパラパラ捲っています。

「この世で、人はほんの短い時間を、土の上で過ごすにすぎない。仕事して、愛して。眠って、ひょいと、ある日、姿を消すのだ。人はおおきな樹のなかに」(アメイジングツリー)

「ほとんど百年を、愚直に生きてきて、そして、いま、あなたは 上手に死ぬことをもとめられている」(老年)

などのフレーズは、60歳を過ぎると切実です。

一作年亡くなった詩人長田弘が、雑誌その他に掲載していた短いエッセイを集め、著者自らが編集した「幼年の色、人生の色」(みすず書房2016年発行/1800円)は、美しい文章の詰まった一冊です。

「幼年の色、人生の色」にも彼らしいみずみずしい言葉が溢れています。朝起きた時に、どのページからでもいい、ひとつだけ、しっくりくるタイトルがあれば、そこを開くという読み方をお薦めします。

例えば「静けさというのは、何の音もしないということとは違う。静けさよりももっと静かな、もっと微かな音が聴き取れる事だと思う」という文章で始まる「ひそやかな音に耳澄ます」を読むなら、夜。TVもパソコンもオフにした状態で読むのがベスト。

音楽に関するエッセイも多く、若くして異国の地で客死したサックス奏者エリック・ドルフィーは、自分のサウンドを小鳥のさえずりに影響を受けたことに言及した上で、

「今の世界に満ちている敵意を嘆きたくなる日には、小鳥たちのさえずりを師とし、岩にうちよせる波の音を練習の仲間にした、ジャズの天才の遺した音に耳を傾ける。そしていま、もし小鳥たちがジャズを自由に演奏したなら、キビタキも、オオヨシキリも、きっとドルフィーのように演奏するにちがいないと考えると、いつのまにか気分が澄んで新しくなっている。」

と結んでいます。

また、ドルフィーが聴きたくなってきます。

 

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「BOOK5」最終号で、南陀楼綾繁さんが「いま小さな出版社や書店を経営している(もしくはこれからはじめようとしている)人にこの本を読んでほしいと、機会があるたびに話してきた。」と書かれていた宮田昇「小尾俊人の戦後」(みすず書房2600円)が入荷しました。正月休みに一気に読みました。

小尾俊人(1922〜2011)は人文書出版社「みすず書房」の創業者です。敗戦の年、復員してきた彼は、弱冠23歳という若さで出版社を立ち上げました。出版関係に人脈もなければ、資金もない。本を作るための紙を集めるだけでも一苦労も二苦労もする時代に、出版社は船出します。「みすず書房」と言えば、「ロマン・ロラン全集」が有名ですが、私はナチ政権下のドイツ強制収容所の体験を描いたフランクルの「夜と霧」(700円)を思いだします。

「小尾俊人の戦後」を書いた宮田昇は、翻訳に関するエージェンシーに在籍した関係で付き合いが始まり、親交を深めていきました。彼の著書「戦後『翻訳』風雲録−翻訳者が神々だった時代」を以前読んだことがありますが、小説みたいに面白い一冊だったので、今回も期待度大でした。

宮田は、小尾の故郷、長野県諏訪郡豊平村に何度も足を運び、関係者を探しては話を聞き、様々に資料を精査して、小尾の人となりを再現していきます。それは、彼が生きた戦後史一面を描くことになっていきます。一冊の本を出版するまでの苦難の道が、宮田の抑制のきいた文章で語られます。

創立十周年まで後一年となった昭和29年、新聞社の取材で、「真面目な本ばかり出してソロバンが取れるのか」という質問に「真面目なモチーフを貫いてもソロバンが取れることを立証するのも面白い」と答えています。内容、装幀、紙質等すべての角度からみて、よい本は成功するという信念からでた言葉なのでしょう。

「みすず書房」は学術系出版社の砦と思われがちですが、昭和20年代には、長谷川四郎、小島信夫、庄野潤三、小沼丹、島尾敏雄等の小説家の作品も出していました。小島と庄野は同社からの作品で共に芥川賞を受賞しています。最近では詩人の長田弘の作品は、ほぼ同社から出版されています。明日のブログでは、長田の最後のエッセイ集「幼年の色、人生の色」をご紹介するつもりでいます。

