手塚治虫、白土三平、横山光輝など漫画家界の大御所の中で、個人的に最も好きな作家は石ノ森章太郎です。

 

代表作「サイボーグ009/ヨミ編」ラスト、宇宙空間から一気に地球に突入する二人のサイボーグの姿に涙した方も大勢おられると思います。

石ノ森を熱心に読んだのは、コマ割り、登場人物たちの動き、効果音の使い方など極めて映画的だったからです。「サイボーグ009」でも、彗星のように地球に落下してくる二人と、それを見つめる女性が描かれていますが、そのまま映画的興奮に満ちたラストシーンが出来上がるはずです、

さて、最近ちくま文庫から「佐武と市捕物控」シリーズが文庫化されて登場しました。江戸を舞台にした下っぴきの佐武と、あんまを営む盲目の市が、コンビを組んで殺人事件の解決に挑む、ミステリー短編集です。普通のミステリーなら、岡っ引き(今なら刑事)が主人公になるのですが、その配下にいる下っぴきが主人公になっているのが特徴的です。1966年「週刊少年サンデー」で連載開始、同年毎日放送をメインにしてTVアニメ化されました。

 

かっこいい音楽で始まるアニメで、斬新な実験映像も駆使した大人向けコミックに先ず虜になり、その勢いで原作コミックを読み出しました。宝島出版が出している「佐武と市捕物控」シリーズから、「闇の片脚」、「野ざらし」、「隅田川物語」の3冊(各950円絶版)を入荷しました。

何十年ぶりかの再読でしたが、卓越したセンスの良さにやはり魅了されました。俯瞰が多用されているのですが、中でも「入梅穴」の冒頭、雨が降っている俯瞰のコマが、映画のファーストシーンの如く、悲劇の始まりを予感させます。市の剣術さばきを見せるシーンでの、流れるようなアクション、江戸情緒いっぱいの町民たちの暮らしの点描等々、数え出したらキリがありません。

石ノ森には、前衛的作品「ジュン」(全4巻/各2100円絶版)があります。

実験的コミック作品を数多く掲載していた雑誌「COM」連載時から話題沸騰だった、まるで映像詩みたいな作品ですが、「佐武と市捕物控」シリーズにも、彼の新しい漫画表現を見ることができます。情感、哀愁、エロティシズム、様式美、迫力ある殺陣など、石ノ森コミックの代表作の一つですね。

蛇足ながら、三浦友和が佐武を、梅宮辰夫が市を演じたTVドラマもありましたが、もうトホホという出来具合だったことぐらいしか思い出せません。