アラスカ先住民クリンギット族の語り部、ボブ・サム。

宅地開発のために、掘り返され破壊された、祖先の墓に愕然とした彼は、たった一人で元に戻し始めます。20数年に渡るその活動で多くの遺骨や遺品が戻ってきました。と同時に、勝手に各地に持っていかれた遺骨、遺品を家族の手元に戻す、リペイトリエーション運動でも、中心人物として多方面で活動しています。

その一方、クリンギット族の長老から、彼らの部族に伝わる神話の語り部としての地位を託されて、世界各国の人々に伝えています。「かぜがおうちをみつけるまで」(スイッチ・パブリシング/古書1400円)は、ボブが創造した物語を、谷川俊太郎が翻訳し、イラストレーターの下田 昌克による美しい絵で綴られた本です。

「ひとがけものと はなしができ けものとひとと はなしができ どんなものにも こころがあった むかしむかしのおおむかし」が舞台です。

この時代、風にも心がありました。北へ、北へと風は、猛烈な寒さをもった大きな風になりました。凍りついて寒くなった風は、人やけもののいる南に向かいます。しかし、獣も人もすべて、風の寒さを嫌い、隠れてしまいます。即ち氷河時代の始まりです。ひとりでいることに耐えきれられなくなった寒い風は、勢いがなくなり弱くなり、海上を彷徨います。風の孤独に気づいた貝殻が、自分の貝殻で包んで温めてあげようと救いの手を差し出します。物語の最後はこうです。

「そんなわけで いま かいがらを みみに あてると かぜが おうちで くつろいでいるのが きこえる そして わたしたちは みんな そのすごい ひょうがじだいを いきのびた ひとにぎりの にんげんの しそんなのだ」

なんと優しく、力強いことばでしょう。

ボブはあとがきでこう述べています。「どんなものにもこの世界のどこかに<うち>がある、それを忘れずにいるのは大事なことだ。自分がしていることを、誰も気にかけてくれないなどと感じてはいけない。生きていくためにヒトは心を通わせることが大切だ。友だちと自然を分ち合うこと、顔に暖かい風が吹いてくるような気がする。この世界はすべての生きとし生けるものが分ち合う<おうち>なのだ。」

共生という言葉が隅に追いやられて、自らの優位性だけが声高に叫ばれる時代への警告でもあると思います。

自然界のあらゆるものは、それに相応しい場所があることを忘れないでおく、と言い続けるボブは、星野道夫の盟友でもありました。