ギャグマンガでお馴染みの上野顕太郎が、自分の妻の死を描いた「さよならもいわずに」(ビームコミック400円)を入手しました。元来、ナンセンスでシュールな世界を描いて来た漫画家が、突然の妻との永遠の別れを、どう描いているのか興味はありましたが、そんじょそこらのお涙ものにしていないのはさすがです。

作家は、本編の中でこう書いています。

「葬式が済んだ直後に、私はこの作品に着手する旨を担当に表明しており、直ちにネームにとりかかっている。それは生々しく、作品として客観性を欠いていた」

しかし、出来上がった作品は冷静です。妻の死亡から、その後の一年を描いているのですが、各章の見出しは「2004年12月9日 午後5時55分」とか、「2004年12月初旬」という風になっています。まるで、映像によるドキュメタリーみたいな感覚で、こちらも過剰な感情移入をすることなく、この作家の生きてきた時間を見つめることができます。細かい所まで描き込んだセレモニーとしての葬儀のシーンは、実際に身内を送った方には、そう、そうこういう感じだったよねと思いだされるかもしれません。

喪失感に苛まれた年が終り、新しい年を迎えます。だからといって、心機一転とならず、人生は続く。作者は、またこう言います。

「この作品の最後にあるのは絶望だ。だが、その先に希望があることを今の私は知っている。」

家に帰るのが好きだった主人公の「ただいま」という言葉で始まったこの本の、最後の章「2010年6月」の、最終のページに書いてある言葉は「おかえり」です。

コミックの様々な技法、或は映画的手法を駆使しながら、一人の作家の悲しみを描いた、いわば私小説ならぬ、私漫画の傑作でしょう。

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