「小尾俊人の戦後」の後半には、彼の日記「1951年」と月刊「みすず」初期の「編集後記」も併録されています。「日記」の方ですが、私は一時代の知識人の思考を読むのにかなり苦労しました。日記の最後はこう締めくくられています

「何とか物にしたいという題目 現代日本人の思想生活における『自然』と『作為』 勉強せねば駄目です。人の事ばかり言うものではない」

「勉強せねば駄目です。人の事ばかり言うものではない」肝に銘じておきます。

 

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2010年4月から1年間、産経新聞地方版に連載されたコラムで、高橋マキさんの京都の喫茶店50軒を一冊にした「珈琲のはなし」(1000部限定/1296円)が入荷しました。

デカい顔で街中にあるチェーン店のカフェではなく、ひっそりと、マスター自慢の珈琲を提供しているお店が登場します。最近は週末には並んでいる人もいる寺町三条の「スマート珈琲店」、かつて私の友人も勤務していた四条河原町をちょい上がった所にある「インパルス」、先斗町の北のどんつき「吉田屋」、クラシック音楽が流れる出町柳の「柳月堂」、クラブサンドイッチが絶品の丸太町七本松の「シーシーズ」、マスターとジャズ談義していた出町柳の「ラッシュライフ」、そして、当店ご近所「月と六ペンス」まで、私自身何度か足を運んだお店が並んでいます。BWで撮影された写真が、それぞれのお店の雰囲気を伝えてくれます。どの店にも静かな時間が流れている感じがします。

そして、店主達は、それぞれに珈琲への思い、考えを持って店を運営されています。例えば法務局そばの「かもがわカフェ」マスター、高山さんは喫茶店とカフェの違いについてこう語っています

「喫茶店は、すでに日本独自の文化。一方、カフェはフランスでは立派な文化だけれど、まだ日本においては文化として未熟でなにも確立されていない。だからこそ『日本のカフェ』というものが文化になるかもしれない何年か後まで、店を続けてみたいなあと思うんです。」

著者の高橋さんは、取材で店主と話をしたり、その店のお客様の雰囲気を見たりしながらコラムを書き、一杯の珈琲がもたらす、小さな幸福感を届けてくれます。彼女自身が語る喫茶店のささやかな物語を聴く一冊です。

ところでご近所「月と六ペンス」マスターの柴垣さんが、店に雰囲気に合わない客に「帰ってくれ」と昔の頑固オヤジみたいに言いそうになった経験を語られていますが、なんと彼のお父様も上賀茂で古い喫茶店を営んでおられるとか。

「父の背中に憧れたわけではないんですが、やっぱり血を受け継いでいるんですかね」って、なんかいい感じです。

なお、最初の発行が2010年のために、閉店されたお店もあります。この本を読まれて行きたいなぁ〜と思った方は、事前にご確認を。

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画家、堀内 康司(1932〜2011)をご存知でしょうか。

私は知りませんでした。ある古本市で「堀内康司の残したもの」(求龍堂2500円)という本に出会い、鋭利で、クールで、孤独感を張りつめたような画風に思わず足を止めました。1950年代に町のあちこちに建つ煙突を描いた一連の作品の、ひんやりとした感覚に惹きつけられました。

この画家を調べてみると、画家としての活動は極めて短かったのですが、池田満寿夫を世に送り出した人物だったのです。堀内は、10代の頃、草間彌生らとグループ展に参加して、その実力を認められ始めました。50年代後半には、それまで住んでいた松本を離れ、東京に拠点を移します。そしてイラストレーター&エッセイストの真鍋博等と反画壇グループ「実存者」を結成、新しい芸術表現に向かうのですが、20代後半から画家としての活動を休止してしまいます。その後、競馬新聞の記者として一サラリーマン人生を送ることになり、絵筆を折り、若手が世に出る手助けに従事しました。

この作品集には、10代の頃の緩やかなフォルムのスケッチから、「都会は冷酷な半面にまだ一歩深い冷ややかさを備えていました」という彼の言葉を象徴するような無機質な町の表情を捉えた一連の作品、彼が愛した花街、フランス座の踊り子を描いた作品、そして死の冷徹な臭いを撒き散らす静物画まで網羅されています。生きているという感情を排除して、虚無感漂う作風をどうやって身につけたのか、或は何故に若くしてキャンバスに向かうことを止めたのか、その謎を探るためにこの作品集はあるのかもしれません。

