盛岡の書店 BOOKNERD店主、早坂大輔さんが、自分の本屋を開店するまでを綴った「ぼくにはこれしかなかった」(木楽舎/新刊1540円)は、ビジネス書によくあるような私はこうして成功を掴んだ、頑張った、みたいなツマラナイ本ではありません。

一読して、早坂さんって、飾り気のない正直な人なんだなぁ〜と思いました。

「なぜこんな地方都市で本屋をはじめようと思ったのですか?と不思議そうにたずねられることがいまでもよくあるが、ないから作ったのだ、としか答えようがない。」

直球ど真ん中!のお答え。紆余曲折の末、盛岡の街に小さな本屋を開店した物語が詰まっています。

元々著者は、ネクタイにスーツで会社に向かうサラリーマンでした。がむしゃらに働き、社内の評価も高まったのですが、あまりの仕事量の多さに身も心も疲弊してしまいました。そこで13年間働いた会社を辞め、友人と起業したのです。しかし、「けっして友人と一緒に起業してはならないということ。友情とビジネスパートナーを混同してはいけない。」という教訓を得たと書かれているように、失敗し、友人も去っていきます。

そこで、考えます。自分がすべきことは何か?そしてたどり着いたのが本屋でした。常に本が隣にあり、いつも自分を助けてくれた本と共に生きていこうと決心し、本屋を目指します。

しかし、いつの間にかできてしまった妻との距離、その後の離婚。精神的にしんどい時でしたが、アメリカ西海岸の古書店への買い付けへと旅立っていきます。なんとか開店したものの、客足が伸びず、八方塞がりの状態へ。

そんな状況でも、著者は考え、考え、自分の心と対峙していきます。その辺りが、ほんとに自分に正直な人だなぁと感心しました。

やがて、店は軌道に乗っていきます。そして、再び出会った愛する人。生まれてくる新しい命。人生は続きます。そこに降って湧いてきたコロナの大流行で、来店したお客様に感染させてしまうかもしれない不安に、でも、こう考えています。

「だけどぼくたちが忘れてはいけないのはなんのために店を開けているのかということだ。ただ物販や料理やサービスを売るだけじゃない、目に見えない、形にならないものを訪れたお客さんに持ち帰ってもらっているはずで、それこそぼくたちのような小さな店がこれからの時代に大事にたいせつに守っていかなければならない篝火のようなものなのかもしれない。」

これは、それなりの歴史を経て頑張っている小さなお店が持っている矜持です。ぜひ、行ってみたい本屋さんです。