再度、アガサ・クリスティーの「オリエント急行殺人事件」が映画化されました。物語も、ラストの謎ときも知らない人はいないくらい有名な小説なので、今更と思われるかもしれませんが、やはり面白いのです、これが。

新作は、英国演劇界の重鎮で、映画監督でもあるケネス・プラナーが監督主演し、名探偵ポワロを演じています。前回の映画化(1974年)同様に、オールスターキャストです。まあ忠臣蔵みたいなもんですね。舞台が列車内だけに限定されるので、ちゃんと演技の出来る役者が起用されてますからその演技を楽しむことができます。可哀想にズタズタに刺し殺されるジョニー・デップも、いかにも悪い道を歩いてきたという凄味のある悪役を演じています。

74年の映画では、辛い人生を背負った人達がやむなく犯罪に走り、最後にポワロの計らいで救われるという幸せな幕切れでした。登場人物みんなの笑顔を見て、こちらも幸せな気分で劇場を後にした記憶が甦ります。

今回、監督のプラナーは捻った展開を見せます。もちろん、誰が殺したかがメインに物語は進行しますが、それ以上にポワロという人物の心に奥に入り込み、彼の不安や焦燥感を炙り出していきます。ミケランジェロの絵画「最後の晩餐」の人物配置と同じような感じで、容疑者たちを並べるというケレン味たっぷりの演出で、ポワロが屈折した思いを訴える辺りは、さすがシェイクスピア役者と感心いたしました。

ラストも笑顔はありません。ポワロは雪の降り積もる淋しい駅に一人下車し、迎えの車に乗る後ろ姿で終ります。決して、事件解決で良かった、という雰囲気ではありません。白と黒しかないという彼の信じる正義と、灰色の結末のまま終ってしまった虚しさが描かれているようなエンディングでした。

映画にする以上、今までにないポワロを創造してやるというケネス・プラナーの気合い十分の映画でした。

今年も30本程の映画を映画館で観ることができました。私の今年のベストは、こんな感じです。

「メッセージ」、「ブレードランナー2049」、「ベストセラーズ」、「怪物はささやく」、「パターソン」、「ラ・ラ・ランド」、「シーモア先生の人生相談」、「ドリーム」、「女神の見えざる手」そして「彼女の人生は正しい」(邦画)の10本です。「メッセージ」はDVD買って何度も見ています。

●レティシア書房のお知らせ●

 年始年末 12月29日(金)〜1月4日(木)休業いたします。

 

三谷幸喜脚本のTVドラマ「オリエント急行殺人事件」ご覧になりました? 三谷幸喜の頭の良さと、発想の面白さを再認識しましたね。

クリスティー原作の「オリエント急行殺人事件」は、かの有名な名探偵ポワロが活躍する傑作小説です。それを、三谷が、舞台を昭和初期の日本に変えて、2日連続の約5時間のドラマに仕立てました。第一日目は、原作通りに進行します。さらに言えば、74年のシドニー・ルメットにより映画化された、同映画へのオマージュを随所に見せながら展開するあたりは、映画好きの三谷ならでは。登場人物を笑ってしまう程似させています。

しかし、一日目の放映終了時には、謎解きもほぼ終了してしまいました。明日の放送何すんの???と思っていたら、ここからが三谷の真骨頂ですね。

なんと、オリエント急行の密室殺人の犯人達が、いかにして犯行に及んだのかを、事件発生の数年前から遡って描いてみせました。原作には、もちろん犯行のバックグラウンドになる事件のことは描かれていますが、あくまで謎解きがメインです。しかし、あれほど緻密な殺人計画がどうすれば出来得るか、知りたくてしかたない三谷は、小説を読み解いて、こうだったんだろう、こうでなくては辻褄が合わないな、とか推測して、裏のストーリーを書いていきます。そして、この殺人事件が集団の仇討ちであり、まるで吉良上野介を討ちとる赤穂浪士の話に転換させてしまったのです。おそらく、天国のクリスティーも、ほんとに、よくやるなぁ〜と苦笑していることでしょう。

自らメガフォンをとった「ラジオの時間」「有頂天ホテル」「清洲会議」などの、豪華で、ワクワクする楽しさや、一度も画面が切れないワンカットワンシーンで撮影した実験的映画「大空港2013」みたいなスリルには欠けますが、この人の発想力と果てしない想像力に驚かされた二日間でした。

かつて、「刑事コロンボ」の魅力を語るTV番組で、誰も指摘しなかったコロンボの口癖、「よう、ござんすか」を取り上げて、NYの刑事がこんな言い方するわけないけど、だからこそ吹き替えは面白いと語っていました。同じように、「オリエント急行殺人事件」を、彼だけの発想と、なにより自分が面白がるという手法で甦らせました。