イギリス郊外の閑静な住宅地。玄関で草花の世話をしている高齢の女性が、主人公ジョーンです。ある日、ドアを激しくノックする音がして、開けると、警察がスパイ容疑で逮捕するというのです。

どこにでもいそうなおばあちゃんが、突然のスパイ容疑?映画「ジョーンの秘密」の幕開けは、いきなり不穏な空気が漂います。

そして物語は、ジョーンがケンブリッジ大学で物理学を専攻していた1938年へと戻ります。そこで彼女は、友人に誘われた共産主義者たちの会でレオという男性に一目惚れをして恋におちます。

時代は、第二次世界大戦のまっただ中。大国は新しい兵器である原爆の開発に突っ走っています。1941年、ジョーンの勤務する核開発研究所もやはり、原爆研究に邁進しています。優秀な学生だった彼女は、ここで実力を発揮し、上司である教授の助手として研究の核心部分に触れていきます。やがて、アメリカによるヒロシマへの原爆投下。

その爆発の一瞬を映像で見たジョーンは、予想以上の破壊力に驚き、恐れます。自分たちの作ろうとしていたのは、とんでもない怪物だったのです。「ヒロシマ…..」と呟く彼女の顔にはこんなものを未来に残すのかという不安が満ちていました。

映画は、現在のジョーンと、若き日の彼女を交互に見せていきます。原爆の恐怖に慄いた彼女が選んだ行動は、平和のために核を抑止力として使うことでした。そのためにアメリカに敵対するソ連に情報を流すという、研究員としてはやってはならない行為でした。大国はいつの時代も、若い才能を政治に利用して使い捨てにすることを厭わないのです。違法行為とわかっていても、たった一人の女性が、考えた末取り得る数少ない正義の行動だったのかもしれません。仕事の上で、男性と同等に扱われることがなかった時代背景も取り入れながら、原爆に関わったために、大きく人生行路を変えていかざるを得なかった女性の一生。名優ジュディ・デンチと、彼女の若き日を演じたソフィー・クックソンの二人の演技が素晴らしく、映画全体もオーソドックスで端正な演出で貫かれています。傑作です。