密林の奥に分け入ってゴリラの世界を研究する、霊長人類学者山極寿一と、言葉の森に分け入って物語を紡ぎ出す小川洋子という、全くフィールドの違う二人が対談する「ゴリラの森、言葉の海」(新潮社/古書1100円)は、知的好奇心がムクムクと起こる素敵な一冊でした。

2014年紀伊国屋のホールで開催された二人のトークショー、同年および翌年に行われた京大の山極研究室での二回にわたる対談、そして2016年、屋久島の深い森の中で行われたフィールドトークがまとめられました

「ずっと私は山極さんの声に耳を澄ましていた。言葉の響きに残る、言葉のない世界の気配を感じ取ろうとしていた。そこにはゴリラのドラミングやインパラの足音が、人間を圧倒する意味深さでこだましていた。霊長類学者と作家が同じ地点を見つめて対話できたのは、全て山極さんのおかげである。」という小川は、あらゆるゴリラへの疑問や、思いをぶつけていきます。それを山極は、ある時はユーモアたっぷりに、ある時は人間社会に置き換えて論理的に答えていきます。

「一人で行動するゴリラのオスというのは、本当に孤独なんですよ。いったん群れを離れてしまうと、ほかの群れからも絶対に相手にされないし、ひとりゴリラ同士の付き合いもほとんどない」という話から、ゴリラも孤独をかみしめるという、笑ってはゴリラに可哀想だけれども、なんとなく笑えてくるような雰囲気を作る二人のペースに乗せられて、ゴリラの社会を知ることで、私たち人間とは何者かという根源的な疑問へと向かっていきます。

「ゴリラやサルと付き合いながら自然の森を歩いていると、生きることに意味などないような気になる。それぞれの生物に与えられた時間があり、それをあるがままに生きるのが生命の営みというものだ。」と、山極は後書きに寄せています。「あるがままに生きる」とは深い意味を持った言葉です。

ところで、映画「キングコング」でコングがドラミングをして、相手を威圧するシーンがありますが、実際は全く違って、「戦いの宣言ではありません。ゴリラたちは、自分の意想を相手に危害を加えずに紳士的に伝えることを編み出したんですよ。」というのが真実です。危害を加えずに紳士的に伝えるか。何かと物議を醸し出すトランプ氏も、彼らの教えを受ければ、もっと平和的になれるかもしれませんね。

 

★イベントのお知らせ

6月5日(水)より「世界ひとめぐり旅路録」展をされる小幡明さんが、14日(金)19時半より、FMひらかたパーソナリティー久保有美さんと一緒に「小幡明の旅の話アレコレ」と題したトークショーを当店にて開催します。(参加費1000円/要予約)