昨年ブログで紹介した写真家、奈良原一高が、堀内 についてこの本の中で書いています。

「堀内 康司は僕と同じように軍需工場の廃墟の絵を描いていたので、彼は僕を自分が知っている様々な場所に連れていった。僕たちは玉の井の赤線地帯を訪れ、浅草のロック座の踊り子たちと話し込んだ。」

確かに、廃墟を描いた作品群には奈良原の写真に相通じるものがあるようです。

高度成長時代に入った頃、画家としての活動にピリオドを打ち、画家から、競馬新聞の記者への転身。競馬を描いた作品と共に、写真が何点か掲載されています。「府中ダートコース直線1962」は傑作と呼べる一枚です。直線コースの向こうから迫ってくる馬達のスピード感が見事に表現されています。映画のワンカットみたいです。

 

 

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アレクサンドル・コット監督「草原の実験」(ソビエト映画)を劇場で観なかったことが残念でなりません。(ディスクとして手元にあるので、今後何度も観られるとはいうものの)

映画の中には、観るものに徹底的に画面に集中しろと強要する映画が存在します。座っただけで、笑わせ、泣かせ、興奮させる映画とは一線を画す作品で、「アート系映画」等という意味不明なレッテルを貼られたりしています。

「草原の実験」もそんな一群の一つなのかもしれません。しかし、決して難しい映画ではありません。ロシアの大草原の一軒家に住む父と娘の日常、そして娘の恋を描いたお話です。ただし、全く台詞がないのです。僅かな音楽と、後は自然の音だけです。

映画は冒頭のワンカットから、ひたすら美しく、監督が精密に練り上げた映像を見せます。これを見ろ!集中しろ!という監督の声が聞こえてきそうなぐらいで迫ってきます。正直言うと、え!こんな状態で90分?と思ったのですが、不思議に作中の人物に成り代わって、自分で台詞を考えているぐらいのめり込みました。

誰もいない草原に、なんでこんなデブでハゲの不細工なとっつあんと、萌え度100%の美少女がいるんや!突然登場する可愛い少年はどこに住んどんねん!と関西弁でつっこみたくなりますが、一切の説明はありません。しかし、面白いのです。ただただ、食入るように観入りました。映像の見せ方は北野武、あるいはタルコフスキー映画に近いかもしれません。

タイトルに「実験」という語が入っていますが、極めて重要な言葉であることが、後半分かってきます。彼らが住んでいるこの地域は、核爆弾の実験場にされていたのです。実際にソ連は原爆開発のため、人が住んでいる事を隠して、実験を行った事実がこの映画の根本にあります。

映画は、初恋の相手と結ばれた二人の目の前で核爆弾が炸裂、二人の家も吹っ飛んでしまいます。背筋がゾッとるする光景なのですが、さらにゾッとするのはその後の夜明けのシーンです。「日は上り、日は沈む」という宇宙の法則を引っくり返します。美しい草原で始まった映画はラスト、人類の作り出した悪魔で幕を閉じます。

ぜひ、世界中の指導者達に見て欲しい作品ですが、拝金主義の新米大統領に、軽佻浮薄な言葉ばかりの首相には、理解できないかもしれません。悲しいことです。

 

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日本地域情報振興協会主催の日本タウン誌・フリーペーパー大賞2016の有料誌部門大賞を、長崎発の「樂」が受賞しました。おめでとうございます。

この雑誌は、2008年から季刊誌として発行されています。当店では、2013年あたりから取り扱いさせていただいています。2013年発行の22号は「長崎の本棚」という特集で、諫早出身の野呂邦暢を取り上げていたこともあって、早々に完売しました。その後もユニークな企画で毎号楽しみな雑誌です。装幀、内容共に全国流通の雑誌に引けを取らない作りではないでしょうか。

