「創る者も読むものも、人は人生のそのときどき、大小様々な物語に付き添われ、支えられしながら一生をまっとうする。」

梨木香歩の新刊「ここに物語が」(新潮社/新刊1760円)の最後に書かれた文章です。どんな時に、どんな本を読んできたのか、その読書でどう自分が変化してきたのかを、本の紹介というスタイルで、記録しています。通り一遍の書評集ではありません。

「『心のこめ方を知る食卓は、必ず生命を守ると信じております』 経験から滲み出た、こういう揺るぎのない底力のある言葉が、この浮き足立った世の中を支える屋台骨になる。料理をする人もしない人も是非一読して欲しい。」

とは、「辰巳芳子の旬を味わう」の書評の最後を飾る言葉です。

また「大人になってから児童書を読むときにうれしいのは、世界がより低い視点(つまり、より大地に近い)から開かれるので、頭でなく腹の底からの、理屈を超えた共感を得ることできる点である。児童書によらず、本を読むときにうれしいことの一つは、自分の未経験の出来事を疑似体験できることだ。もしかしたらその学習によって、繰り返される悲惨な事態を回避できるかもしれない。」この文章で始まるのは、沖縄戦の悲惨な現状を描いた桜井信夫著の「ハテルマ シキナ」の紹介です。国は町民を守らず、危険地帯に追いやり、日本軍の身を守ったことが描き出されています。

「戦争が人を狂気に駆り立てるとき、制御不能に陥った攻撃性が、本来守るべき自国民へと向かってゆく可能性は大きい。これも、知っておいた方がいい事実である。」

梨木は、様々な物語の世界から、自身が何を掴み出し、どう考えていったのかを、精緻に表現しています。そして、私たちもその思考を受けて、刺激的に考えてゆくというスリリングな構成になっています。

こんな風に解釈するのかと唸ったのが、幸田文「流れる」です。

「京都の言葉で『猫知恵』というのがある。日常生活で出来るだけ自分が優位に立つための、ちょっとした言葉の持って行きようなどのことだ。京都人が(特に女性が)『あのひとは賢いから』と言うときは、たいてい、『あのひとには猫知恵がある』と言っているのである。賢い、の上に『ずる』が伏せられている。そういう伏せ字をする技術もまた、猫知恵から来ているのだ。何も試験の成績だけが頭脳の優秀さの証明ではない。実生活上ではむしろこの猫知恵の方がものを言うことが多いのだろう。京都のくろうと衆は、この猫知恵偏差値において、並外れたエリート集団とされている。『流れる』の舞台は明記されていないが、くろうと衆のそういう事情はどこもさして変わりあるまい。」

さて、京都の方はどう思われますか……..。

 

 

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