「1964年のことだった。それまで輝かしい演奏家として名を馳せていたカナダのピアニストのグレン・グールドは、コンサート活動から完全に身をひいてしまった。1982年に死去するまで、その後はレコード録音、ラジオおよびテレビ番組、彼自身の音楽へのアプローチを論じる文書を書くなどの仕事以外はやらなかった。」

というのは、ミシェル・シュネデール著「グレン・グールド孤独のアリア」(筑摩書房/古書850円)の始まりです。クラシック界の異端児であり、ある種オタクだったグールドは、それゆえに誰にも到達できない美しいピアノの音色を響かせてくれました。クラシックファンだけでなく、ロック、ジャズを聴く人にもファンが多いというのも異色です。

彼のピアノが、ガブリエル・バンサンの「アンジュール」の短編映画のサントラ(CD国内盤/中古900円)として起用されています。絵本「アンジュール」は、理不尽に捨てられた犬のアンジュールが、孤独と失望の旅の果てに、新しい飼い主と出会うまでを、全く台詞なしで描き通した傑作で、犬を飼っている人には涙なしでは読めません。この作品にグールドのピアノ、いい選択です。

ノルウェイーを代表する作曲家グリークの「ピアノ・ソナタホ短調作品7」という地味な作品で幕を開けます。いかにもグールド、みたいな選曲ではなく、あくまでドラマに寄り添った選曲が続きます。で、本作のメインテーマにはバッハ/グノーの名曲「アヴェ・マリア」に、宮本笑里のヴァイオリンを重ねて録音したものが使われています。冬の夜明けの美しさを想像させるような、数分の曲ですが、何度聴いても素晴らしさに心震えます。

原作の「アンジュール」( BL出版/古書1050円)も在庫していますので、セットでグールドの繊細極まりない音楽に耳を傾けるのも一興です。グールドの名演奏21曲を集めた”The Sound of Gould”(US盤/中古1800円)もございます。何かと騒がしい年末のTVを消して浸ってみてください。