2016年春号(Vol31)は「長崎で走る、長崎を走る」という特集を組んでいて、長崎バス80年の歴史を様々な側面から描くという、地元ならではの企画です。人気のない「名串バス停」の写真を見た時、どっかで見たなぁ〜という気がしていましたが、宮崎駿の「となりのトトロ」で、トトロと少女たちが初めて出会うバス停に似ているんですね。こんな所なら、トトロも待っているはずです。

最新号ではシーボルトが取り上げられています。ドイツ人医師フィリップ・フランツ・バルタザール・シーボルトは、1823年、オランダ商館の医師兼自然調査官として長崎に着任します。それから6年間、西洋医学を伝えると共に、日本の自然、文化についての調査を行い、膨大な資料をヨーロッパに送り届けました。特集では、貴重な資料やインタビュー、シーボルトが長崎の町に残した足跡を駆使して、この町を愛した彼の全貌に迫ります。日本女性初の産科医、楠本イネはシーボルトの娘だったことも紹介されています。彼女の生涯は漫画家奈華よし子によって「楠本イネの生涯」というタイトルで作品化されています。

NHK「ブラタモリ」気分で、シーボルトに関して長崎のあっちこっち楽しめる特集ですが、最も面白かったのが「シーボルト事件」です。シーボルトが江戸に送った1つの小包から事件が始まるという、サスペンス小説ばりの展開です。彼と親交のあった幕府の書物奉行、高橋景保が持ち出し禁止の資料を彼に渡し、海外へ持ち出そうとしていたというのが事件のあらましですが、数十人が逮捕され、死罪、永牢、身分剥奪と処罰され、シーボルトもスパイとして国外追放処分になりました。彼は本当にスパイだったのかまで検証されていて興味尽きないレポートです。

バックナンバーの中には売切れもありますが、ご注文も可能です。これを機に一度「樂」を手に取って下さい。長崎歴史博物館では2月18日から4月2日まで「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」展も始まるそうです。

 

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新年早々、「ちくま文庫」大量入荷!!です。

小説好きなら、これはいいぞ!と思うのが大川渉篇による「短篇礼讃」(絶版600円)です。小山清、山川方夫、野呂邦暢、久坂葉子、田中英光、牧野信一、久世十蘭等12の短篇小説が収録されています。全集等には収められている作品ばかりですが、さて読もうとすると機会のなかなかないものばかり。

この中に、読んだことのない作家がいました。永山一郎です。「皮癬蜱の唄」という小説です。山深い僻地の分校の宿直室で夜を過ごす男の頭に去来する妄想で幕を開けるのですが、これ小説??という疑問符が…..。しかし、筋を追いかけずに、妙に粘り着いてくる文章に身を任せると、面白さが分かってきました。

「男はのろのろと蒲団から抜け出す。他人の昼が男の手足を縛り上げる。朝のきらめく吐瀉物が男を強姦する。男は窓にもたれ唾を吐き出す。」そして、登校してきた生徒達の「おはようございます」の声に耐えきれず失語症に陥るところで幕です。

因みに永山は昭和39年、したたかに酒を飲んだままバイクに乗り、川に転落死しました。享年29歳でした。

さて、次は遠藤哲夫「汁かけめし快食学」(絶版400円)です。「大衆食の会代表」の肩書きを持つ著者が、庶民が食べてきた「汁かけめし」をルポする料理エッセイなのですが、「目玉焼定食と目玉焼丼の厳粛なちがい」なんて、どうでもいい事柄にも真摯に対応しているところが良いです。

「ちらし丼はかけめしでないし、ヅケでやる鉄火丼はかけめしで、茶漬は茶をかけるがかけめしではない。このちがいはなんだ?読み進んでいくうちにわかるだろう」なんてね。

もう、一つご紹介。荒俣宏「ブックスビューティフル」(2巻セット/絶版900円)ですが、私の欲しかった本です。現代の書物には消滅してしまった挿絵の歴史を18世紀から20世紀までの欧米の書物を中心に紹介したクロニクル物です。もちろん、多くの作品が収録されています。それを見ているだけでも楽しい文庫本です。これは、あーだ、こーだと文章を書くよりも、実際に手に取ってご覧いただきたい。まるで西欧絵画史の絢爛豪華な時代の変遷を見ているような気分です。

順次店頭に出していきますので、お楽しみに。

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