「日当りのいい部屋に寝転がって、陽の光を背中に浴びているときである。『幸福とは、日当りのことである』というのが僕の唯一の個人的哲学なのである。前世は亀だったのだ」

と仰っているのは柴田元幸先生です。現代文学の翻訳家として、村上春樹、岸本佐知子と三本の指に入る人気翻訳家です。P・オースターの日本語版などは、彼なくしては読めなかったでしょうね。上記の文章は、彼のエッセイを集めた「死んでいるかしら」(日経文芸文庫400円)に収録されています。きたむらひとしのノホホン系イラスト一杯のこの本は、笑えます。

「文庫本とラーメン」というエッセイには、そうだよね!と拍手。

読書感想文に触れて、「本もやはり、もっともらしい言葉(感想)にする前に、まずは『味わう』べきものだと思う」と前置きして、

「うまいラーメンは腹を豊かにするが、知的な本は頭を豊かにし、情熱的な本は心を豊かにし、好色な本は下半身を豊かにする。(しないか)」

そして、ラーメンを食べる気楽さで、感想文のことなんか無視して本を読むのがいいとおっしゃる。大体、読書感想文があるなら、ラーメン感想文があってもいい!と、話は暴走します。小学生にインスタントラーメンを調理をさせ、味わい感想を書かせる。

「『出前一丁を食べてみて、私が一番感動したのは、麺のコシの強さです。食べはじめから食べ終わりまで一貫して失われないその強さを、私も見習って、これからは強く生きていきたいと思います。」

これをナンセンスと言うなら、読書感想文も似たようなものかもしれないと。

もうひとつ、ご紹介します。「エレベーター・ミュージック」。デパ−トのエレベーターや、館内でかかる人畜無害なBGMのことです。「恋は水色」とか「エーゲ海の真珠」とか。この手の音楽って、一端、気になりだすと煩い音です。かつては、高級な音楽が、サラリと流れているのが上等みたいな時代もありましたが、もはや、何もなっていない場所の方が、グレードが高いと思います。

「『エレベーターミュージック』という言い方には、気分を高揚させる(elevate)させるニュアンスも(皮肉として)こめられているが、ビヤホールでベンチャーズの『北国の青い空』なんか聞いたら、たいていの人間は高揚するどころか、人生それ自体に疑問を感じてしまう。」

音楽の必要ない空間には流さないことです。

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